第33話 2087年12月21日 青森県青森市八戸区階上村 暫定県道42号暫定県道11号交差点
蒸気も消し飛び、表面が炭化したハンマーキュービックが懲りずに再起動、ただ速度が落ちるもフラフラとまだ追い縋ろうと、障害物の雪囲いを強引に押しのけては踏みつぶし、赤い照明を一斉に醸し出しては、ただターゲットを逃すべからずと、暫定県道を進む
ハイブリッドでドライブするラシーンマークツー
嘉織、適正距離を保ちながら、バックミラーで光源を見てはうんざりと
「まあ、来るか、」
佐治、後ろを振り向きながら
「先程の囲い込みの通り、標的は嘉織さんパーソナルの様ですからね、仮にこの一基で済むと良いのですが、」
嘉織、怒りも露わに
「おい佐治、一基って、そこまで金持ってるのかよ、変態マシンオタク組長は、こんなの一基幾らなんだよ、レンタルって、バイヤーのメニューにあるのかよ、どうなってるんだよ、」
佐治、理路整然に
「さて、私に文句を言われても答えに困りますね、この火星の起動不完全を踏まえ予備機は基本ですが、レジェンドオブニューメキシコも常識があるのなら、極道においそれと二基も貸さないと思いたいです、」
純、こくりと
「そこは、各所点検の限りだけど、火星相当は見当たらないかな、そう無いよ、安心して嘉織ちゃん、」
佐治、頷くも
「そうですね、正規のハンマーキュービックは揚陸も想定していますからね、万が一ですが、海の中にいるかもしれません、」
純、逡巡するも
「でもね、組み上げてるのは火星だけだよ、大きなハンガーそんなに用意出来るものじゃないよね、」
嘉織、苛立っては
「だからさ、変態マシンオタク組長ははともかく、組み上げるならレジェンドオブニューメキシコもがっちり関与してるんだろ、私はそのレジェンドオブニューメキシコから恨みは買ってないって、というか火星渡すなよ、こんなの一基でお腹一杯だよ、全く何なんだよ、全米複合企業会社、」
佐治、こくりと
「レジェンドオブニューメキシコの怪し過ぎる方針、確かに落とし所はそこでしょうね、レジェンドオブニューメキシコも、うっかりレジスタンスだと思い貸与しましたの謝辞なら、一基が精一杯でしょうね、仮にも一端の軍需産業なら逃げ道は用意もしましょう、彼等幹部もただ阿呆では有りません、」
嘉織、肩が震えては
「どうしてもそこか、ふざけるな、絶対謝辞で済ませるか、」
佐治、慇懃にも
「そこはご心配無く、上家衆の配慮は各団体ただ慮ります、関与しないでは済まされません、」
嘉織、溜息混じりに
「なら、いいか、態々ニューメキシコ州までボーイングプラネットで飛んで行けるかって、日帰りで破壊出来るホームグランドと違うんだろ、」
佐治、真摯に
「殴り込み前提、愉快では有りますが、そのレジェンドオブニューメキシコ、見た目一大パークに、そびえ立つ本社塔が三つ、如何にも平和企業気取りですよ、」
嘉織、うんざりと
「それって、全米最高議会お気に入りのシチュエーションだろ、開かれた企業とかさ、いけねえ、本当に怒りで火が付きそう、」
佐治、はきと
「新興企業は、何とか政府機関に取り入ろうとしますからね、ただですよ、全米連邦は誰であろうと、悪に対しては然るべき鉄槌を下します、」
嘉織、ひたすらうんざりと
「それさ、アメリカは20世紀から延々してるだろ、もうすぐ22世紀だよ、ここどうなの、いつ終りそうなの、」
佐治、困り顔も
「終りも何も、生まれつきの悪人はいません、善人を尊ぶ制度を、世界と連携して築く努力は惜しみないですよ、これが最善の答えです、」
純、オートコンフィグレーション完了通知見ては、キーボード入力で一通りコマンド入力し、ハイブリッドの運営画面から再起動し、ジェネレーションのメインメニューへと
「嘉織ちゃん、ジェネレーション起動したから、ハイブリッドから戻るね、」
嘉織、スムーズに代わる前面のコンソールを見ては、ふと
「純、もうさ、武器無いんだし、ハイブリッドで十分じゃないかな、」
佐治、足元のアサルトライフルSIGSG550エレクトロの弾倉のバッテリーインジケーターを確認しては
「いえいえ、本当に三日三晩越えのの強行ドライブになるかもしれません、ハイブリッドの再循環機能とは言え、ジェネレーションを動力にしないと、どうしてもガス欠ですよ、」
純、モニターを見つめたまま
「そうだよね、それに防御兵器まだ一つあるんだよ、最後のハリネズミどうかな、どこに積んでるのかな、」
嘉織、前面コンソールの白く反転する最後のプログラムボタンを見据えては
「そう言えばあるね、5個最後のこのハリネズミって、何なの、今度こそちゃんと止め刺せるの、」
純、ぼつリと
「そうだよね、それ、有り体に言うと、砂鉄なんだよ、」
嘉織、くしゃりと
「はー砂鉄、もういいや、純、とっとと撃っちゃって、」
純、こくりと
「ハリネズミ、全十五弾射出、」
後方下部万能武器格納部より、自動姿勢制御基盤の入った黒いカラーボール群が射出、ただ真っすぐ暫定県道を幾重にも転がって行く砂鉄の入った黒いカラーボール15個
ハンマーキュービックが道なりを追いつき、黒いカラーボールを軒並み砕くも、忽ち全身をハリネズミの砂鉄でこびりついては、次第に各センサーと照明の点灯が不可思議な赤黄青の順繰りへと
滑り込む様に暫定県道11号線に曲がるラシーンマークツー、進もうかもブレーキを掛けては動向を伺う
暫定県道42号暫定県道11号の交差点、ハンマーキュービックの点滅が激しくなり、ハリネズミの砂鉄にどうしても捕まり立ち往生 そして高速自転しては邪魔な砂鉄を振り払おうと、またもアスファルトを焦がすにおいが立ち込める
嘉織、ラシーンマークツーよりウインドウを開けては振り返り
「たく、原始兵器が効くのかよ、それなのか、私の気概は何処に行った、」
佐治、確と
「嘉織さん、念の為にウインドウ閉めて下さい、戦中は中国派生の非人道的劣化ウラン付きのチャフがあったそうです、」
嘉織、徐にウインドウの開閉ボタンを押しては閉め
「佐治、日産グローバルが、そこまでしないさ、」
純、右サイドモニターのテキストを眺めながら
「非人道成分は無いよ、主成分はプラズマ生成砂鉄、ふむ、火星は振り払うマニュピュレーターついてないだろうし、絶対拭えないだろうね、」
佐治、凛と
「非常に有り難いですね、非人道成分無しですか、そこは今も尚日産グローバルの良心が健在ですね、」
嘉織、憮然と
「佐治な、感心するのは結構だけど、かなり際どい防御兵器でも沈黙しないんだから、日産グローバルにはどうしても要相談だよ、」
純、下部モニターのレーダーの波紋復活見ては、ただ目を見張る
「えっ、ジャミング消えたよ、やはり火星発だったんだね、それより通信出来るのかな、どこに通信しようかな、無難に警察総動員かな、ターゲット以外の警官で囲むときっと沈黙するよね、」
嘉織、もどかしくも
「無理無理、警察がニューナンブM60エレクトロ構えた所であの筐体で押しとおるよ、もうさ、押っ取り刀でも復興省自衛部呼び出して、戦中の戦闘機派遣してもらって、精密爆撃の指示ね、この際ニュース記事は前面的に差し押さて貰うからさ、」
純、上部モニターに暗号無線通信のメインメニューを呼び出し
「さてと、おお、復興省自衛部のボタンあるね、嘉織ちゃんのコールサインは“フジリンゴ”と、マイクとスピーカーは車内音声にするね、」
佐治、手元の軍用携帯の電源を押すと、レジュームの完了した画面が浮かんでは毅然と
「私も回復来ました、そう、純ちゃん、復興省自衛部はお止めください、通信回復とは渡りに船、早速全米艦隊に連絡しましょう、」
嘉織、目を見張り
「佐治、こら、関係全書類に火星いやハンマーキュービックを記載されるのがまずいって、どういうこった、そういう事にしたいんだろ、」
佐治、はきと
「はい、結果としてはそうかもしれませんが、ここは曲げて、全米にお任せ下さい、復興省自衛部奮起させて、国境線ぎりぎりに分別の塊の麦秋をここで我に返らせる訳には行きません、日本国は今日も明日も平和なのです、」得意気に軍用携帯のワンタッチを滑らせ通話ボタンを押す
嘉織、ただうんざり顔で
「たく、ここに来て、外交配慮かよ、いいか佐治、今日だけだからな、」
佐治、こくりとするも
「勿論です、」不意に「ああ、佐治特任曹長です、司令官に繋いで下さい、」
純、上部モニターのマップ分割画面を見ては
「でも、佐治さん通信先が八戸港沖なのに、SGPSに艦船見当たらないよ、戦前の衛星もさすがに限界かな、」
佐治、携帯掲げたまま
「成る程、このラシーンマークツーの繋がる先が戦前の日本側のSGPS衛星で、まだ活用とは、ラシーンマークツーはテスト機故でしょうかね、結構です、次の衛星打ち上げには最大配慮しましょう、」
嘉織、くしゃりと
「配慮は有り難いけど、請求するなよ、」
佐治、はきと
「何を仰ると思えば、決してしませんよ、今時ステルスアナライザーの無い衛星を頼りにされては、階上家の生命に関わります、」
嘉織、思いを巡らせては
「いや待てよ、八戸港沖に艦隊なんて、遠くて見えないけど何時の間に常駐してるんだよ、それで階上幸或旅館が定宿な訳か、いや、それでもさ、国境付近のステルス艦配備はまずいだろ、仮想的敵国配慮なんだろ、恣意行動するなよ、」
佐治、切に
「今も尚有事です、各艦のステルス改修は各事案に備えての必須整備計画です、とは言え、東アジア近海は新国家の麦秋が穏便ですから、実際の所ただの警邏が任務になりますがね、サンクトペテルブルクの艦隊ともその都度航行往来しますが、共にただ退役艦寸前ばかりで関係は至って友好ですよ、」
嘉織、憮然と
「全米とサンクトペテルブルクの退役艦寸前って、領海すれすれでも、何やってるんだ復興省海上名誉保安部、」
佐治、尚も
「日本国も忙しいですよ、最近、対馬沖の漁業問題が厄介ですから、そちらに専念です、」
嘉織、吐息混じりに
「そっちもなんだよな、統一朝鮮は戦中以降無傷で、かなり潤ってるのに、それだよ、山口県定期巡視も一苦労だけど、まあ、関さば美味しいから、それはそれか、オールフェリーも長く眠れるから、まあ暫しの憩いでもあるしね、」
佐治、凛と姿勢を律し
「おっと、はい、お待ちしました司令官、こちらは嘉織さんと純ちゃんでと私で目標と応戦中です、はい、御用件はお分かりですか、それです、正にハンマーキュービックです、成る程、回線復活で見聞報告は上がっていますか、むむ、まさかそこまでソナー音聞こえましたか、それなら話が早いです、手順を飛ばしますが、対象に爆撃お願いします、お待ちしています、それでは、」ゆっくり軍用携帯を閉じる
嘉織、興奮も露わに
「おい佐治、爆撃って何だよ、三沢共同練兵所に滑走路無いだろ、ああ、いや、艦隊がいるのか、でもな、ステルス艦が動いたらまずいだろ、こんな些細な事で東アジアの均衡破るな、」
佐治、はきと
「均衡は守りましょう、そう、日本領海内と麦秋領海内は日麦共同声明で、共に連携友好国と言えど武力艦隊の常駐原則禁止は今も尚です、ですが弾劾されなければ、幾らでも抜け道はあるのですよ、国連警備付帯事項、日本国における全米の赦免状、全然抜かり有りませんよ、」
嘉織、神妙に
「まあか、麦秋も国連に復帰したいなら些末な事案には押し黙るか、もう何だろうがいいよ、早く来いよ全米、朝飯位ははちゃんと食べたいよ、」
ハンマーキュービック、尚も砂鉄を振り払おうと高速自転し続けるもはたと止まり、各センサーと照明が青色になっては、独自の思考演算に突入、再び高速回転で道路のアスファルトを焦がす蒸気が厳寒に舞う
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