第32話 2087年12月21日 青森県青森市八戸区階上村 暫定県道42号線 三叉路

暫定県道42号線の三叉路のその先で、回り込んでははたと止まるラシーンマークツー、ヘッドランプで前開そのままに、急ぎ運転席と助手席のドアが開かれ、そして後部席からも

素早く飛び出る、嘉織、三叉路の雪囲いをぐるりと見渡しては

「ここで勝負か、佐治、言った手順通り、雪囲いで道塞げ、雪が然程積もって無いから、さくって行くぞ、」機敏に雪囲いの下段ロックを開放しては、移動ローラーで別れた脇道に押し出す

同じく飛び出した佐治、見様見真似で雪囲いの下段ロックを開放しては、もう片方の県道に雪囲いを押し出す

「嘉織さん、これは、たかがアルミですよね、」不意にこんと叩くも

嘉織、節に雪囲いを押し出しては

「でも有効なんでしょう、純、」隙間にも隈無く雪囲いを覆っては

純、雪囲いの表面を撫でては

「このコーティングシールド、重ね塗り何回もしていたから、大丈夫だよ、マーキングのペンキも剥げてないから劣化してないよ、いけるよ、」

嘉織、配置の終えた雪囲いを丹念のこつんと拳で確認しては

「まあ、この固さなら持つか、本当、用意周到だな、喬爺、誰と戦うんだよ、」

純、雪囲いの向こうのラシーンマークツーの指令席に、ドアを開いたまま乗り込んでは

「あとはタイミングだね、これでぬかりは無しだよ、」全モニター画面はターミナルモードが刻々と占める



来た道なりに迫る劈くソナー音と、しつこ過ぎる黄色い照明の数々が夜道を照らしては、レジュームしたハンマーキュービックが健在を示す


嘉織、雪囲い越しに黄色い照明の先を察しては

「やっと来たな」ラシーンマークツーから進み出るも

純、いつの間にかふわりと

「嘉織ちゃん、念の為に、これね、」乗り込んで来た時の自身の鉄兜をどんと渡す

嘉織、困惑しつつ、鉄兜を見渡しては

「いや、今さら鉄兜も、」不意にタグを見つけてはぽつりと「階上喬太郎、まあ付き合って貰うか、」くしゃりと

純、ただ破顔も

「うんうん、」


嘉織、鉄兜の紐を締め上げながら進み出、雪囲いの下を擦り抜けては、雪囲いに占められた三叉路のど真ん中で立ち止まり、一人立つ


巡航速度のハンマーキュービックとの距離は300m、100m、50m、嘉織懐に右手を伸ばしては純とお揃いのS&WM49エレクトロを構え、直ちにハンマーキュービックに正確無比に連射、ヒット音が木霊する深夜の三叉路

正に嘉織のターゲットを正に捉えたハンマーキュービック、急速に立ち止っては、全センサーが真っ赤に灯る、嘉織の画像照会クリア、金属音の唸りを上げながら赤と銀の縞上に深緑の横のフレームが浮かび上がり、照明も黄色からどぎつい赤色に、格子柄への第三形態へ


嘉織、尚も直角にS&WM49エレクトロを構えながら

「やっと、認識したか、そうだよ、私が階上嘉織だよ、来いよ、火星、」


ハンマーキュービック見る見る循環し、その場で急速横回転を始めては瞬時に到達点へ、県道のアスファルトが回転の摩擦でにおい立っては、正に嘉織を甚振ろうかの準備が整い、赤色の照明がただやたらにぎらつき、そして忽ち全身隈無くの電磁機関銃から凄まじいパルスが無差別にも発射される

パルスの雨あられの中の嘉織、アーミーコートに施されたリフレクションシールドで弾こうも容赦なく直撃が幾ばくか、勢い押され、よろけてパルスが鉄兜に直撃するも、容易くパルスを弾き返す

嘉織、頭を振りながらもS&WM49エレクトロをただ連射

「ぐう、」

尚も高まる、ハンマーキュービックの全銃身からの無差別射撃


嘉織やっと、こことぞ県道を塞いだ雪囲いの隙間を滑り抜けては叫ぶ

「純、頼んだ、」

純、透かさずパネルをタッチ

「センシティブデストロイヤー、展開、」全モニターには全通信帯域のインジケーターが限界点に行ったまま


見る見るハンマーキュービックの全センサーにピンクノイズが乱れ飛び、ターゲットの嘉織そのものを見失うも、全センサーは最後に確認された嘉織の残像を追いつつ、パルス機関銃の全銃身からはいよいよフルオートのパルスが迸る

しかし、雪囲いの乱反射材に隈無く次々乱照射されてはハンマーキュービック自らにヒットを繰り返す、センシティブデストロイヤーによって火星の全センサーが死んでる今、乱反射のヒットを標的の応戦と認識し、自らの攻撃を尚も応戦で応える


寒空の元、雪囲いへの連打激しいパルス打擲音が響く、パルス機関銃が激しく雪囲いを射的、そして自らにも漏れ無くヒットする悪循環が延々と、ただハンマーキュービック自身への着弾の数が容赦無く増す


嘉織、アーミーコートを叩きながら、ラシーンマークツーの元へ

「ふう、何発か直撃くらったけど、リフレクションシールド施しても真っ黒だ、つうか、こっちだよな、戦中の鉄兜なのに、ご丁寧にコーティングしてるのかよ、喬爺、」

純、開いたドアのまま

「まあ、基本喬爺、前線兵だからね、助かってよかったね、」

嘉織、頭を揺すっては

「全く、もっとコーティングシールド塗っておけよ、流石に衝撃で目の前くらっと来たよ、」

純、目を細めるも

「嘉織ちゃん、それだったら、念動力で磁場曲げなよ、そう言ったよね、私、」

嘉織、気難しくも

「いざだけど、それは駄目だね、あそこで念動力使ったらきっと回避される、火星が猪突猛進に転がったら、捨て身のプランがおじゃんだよ、」

佐治、ただ呆ける様に

「この着弾音、流石のハンマーキュービックも沈黙するでしょう、何と言うんでしょう、この有り体、本当に前線を容赦無く攻略しますね、」

嘉織、憮然と

「ふん、ぐるの全米が言うか、」宙空にまでも一斉射されるパルスを見ては呆れ「それで、純、あと何秒持つの、」

純の後部席の、全モニターのインジケーターが未だ振り切れっ放しのまま

「そうだね、あと24秒だよ、」フリックでカウンターを拡大しては辛うじてカウントダウンの数字が浮かび上がる

嘉織、そのまま運転席に滑り込み

「純、もう良い、リブート、出力過不足の無いガソリンエンジンのハイブリッドにして逃げよう、火星、いい加減爆発するよ、」

佐治、同じく助手席に滑り込み

「それはどうでしょう、ご覧の通り火星はかなり頑丈です、部分爆発しても、接点復活後、逃げても、見境無く追って来ますよ、そう、ここでラシーンマークツーをハイブリッド側のドライブにしては非常にまずいです、このセンシティブデストロイヤーの全出力放出直後ですよ、万が一にもエンジンプラグがいかれたらいけません、もう暫く様子を見ましょう、」ただ正面の乱れ飛ぶ光源に視線を投じる

純、はたと促し

「嘉織ちゃん、佐治さん、センシティブデストロイヤーのカウントダウンの内に入って、何時でも発進だからね、」皆を促す


ハンマーキュービックの無尽かと思える、電磁機関銃の全銃身からの一斉射で、やっと雪囲いが見る見る真っ赤に染まって行く


嘉織、ハンドルを握りしめたまま、正面を見据え

「佐治、まだ持つのかよ、雪囲い真っ赤だぞ、」

佐治、切に

「さすが蹂躙兵器ですが、パルスで溶けてへこむ様子は有りません、ここは喬爺の職人芸を信じましょう、」

嘉織、ただうんざりと

「地の利を活かしてこれだぞ、次どうするんだよ、」

純、不意に

「カウントダウン、2、1、0、1、2、3、越えても頑張るね、」

カウント10でセンシティブデストロイヤーの出力が一斉に下がると同時に

表面がパルスで炭化したハンマーキュービックからピンクノイズが漸く消し飛び、ソナー音がはたと止まり、センサーは回復モードの自己点検で赤く点滅して行く

ただ沈黙し蒸気を上げるハンマーキュービック、パルスの着弾で放熱もままならず、自然吸気で冷気を取り入れては、蒸気が周囲に立ち込めて行く


嘉織、運転席ドアから身を乗り出し、雪囲いの上方の蒸気を眺め、不気味に沈黙するハンマーキュービックを見定めては

「この蒸気、やはり冷却なんだろうな、駄目か、」

佐治、助手席から促しては

「嘉織さん、まだ想定内です、逃げましょう、やはり消耗戦です、」

純、キーボードでコマンド入力しながら、GUIを呼び出し、悩まし気にも

「でも、こちらはジェネレーション使って、最後に残った武器はあることあるけど、」

佐治、溜息も深く

「純ちゃん、やはり、【開発区画】の武器は負担が大き過ぎて使えませんか、」

純、首を横に振り

「そうとは言えないかな、センシティブデストロイヤーのsupported by hathuko kirisimaは回路も焼き付かず、この銘なら信用出来るかも、」ふとキーボードを叩きコマンド入力「とは言え、この最中でも、回路はオートコンフィグレーションしているから、念の為にハイブリッドに戻すね、嘉織ちゃん、ちょっと待ってね、」

佐治、悩まし気に

「さて、hathuko kirisima、危険過ぎる、まさかここでその名前を聞くとは、国連の最先端技術は、本当どこから持って来るのでしょうね、」

嘉織、くしゃりと

「霧島の方がまだましだ、遺物をスプリガンプリンスファンデーションに根こそぎ持ってかれてたまるかって、全人類復興のヒントあるかもしれないのに、何を考えてる前田、ぐう、頭に来るぜ、」

純、ハイブリッドの運営画面に戻ったモニターを見ては、ただお手上げに

「もう、困ったな、ジェネレーションの出力はあるのに、使いこなせないなんて、本当に三日三晩走りそうだね、いや、もっとなんだよね、三時前だとファミリーマートco開店してないから買い込めないよ、どうしよう、嘉織ちゃん、」

嘉織、ハイブリッドに戻った前面コンソール見ては、ふと

「純、私に不可能あるとでも、任せなって、」

純、神妙に

「うん、階上一族は結果が本当に出鱈目だけど、不可能は無いかな、」

嘉織、頬笑んでは

「そう言う事分かってるならいいや、ガソリンは満タン、ジェネレーションも順調、さてと、喬爺の罠使い切る勢いかな、」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る