第29話 2087年12月21日 青森県青森市八戸区階上村 山岳峠上がり

既に青森県と岩手県の県境を望む階上岳、その山岳峠上がりも、山道は小雪で凍てつき、ただ補修程々の悪路の果てに凍てつく山道をタイヤで踏みつぶす音が厳寒の麓に響く


嘉織、ハンドルを強く握ったまま

「やや抜かるな、火星も条件は同じか、HAL、リフトアッププリセット、マルチ展開、」


走行中にも関わらず、滑らかに車体をリフトアップして行くラシーンマークツー


佐治、さも満足げに

「さすが、新車相当、快適に尽きます、」

純、振り向きながら麓を煌々と照らす光源を見つめたまま

「どうかな、これなら、冬前点検した時に適度に馴らさなきゃ良かったね、」

嘉織、バックミラー越しの光源を見ては軽く舌打ち

「いや、火星はどうせあの重さで踏み進むんだ、鈍重なら関係無いって、」

純、首を傾げては

「鈍重ね、そうかな、火星、見た限り順調に上がって来てるよ、この道なりの深めの位置に、室井先生から貰った対戦車地雷埋めれば良かったね、」

嘉織、ただ目を細め

「室井先生、対人じゃないからって、無茶するな、対戦車地雷持ってるものかな、」

純、ふわりと

「まあ、お試しの五個貰ったけど、どう使おうかな、自陣近くに埋めないでとは言われたけど、この球体だったら、適度な高さに埋めないと爆撃のショックで一気に下って行かないよね、」

嘉織、くしゃりと

「うわ、純も室井先生も、良くも考え備えるものだよ、」

佐治、ガッツポーズも

「くー、純ちゃん、室井先生、それ痺れますね、」

嘉織、打ち消す様に

「とは言え、一気に下って壊れるがたいじゃないしな、しかし、このソナー音、しっかり上って来るな、」

佐治、光源に振り返っては

「自立運転とは言え、これくらいは自由に出来ますよ、多少は時間掛かっていますけど、蹂躙兵器としては有能です、」

純、ふと

「でもね、体育館の竜骨、間違いなく突き刺さった筈なのに、ここまで動くものなの、」

佐治、思いを巡らしながら 

「純ちゃん、火星も見ての通り全転漏れ無くですからね、幾ばくかの破損なんて問題有りません、張り巡らされた硬質バッテリーの接点は縦横無尽ですからね、充分過ぎる機動がこれです、」

嘉織、怒りも露わに

「ふざけるな、これが問題無い状況かよ、止めろよ佐治、何とかハッキング出来ないのかよ、」

純、宥めては

「嘉織ちゃん無理だよ、こっちもスキャンと予測はある程度可能だけど、通信は広範囲に今もジャミング中だよ、」

佐治、困惑しては

「そうですね、火星のこの快進撃止められませんね、困った事に、こちらも、なんせ、軍用携帯がこれですよ、」文字化けのブラックベリーの厚底携帯を差し出す

嘉織、一瞬軍用携帯覗き込んでは向き直る

「文字化けとは、やるな、火星のジャミング、ただのノイズ発信じゃないのか、」

純、不意に

「でも佐治さん、軍用携帯って、文字化け直るものなの、壊れてそれじゃないの、」

佐治、意気揚揚と

「勿論直ります、軍用ですから、定期的なレジュームに戻せますが、そこはさすがレジェンドオブニューメキシコメイド、全米全軍の起動プログラムさえも押さえていますか、徹底的に再起動防止対策を施すとは、いやはや、トータルプログラマーは、ただ天才に尽きます、」

嘉織、一喝

「褒めるな、佐治、全くさ、その軍用携帯壊れた事にして、それ売れよ、上家衆だって携帯持ってないのに、一般将校が持っていいものかよ、」

佐治、首を横に振っては

「売れませんよ、嘉織さん、大体その一般将校が、何度も階上幸或旅館に踏み入れられますか、」

嘉織、歯がゆくも

「ふん、うちも訳有りなんて山程あるから、一般客の方が大切思える逆転現象も何とかしてくれよ、佐治、どうせ暇だろ、一緒に八戸オールフェリー港で宣伝の大漁旗振れよ、」

佐治、ぴしゃりと

「そこは、顔ばれしますから、止めておきます、」

純、逡巡するも

「でもね、それもどうなのかな、結局は美鈴ちゃんが、人となりを見て弾いてるんだけどね、」

嘉織、ただうんざり顔で 

「大歓迎って、誰に大歓迎なんだよ、美鈴もさ、」

佐治、尚も軍用携帯をいじり倒すも、諦め顔に

「それにしても、火星たった一基に、使えない軍用携帯もどうしたものですかね、」

嘉織、ぶつくさと

「だから売れよ佐治、SIM抜いて日本国向けにするからさ、」

純、はきと

「嘉織ちゃん、佐治さんも困っちゃうよ、そう、分かってると思うけど、日本国の携帯基地局、戦中にほぼ撤去したから使えないよ、万が一でも衛星通信は内閣府だけだし、日本国出ない嘉織ちゃんには無用じゃないかな、」

嘉織、溜息も深く

「全く、日本国、戦中の中国のハッキングにびびって、何で撤去のそれなんだよ、」

佐治、ふと手をぽんと

「嘉織さん、そう言う事です、何でしたら側だけの鋳型作って、アクセサリーとしてプレゼントしましょうか、」

嘉織、ぼやく様に

「それ、定番コントのそれかよ、まあチョコレートボックスには持ってこいか、まあ有りは有り、」

佐治、後部席からの視線が刺さりながら

「それでは、嘉織さん、という訳には行きませんね、純ちゃん、美鈴さん、漣子さんも用意しましょう、」

嘉織、くすりと

「それ、キットカットのチョコレート込みだからな、」

純、ほくほくと

「うんうん、キットカットね、大昔は日本のコンビニでも売ってたんでしょう、日本製のチョコレートも美味しいけど、それは大有り、おすそ分けもっと食べたいよ、」

佐治、頬笑みながら

「よろしいでしょう、技術課の尻を叩いてでも、クリスマスには間に合わせましょう、」



ラシーンマークツーの和気藹々の話とは別に

中腹を駆け上って来る、光源を放つどでかい赤い球体、勾配も急カーブもお構い無しに踏み外しては再び車道に戻り、倒れる木々と標識は数多

尚も進むハンマーキュービック、時折ぬかるみにはまり逸れては田畠突っ込むもお構い無しに、自回転を唸り上げては、タイヤ痕の標的を追うべく峠を上り迫る

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る