第25話 2087年12月21日 青森県青森市八戸区階上村 階上幸或旅館
階上幸或旅館での篭城戦は、旅館勢圧倒的有利なまま防衛線すら踏ませず、時間が過ぎて行き、ただ持久戦を望まぬ極道一同がざわつき始める
美鈴、経緯台の最大赤外線双眼鏡でパルスの残像を伺いながら、ただ唸り
「この黄色の認識パルス、流石水戸さんね、きっちり極道のパルス途絶えてるわ、あと全米海軍もなかなか命中率なんだけど、極道もそこは防御をきっちりお金で対策済ね、」
冴子、首から吊るした簡易赤外線双眼鏡で伺いながら
「そうね、オートマシーンのシールドが意外と厚い様ね、確かに近代極道だけはあるわ、」
漣子、スコープ越しに自身のアサルトライフルSIGSG550エレクトロも引き金を絞りながらも、不意に溜息
「ねえ、美鈴も、冴子さんも、極道褒めてどうするのよ、もういいわ、消費電力上げるわ、」銃創の巻き取りケーブルを引出し再びコンセントへ繋ぐ、充電されてゆく弾倉のイジケーター
美鈴、監視モニター席に移りながら
「漣子、消費電力はそのまま、シールドが厚いなら、きっちり消耗戦を待ってるわ、こちらも裏手の蓄電池が無尽蔵では無いわよ、」
順次、ただ表の光景に臆せず飄々に
「まあ、最悪の長期戦も明朝には片付いてるでしょう、焦らず行こうよ、」
冴子、神妙に
「父さんも、読みだけは確実よね、」
順次、くすりと
「やっぱり、合ってるの、そうだよね、」
美鈴と漣子、順次をただじっと見つめては
「怪しい、まさかよね、」
順次、とくとくと
「いやいや、その視線何かな、母さんの思考読んでるとかではないからね、父さんは一般人だからね、もう都度都度答えに困る事投げかけるね、」
冴子、気にもせず
「喬爺が入り婿の縁談で持って来た時点で、疑わしいものよ、そもそも、私が揺らいでる時にばかり、余ってる売り花だって持って来てくれるのかしらね、」
順次、とくとくと
「そこは隆子姉さんが“順次さん、ここで冴子をぐいよ”の一押しあったからでしょう、ねえ、」
漣子、不意に
「母さんも、何で叔父さん押したがるのかな、」
美鈴、視線そのままに
「叔母さんに関する事は、父さんが言うなら、そう言う事にしておきましょう、」
順次、慌てる素振りも
「いやいや美鈴、話を難しくしないの、そこは、隆子姉さん、お花好きでしょう、そういう縁なんだって、」
冴子、くすりと
「まあね、総じて一族は兄弟姉妹思いだし、今となっては、死んだ隆子に聞けないし、良いんじゃないの、」
徐に、開かれた扉をノックする男、スエットスーツそのままの半寝ぼけのまま
「どうしてもここね、何か騒がしいね、どうしたの、」
美鈴、はたとばつが悪そうにも
「あっと、成貴は寝ていて、いつものよ、」
漣子、ふわりと
「成貴、逆に今迄、眠っていたのが凄いわ、」
美鈴、手元の携帯ステンレスボトルからコップに白湯を注いでは
「とにかく、この白湯飲んで、寝なさい、窓開けっ放しだから寒いわよ、」
成貴、ただ寝ぼけ眼のまま
「そうも行かないでしょう、この時間で、この囲みにこの頭数、」肩のスリングもするりと、ただ室内に入ると右手には一〇五式短小銃
美鈴、途端に烈火の如く
「ちょっと、喬爺の戦中品持ち出して、敵う相手じゃないわよ、成貴は寝るの、布団頭迄被るの、それで十分だから、」
成貴、左右の瞼を袖で撫でては、視線を定め
「美鈴、何言ってるの、このガソリンのニオイ、まあ、見てなって、」勇んでは窓辺の縁に左足を立て、手慣れた手付きでボルトアクションの四発、放たれた弾痕から雪の中へと漏れたガソリンに忽ち発火、そして止めのボルトアクションの五発で円のど真ん中のリンカーンのエンジンを爆音と共に打ち抜くと大爆発、忽ち火炎の輪が広がり、辺り構わず炎上が広がる
漣子、目を疑っては
「凄い、戦中のカービン銃で、その破壊力って、」
順次、とくとくと
「鉄火鋼弾、家中の装備見てるね、成貴君、」
美鈴、あんぐりとするも口元そのままに
「何となくやるとは思ってたけど、何なの、成貴、」
成貴、綽々と室内に戻り
「やるも何も、徴兵行ったら、これ必須、明け方迄に終らせてね、寝るよ、じゃあね、」ただ欠伸顔に戻る
美鈴、ただぽつりと
「成貴、それだけなの、」
成貴、美鈴に向き直り神妙にも
「これ、初めて言うかな、結婚式に弟の遺影持って行ったろ、美鈴には一生分の恩がある、当然美鈴は死ねないし、俺も死ねない、」
美鈴、ただこくりと
「2080年のアララト山攻防戦、サンクトペテルブルク公国機動大隊少尉、二階堂芳貴、失血の上の低体温症の重傷から重体へ、最大暴風雨で設営は疎かの医療セットは吹き飛び、為す術が無かったわ、」
成貴、視線そのままに
「それでも、手元に辛うじてあった医療簡易キットで、希少なO型R(−)、同じ美鈴の血を弟に1/3も与えたんだろ、芳貴が一分一秒でも生きられた事に、ただ感謝はしている、」
美鈴、漸く繰り出し
「その先は、聞きたくないの、」
成貴、凛と
「その状況は程なく聞いてる、その先を聞いたら、ふらっと飛んで行きそうだよ、」ただ戯ける
美鈴、ゆっくり頷き
「やっと聞き出せたわ、本当の血族なら聞いて貰える、二階堂芳貴少尉は一人だけ特殊任務の爆心地から、最大暴風雨の中からからがら戻り、私の血液を輸血するも、深く意識不明の重体のまま3時間、そして振り絞って最後に言ったわ“立体パスは絶対起動させるな”って、二階堂成貴、本名そのままの日本国国籍、何処の国のエントリーの形跡も消せて、それ相応の身分で状況聞いているなら、意味は通じるわよね、」
成貴、はたと
「それね、それでも本国言えないけど、何れかのタイミングで本国の公族にはよく言っておく、」
不意に沈黙が流れる、作戦室たる部屋
漣子、取り繕う様に
「まあ、難しい話は抜きに、日本も戦争に巻き込まれて、各国に散ったから、そういう事情はあるわよ、というか、聞く程に凄い縁じゃない、美鈴と成貴、そう、こういうのって凄く大切よ、そうそう、成貴、漁師大正解、だよね、」成貴をただ伺う
成貴、くしゃりと
「そうなんだよね、まさか、こうなるなんてね、」
美鈴、不意にいつもの頬笑みで
「ねえ、朝ご飯はちゃんと食べてよ、」
成貴、ただ戯けながら
「勿論、漁は真っただ中、三食食べないと、ふらふらになっちゃうよ、じゃあね、」ばつが悪くも部屋を後にする
美鈴、はたと
「ここまで、神経図太いなんて、律儀に結びを守るものなの、」
順次、只管頷き
「そうそう、そういうタフさが無いと、階上家の婿になんて来ないよ、美鈴、ささ、応戦応戦、」鉄帽を直しては
モータリゼーションが燃え盛り、真夜中の炎天の中、ただ苛立ち、後を断たれ業を煮やした極道オートマシーンが、旅館の猛者達を省みず正面突破の突入へと、長い丘を上る
透かさず、階上幸或旅館の逆斜め屋根より荊棘きの有刺鉄線の輪が三重に渡って豪快に飛び出しては、敷地を弾み、丘を下り、それを踏み越えようと、極道がただ怒号発しながら、踏みつけては尚も前進
冴子、簡易赤外線双眼鏡で伺っては溜息
「あれはオートマシーンよね、上がって来るわね、」
美鈴、経緯台の最大赤外線双眼鏡から離れ
「疑似痛覚を切るなんて、余程ね、壊れたらとんでもない治療費なのに、」
漣子、SIGSG550のスコープを離れ
「それこそ、昔懐かしい社会保険が戦後も存在するなら堪ったものじゃないわ、悪人も平等なんて、この日本国が最適化しようものなら、毎日、日本国のどこかで乱痴気騒ぎよ、」
美鈴、歩み寄った手元のコンソールに手を伸ばし
「でも、そのつけが純の治癒そのものよ、全く、理由はどうあれ、復興省厚労部も財務省に移って社会保険制度最適化して欲しいものよ、」溜息も深く「さて頃合いよね、電流流すわね、」コンソールの居ならぶブレーカースイッチを次々上げる
荊棘きの有刺鉄線の輪より雷撃が炸裂、極道オートマシーン一斉に通電し、そのまま痺れ固まっては、かつらの毛が逆立ち、全身が雷撃でただ焼けこげ燻る
極道後陣の義体勢が援護射撃を行うも、通電する荊棘きの有刺鉄線の輪から逃れる事は出来ず、オートマシーン軒並み目を剥き絶叫のまま機動不能で、生命維持装置が強制的に起動し、やっと沈黙する
漣子、うんざりと
「この電流でも、絶叫の余裕なんて、意外に強いわね、」
美鈴、はきと
「結局はこれよね、極道の絶叫で、成貴が眠れなかったらどうするのよ、」
冴子、神妙に
「荊棘きの有刺鉄線の輪も、それなりに重宝するけど、回収が総出なのよね、好い加減ロードヒーティングの中に配線しようかしら、」
美鈴、慎重にも
「それは待って、全米の分別地雷考えてるから、配線複雑に出来ないわ、」
漣子、目を細め
「つくづく、物騒な一族よね、」
順次、漸く経緯台の最大赤外線双眼鏡から離れ
「何かな、唐突に上がってきたけど、どうしたのかね、」
漣子、ふと
「持久戦に慣れてないだけでしょう、」
美鈴、はたと
「いいえ、これは囮かもよ、」
冴子、確と
「それは無いでしょう、ほぼ極道全員集結よ、」
美鈴、困惑するも
「母さんも私も、不穏な予知は無しのまま、現状把握よね、その割には、嘉織が帰って来ないのが気掛かりなのよ、」
漣子、思いを巡らすも
「極道って、全くの一筋縄じゃ行かない面子ではないでしょう、何処かの国のやさぐれレジスタンスだって、武装ヘリに戦車等々持ち込めない程の避暑地なのよ、何があるって言うの、」
冴子、簡易赤外線双眼鏡で見据えたまま
「そうでもないわよ、登りの丘を見なさい、」
刀を携えた吾妻組客分芝本が、通電する荊棘きの有刺鉄線の輪を搔い潜り刀の鞘で押しのけながら、悠然と丘を上がって来ると、不意に足が止まる
目の前には、階上幸或旅館の正面玄関より居出る刀を携えた東儀
階上幸或旅館の二階より、手を止め窓より見届ける一同
美鈴、神妙に
「最後は武士同士の対決になるのね、」
冴子、凛と
「それは、そうよ、一旦懐に入ったら、武士の方が半端じゃないわ、」
漣子、ふと、
「東儀さんには、色々面倒掛けるわね、いっそは、まあ、またの機会にしようかな、」
美鈴、徐に
「それは、九分決まってる事よ、」
漣子、くすりと
「美鈴、予知で何処迄見えるものなの、」
美鈴、くすりと
「予知じゃないわよ、あの嘉織見れば分かるでしょう、」
冴子、不意に止め
「良い、東儀さん嘉織の二人をそういう目で見ないの、それより東儀さん、逗留久しいのだから、澄ましたところも見せて貰わないと、」ただ目を見張る
美鈴、視線を注いでは
「何故ここ、東儀さんが圧倒的なのは分かるけど、導火線の短い東儀さんが何故仕掛けないのかしら、」
冴子、凛と
「まあ、極道の方が人数で畳み掛けているからでしょう、何か一発あると踏んでるのね、美鈴も分かるでしょう、この雰囲気、」
美鈴、朧げに
「未来は、強烈な意志がある存在によって、容易く変わるわ、でもそれが誰なのかしらね、」
漣子、床のアサルトライフルを拾い上げては
「まだまだ、序盤じゃないの、後衛の義体も沈黙させないと、ねえ、エレクトログラネードランチャー打っ放して良いよね、」SIGSG550のに取り付けられたエレクトログラネードランチャーに手を伸ばす
美鈴、はたと漣子のSIGSG550の銃身を下げ
「漣子、ここは東儀さんの様子を見ましょう、」
単身で尚も前に進み出るむ厚手のチェックジャケットの東儀、丘の上で立ち止まる芝本の前で対峙
「やあ極道のしがない客分、身なりが武士なら、俺を知ってて勇むか、俺は貴様を全く知らんが、武士としてそれでいいのか、」
芝本勘柳斎、冷笑のままに
「東儀賞鑑か、旧中華の不条理に度重なる侵攻を知らぬとは言わせん、ベトナム最防衛戦にさえ参加せず、日本を離れた武士など作法にもならんな、まあ日本国を離れていたなら、拙者芝本勘柳斎など知る由もなかろう、生業は多岐に渡るが、この日本国での階上嘉織の暴虐振りは目に余る、その片腕の一つは奪わないと、悪のりが止まらない輩が湧くに湧く、どうだ、武士の一分は通づる筈だ、」
東儀、黙って首を横に振り
「いいや、階上嘉織は淑女で正義の味方だ、芝本とやらの三文武士の言い分で難癖付けるのは止めろ、」
芝本、一笑に付しては
「東儀、良いか、もはやこの日本国に正義の味方は必要が無い、覇権を握った奴が金を回し、日本国を実質丸く収める、今はそんな時代なんだよ、この大儀を分かるか、三食まともに食う為になら、泥水を啜ろうが幾らでも言い分は通す、」
東儀、はきと
「ふん、日本国も、元老安良神部会の干渉からやっと開放されて、またも誰それの王国紛いではまたも蠅が張り付く、そんな事許すと思ってるのか、」
芝本、声高に
「東儀、お前は、泥水を啜って生きてこないから綺麗事を言えるんだよ、旧中華南進のアジア戦線は地理学的に地獄そのものだ、腕に覚えがあっても、どんな剣豪もかなり深い溝にはまり不覚を取る、だが得るものはある、それこそ剣の骨頂である、」
東儀、うんざり顔で
「言うな、戦さ場で得るものなど無い、その言動、太刀筋に出るぞ、」
芝本、厚手のコートを脱ぎ捨て
「東儀は、すっかり貴人様か、それでは分かり合える筈も無い、心技一体、存分に張ってみせよう、」柄より合金刀を抜く
東儀、ゆっくりと、反りそのままの友成を上段から抜き
「丁々発止は無駄だ、望む所だ、」
東儀、友成の露払おうかの右手首で一回転、芝本、こことぞばかりの早過ぎる間合い詰め、両者手数のままに鍔迫り合い、異音擬音炸裂音が乱れ飛んでは、不意に立ち止まる
東儀、友成の右手に下げたまま
「なあ、極道の殿の見栄なんて、こんなものか、俺で立ち往生とは名が廃るぞ、」
芝本、大きく吐く息が白く
「東儀、その筋、思った以上か、」不意に銀ラメスーツの右腕の肘がはらりとすると、つや消しの精巧な義体が浮かび上がり、動揺隠せず
東儀、凛と
「眼球は義体化していないようだな、よくも凌ぐのは元剣豪故か、笑う所だよな、」
芝本、大音声で
「剣豪は、今も尚だ、」
東儀、はきと
「切っ先を全身で感じられない今、剣豪の称号は有名無実だ、恥の上塗りになるぞ、」
芝本、尚も
「東儀は確かに強い、だが個別の義体の性能差はどうしてもある、武辺の風下にいるものでしか、この歯痒さ分かるまい、だからこそ知り得る壁もあれば、剣豪故に、それをも乗り越えて見せよう、」
東儀、友成の歯を向き直し
「それが地に堕ちた外道の言い分か、良いか、俺は本気で斬るぞ、」
芝本、不意に笑みをこぼし
「東儀、実に感服ものだ、その余程の剛腕、まあ、これ位でないと張りが無いものだ、」
東儀、はきと
「義体化故の余裕か、」
芝本、尚も余裕の笑みで
「義体の欠点を知ってる素振りだな、」
東儀、構えもそのままに
「さあな、武士の義体化は底抜けの費用だ、外道に身をやつしたなら、それもままなるんだろ、俺はかかる相手が義体であろうと、オートマシーンであろうと、怪人であろうと対峙するまでだ、」
芝本、声高に
「東儀、気持ちが若いな、俺は這い上がってきた剣豪だ、自身の肉体が老いて行く前に判断を誤るなよ、」鍔を二度三度返しながら拵えた合金刀を見せつける
刹那、芝本、足取りも正確に東儀の間合いに飛び込み、正確無比な太刀筋を一手二手三手四手五手も、東儀に擦りも剣圧も届かず
東儀、一切臆する事も無く
「成る程、刃に想像力がまるで足りない、堕ちる所迄落ちたな、」
芝本、下段からそのままに、いつの間に間合いを詰め
「言わすか、」両腕のモーター音が猛烈に唸り、振りかぶる事無く早過ぎる渾身の突きが東儀の喉元を襲う
東儀、瞬きもせず柔らかに屈み、一気に上体を反りあげる
「足りないんだよ、想像力、」下段からの深い払いで、突き上げた芝本の両腕を友成で吹き飛ばし、一気に擦り抜ける
厳冬の中、雪に沈む刀をそのまま持った両腕義体パーツ、芝本に辛うじて残った両腕の義体から豪快に飛び散る火花、鈍い駆動音が空回りする
芝本、流通神経を叩き斬られてはただ苦痛で顔を歪め
「そんな事が、この俺が、」
東儀、尚も無形の位で
「腕だけか、フル改造したのは、」
芝本、見る見る鬼の形相に変わり
「よく分かったな、さすが東儀だ、参る、」
丘の上の広場に唸り上げるモーター音が劈く、芝本、ただ残影を残しては、もう東儀の間合い、銀ラメスーツ両脛から構わずロングナイフが躍り出ては人速を越えて右足で蹴り上げようも、ただ察した東儀は間合いの外、友成をしならせ一手二手と返しで右足と左足のロングナイフを叩き折る
芝本、ただ恐怖に怯え
「そんな馬鹿な、百メートル五秒だぞ、分かる筈もあるまい、東儀、お前は何者だ、」
東儀、ただうんざりと
「俺は俺だ、懲りたなら逃げて見せろよ、」
芝本、目を引ん剝いたまま
「ひーー、」その場から逃げようとするも、次第に義体の太腿の中央から豪快に火花が放たれ、東儀の返しの斬の見事な切れ目から、残った体重そのままにごとりとだるまになった体が落ちる「痛てえよ、いつ斬った、」ただ餓鬼の様相にて
東儀、ゆっくりと友成の露を払い鞘に戻しては
「剣豪を語る割に知らないのか、家紋付きの武家に近付かない事だ、」
芝本、ただ吠えては
「剣圧出さずにこれか、痛てえよ、頼む、接合部の神経切替器を切ってくれ、東儀、頼む、」
東儀、はきと
「芝本、俺はレベルを少し合わせ手合わせしたまでだ、どうしても抜かるか、それにもう遅い、義体化した時に散々レクチャーされただろ、流通神経繋いだままで切り離したら、末梢神経に深刻な傷が残るって、もうご自慢の義体へと何一つ換装出来ないな、もう引退しろ、リハビリの為に口座はそのままにしたいのが武士の情けだが、お相手が階上家なら、そうも行くまい、」
芝本、嗚咽のままに
「そこまで追い込むか、ふざけるな、助けろ、俺が何を悪い事をした、助けろ、東儀、」
東儀、凛とその間合いを保ち
「いいか、大先生、自ら極道の輪に入ったんだ、申し開きは出来ん、」不意に見上げては階上幸或旅館に手巻きしては「それと、後衛の悪党、そこから一切動くな、動いたら、俺が膾切りにするからな、」
途端に後衛の悪党の雪を蹴る音が慌ただしく、立ち去って行く
芝本、ただ飛沫を飛ばし
「もう、口上は良い、誰でも良い、助けろ、痛てえよ、」
東儀、はきと
「芝本、話せる内に言っておく、このまま警察に引き渡すのが筋だが、まあ、こういうのは決して良くないが、今後の見せしめの為に、まずは目の前の海に放り込んで、全身錆びさせて機能不全にしても良いんだぜ、そうなれば残った末梢神経は一生復活出来んな、」
芝本、震えも頂点に全身硬直し
「やめろ…」激痛に耐えきれず、やっと気を失う
東儀、うんざり顔で
「やれ、オートマシーンは生命維持装置が働くが、義体は残った身体そのままだから、貴重な安心麻酔で眠らすには七面倒くさい、そのまま気を失ってろ、」
狙撃チームを残し、本館から駆け付ける全米海軍、手当たり次第に丘の斜面に転がる極道オートマシーンに素早く電子錠を嵌めては任務遂行
フル装備の全米海軍伍長ロジャー、東儀に歩み寄っては、ただ溜息で
「東儀さんは、毎回ですけど、今日は出端より私闘の範疇を越えてますよ、確かに攻め手は生半可な装備では無いですけど、たかがオートマシーン中隊規模の極道で、どうしてこうも、惨くも殺伐とするんですか、」
東儀、はきと
「良いんだよ、ロジャー、ここまで篭城戦がしつこいと何かしらの裏は有る、」溜息混じりに「だがか、見た所詳しい命令も聞かず殲滅戦がただ目的の様だな、まあ散々打っ放したんだ、こいつらにはそれなりに機能している日本国の司法で方を付けて貰う、」溜息がようよう白くなる
ロジャー、居を正し
「東儀さん、やや、お疲れですか、」
東儀、視線を暫定国道に送っては
「いや、そっちではなく、飛び出した嘉織の帰りが遅過ぎる、何をしているんだ、」
ロジャー、胸元の軍用携帯を取り出すも
「私の携帯がバグっています、佐治さんの携帯もでしょうが、今も尚回線が繋がらないのですよ、何か大規模なジャミングが展開していると思われます、残党狩り並びにジャミング中継機の捜索に入ります、」
東儀、思い倦ねては
「成金極道の割に、用意周到だな、まあ、旅館に余り離れず目処は付けてくれ、呉々も深入りは用心するんだ、」
ロジャー、軍用携帯を見つめては
「とは言え、こんなしつこいバグ、相当な排出と思われます、協力なバックアップが第二次隊として襲撃する可能性が有りますので、可能な限り近隣配置に止めます、」
東儀、確と
「それが妥当だ、後衛の極道義体も散々着弾して、使い物にならないだろうが残党狩りは慎重に行けよ、」
ロジャー、凛と
「お任せ下さい、」ただ敬礼へと
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