第24話 2087年12月21日 青森県青森市八戸区階上村 旧ゴルフ場

道なりのまま極道の残存勢力がいないか、階上村を巡回するラシーンマークツー

嘉織純佐治久住、隈無くも夜半の暗い風景に視線を投じては

不意の、遠目からも、旧ゴルフ場から、紫色の光源が煌煌と謎の点灯信号を何度も


純、ただ紫色の光源を指差し

「あそこ、旧ゴルフ場だよね、この時間になんだろ、夜ってこうなのかな、」

佐治、ウインドウ越しに見据えたま

「この信号は、-・・・ --・-・ ・-・・ ・・-・- ・-・・ ・-・・・ --・ ---- ・-・- ---・- 、はしかみかおりころす、これは、」

純、こくりと

「そうだね、確かに言ってるね、」

嘉織、はきと

「全く、また宣戦布告か、良いよ、行ってやるよ、」左にハンドル切っては点灯する紫色の光源をの元へと

純、前の運転席にしがみつくように

「嘉織ちゃん、待って、何で自分から飛び込むの、駄目だよ、」

久住、はきと

「嘉織さん、これ罠ですよ、」

嘉織、後部席に一瞥

「純に、久住さ、このまま、見過ごせないだろ、」

佐治、思い倦ねながら

「しかし、この光量、兵器転用なら少々まずいですね、」

嘉織、うんざりも

「そこは、極道によくあるシノギだよ、多額の金せしめては、光源振り撒いて宣伝カーを練り回るって奴、良いから行くよ、」



旧ゴルフ場の敷地内に分け入るラシーンマークツー、車内一同、ただ唖然と

点灯信号は正しく火星のオブジェからの灯、そしてその前には幾人もの人影

いの一番に飛び出す嘉織、そして久住、その先には


火星のオブジェの前に立ちはだかる黒服の男達に、一際背の高い徹夜工事が、ただうんざりと口上を述べる

「まずは表敬訪問ありがとうございます、まさか目標に乗り込まれるとは、あの爆音はやはりですか、まあ困りましたね、階上嘉織さんを旅館に引き止める筈が、目の前にまたもいるとは、これだから従軍に行く事無く擦り抜ける連中は使えませんね、」

嘉織、はきと

「おい、徹夜工事とか、極道の殴り込みから、次の一手は悪の組織風情か、お前が首謀者か、私がお前に何かしたのかよ、一体誰だよ貴様、なあ、」

徹夜工事、不遜にも

「ご冗談を、首謀者は吾妻組長です、まあ、実の所私も因縁浅からずですが、それは何れの機会にしましょう、さて、折角お見えになられたのです、アーティスト徹夜工事はここまでにすべきですね、階上嘉織さん、準備は宜しいですか、本気出しますよ、」

嘉織、凛と

「また、得意のはったりかよ、今度こそ本当にとことんしばいて、警察に引き渡して留置所に放り込むぞ、安心しろ罪状は幾らでも上乗せしてやる、」

徹夜工事、くすりと

「職権乱用も甚だしいですね、良いんですか、このオブジェ、八戸区に転がったらとんでもない事になりますよ、」

久住、神妙

「嘉織さん、吾妻組長の口上のあれですよ、」

嘉織、怒りを滾らせ

「ふん、吾妻組長に金で雇われやがって、やって見ろよ、こんな玉転がしで何が出来るって、」

佐治、助手席から身を乗り出し

「駄目です、嘉織さん、久住さん、本当にまずいです、逃げますよ、早く車に、早く、」

久住、嘉織の腕を引きながら、ラシーンマークツーへと

「佐治さんが察してます、引き上げますよ、」

嘉織、吠えては

「佐治良いから、こいつをしばかせろ、」

徹夜工事、黒服から有線コントローラーを受け取っては

「さて、どうしてもしばきますか、私が階上嘉織さんから直接痛い目を見ては割に合いません、交渉決裂ですね、戦場を見せて上げましょう、上家衆の階上嘉織さん、」

嘉織、目を丸くしては

「お前、戦場とか、粋がって使うんじゃないぞ、」


久住、嘉織を何とか運転席に押し込み、素早く後部席に滑り込んでは、程なく発進するラシーンマークツー


躊躇いも無く徹夜工事が有線コントローラーをフリックしては、火星のオブジェの照明が瞬く間に紫色から黄色へと光源を放ち、不気味な軋み音を唸らせては、重厚に自転をしては台座からゆっくりと落ち、不快な重低音が雪のちらつく冬空に響く

ただ繁々と自転が止まらぬまま火星のオブジェが転がり、その進むべき方向として、ゴルフコンペハウスを事も無げに破壊し踏み潰しては、残骸の電気系統から火花が散る


バックミラー越しからただ振り向く、嘉織

「この音、まさか、これは、本当に踏みつぶせるのか、」

佐治、何度も頷き

「嘉織さん、何度も言いますが非常にまずいマシーンです、コードネーム:ハンマーキュービック、そう、戦中の激闘局地戦において極秘裏の殺戮マシーンでした、ここで私達の目に前に有るという事は、追跡されては、隈無く蹂躙するでしょう、」

嘉織、強ばるも

「隈無くか、」

純、はきと

「嘉織ちゃん、八戸町に逃げ込まないで、」

佐治、逡巡しながら

「それが正解でしょう、どんなに高めのビルを盾にしようとも、一階から貫通しては砕きます、何ら遮蔽物になりません、建造物は程なく傾きばたり横倒れです、」

嘉織、ただクラッチを踏みギアを上げる

「全く、この大きさ、旅館の応援を頼みようが無いか、とにかく階上村から出れない、回るしかないか、」ハンドル切ってはUターン

純、ふと

「回っても、どうかな、低陸橋が破壊されたら、私達も足止め食らっちゃうよ、」

嘉織、歯噛みしては

「対戦車戦の戦歴無いから、そこは盲点か、と言うか、基本篭城戦だからな、この有様は尋常じゃ無いか、」

純、手を軽くぽんと

「そう、嘉織ちゃん、山に登ろうよ、きっと自転も鈍くなるよ、」

嘉織、はきと

「さすが純、遊撃隊仕様戦か、」

佐治、意気揚々に

「むむ、加速する前に仕上げますか、実に有りです、」

久住、素早くシートベルトを外し

「皆さん、行って下さい、」走るラシーンマークツーから、屈みながら滑り降りる久住

純、久住の席に手を伸ばすも

「久住さん!」

嘉織、凛と

「行けって、畜生、対戦上、これ以上人数割けるか、純に佐治、いいか絶対、久住のまねするな、」ラシーンマークツーを振り切り、久住側のドアをマニュアルスイッチで閉める



道すがら抜刀すらしない久住、その脇を、ただ重厚に擦り抜けて行くハンマーキュービック


ホールエリアで待ち構えていた徹夜工事、不意に

「さて、武士の嗅覚はどうにかしていますね、さっきの火星、無抵抗者は反撃しないと見定めましたか、」

久住、はきと

「徹底して嘉織さんなら、寄り道はしないでしょう、ですが、その後の証拠隠滅として、徹夜工事さん、掃討戦ですよね、」

徹夜工事、神妙に

「ええ、階上嘉織さんの勘で面が割れましたからね、後処理もまとめて行わないと行けません、まあ、軽くこの一帯の規模なら30分で野原です、もっとも、私はその有様は見れませんがね、」

久住、はきと

「よくも言われる、リモコンあるなら解除出来ますよね、」

徹夜工事、ただお手上げに

「そうですね、その手の問い合わせはよく有りますが、有線リモコンは起動だけで、自動追尾で破壊するのみです、目標の階上嘉織さんが死に、この区画を砕ききる迄瓦解しない事でしょう、」

久住、柄に手を添え

「徹夜工事さん、本気で、人手無しですよ、」

徹夜工事、横隣のがたいの良い極道に一瞥しては

「兵器開発とは、ある種の平和産業です、勝たなければ戦争は終りませんよ、それとも、武士とやらは上っ面の平和になるまで一人一人屠るのですか、」

久住、切に

「抜かすな、この手で平和になるまで、俺達は戦う、」

徹夜工事、くすりと

「武士は実に根気強いのですね、頭でっかちな軍人に、是非共聞かせたいものです、」

吾妻組高嶋、厳つい腕を見せつけながら

「おう兄ちゃん、巨匠に説教とは決してご愛嬌で済まないな、」

久住、はきと

「オートマシーン崩れは引っ込んでろ、」

高嶋、怒声のままに

「おうおう、俺に喧嘩売ってるのか兄ちゃん、良い、俺等の大儀をよく聞けよ、悪党階上嘉織打倒を旗頭に、この日の為に、巨匠には有り金止めどなく注ぎ込んで、大勝利の目処が着いた、勝利の鬨を上げずに引っ込んでろ、若いからお目こぼししてやろうと思ったが、金輪際無しだ、ぶるって小便漏らしてもそこから動くなよ、」

久住、凛と

「故もなき大儀で、嘉織さんに勝てる訳も無いだろう、とっとと引っ込め、」

高嶋、高笑いしては

「言うね、兄ちゃんとやら、あの火星見てそれか、びびってそれしか言えねえか、そう、巨匠によるメンテナンスは最上等、吾妻組を嘗めるなよ、ここで勇躍名を馳せてみせるって、」

徹夜工事、苦笑しつつ

「高嶋さん、あとは頼みました、」

高嶋、はっと

「頼んだって、巨匠、おい、さっきから話がてんで違うぞ、ボタン押してさよならって、寂しいじゃねえか、っていうか、この火星で脅かしては、階上嘉織に止めてくれと泣きながら土下座させるんだろ、どうやって止めるんだよ、」

徹夜工事、視線もそのままに

「その階上嘉織さんに巻かれ、危うくターゲットを見失うところでした、あなた方は本当に甘いですよ、吾妻組長の作戦そのものが温過ぎる、こうなれば、私としては階上嘉織さんを消し戦果を上げない事には、取引先から正しい対価を貰えない、」

高嶋、目を剥き激高しては

「巨匠!ふざけるな、こっちは、あのスケを、身包み剥いでコンクリート風呂に浸からせないと行けねえんだよ、良いから、止める方法を教えろ、教えやがれ、この野郎、」

徹夜工事、理路整然に

「高嶋さん良いですか、火星のセキュリティは強化を重ねましたので、起動した以上止まりません、九分一分で余程の事が無ければ力負けしませんのでご安心してください、尚、コンクリート風呂漬けをどうしてもお望みなら、火星は相当の威力を発揮しますので、やや善戦するであろう階上嘉織さんも何れは力尽きましょう、そこで手際良く拿捕し、膾切りにでもご自由にしなさい、ただ相手はあの階上嘉織さんです、くれぐれも抜からない様に手短に事を進めて下さい、それではご武運を、」

高嶋、単細胞にも尚も吠えては、

「よっし勝った、これでコンクリート風呂確定だ、この北の地で凍え死ぬ前に、海に沈めてやる、散々泣き喚きやがれ、階上嘉織、」

久住、進み出ては

「いや、待て徹夜工事、立ち去る前に解除コードを教えろ、」


徹夜工事の背後の黒服の男達、久住に一斉に銃口を向けるも


徹夜工事、手で制しては

「皆さん控えなさい、この至近距離では、武士が圧倒的に強いですよ、そうですよね久住さん、」不意にくしゃりと「その武士と見込んで、最後に言っておきますが、火星が起動した以上、通信は一切受け付けません、解除コードなど、そんな穏やかさは全く有りません、階上嘉織さんに早く合流して、一緒に片付けた方が手っ取り早いですよ、」

久住、怒りも露わに

「そんな無差別兵器、許されると思ってるのか、」

徹夜工事、神妙に

「さあ、それは製造会社に言って下さい、何事も需要と供給ですよ、そもそも階上嘉織さんがずば抜けている以上、かような兵器投入も止む得ないと思いませんか、」

久住、答えに貧するも

「どうしても止められないのか、」

徹夜工事、ふと

「火星はフル充電されています、蓄電池も幾度となく最適化していますから、そうですね、二週間もすれば電池切れするかもしれません、どう足掻いても勝てませんよ、」久住に一瞥しては「それでは失礼します、」


徹夜工事と黒服一同、小雪の張った18番ホールで、二基のプロペラが忽ち周り始めるモダンチヌークに乗り込んでは一気に浮上してゆく



過去の大型輸送ヘリコプターCHー47のフォルムはそのままに、新設計されたCHMー47モダンチヌーク

徹夜工事と黒服5人と7人3分隊で1個小隊が機内にひしめく

白とグレーの雪中迷彩服の日本国大手PMSC:那由多スキームのチーフ吉永剛、頑と

「四方、上空待機で良いな、」

徹夜工事こと四方、ただ首を横に振り

「そこはいいえです、如何せん三沢共同練兵所が近いのでは、待機中の練兵が駆け付けて撃墜されますよ、」

吉永、鼻息も荒く

「ふん、お役目上、このモダンチヌークも情報戦に特化しているが装備のチェーンガンでヘビーハンヴィー位相手に出来るよ、まあ、そうは荒立てたくないがな、」

四方、くすりと

「吉永さん、火星の部品を幾度となく搬送して貰ったのに、何故階上嘉織さんの肩を持つのです、矛盾していませんか、」

吉永、居住まいを正すと、機内の皆が一斉に倣う

「仮にも、階上嘉織は、那由多スキームの社長である当主の誘いを、御前で御愛想にも即答で断った、世が世がであれば、公族名主華辺家の勅命に背くなどと、斬首そのものである、」深く息を吸い「だが当主あきら様はこう仰った、嘉織さん、日本国の為に大いに励みなさい、そして、お手隙になったら合流しなさいと、まさに身に余る言葉の数々、良いか階上嘉織には、更なる高みに登り、当主のご期待に応えて貰わねばならない、以上が那由多スキームの方針である、」

四方、うんざりと

「だからと言って、吾妻組に接近し、私にコンタクト取りますか、しかも最強のハンマーキュービックを組み上げろだなんて、歩兵大隊投入しても敵いませんよ、」

吉永、毅然と

「そこは階上嘉織たる最強さだ、名を馳せて貰わねば困る、我ら当主も寛容にならず、欲しいものは欲しいと言及して貰わねば、人材がユーロに吸い上げられる、これは大いなる演習と共に教導である、いざともなれば我々も身命を賭して介入する、皆覚悟は良いか、」


黒服5人と7人3分隊一斉に

「はい、」


四方、神妙に

「それは困ります、適正な陣営で白黒つけて貰わないと、貴重なサンプルデータにもなりません、そう、火星の任務が完了すれば、直上の偵察衛星に即時に送信されます、ここは予定通り函館に渡り推移を見守りましょう、」

吉永、ふと

「四方の見立てでは、早朝に片が着くんだな、」

四方、神妙に

「階上嘉織さんが根気よく、念動力で破壊し続ければの話ですよ、吉永さん、本当に階上嘉織さんの念動力は持続出来ますよね、」

吉永、不意に砕けては

「ああ、階上嘉織はやるよ、海賊に襲われ、生い茂る無人の沖縄に逃げ込んだ、豪華客船の乗員51884名全員を五日掛けて救い出した、海賊に間違われ発砲されてもだ、タフだよあいつは、」

四方、淡々と

「吉永さん、もし私が、階上嘉織さんに那由多スキームも絡んでる事を言ったら、どうします、」

吉永、毅然と

「階上嘉織に恨まれようと構わん、最強の殺戮兵器でも階上嘉織に敵わないなら、階上村にはまかり間違っても襲来しなくなるだろう、これ以上階上家を緊張の中にはおけない、」

四方、尚も

「当主様は、ご納得するとお思いですか、」

吉永、押し黙るも

「当主あきら様は、明晰なるお方だ、和と仁を優先する、四方、良いか、今の日本国をただの貧困国と思うな、心根と共に一歩一歩復興している、それも当主がいればこそだ、理解しろ、」



久住歩みを止め、月明かりに浮上したヘリを見上げ終えては、徐に後にしようも

「見届けもせずとは、余程の信頼か、」

追い縋って来た高嶋、悠然と

「兄ちゃん、強いんだろ、スケに合流されたら困るんだよ、」厚手のコートを脱ぎ捨てては、大きめなタンクトップの下には銀色のごついボディが鈍く

久住、はたと

「どうにも、物騒な方ですか、」

高嶋、口角を上げた歯

「分かるかい、兄ちゃん、まあ見て聞きな、」腕に仕込まれ折り畳まれたの合金チェンソーアームが二段に伸び展開、ピーキーな音が、旧ゴルフ場入口駐車場に木霊する

久住、凛と

「耳障りだな、」

高嶋、縦横無尽に腕そのままに合金チェンソーアームを得意気に振り回しながら

「さて、見た以上、どこから切り刻まれたい、この入り組んだ合金チェンソーは二度と縫合出来ないから、美男子も残念なこった、顔が嫌なら、股間抉るぜ、はは、」ただ下卑た笑いが響く

久住、尚も無形の位で

「昔の俺なら、びびるか、」

高嶋、近くの廃車を右の合金チェンソーアームで、回転凄まじく火花を散らしながら、既に真横半分まで切り刻む

「今もだろ、兄ちゃん、惚れた女でも出来たか、この俺に照れる事言わすかよ、」

久住、はきと

「能力を見せつけ実演に走る奴は、抜かる、」不意に後ろそのままに走り、暗闇に消える

高嶋、豪快にも

「抜かしやがって、逃げるか、この合金チェンソーアームを見て、五体満足の奴は何人たりといないんだよ、出て来い、おら、」紙を切り裂く様に一気に廃車が真っ二つに


久住を探す高嶋、手際良く右と左の合金チェンソーアームを振り翳しては、駐車場に置き捨てられた廃車を容易くも次々切り刻んで行き、飛び散る火花は切れ間無く舞い上がる


久住、暗闇から不意に姿を現すも

「何処を見ている、オートマシーンならセンサー全開じゃないのか、」

高嶋、怒りに震えながら

「抜かせ、階上嘉織が、俺達のプレイ中にハイブレーンにぶっ刺したまま、ハイブレーンを大破壊したせいで、頭部はいじり様が無いんだよ、おら、出て来い、兄ちゃん刻んで、次は階上嘉織だ、コンクリート風呂が楽しみだぜ、」

久住、うんざり顔も

「いいから、来いよ、」またも暗闇に溶ける


廃車を合金チェンソーアームで根こそぎ刻もうかの高嶋を、誘うかの様に現れては消えの丁々発止の久住、遂に廃車から漏れたガソリンに火花が引火し、忽ち旧ゴルフ場の駐車場は燃え盛る謝肉祭へと


高嶋、猛然と

「くそ、燃えて来たぜ、武士はやはり出来が違う、どこだ、どこにいる、兄ちゃん出て来い、兄ちゃんを、刻んで俺も有名を馳してやる、」

久住、かかとの内側ボタン同士を強く弾いてはショートブーツの底から切れ味激しいスパイクを弾き出し、勇躍残雪のボンネットに跳ね上がる

「良い度胸だ、だが、このまま階上幸或旅館に行かれては面倒だ、」

ただ見上げる高嶋、不意に見とれるも

「おお、兄ちゃん格好良いな、フルネーム聞いてないぞ、言えよ、」

久住、整然と

「極道に名乗りは不要、参る、」ただ乗り上げたボンネットを弾くと音が響き、燃え盛る炎の中久住たる残影が、次々廃車のボンネットの上を駆け抜けてははたと靴音が止む、そして小雪の止んだ月夜の上空より、何時の間に抜かれた黒鉄刀が鈍く輝く、

高嶋、音が途絶え何事かと周りを見渡し目を剥くも、巻き上がる炎に視線が追いつかず、残影のまま認識する事無く、上空の久住からの斬、切れ味の良い音が生身の頭部とオートマシーンの胴を切り離す


遠くにまで弾き飛ばされた、延命装置付きの生身の頭部の高嶋、横倒しのままただ虚ろに、疑似体液をだらしなく垂らしながら

「ああ、強ええな武士は、ついに真っ二つか、兄ちゃん、何故、頭を碎かん、」

久住、ただ炎燃え盛る中、刀を剥き身のまま、切に

「オートマシーンにも人権はある、武士とは仁そのもの、お前等の様にただ他人を貪るのとは訳が違う、」

頭部だけの高嶋、口から分泌物を激しく吐き出しながら

「それならば逃がせ、筐体だけ警察差し出すんだ、頭部を梱包したら幾らでも謝礼は出すぜ、」

久住、うんざりにも

「戦場でよく聞く開き直りだな、残念だが応じられない、」

高嶋、訥に

「よくも言う、ふん、まあいい、口座は持ってる、この私闘なら警察からも直ぐ出れる、今度こそ、シドニー製のごつい筐体、手に入れるぜ、」

久住、凛と

「残念ながら指定暴力団体の荒事は、何所の国でも、即時懲役刑だ、」

高嶋、ただ口から泡を吹きながら

「ご愛想だな、吾妻組は階上嘉織に潰滅させられたから、今回は私闘だ、微罪だよ、へへ、兄ちゃん、剛腕と言えど、頭が固いときっと痛い目を見るぜ、」

久住、憤り激しく

「言わすか、東南アジア帰りで俺達は不機嫌なんだよ、」不意に刀を収める一挙手の刀圧で転がる延命装置付きの生身の頭部の高嶋、燃え盛る廃車のタイヤに弾かれるては、いよいよ頭髪に引火し

高嶋、狂気の形相で

「ぎゃー燃えてる、熱い、消してくれ、兄ちゃん、燃えてるよ、助けてくれ、脳が沸騰する、」自力で何とかしようと、不気味なまま頭部が転がって行っては、頭部とかつらが漸く剥がれ落ちては鎮火

久住、ただうんざりに

「ふん、オートマシーンになった以上、毛髪まで栄養が行く訳ないだろう、」

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