善戦

第22話 2087年12月21日 夜半 青森県青森市八戸区階上村 階上幸或旅館 殴り込み

吾妻組の宣戦布告からの翌日夜半、階上海岸沿いの暫定県道、ただ連なる車列のライトが煌煌と照らし、その光りが階上幸或旅館を囲む

丘の上の階上幸或旅館に迫る、見たまま厳つい尖兵共

訝し気に窓から眺める、宿泊客一同、その顔は真剣にも動静を見据える


階上幸或旅館の受付の警報システムが、ただ鳴り止まず

階上順次、カウンター下に並ぶモニターを見据えては

「おやおや、久し振りに野犬が紛れましたかね、」

いそいそと駆け付ける階上冴子、はたと

「父さん、例の極道かしらね、今日の昼に八戸の蒲勝で勝鬨上げてたって聞いたけど、真っ昼間の大衆酒場とはね、そのまま今日なのね、」 

順次、こくりと

「まあね、駐車場完備して大人数なら、町内の蒲勝になっちゃうよね、」

冴子、神妙にも

「事前情報全く掴まないものかしらね、老舗は何れも、藩主南部様お召し抱えなのに、如何にもの怪情報を連絡網で回って来ない訳無いでしょう、」

順次、不意に

「そうだね、車体の数から言って、総出だね、後陣も無いなんて、単細胞だね、」

冴子、毅然と

「裏はあるだろうけど、まずは駆逐ね、」館内マイクを握っては「全階上幸或旅館関係各位に告げます、嘉織絡みで関東の極道が仕返しに来ました、皆さん電磁銃で応戦して下さい、弾となる電力は、この日の為に充電してます、コンセントとケーブルから供給出来ますので、無尽蔵に撃ってください、以上、」

階上嘉織、旅館玄関から踵を返しては、悩まし気に

「くそ、いきなり篭城戦に挑もうなんて、どんな阿呆なんだよ、つうか、地雷踏まないのかよ、」

順次、ほくほくと

「ああ嘉織、それね、撤去したよ、権田さんが、私的拡大戦線法違反になるから、地雷は駄目だって、」

嘉織、ただ苛立ち

「権田あいつ、無差別殺傷目的の地雷じゃいないんだから、見逃せよ、」

階上漣子、旅館の廊下を周りながら、手をバシバシと叩く

「繰り返すわ、銃が無いなら言って、倉庫から出すわよ、」

佐治、仁王立ちの余裕の笑みで

「漣子さん、いいえ、なんら問題ありません、こんな日の為に持ち合わせています、」

漣子、はきと

「だったら余裕かましてないで、窓の銃窓に張り付いて、アンチシールドの点灯は慣れているでしょう、」

佐治、廊下に出ては声を張り

「Hey Brother! 久々の紛争だ容赦なくいくぞ、」

全米海軍一同、その場で敬礼し

「Yes, sir.」素早くも遊興場の銃器ホルダーに立て掛けられたM16オールエレクトロを両手に携えては、それぞれの自室へと

その喧騒に察しては、全米海軍の波を搔い潜ってくる嘉織、ただ張り

「佐治、ふざけるな、こんな大層なの持ち歩いてるから、日々物騒な奴来るんだろ、」

佐治、はきと

「これはこれは、極道に好かれる嘉織さんに言われたくないですね、」

階上純、絣のままに、遊興所のアンチシールド装置の波形を無事確認し終え

「嘉織ちゃん、今は戦闘中だよ、二階へ行こうよ、」

嘉織、ただ歯噛みし

「もう、言い返せねえ、」不意にロビー向けて声を張り「母さん、頭数多い、照明弾ありったけ飛ばして、」

純、ふと

「嘉織ちゃん、照明弾のそれは、この前権田さんから、防災法に引っ掛かるから禁止だって、」

嘉織、悶絶しては

「また権田、くそ、それ違うだろ、」

冴子、フロントより声を張り

「嘉織、大丈夫、グレードアップしているから、問題無いわよ、」カウンター下の次々スイッチレバーを上げると間も無く、隣りの土産物屋から始まる、敷地内のデジタルサイネージが瞬く

嘉織、再び旅館玄関に滑り込み、見上げては

「何だ、この明るさ、」

順次、思い倦ねては

「敬治君が暇を見つけては、展開図作ったけど、やはり明る過ぎかな、こっちも手数見えちゃうよね、」

冴子、凛と

「そこは大丈夫、単発で来た義体とオートマシーンのセンサーに残影が残って、嫌がってたわ、」徐にマイクを拾っては「2087年12月21日20時34分、戦闘開始、各自健闘を切に祈ります、」

嘉織、不意に

「この人数差の、夜はちょっと不利だな、」

冴子、カウンター下から鉄兜を次々取り出しては、皆へと

「不利も何も無いでしょう、私達は美鈴のいる二階の司令室に行くから、付いて来なさい、」

嘉織、ただうんざりと

「美鈴、いつから張り込んでるんだよ、得意の予知かよ、」


表の暫定県道には、その車列50車体

群れの中から、杖をついた吾妻組長が踏ん張りながらも、階上幸或旅館の丘の先に立ち入っては、口上を述べる

「聞け、吾妻組の吾妻である、階上嘉織はいるか、出て来ないと、この村に町毎消すからな、分かってるのか、こら、」

嘉織、勇躍二階右端の部屋の窓から踊り出ては拡声器で叫ぶ

「皆殺しって、用意周到だな、」

吾妻組長、顎をぶるわせながら

「いたか、階上のメスガキ、この儂を、この二度とスケを抱けない身体にしやがって、ただですますか、」

嘉織、ただうんざりと

「いきなり下品か、見た所、義体だろ、張り切れよ、」

吾妻組長、怒りを抑えきれず

「えーい、言うな、重度の身体損傷ではオートマシーンにもなれず、この老いぼれた体では義体でさえもアンマッチ、ああ、栄養剤を浴びる様に飲んでは生身にむち打つが精一杯だ、ここに降りて来い、打っ飛ばしてやる、」

嘉織、はきと拡声器で

「その大怪我はさ、横浜歓楽街の崩落は自業自得だろ、何でもかんでも被せるな、大体だな、オートマシーン化の際の麻酔装置ハイブレーン改造して、ビルディング丸ごと風俗営業なんてどうかしてるぞ、脳髄に太い針ぶっ差したまま、ヴァーチャル映像見せて、下半身丸出しのまま、何十回昇天しやがる、仮にも私は女だからな、品性下劣なんだよお前等は、」

吾妻組長、懲りもせず

「ふん、ませがきが言うな、人間の欲って果てしないんだよ、ハイブレーンで極上のsexが出来るんだ、儂達は巷の煩悩を追い払ってやってるんだ、それを無下に横浜歓楽街を軒並み破壊しやがって、お陰でプレイの最中の連中はほぼオートマシーンになるしかないんだよ、階上嘉織、お前は最悪だ、いいか、天誅を下してやる、」

嘉織、ただうんざりと

「知るか、何が本牧エクセレントクラブだ、安価で風俗商売しては次第にヴァーチャルオプションで身包み剥いでは借金までさせ、何人廃人にしたんだよ、おら、それが果てには普通客滅多に入れないで、お仲間でいきまくっては、私の手入れに気付かず、ブラックアウトだ、いいか、何度も言うが、自業自得なんだよ、大体そこだ、脳内に直接sexイメージ打ち込んで、普通の肉体のsex出来るのかよ、何れにしても普通の生活に帰れないんだよ、」

吾妻組長、顎が外れる勢いも

「その、sexイメージ詰め込んだハイブレーンを破砕されて、俺達がもやもやが消えないままだ、今や追われた旧中華のルートは途切れ、ハイブレーンが調達出来ん、どうすれば勃つんだよ、ええ、こら、」

嘉織、一瞬目眩するも、拡声器ではきと

「かってない程下品過ぎる、帰れ、今直ぐ帰れ、」嘉織手を仰いでは、二階に控えた全米海軍の電磁アサルトライフルから一斉にパルスが迸る


迫り来た極道連、後退しては車に隠れ、持参の電磁銃で応戦する


嘉織、部屋に引っ込み拡声器を放り投げては

「美鈴、拡散モードの許可は出せるんだろ、」

美鈴、監視のマルチモニターを丹念に眺めては

「権田さんに釘刺されてるわ、それは駄目だって、非戦闘区域だから、正当防衛が成立するセミモードとフルモードのパルスで頑張って、」

嘉織、ただうんざりと

「また権田、何したいんだよ、階上家の営業妨害かよ、」

美鈴、監視のマルチモニターを指差しては

「見て、ここは容赦しないわ、電磁機関銃まで持参した極道が、お客さんの訳ないでしょうここは営業権侵害でとことん応戦しなさい、」

嘉織、隈無くモニターを見つめ

「義体なら、生体電流供給で疲れ知らずか、厄介だな、」

美鈴、不意に

「それより、このがたい、オートマシーン相手だと厄介よ、軍用の電磁ライフルでシールドをショート出来るかしら、」

嘉織、ただ溜息で

「下半身丸出しのプレイの果てに、オートマシーンになるしかなくて、今のこれなんて、どんな業なんだよ、」体を窓から乗り出しては「佐治、」

隣り部屋から乗り出す佐治、グッドサインで

「嘉織さん兎に角センサーから撃ち抜きますから安心して下さい、」

美鈴立ち上がっては、嘉織に詰め寄り

「危ない、戻りなさい、嘉織が標的なのよ、」嘉織を窓から引き戻しては「そもそも極道の応戦って、何が目的よ、これだけ人数だけ集めて、嘉織で気晴らししたいだけでしょう、」

嘉織、確と

「結局は私が目的なんでしょう、出るよ、」

美鈴、嘉織の右腕掴んだまま

「ちょっと待ちなさい、今日のそれは何かが違うわ、何かしらの恣意行動よ、おびき出す為なら、こんな派手だけのどんぱちでする訳ないわ、嘉織が出て来る迄突撃繰り返す筈よ、」

嘉織、優しく美鈴の手を払い除け頭の鉄兜を預け、大窓に足を掛けては

「美鈴の予知は肝に命じる、何れにしても、この旅館のアンチシールド、朝迄持たないでしょう、隊を分けないと、」勢い良く二階から飛び出しては軒先に積まれた雪に着地「佐治、久住、来い、」ただ手を仰ぐ


同じく、二階より佐治と久住も飛び出しては軒先の雪に着地


嘉織、極道のパルスを搔い潜りながら、駐車場にダッシュ、エンジンキーを翳しては赤いラシーンマークツーをスタンバイモードへ、そしてラシーンマークツーの運転席に飛び込んでは、エンジンキーを差し込み時計回りに二回半、反時計回りに三回半で瞬時に起動、ハイブリットエンジンの機動音が唸りを上げる、そしてそのままエンジンキーを押し込むとアンチシールドが展開 

後部席左に滑り込む久住

「どこで巻きます、」

遅れて佐治、助手席に滑り込み

「三沢共同練兵所に連れ込んで、痛い目を見て貰いましょう、」

嘉織、きりと

「いや、近場で片付ける、」

走り寄る鉄兜にダッフルコートに絣の女性、ただ鉄兜で頭を隠しながら、後部席右に漸く乗り込む、それは純

「ふう、無事だよ、」

嘉織、ただ項垂れ

「その絣、純か、何で純もだよ、」

純、鉄兜を後ろのトランクに置いては

「嘉織ちゃん、4人座れるよね、」

佐治、攻勢が緩んだと見るや

「出ましょう、嘉織さん、期を逸してはいけません、」

久住、背後の窓を見ては

「視線が集まってます、急ぎましょう、」

嘉織、半分やけも

「いいか、ぶっちぎるぞ、皆シートベルトして、」

ギアを一気にバックに入れては、ダブルクラッチでギアを戻しドラフト走行からの急発進

極道のパルスを一手に集める中、下り斜面の丘をタイヤをフィットさせてはバンカー走行で潜り出ては、そのまま勇躍、着地を難なくサスペンションが吸収しその速度のまま東へとフルスピードへと



美鈴、監視マルチモニターの補助レイヤーボタンをタップすると、見る見る浮かび上がる機影トレース、指で差し数えては

「何か目敏いね、後ろの15台がそのまま追跡とは、意外に少ないわね、」

冴子、はきと

「ラシーンマークツーは囮と考えての、この主力温存なのかしら、極道の割には慎重ね、」

美鈴、凛と

「ここに嘉織いないって言ったら、全部消えるんじゃないかしら、言うわ、」嘉織の残した拡声器を拾い上げては

冴子、窘めながらも

「美鈴、無駄に煽らないで、事情を知りつつ、この旅館に怒鳴り込んで来る極道よ、信じると思うの、」

順次、ただ頷き

「まあ、相手にするしかないだろうね、応戦で削いで行くしか無いかな、」

美鈴、思いも深く

「とは言えね、旅館よ、建前お客さんいるのだから、ここまで車で囲まれたら、裏山越える手引きしないと、」

冴子、確と

「誰を逃すって言うの、皆それなりに一騎当千でしょう、私達の選択は殲滅戦よ、」

順次、神妙にも

「そうそう撤収とみたら、真っ先にオートマシーンに狩られるね、ここで勝負を付けないと、」

冴子、ふと

「その戦力差だけど、モニターは、渋くモータリゼーションでまとめているのね、どうしても、お金だけは持ってるいるようね、」

美鈴、はきと

「モータリゼーションも、万が一の電子戦考えたら、妥当な判断でしょう、そんなセオリーで、今迄全部退けて来たと思ってるのかしら、」

冴子、モニターを見つめたまま

「まだ、ざっと35台あるわね、土塚のつもりなのかしら、どうしても、オートマシーンの出力そのままの近接戦に持ち込みたいのかしらね、」

美鈴、ふと

「いいえ、ここは押っ取り刀の戦車応援も、考慮しないといけないかしら、」

順次、はきと 

「いや、敬治君と漣子ちゃんと純の定期点検は怠り無いよ、階上村は強固過ぎる程に、暫定国道の低陸橋で何処ぞの戦車を載せたトレーラーは絶対通れないからね、そうだね、ここまで絶対入り込めないね、」

冴子、思いも深く

「何か、揚陸戦に即してないのが凄く残念だわ、どこの国でも良いから、強襲揚陸艦が来てくれないかしら、」

美鈴、ただうんざりと

「それ、どれだけ、恨み買ってるのよ、そんなの御免被るわ、」

冴子、居住まいを正し

「美鈴、今日迄のオールフェリー八戸港見なさい、近いうちに艦隊戦も考慮しないといけないわよ、」

順次、ただ思いを巡らし

「その為の揚陸戦か、今日迄に、戦中日本のトラップ撤去せず正解なんだけど、」

美鈴、はたと

「だからそれ、権田さんの要望書貰って撤去したんでしょう、」

冴子、にべもなく

「まさか、知る限りの階上幸或旅館周辺の地雷だけよ、戦中日本のトラップが何所にどう配置されているなんて、ぶっとぼけた喬爺でも半分の認識よ、半分の撤去なら、応えなくても問題無いわ、」

美鈴、ただ溜息も

「まあ、真っ最中の選りに選ってなんだけど、ここは聞かなかった事にしておくわ、」


長い廊下から部屋に滑り込む漣子、目を見張りっては

「ちょっと、ここにもいない、純はどこなの、」

順次、飄々と

「ああ、純は、嘉織のラシーンマークツーに乗ったみたいだね、皆頑張るね、」

漣子、ただ崩れ落ち

「ああ、やっぱり、あの絣は純か、って、大丈夫なの、」

美鈴、ぽつりと

「問題無いでしょう、純もいざは肝が座るから、役立つかもしれないわ、」

漣子、素早く立ち上がっては

「かもしれないって、まあ、純は天才の類いではあるけど、」

冴子、はきと

「純も、何時迄もメンテナンス担当なんて如何なものよ、」

漣子、くしゃりと

「そうなんだけどね、それより何、皆何で澄ましてるの、電磁重機関銃五機もって、以外と接戦よ、どうするの、これ、」

冴子、頬笑んでは

「ここは嘉織の情報しか、漏れてないのが救われたかしら、ねえ漣子、」

美鈴、漣子に向き直り 

「漣子、ここは焦らず、狙い澄まして行きましょう、」16分割された監視マルチモニター指差し「これを見て、漣子、そう、機影トレースで形状判定しているから狙いを定めてね、固いエンジン部じゃなく、ガソリンタンク部漏れ無くよ、」

漣子、モニター見つめては逐一と

「えっつ、帰って貰うんじゃないの、車無しの徒歩なんて、本当、階上村が大騒ぎよ、」

美鈴、はきと

「そこは殲滅戦よ、一切容赦しないわ、」

冴子、溜息も深く

「漣子、嘉織と組長の罵倒で同情すべき所は一切ないでしょう、遅滞無く行きましょう、」

美鈴、マルチモニターの1番目をタッチするとクローズアップ、幾つかの車の機影トレースの輪郭がくっきりと

「まずはここから、全部足止めするわよ、」

漣子、モニターを見据えては

「はい、分かりましたと、下劣連中は断罪と、」両腕を解しながら気を整えると、右腕に青いリングが灯って行く「それでとにかくと、モニター見てはの、ガソリンタンクをバンか、行くわね、」


程なく、パルス音の着弾音が響く中、各モータリゼーションの下部車体から偶発に感じ得ない、単発的なバリとの音、ただ連なり冬空にしんなり響く

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