第21話 2087年12月20日 夕方 青森県青森市八戸区階上村 階上村立公民館

吾妻組の宣戦布告を告げた今日の夕方、階上海岸の切り取った崖に備えるこじんまりとした階上村立公民館

公民館のブリーフィングルームで主要面子が揃い、円卓でただ打ち合わせへと


八戸食堂の井原、いつもの盛岡競馬新聞を手に

「そう、来たんだよ、客がさ、吾妻組って言うのがさ、面子多々有れど、毎度師走なのにご苦労なこった、」

階上漣子、身を乗り出し

「井原さん、それって、どんな感じかしら、」

井原、はきと

「まあだよ、自称極道までは、お馴染みの展開だけど、ざっと59人はまあまあかな、でも酵素牛乳頼んだのが44人だよ、かなり厄介じゃないかな、」

ファミリーマートco階上村旗艦店店員糸村、あんぐりと

「うわ、それオートマシーンですよね、ちょいちょい買いに来るけど、いつのまにそんな数に、多過ぎますって、」

井原、不遜にも

「知るか、それとなく外見たら、古のモータリゼーションの車がずらりだよ、どうしても金は持ってやがる、こういうのはしつこいのが定番だ、」

糸村、ただはっとしては

「それか、あの名車、店内からそれなりの車列見たけど、今どこにいるのかな、」

漣子、呆れ顔も

「インフラが辛うじて生きてる、空き家と言えば、あそこででしょう、」

階上冴子、微動だにせず

「旧ゴルフ場とはね、廃車場もそろそろ、小節さんに言って考えないとかしら、鉄屑なら皆が捨てる時点でばらさないと、溢れる一方よ、」

八戸区役所総務交渉課のやや若き権田、透かさずも

「冴子さん、そこなのですが、使える計器があるから、そう簡単に分解と行きません、これは区役所の仕事です、仰る様に溢れる寸前ですが、限界は越えていませんのでご辛抱下さい、」

漣子、どんと机を叩き

「ご辛抱ってね、区役所の性でアジトになってるんでしょう、権田もぬけぬけと言うわね、」

室井、真摯に

「まあまあ漣子さん、区役所さんもお仕事があるのです、それに幾分都合が良いでは有りませんか、」

冴子、立ち上がっては窓際の機器に進み

「そうですね、室井先生、モニター付けましょうか、」液晶モニターの電源を入れると、8つにマルチ展開する監視映像の数々


ただ歩み寄り、液晶モニターに瞠目する一同


漣子、呆れ顔で

「これ、毎度だけど、普通、気付かないものかな、」

室井、淡々と

「漣子さん、有線ケーブルで見ていますから、無線探知装置で気付くものでは有りませんよ、何より元ゴルフ場だけあって設備が良いですから居着いてしまうものです、」

糸村、ただあんぐりと

「この準備万端さですよね、階上幸或旅館に死角無しですね、」

井原、声を張っては

「糸村、当たり前だ、俺の食堂で、情報与えているから、あいつら、すっかり余裕のよっちゃんなんだろう、」

冴子、頬笑んでは

「この監視システム、室井先生の伝手で、頂いたものですよ、本当生粋のレジスタンスの調達力は恐るべしですね、」

室井、顔色一つ変えず

「私も参戦したいのも山々ですが、オートマシーンとなると足手まといになるでしょう、」

漣子、ただ破顔、

「いえいえ、室井先生の手榴弾は今も尚、現役ですよ、」

糸村、無邪気にも

「よっつ、さすが階上村エース、18番、」

漣子、予備動作無く、素早い右足蹴り

「囃して、どうする、おら、」

糸村、回し蹴りでのたうち回っては、背中を押える

「うっつって、その上の頚骨入ったら、折れるだろう、漣子さん、勘弁しろよ、」

権田、淡々と

「皆さん、真面目に行きましょうか、私の時間外は長く書けません、」

漣子、ただうんざりと

「権田も、真面目つうか、小節叔父さん相手にしても、その生真面目なの、」

権田、はきと

「階上小節階上村村長には尊敬の念しかありません、その区役所会議に於ける先見性から、既に区長の器です、何故立候補しないのでしょう、」冴子を一瞥も

冴子、凛と

「権田さん、いとこの小節さんと言えど、階上家の重鎮です、区長に役職上がって、それを毎回パーティーに巻き込んだら、階上家何してるだばになるでしょう、歴代村長が妥当です、」

井原、はきと

「そうだよ権田、小節村長を区長にしようものなら、八戸町の仕事まで増えて、八戸食堂のお馴染みさん減るだろ、少しは階上村村民の事考えやがれ、」

権田、丁重にも

「私も切に、諸々考えてますよ、小節村長はオールフェリー誘致の先頭に立たれたのです、それを毎度のこんな事件に至らぬ事案、区長になったとしても、何度でも揉み消してみせますよ、」

糸村、ただ悩まし気に

「権田さん、揉み消すって、まただよ、オートマシーン何体いるんだよ、片手に入る過去最多だよ、これは流石に大騒ぎになるって、」

漣子、仏頂面も

「何で糸村が焦るの、極道にびびって、ファミリーマートcoのマネージャー出来るものな、ねえ、」

糸村、ただもどかしく

「漣子さん、あなたね、それを言うかな、ファミリーマートco階上村旗艦店は逃走経路の防壁じゃないでしょう、皆さん、そうですよね、」

漣子、はきと

「ファミリーマートco階上村旗艦店は出城の一つ、以上、」

糸村、目眩のままに

「また、言われた、」

井原、ふと

「そうなんだよな、吾妻組、部分電力の旧ゴルフ場がアジトとは言え、何で八戸食堂でオートマシーンが充電する必要あるんだ、あいつらの充電ってセーフモードで三日だろ、戦闘なら何時間だ、」

室井、即答で

「大凡、フル起動なら3時間でしょう、階上食堂に大挙したのは、消費電力の異常を察すられるの警戒してのカモフラージュでしょうね、井原さん、口が固く見られますからね、」

井原、困り顔も

「室井先生、そういう褒め方は苦手だよ、」

権田、淡々と

「そう。過去に有りましたね、廃車場が余りの消費電力でしたので見かねて、区役所の電力啓発車で区内をくまなく周り、もっと電気は大切に使いましょうと遠回しに警告しておきました、」

漣子、ただ首を横に振り

「権田も、それ余計なのよ、それ以来バッテリーパック背負ったオートマシーンが来る様になったわよ、」

井原、一笑に付しては

「阿呆だよな、あんな重いバッテリーパック背負って、殴り込み出来るかって、つうか、八戸食堂の椅子何個ぶっ壊しやがる、がっつり固いの用意したいけど、如何にも事情知ってるなんて出来やしなだろう、全くよ、」

室井、うんざり顔も

「まあまあ、穏やかに進めましょう、オートマシーンの盲点はその出力に頼り切った近接戦です、ここは定宿客さんにお任せでよろしいでしょう、」

権田、凛と

「室井先生、階上幸或旅館の定宿客って、非公式ながら全米海軍ですよね、射撃で長期戦になると、押し込まれてはどうしても不利では有りませんか、」

井原、ほくほくと

「いや、ここの所純ちゃんに連れられて、武士二人いたね、くう、強そうだね、思わず一品サービスしちゃうよな、まあ武士二人もいたら、嘯いてる北辰一刀流のはぐれ武士なんて、ちょろいよな、そうそう、」

室井、頬笑みながら

「そのお二人とは、イングランドの東儀さん、アンダー40の久住さんですね、相当の腕と見込みます、」

漣子、大きく溜息しては

「東儀さんは正しくそれだけど、久住は身体能力に頼り過ぎる傾向よね、あいつは、巻き込んで良いのかな、」

冴子、一瞥もせず

「大丈夫、久住さん、若いけど、ぐっと伸びるわよ、」

室井、ふわりと

「女将は、見る目ありますね、湯治の際に久住さんを見ましたが、若くてもに刀傷銃創も無いですから、感性は抜群と見受けます、」

冴子、室井に向き直り

「室井先生の方こそ、久住さんの暗部を一目で理解しましたよね、」

室井、ただ視線も遠く

「第七次東南アジア事変のアンダー40の全班投入、察しない訳には行きませんからね、」

漣子、ただ歯がゆく

「本当、気を揉む、だから、久住話せっちゅうの、」

糸村、ただ嬉し気に

「久住さんね、純ちゃんとは、仲良く駄菓子買って行くけどな、何か微笑ましいよね、何か俺が照れちゃうよ、」

漣子、ただ拳を握り

「ねえ、今度は素手で顎砕くわよ、」

糸村、透かさず顔面をガードし

「漣子さん、それ言いますか、散々巻き込んでおいて、そう、素手で済むなんて優しいですよ、もう全部言いたいけど、いや、そうですよ、現在進行形で一つ片付いてませんよ、盛夏のあれ、念動力で勝手に表看板灯折って、追っ手の大量の車群を玉突きさせちゃって、皆重傷、表看板の損害賠償も嘉織さんなら手早く請求できるけど、漣子さんに請求出来ませんよね、これどうなってるんですか、」

漣子、馬耳東風のままに

「はい、権田、」

権田、はきと

「その、泊ニュータウン強奪武装団の案件に関しましては、区役所での四次審査も終り、環境省建設部の稟議中です、糸村さん、給付金は暫しお待ち下さい、」

糸村、翻筋斗打っては

「おお、まだなのか、夜のシフトの客に、暗いって、まだ突っ込まれるよ、」

漣子、一瞥しては

「ふん、どうせ夜十時でお仕舞いなんだから、我慢しなさいよ、いや、嘉織がしでかして、今は時十七時閉店なんだっけ、」くすりと

冴子、モニターを丹念に見ては、ふと

「そうね、とは言え、こんなに寛いでいるなら、この隙に復興省自衛部に爆撃して貰いましょうか、」

権田、立て板に水で

「冴子さん、ここは一般知識を語らせて貰います、復興省自衛部は災害派遣とPKF派遣の行政機関です、昔の自衛隊及び日本防衛軍の様に火器は所持していません、うっかりでも、この東北で爆撃機の写真を取られては、立川国会で追求され、階上家が証人喚問されかねません、是非ご理解下さい、」

冴子、くすりと

「権田さんはこれだから、縁談を進めても、先が見えてるで続けてお断りされちゃうのよ、」

権田、ただ砕けては

「そう、なっちゃいますよね、」

室井、確と

「爆撃のそれは止めておきましょう女将、折角の罠のアジトです、先々も有りますよ、」 

冴子、はきと

「室井先生に、それ言われると弱いわ、」

漣子、ふと

「ああ、それなんだけど、純に聞いたけど、徹夜工事とかのアーティストもいるんでしょう、ここどうなってる、」

室井、神妙に

「以前、表敬訪問を兼ねて、徹夜工事さんのアトリエに行きましたが、別棟の倉庫にいますので、組にどやされる事は無いでしょう、」

冴子、ふと

「徹夜工事さん、あの火星のオブジェ、芸術家にしては緻密過ぎるわ、デフォルメも混ぜてこその近代美術では無いかしら、」

漣子、打ち消す様に

「冴子さん、近代美術も、時代時代の緻密とデフォルメがあればこそでしょう、」

室井、くすりと

「流石は漣子さんですね、エルミタージュ美術館を制覇しただけは有りますね、」尚も「女将の勘も尊重しますが、今は多勢を優先しましょう、この規模ですと、ここは膠着戦に備えるべきですよ、」

漣子、ふと

「そうよね、階上幸或旅館もそれ相応に備えているから、今回はそうしましょうよ、」

冴子、一瞬躊躇うも

「まあよね、定宿の戦力を踏まえたら妥当ね、室井先生ありがとうございます、室井先生のいつもの教示、お礼はまた今度、青森県営競輪場にしましょうね、」

室井、口元が緩んでは

「それは忝いです、勝率7割3分2厘の驚愕の配当、恩給だけでは参考資料も手に入れ難いものですからね、」

糸村、こことぞばかり 

「漣子さん、良いですか、絶対ファミリーマートcoに怒鳴り込ないで下さいよ、何故かまだ蛍光灯の替えも届かず、夜の営業も出来ずも、早出の早朝営業は厳守、只管ロウソクの灯りの元で手売りしては、お客さんから、またかの声援ですよ、絶対悪夢のイベント増やさないで下さいね、」

漣子、ただうんざりと

「糸村も、分かってるわよ、純の相手があいつでも、純の階上村のデートコースを抹消する訳にいかないでしょう、」

糸村、仰け反っては

「抹消って、うええ、」

室井、はきと

「ファミリーマートco階上村旗艦店攻城戦、単純戦力で行くとそこはお約束です、いつぞやかの様に火炎放射部隊で灰燼までとはなりませんでしょうけど、オートマシーンのパワーそのままに補強した支柱をも曲げられては、お店を破棄せざる得ませんからね、」

漣子、ふと

「ああ、でも、嘉織の捻り見て、私でも万が一の火炎は何とか対処出来そう、何とかかな、そう、出城で阻むのは定番ですよね、」

糸村、ただ目を見張り

「漣子さん、ああたね、俺見殺しか、どうにもこうにファミリーマートcoで阻もうとしてるでしょう、」

漣子、事も無げに

「糸村怪我してないよね、病院にも行ってないでしょう、慣れたらそんなものよ、ここの察知能力はね、私達に感謝しなさい、」

室井、ただ宥める様に

「漣子さん、ただ穏やかに行きましょう、嘉織さんには呉々も言い聞かせて下さいね、今回は最終線が最前線ですよ、」

冴子、透かさず

「室井先生もやや含みがあるのですね、」

室井、はきと

「態々、八戸食堂に全員で威力偵察と言う事は、仕掛けがあると言う事です、いや、ただの阿呆なら良いのですが、」

冴子、凛と

「どうしても、昨日のあの徹夜工事ですね、」

室井、こくりと

「徹夜工事さん、やはり見過ごせませんかね、如何にもです、私もファミリーマートcoの防犯映像見ましたが、あの身のこなし、あの手合いは一度頭で咀嚼している、賢い証拠ですよ、」

漣子、ただお手上げの素振りで

「はあ、嘉織もただ威嚇されて、まだまだ甘いって事ね、」

井原、ふと

「でもさ、室井先生、仕掛けって何かな、それとなく集まりに集まった旧ゴルフ場を横切るけど、ミサイルなんて見当たらないよ、金持ってるなら、まずそこでしょう、」

室井、逡巡の限り

「そうでしょうけど、何か違和感を感じます、きっと私は何かを見落としています、」

冴子、居を正し

「室井先生、井原さん、権田さん、糸村さん、あとはお任せ下さい、階上幸或旅館が責任を持って対処します、」

井原、もどかしくも

「俺は良いのかね、八戸藩の先鋒の家系が、こう、押っ取り刀でさ、」

冴子、凛と

「井原さん、いつものご協力は有り難いのですが、井原さんを頼ってばかりでは、南部様が気を揉み、つい巻き込んでしまいます、」

権田、はきと 

「冴子さん、よろしいでしょう、八戸区も日本国から行政はかなり委譲されています、根拠となる証明書をきちんと提出して頂ければ、何ら問題に上がる事も有りません、」

糸村、尚も悩まし気に

「本当、嘉織さんも面倒掛けるな、小節村長の区長擁立が駄目なら、室井先生、お願いですから区長になって下さいよ、八戸町を市に格上げして、きちんと防衛戦線張りましょう、」

室井、はきと

「糸村君、私はレジスタンスですよ、役人には向いていません、」

権田、室井を見つめたまま

「室井先生、果たしてそうでしょうか、その選択肢も十分有りですよ、私達は室井先生の先見の明で、物事を遅滞無く進めております、今時身上書など幾らでも上書き出来ますよ、」

室井、見据えては

「いいえ、有事の際に、もし区長の私の名など上がったら、戦中戦後から把握している復興省に延々睨まれますよ、旧中華と戦い抜いたレジスタンスは目障り極まりない、なけなしの年金出してるんだから黙ってろ、それでも尚なら、残念ながら階上幸或旅館のお取り潰しも出かねませんからね、」

冴子、凛と

「室井先生、それはお構いなく、階上家は、極力日本国と距離を置いています、お取り潰しなど、いつの時代のお話ですか、」

室井、拳を握りしめ

「平和な日本、しかし戦後の日本国は、平然とPKFと称しては徴兵で隣国の最前線に送り込み死傷者を出しています、この国はまだ信ずるに値しません、冴子さん、良いですね、決して強く日本国には物申さないべきです、」

糸村、ただ頷き

「そうそう、漣子さんも、漸く大人しく…」見る見る青ざめ「いや、ごめんさい、漣子さん、ごめんなさい、もう言いません、」

漣子、不意に右手のリングが収束し

「糸村、良かったわね、公民館の窓から、下の崖に落下していた所よ、」

糸村、嗚咽まじりに

「それ死にます、死ぬって、セーフで海に落ちても、凍え死ぬって、雪降ってるから尚更駄目ですって、」

井原、盛岡競馬新聞をぽんと

「まあ、なんだ、皆集まったし、八戸食堂で一杯やろうか、お造り分はちゃんと残ってるよ、」

冴子、ふと

「そうね、小節さんにも、話しを通しておかないと行けないから、誘わないとね、」

漣子、気丈にも

「いやいや、待って、八戸食堂に極道寄るかもよ、そこで残らず捌いたら、誰それと大迷惑じゃないの、」

井原、頑と

「良いって良いって、その為のトタン張りの安普請だからさ、いざとなったら、またC4でどかんだよ、漣子ちゃん、大船に乗りなよ、」

冴子、吐息混じりに

「ねえ井原さん、井原家は、南部家代々の一番槍です、この調子だと直伝の朱槍さえも吹き飛ばしますよ、」

井原、豪快にも

「そこは大丈夫、無頼な輩は、地元の料理に酒に夢中だし、朱槍はいつもこそっと持ち出して出るから、分かりゃしないんだな、これが、」

漣子、頻りに頷いては

「そうそう、あの爆音に、立ち込める爆煙、あれでも生きてるなんて、流石、南部家代々の一番槍ですよ、小田原征伐の秀吉の感状拝領するのも分かりますって、そうですよね、室井先生。」

室井、笑い禁じ得ず

「ああまあ、失礼、その秀吉の感状の内容も、皆さんの井原さんへのイメージが付いてしまうと行けないのではしょってますが、南部家寡勢の小田原参陣間も無く、参陣の味方の兵の諌言を一切聞かず、敵陣北条勢の公道での破竹の突破、秀吉宣はく、古今東西類い稀な偏屈侍とのお褒めです、如何です、石垣山一夜城での大名勢揃いの中の大爆笑、想像出来ますよね、」

ただ一同、爆笑のままに

井原、神妙に

「室井先生、ああ、そこ抜きでお願いしますって、俺、面白いの担当じゃないですって、ねえ、」

冴子、漸く笑みを止め

「室井先生、井原さんのそれは、南部家ゆかりのお目出度い席まで取っておきましょう、」

糸村、号泣しては

「ああ、井原さんの、爆破嫌ですって、死にたくない、怯えながら一杯飲みたくないですって、」

井原、毅然と

「大丈夫、死なないって、現に起爆リモコンのロックボタンは、ああ、極道等来て解除したままだっけ、いや失敬、」

糸村、ただ強ばり

「危ない危ない、井原さん!うっかりでも無しですって、」

冴子、全く意に介さず、モニター見つめては

「そうね、このテーブルの酵素ウイスキーの空き瓶、結構開けてるわね、この様子なら来ないわよ、」

漣子、モニターを万遍なく覗き込み

「抗争前に気が大きくなって、勢いそのままって感じね、大満足なら、今日は無いかな、」

冴子、はたと

「久々の大規模戦なんて、うんざりね、私達の寝覚めも悪いでしょうから、ここは八戸食堂で一献頂きましょう、」

漣子、ふと溜息で

「まあいいかな、私が運転して、送迎するものの、ちょっとだけですよ、」

権田、くしゃりと

「私の業務も終了です、しかしまた嘉織で一杯か、取り敢えずご馳走になります、今日は最後迄付き合いますからね、」

冴子、頬笑んでは

「皆さん、いつも、ご面倒掛けますね、」そのままお辞儀

室井、神妙に

「名誉ある上家衆なら、目も着けられましょう、何れも瑣末な問題ですよ、」

漣子、噛み締めては

「室井先生自ら、そう言ってくれるのが救いです、本当にありがとうございます、」続いてお辞儀

冴子、忽ち綻び

「室井先生、一緒に万車券狙いましょうね、」

井原、はきと

「良いよな、室井先生は、」冴子に向き直り「でも冴子さん、何で競馬は苦手なんだろうな、競輪競艇オートレースとかの9割のラインは固い筈ですよね、」

冴子、思いも深く

「競走馬は難しいわね、その激しい本能で未来を容易く変えてしまうもの、」

井原、くしゃりと

「そう、それこそが、競馬の醍醐味なんだよな、そうなんだよ、」

室井、頬笑みながら

「冴子さん、万馬券のその御様子、来年の春の日本国ダービーは固いですかな、」

冴子、朗らかに

「ええ、それまでは皆生きています、何せ、越冬後の稼ぎ時ですからね、」

漣子、たじたじと

「冴子さん、嘉織の母にして、そう来るのね、何かな、全然懲りてないのは、楽しい未来があるからなのね、」

不意に階上村立公民館の正面ドアが開き、悠然と雪を払う老人から、陽気な声が

「いたいた、八戸食堂閉まってるから、こっちだと思ったよ、」

皆一斉にこまっては

「南部様、こんばんは、」

白髪の好好爺、南部

「はい、こんばんは、皆が集まってるって事は、明日の馬券決まったかな、ここだけの話、うちのジェラシックネイサン、かなりの仕上がりなんだよ、詳しいオッズは馬主だから言えないけど、あれは固いね、」

井原、目を剥いては

「南部様、それ本当に、あっと、でも仕入れで盛岡競馬場行かれないや、」

南部、神妙に

「井原さんは真面目だね、でも、お休みは大切だよ、ジェラシックネイサン一緒に見ようよ、」

井原、ただ思い倦ね

「そう言われれば、確かに酵素牛乳仕入れたところで、あいつらに出す為だし、集まった所をまとめて八戸食堂ごとC4で爆破しようと思ったけど、いざだが、それもどうなのかな、」

冴子、はきと

「井原さんそうよ、今回の面子、必ず逃げる輩はいるから、二度手間よ、南部先生を盛岡競馬場まで接待して上げて、」

南部、はきと

「冴子さん、また厄介な輩かな、それとなく寄合所に声を掛けてみようか、」

冴子、慇懃にも

「いいえ、南部様のご威光では、面子が集まり過ぎてしまいます、既に東儀さんが逗留中ですから、万全と言えます、」

南部、凛と

「冴子さん、あの東儀君もまだ若い、それに思い人が近くにいると抜かるやも知れぬ、」ただくすりと「まあ、これは老人の戯言だがね、あと嘉織ちゃんにも内緒だよ、意識させちゃうと、囲碁の相手して貰えなくなるからね、」

冴子、ただ一礼しては

「南部様、くれぐれも肝に命じます、ご指南ありがとうございます、」

南部、くしゃりと

「固いのは抜きで行こうよ、明日の勝ち馬の事話したいけど、その雰囲気で良いよね、いや、ジェラシックネイサンの菊花賞制覇も目を閉じると浮かぶね、ははは、これも良いよね、、もうね、愉快な酒席になっちゃうね、」

一同、ただ深くお辞儀へと

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