第19話 2087年12月20日 午後 青森県青森市八戸区八戸町 蕪島 願い

日も改め、雪景色の八戸区の蕪島及び蕪島神社、海に浮かぶ島と言うよりは現在は八戸湾内に突出した島そのもの地形に、そして平成の神殿消失で皆の寄進により見事に再興した蕪島神社、人もはけては境内で、午後の長い休息時間を貰ってる姉妹が静々と切に


賽銭の投げ入れた音が波間でも響き、ただ柏手を叩く嘉織と純の二人

「どうか、純の手足が直ります様に、」

「どうか、佳織ちゃんが無事で有ります様に、」

嘉織、純に向き直り

「純、それじゃあ、効果薄いよ、私はいいから、もっと自分大切にしようよ、」

純、頬笑みながら

「それね、同じ台詞言いたいよ、」

嘉織、不意に

「何だな、それなら蕪島名物の三周しようか、って、純の絣に今の足腰じゃ尻餅だね、」くしゃりと

純、手袋のまま揉み手し

「多分、そうかな、私から蕪島切り出して階段上がるのもやっとだったしね、」

嘉織、不躾も

「大体さ、蕪島三周もしたら、ウミネコのフンも付くだろうし、運が回るって、その語呂合わせなんでしょう、」

純、ゆっくり首を横に振っては

「伝承も、故があってのものだよ、」深く溜息し「ふー、そうだね、境内周りはまた今度にしようね、」

嘉織、ただ思いを馳せ

「その頃には、純の感覚も戻ってれば良いな、」


そして、二人手に手を取っては境内からの急な階段を慎重に降りては、裾野でふと立ち止まる


純、はたと

「あっつ、やっぱり、室井先生もお参りですか、」

眼鏡をかけた白髪の見たまま老荘、室井

「これは純ちゃん、そして嘉織さんもですね、ええ、そうですよ、」

嘉織、くすりと

「室井先生、ここに長く立ってたら、ウミネコのフンに当たるよ、」

純、ふわりと

「嘉織ちゃん、厳冬はウミネコいない時期だって、」

室井、頬笑んだまま

「まあ、そうですね、このままぼっとしていたら厳冬も終りますね、それでは、如何です、そこの蕪島売店に行きましょうか、」二人を手招きしては歩みを進める

嘉織、室井に付き添いながらも、訝し気も

「室井先生、それさ、その前を通ったけど、あのカジュアルプレハブ棟と看板、やっぱり、売店なの、どストレート過ぎない、」

純、逡巡するも

「何か、見ない間に出来てるよね、いつの間にだろ、」

室井、察しては

「ちゃんと南部様の了承も頂いていますよ、そして戦中のレジスタンス同輩がいますからね、設営は見事にも叱咤激励であれよです、そして聞かれたい事ですが、ここだけの話、これも巡回の一環です、関係各位から、見慣れぬ大型漁船が接岸してる話を聞きましたからね、のっぴきならないという事です、」

嘉織、憮然と

「それ海賊の偽装船でしょう、ままある話じゃないのかな、何か取られたの、」

室井、凛と

「海賊の決定的な確証は追ってですが、この八戸区の何件かの軒先に上がったそうです、日本語は堪能なものの、骨格は東南アジア系、支払いはニュードル紙幣だったそうです、如何にもですよね、」

嘉織、ただうんざりと

「そういう律儀さは、しでかす前の海賊そのものか、」

室井、くすりと

「嘉織さんの聡明は、昔よりお変わりありませんね、」

嘉織、はきと

「室井先生、海賊って、やるときはがっつり行くからさ、まあ、だからこその巡回か、やはり警戒して正解、でも、太平洋なのに、目的は何だ、」

室井、はたと立ち止まり、真摯に

「レジスタンス同輩の中の見解では、今はただの食料調達みたいです、嘉織さんは、そう意気込みなさらないで下さい、」

嘉織、立ち止まったまま、伺っては

「室井先生のその余裕、長期戦か、」

室井、はきと

「ええ、戦中のロシアに備えてのカモフラージュ砲台は怠り無くコーティング整備していますし、砲弾も適時に平和島から取寄せて十分です、焦らず行きましょう、」

嘉織、思わず噴き出すも

「さすが戦勝国、」

室井、頬笑んでは

「勿論、撤去する所以は何処にも有りませんよ、」

純、蕪島売店のときめかせるような看板を眺めては、口も半開きに

「嘉織ちゃん、焼きそば、イカ焼き、焼き鳥、今川焼、南部せんべい、あとシェイクにアップルジュース、凄いよ蕪島売店、どれから行こうか、」

嘉織、思わずこみ上げ

「室井先生、プレハブでしょう、力入れ過ぎだよ、このまま春になって、忙しくなったらどうするの、きっと並んじゃうよ、」

室井、宥める様に

「まあまあ、レジスタンス同輩も、食料では苦労しましたからね、感慨もひとしおなんですよ、ここは、さあ、店内にへどうぞ、」またも手招き



蕪島売店内は、出店がきっちり仕切られ意気揚揚に、テーブル席と座卓席も完備され、座卓席のそこには仲睦まじいままの三人の姿

勢いのまま注文した嘉織と純、蕪島売店のテーブルの大皿にはただ焼き鳥の串の山


純、絣の赤い帯をぱちんと

「食べたよね、思いっきり、ファミリーマートcoの買い食いはグミだけで正解だったね、」

嘉織、ただ満足げに

「ふう、何より鶏の調達ファームがある事に恐れ入るよ、基本の串を押さえつつ、かしらもいいけど、ねぎまの甘味がタレとマッチして、実にご馳走さまでした、」深く一礼

室井、ゆっくり手を拭いては、嬉々と

「このタレに関してですが、青森県ならば塩でしょうが、、岩手県からの出入りが多いのでタレになりました、お口に合えば幸いです、」

嘉織、口を紙ナプキンで拭いては

「まあね、岩手県民の味覚は幅広いから、塩のシンプルさは素っ気ないだろうからね、って、凄い商売上手じゃない、室井先生、」

室井、やっと閑散とした店内を改めて見回し

「本来のお役目から、やや逸れていますが、そこはお客さんからお話も聞けますので良しとしましょう、」

嘉織、改めて見回しては

「室井先生も、とことん抜け目無いね、」

室井、訥に

「階上家にお教えした通り、情報戦で十割確定です、もっとも階上家の真価があればこそのそれですがね、」

嘉織、吐息混じりに

「まあ、薫陶はしっかり頂いたけど、その室井先生に働かせるもの気が引けるな、」

純、嬉々と

「純ちゃん、室井先生を恩給者扱いしちゃ駄目だよ、まだ現役だよ、」

嘉織、ただ遠い目で

「はあ、そうだよね、シミュレーションボードゲームで勝った試しないや、」

室井はきと

「生涯現役、非常にありがたいことですが、この日本国の現状なら止む無き事です、」淡々と手元の鞄を探っては「その嘉織さんに会ったついでなのですが、これは如何なものでしょうかね、」手にした招待状の封書を差し出す

嘉織、わくわくしては

「誰かの結婚式の招待状か、今時律儀だね、私の書簡箱に無いけど、サプライズで飛び込んじゃおうかな、」ただ手が止まる「えっつ、」

室井、溜息の限り

「そうです、嘉織さんが相当痛い目をみさせられた、新ユーゴスラビア公共自由共和国建国8周年の式典の招待状です、まあ、来年の三月一日当日までに返事をくれればよろしいみたいです、」

嘉織、強ばるも

「ザイラス・ペトロビッチ委員長に、上杉息吹外務役員のサイン、まあ、本物か、でも何故、室井先生に、」

室井、はきと

「嘉織さん、実質彼の国はリベラル見本国です、クラシックなピケティの言い分そのままに、高級教育の徹底、累進課税の適正化に、財産権共有化、そしてパルチザンにもベーシックインカムを適用しては、それに肖ろうと最貧国が合流しています、建国の際の硝煙も漸く消えては、世界貢献の一国に成り上がりました、」ただこくりと「そう、この老いぼれにも声が掛かったのは、高級教育の為には教師は多いに越した事が無い旨と、日本史に造詣の深い私に是非手助けをとのお誘いの言葉です、この私宛とは何処をどうの耳聡いものですね、まあ、あのカリスマ委員長自ら誘われたら、うっかり一度は行って見ようかの気も起きるでしょう、」

嘉織、逡巡しては

「とは言え、共産主義が旧中華でやっと立ち消えたのに、実質、新社会主義の台頭、いや席巻になりかねないな、現に周辺国は火種のままでしょう、ローマ参画政府の慎重な方針は争奪がなければこそだけど、PKFに参加した私が、いや、その面子がさ、新ユーゴを許せる筈も無いよ、その式典、どうしても、駄目な予感がする、」

純、思いを巡らしては

「そうかな、最初の争奪地域の紛争こそあれ、ちゃんと宥和してるでしょう、嘉織ちゃん引き摺り過ぎだよ、」

嘉織、ただ深い溜め息

「純はか、引き摺るも何も、私達を助ける為に追撃戦で犠牲になった国連兵がいたんだよ、ここ、手打ちには到底出来ないね、」

室井、はきと

「建国の苦しみは、過去世界中で何れもあります、新ユーゴの彼等がどのような考えであるか、式典位には行ってみたいものですね、」

嘉織、凛と

「室井先生、行っちゃ駄目だよ、ペトロビッチに懐柔されちゃうよ、あいつさ、光準教皇丸め込んでとローマで止む得ず会見しては、私も警護に入ったけど、私に頬笑みやがった、やっぱりと思ったよ、建国のザグレブ追撃戦を指揮していたのは、間違いなくペトロビッチだよ、敵と認識したら、とことんやる筈だよ、」

純、嬉々と

「そうかな、上杉息吹さん、普通に憧れの女性だよ、きちんとご先祖の上杉鷹山ばりに上州県を立て直した元知事さんだし、きっちりキャリア詰んでの、新ユーゴじゃない、」

室井、ただ溜息

「そうですね、上杉息吹外務役員の懐柔あればこその新ユーゴの立国ですね、手強過ぎますかな、ここはやはり、訪問しては、純ちゃんへのお話のお土産にしたいですね、」

嘉織、ただ歯がゆく

「純さ、上杉の人使いの荒さときたら、ああ、こっちの家筋も守秘義務多くて言えない、」

嘉織、膨れっ面も

「言えないなら良いよ、でもね、良い、ここは大切だよ、留学先ランキングでは、断トツ1位のローマの次は、新ユーゴなんだよ、しかも講師はかなり充実してるし、物価も安定しているしね、凄く夢が有るよね、」

室井、不意に

「その新ユーゴですが、鉄道の連結がまだまだで、乗り継ぎのライトレールがぎゅうぎゅうだそうです、乗りたいですか、純ちゃん、文字通り骨が折れますよ、」

純、ただ唸っては

「うむー、そこは、そうだ、嘉織ちゃんが新ユーゴに派遣されれば、送り迎え出来るよね、ここは室井先生の列席報告書次第だよ、参加しましょう、うん、」

室井、くすりと

「それこそ、式典に参加しなければなりませんね、」

嘉織、はきと

「だから、純はね、何と言うか、現時点での、新ユーゴへのローマ派遣と駐在は無いんだって、紛争が無い前提だから、行く理由は無いの、」

純、悪びれもせず

「でもね、上家衆が立ち入れば、とんでもない方向にどうにかなっちゃうんでしょう、」

嘉織、がっちり頭を抱え 

「うっつ、そこは何も言えない、事例がどうにもこうにも、もう、」不意に視線の先の壁を見つめると、ただ首を傾げては「ねえ室井先生、この写真って、何時のかな、こんな酷い高潮あったかな、」

純、壁の写真を見つめては

「高潮って、台風ね、最近は沖縄回復県擦る位で、本土上陸は滅多にないよね、」

室井、ただ写真を見つめては

「この写真パネルですが、その昔、津波が有りましてね、ご存知ですかな、2011年の東日本大震災関連のそれになります、そうですね、ネガが残っているお屋敷が有りましたので、承諾を得てプリントしてみました、実に貴重です、あの時代の写真は殆どがデジカメ等のデータですからね、」

純、こくりと

「室井先生の提唱しているデジタル・アナログ移行プリント運動ですよね、でも進捗が宜しくないとか聞いてるよ、」

室井、ただ困り果て

「そうですね、デジカメ等の内蔵電池は減耗、そして端子が錆びててままりません、勿論分解覚悟でメモリ領域とメモリカード取り出したものの見事腐食していました、今現在、デジカメ写真は残らず消失と考えて宜しいでしょう、」

純、神妙に

「蚕栽さんでも難しい事あるのかな、蜘蛛の巣掛かったパソコンの部品寄せ集めては、自作PC作って、寺子屋に置いてくれてるのにね、」

嘉織、くすりと

「あれな、付属ゲームでしか遊べないなんて、階上幸或旅館のアーケードゲームの方が遥かに面白いよ、」

室井、くすりと

「純ちゃんも動機は同じですが、寺子屋の古書を必死に読み漁ってはMacOS、Windows、LinuXをマルチインストールして、パラレルインターネットを適度に楽しんでいますよ、」

嘉織、あんぐりと

「OSもパラレルインターネットって、純はスポンジかよ、どんどん、知識がたまる一方でしょう、」

純、はきと

「でもね、昔のハードディスクに負担掛けられないから、自制しないとね、そう、蚕栽さんは、引退もせずに八戸町の和菓子店も開いてるから、度々筐体開けて見て貰えないよ、」

嘉織、溜息混じりに

「どうしても、ハード面のメンテか、ふっつ、シャチホコバレーの頑固爺新村を思いだすよ、LSI作れないから、トランジスタでモノクロパソコン作ったんだよ、その大きさたるや、トレーラー五基って、そりゃあ、セーフハウスのSOHOでいざ使用したら、区内一帯謎のブラックアウトで、西日本電力からも相談されるって、」

室井、神妙に

「シャチホコバレーの新村さんとは、あの名士ですね、さて、統一朝鮮の財閥から関税2000%掛かってでも、LSIを個人輸入出来る筈なのに、何故迂回するのでしょうね、」

嘉織、ぴしゃりと

「さあね、あの爺の一派は使えるから、お目こぼししてやる、正し如何なる協力有りきでだよ、」

純、興味深気に

「嘉織ちゃんは、渋いお話するね、トランジスタのモノクロパソコンか、見て見たいものだね、」

嘉織、くしゃりと

「何かな、見事な程の時代逆行か、まあいいや、そのパソコンも日本国にはほぼ存在しないんだし、アナログ大いに結構じゃないの、過去のインターネットにまではみ出した捜査活動なんて、今やられたらとても追いつかないよ、今のままで大正解、」

室井、肩を落としながら

「そうですよね、まさか、ここまで時代が逆行するとは思いませんでしたよ、YouTubeに齧りついていた子供の頃が懐かしいですよ、」

嘉織、くすと

「先生、昼間からまぐわいの隠語は無いよ、ここは聞かなかった事に、」ただ指でカットする仕草

純、嘉織をただ肘で小突き

「もう、嘉織ちゃん、YouTubeはパソコンで動画見れるサイトの事、言葉そのままの意味じゃないからね、」

嘉織、興味も逸し

「何だ、パソコンで動画って、そんなの面白いのかね、」不意に視線を伸ばした先には「それより、何かさ、この写真凄い迫力だね、」

室井、取り直し

「そう、続けましょう、東日本大震災ですね、前町名の階上町も被災地区なんですよ、」

純、ただ万感の思い

「そう、教わった東日本大震災、沢山の人が死んだのですよね、」

室井、噛み締める様に

「ええ、死者行方不明者が1万8千人余りに及び、広範囲に及ぶ震災被害も甚大でした、八戸地域はかながら犠牲が少なかったのですが、実は、蕪島のこの辺りも津波に揉まれたのですよ、」

嘉織、ぽつりと

「1万8千人だったよね、瞬時に、間も無くか、それは災害、いや津波なんだろうな、そんなに死ぬものかな、」

室井、思いを馳せては

「私は生まれたばかりで、その震災の光景は見ていませんが、地獄絵図と聞きましたよ、子供だからと言って、その光景は視聴規制すべきだったのでしょうかね、」

嘉織、思いを巡らせては

「地獄絵図ね、第三次世界大戦の原爆の話しかしないから、よく分からないや、」

純、只管こまっては

「すいません、室井先生、嘉織ちゃん、先生の随筆読んでなくて、」向き直っては「嘉織ちゃん、もう、室井先生と面と向かってお話するんだから、ちゃんと読んでよ、」ただ嘉織を叩く

室井、押し止めては

「純ちゃん、嘉織さんも、いやいや無理も有りません、2020年からの第三次世界大戦の方が今も鮮明ですからね、近代史もその復興に準じたものしか教科書検定に合格出来ませんしね、」

嘉織、ぽんと

「そう、津波って海なんでしょう、泳げれば何とかなるんじゃないの、」

室井、ただ首を横に振り

「嘉織さん、なりませんね、正に水の壁と途方も無いうねりです、津波に入ったら出られないのですよ、」

嘉織、ただ視線も遠く

「そういうものかな、離岸流とかのそれかな、」

室井、切に

「現象としてはそれに近く、引き波と呼ばれます、波に揉まれ、運良く生き残った人もいましたが、それも第三次世界大戦勃発で、ただ現在は記録が希少になりましたからね、縋る術も有りません、」

嘉織、前のめりにも

「そう、いたよ、要救助者、がきんちょ達、水泳禁止区域でごっそり波にさらわれて、朝迄海岸捜索したあれ、でもそれは探査船ちきゅう号の研究ブイに捕まって助かったよ、そういう事じゃないの、」

室井、十字をゆっくり切り

「助かったのは、何れも御心なのでしょうね、そうです、海水に浮かんだ破砕された破片にしがみついては、冷たい海を只管堪えたそうです、私としてはお勧め出来ない避難方法です、とにかく高台に逃げるべきなのですよ、ここは現存する古文書にも残っています、」

嘉織、不躾も

「高台一直線ね、覚えたよ、でも、どうせ当分津波来ないんでしょう、それより第三次世界大戦の復興だよ、普通に三食食えないと、平和になったと言えないよ、」

純、諭す様に

「嘉織ちゃん、福島の手付かず大森林はまだあれだよ、それで電車も車も足止めでしょう、震災の復興も出来ていないのに、大戦の復興なんて、東北は本当荒れないよね、」

室井、はきと

「振り返れば苦い歴史ばかりですね、聞くも語るも苦痛に他なりません、それ乗り越え今日に至るのですが、実に東北人は我慢強いものです、この写真からの東日本大震災の三八上北の復興なんて、文献を見る限り、当時の日本政府の対応としては現地で何とかしなさいの処置でしたからね、まあこれは岩手県仙台県福島国有県の被害が甚大だから止む得ないが議員さんの声でしょうが、そこで躓きましたね、可能な限りの配慮を残さず投入し、事態を直ちに収束する事案にすべきだったのです、これはその後単発的続いた災害に、復興ままならず力尽きた事で証明されています、」

嘉織、しかめっ面も

「根は深いね、でもさ、この有様の日本国だよ、戦争前からしょうもないのかよ、」

室井、繁々と

「仕方が無いのですよ、偉くなる程、物事に順序が生じます、」

嘉織、がくりと

「どうしても順序か、そう、現在の復興省の復興予算の在り方も、戦中の官報が現在非公開になってるから知る由もないけどさ、戦争してたならお金はあったんでしょう、絶対何処かにまだ眠ってる筈だって、」

室井、諭す様に

「まあ、詰まる所は全米パナマ自治区でしょうが、そこは不文律です、嘉織さん、何れ全米大陸に派遣されるかもしれませんが、そこは決して無茶しないようにお願いしますね、」

嘉織、不意に固まっては

「無茶も何も、あの大きな全米大陸への上家衆派遣は堂上米上だけだしね、ただ、嫌でも慎重にしないとか、ともかくさ、今は東北がやっとこさ健在なだけでも良しとしようかな、」

室井、ゆっくり頷き

「それが一番良いでしょう、各国が本気で連携取らないと、いずれの地下資金になり、回収不可能ですからね、」

嘉織、ただ背伸びし

「だろうね、そんなところだろね、もし堂上に合ったら、全米パナマ自治区の件叩き込んでおく、」もどかしくも「それで室井先生、津波って、そんなに怖いの、泳ぎが駄目なら、走って逃げれば済むんでしょう、楽勝だよね、」

純、ただ目を見張り

「嘉織ちゃん、もう、そうじゃないよ、この飛沫見てよ、とんでもない高さだよ、室井先生、恐れを知らずすいません、」嘉織を促しながらこまる

室井、ただ写真に思いを馳せ

「それは止む無き事でしょう、いざ逃げるにしても、津波が来る告知有りきですからね そう、嘉織さん、仮にどうでしょう、気が付いたら目の前に20メートルの津波の壁が有ったらどうされます、」

嘉織、ぶるっては

「いやー、それはどう足掻いても無理、いきなり目の前は、さすがに死んじゃうのかな、」

室井、尚も

「ええ死にますね 大昔の様に、個人で情報端末持っていませんからね、足掻く事も出来ません、懺悔する間も無く吞み込まれます、」

嘉織、切に

「でもね、室井先生、そこは警報とかあるから、協力して避難出来ると思うよ、」

室井、凛と

「3月11日、年に一回になった避難訓練で、どう対処されますか、警報有りきに全力で逃げる特訓しませんと、本当に死にますよ、」

嘉織、ぽつりと

「えっつ、3月11日、その日が東日本大震災とかなの、地震の後の警報ままあるじゃない、何かよく分からないや、」

純、嘉織の腕を引いては

「もう、だからね嘉織ちゃん、室井先生、嘉織ちゃんがすいません、」

室井、はきと

「いやいや、純ちゃん、無理も無いです、もう76年が経過しましたからね、警報の放送も慣れたものになりました、」

嘉織、ふと

「いやいや、室井先生、こんな聖書の世界みたいな世も末、当分無いでしょう、無いよね、でもね、このパネル、昨日今日みたいだしな、ああ、どうなのかな、」

室井、はたと止まり

「聖書の世界ですか、ノアの方舟になりますね、そう、皆が笑って相手にもしない、救済の方舟をせせら笑うような、そういう先々が来ない事を祈りましょう、」丹念に十字を切る

純、十字を切ってははたと

「室井先生、私に何か出来ないかな、」

嘉織、十字を切り終えると捲し立てては

「純はね、何にでも出しゃばらないの、まずは自分の体だって、ご自愛下さいだよ、良いよね、」

室井、凛と

「純ちゃん、歴史の教科書の様に仕舞われるのではなく、過去の大災を忘れない事が何よりです、そして、何れ来る時は助け合いましょう、」

嘉織、前のめりにも

「室井先生、まさかだけど、来るの、大洪水、」

室井、くしゃりと

「そこは自然科学の学者さんでは有りませんので分かりませんね、この東日本大震災、いや、その前のスマトラ島沖地震まで含めると、ただ、私には大いなる警鐘に思えて仕方有りません、尊い生命がこれ程も奪われると言う事は、大いなる啓示に他なりません、ですが、そこに至る迄の説話で、何れ襲来する大洪水にどうにも直結出来ないのが、私の不徳の限りです、」

純、ぽつりと

「それって、どうしても神託とかなのかな、」

室井、はきと

「良いですか、あがなう事が出来ない事は、人生に何度か有ります、それでも心を澄ませば、きっと見える筈です、そうですね、私の役割は些細ですが一人でも二人でも多くの人に伝える事です、如何です、老人の話は退屈でしたね、」

嘉織、大きく息を吐き

「いやいや、何か腑に落ちたよ、何だろう、このパネルの荒ぶりなのかな、とても勝てやしないけど、室井先生の言う通り、きっと啓示はある、見逃さない様にしないと、」丹念に十字を切る

純、敬虔にも十字を切っては

「正しく福音ですね、」至って健やかに「室井先生、長く捕まえちゃったね、お家迄送りますね、」

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