第18話 2087年12月19日 青森県青森市八戸区階上村 ファミリーマートco階上村旗艦店 不遜
嘉織と純、赤星をオールフェリー港迄無事に送り、帰りがけのファミリーマートco階上村旗艦店内を丹念にぐるりと、かごに次々お菓子を入れて行く
嘉織、箸木オートの作業キャップのつばを上げ、ただ店内を見渡し
「相変わらず、客少ないな、」
純、お菓子を万遍なく選んでは、嘉織のかごの中へ
「そこは、相変わらず漁師さんが夜明け前に殺到しちゃうからだよ、主な購買層はそこだよ、」
嘉織、眼光鋭く棚の向こう長身の男へ視線そのままに
「それにしてもさ、やや昼下がりの捌ける時に、ほぼ私達だからね、よく商売続けられるものだよ、」
純、冷たい眼差しで
「そんな事言ってると、オーナーさん、気落ちして廃業しちゃうよ、」
嘉織、憮然と
「だってさ、閑散のこれだよ、コンビニって楽しいところなんでしょう、昔はコンビニってたくさんあったんだろ、それを本当、ファミリーマートco以外何処に消えたんだ、」
純、とくとくと
「それ歴史の教科書にあったでしょう、何れの日本国企業は戦中で内部留保残らず奪われて、戦後は戦後で残った意匠まで残らず中国に買い叩かれちゃったの教わったよね、」
嘉織、思いを巡らしては
「中華ね、トランジットだけで、内地に行った事無いけど、日本の懐かしコンビニあるのかな、よく分からないや、」
純、尚も
「中華の領土引き継いだ麦秋は、依然と世界一の人口だし、ほぼ鎖国で成立するもんね、ひょっとしたらあるのかも、」
嘉織、只管うんざりと
「切り出して何だけど、何か渋い話だね、そうだよ、とにかく田舎は良いよ、本当、こんな有様のコンビニでも、あって救われるよ、全く、配給制度の都心って何なんだよ、急作りの出店にときめき感じるなんて、太平洋戦争後の日本より酷いだろ、今も尚か、延々か、」
純、嘆息しては
「嘉織ちゃん、全部渋いお話だよ、」
嘉織、確と純を見つめ
「ねえ純、純は興味本位で都心来なくていいからね、絶対だよ、」
純、ただ頭をもたげ
「でもね、それもどうなのかな、階上村でも、こんなに品物豊富なんて不思議だよ、本当に都心は配給制度なのかなって、それなら、ファミリーマートcoって凄いよね、」
嘉織、くすりと
「まあ、そうだよね、阪南の伊藤忠アナライズ本社に行ったら、もっと階上村に便宜計ってくれって言っておくよ、」
純、嬉々と
「うんうん、ここのファミリーマートcoに公衆電話置いてくれるかな、階上幸或旅館からの呼び出し電話も頻繁だしね、」
嘉織、逡巡するも
「それ八戸区役所の管轄だろうけど、まあ権田の手腕じゃままならいか、伊藤忠アナライズ本社には要望を出しておくよ、」不意にかごを見やり「買い出しは、これでいいかな、」
純、こくりと
「大丈夫、旅館も離れの茶菓子も充分だよ、」
嘉織、
「了解、って、本当至れり尽くせりだな、外出時の買い出しも、結構大変厄介だね、」
純、頬笑みながら
「大丈夫、昔の様につかみ取りはしてないから、」
嘉織、鼻息も荒く
「全く、あいつら、手だけは大きいからな、」
進んだカウンターには、いつもの店員糸村と見知らぬ壮年の男
嘉織、カウンターに満杯のかごを置いては
「はい、結構買ったよ、サンキューノベルティとか無いの、」
純、訥に
「それ、月初に終ったよ、」
糸村、壮年の男がバーコードを読み終えた商品をレジ袋に入れながら
「嘉織さん、本当、無茶言いますよね、」
嘉織、切に
「なあ、ヘアミストのそれとかないの、都心帰るとぱっさぱっさだよ、」
糸村、困り顔で
「ヘアミストの取扱いは流石に、品揃えはムースが限界ですって、」
嘉織、ただ目を細め
「ムースって、一週間は余裕で風呂に入れないのにべたつくだろ、」
糸村、不意に一歩下がるも
「それ、何回も聞いてますよ、」嘉織を凝視しては
嘉織、目を剥いては
「待てよ、何を見てるんだよ、実家に帰ったら毎日温泉に入ってるって、」
糸村、ただ切り上げようと
「ああもう、分かりました、もう結構ですから、ヘアミストはくれぐれもバイヤーさんに要望は出しておきます、」
嘉織、意気揚揚に
「階上村離れる迄に宜しくな、」
見知らぬ壮年の店員臼杵、かごの商品を全て読み終えては、ただ端末モニターと睨めっこし
「あのー、キャップ被ってますけど、そのお顔、階上嘉織さんですよね、身分証明書見せて頂きますか、」
嘉織、ただ訝し気にも、胸元のチェーンに手を当て
「ああ、いいけどさ、誰、あんた、」
臼杵、憤慨するも
「あんたって、不躾だな、いやここは、新規で入店しましたの店長の臼杵です、何卒お見知り置きをお願いします、」
糸村、取り繕う様に
「嘉織さん、ここはぐっとですから、ほら、ここ、本気の時はやたら物騒だから、皆久慈に行っちゃって、嘉織さん、頼みますって、良いですね、」
嘉織、ぶっちゃけては
「それで、得物は何、顔がいかついから、ナイフだよね、投げる方、切る方、それとも抉る方、」
臼杵、すっかり嘉織をいかれ者扱いで
「糸村君、階上さん、何言ってるのかな、」
糸村、ただ目を剥き
「嘉織さん、店長は普通の人、」向き直っては「店長、オーナー多分何も言ってない様なので、おいおいお話します、ここはさくっと行きましょう、」
嘉織、事も無げに
「まあ、いいや、死んでも類が及ばないから、採用か、あざといよねオーナー、」
純、ただ嘉織の腕を引き
「嘉織ちゃん、」
臼杵、ただ首を傾げ
「皆上さん、何を仰ってるんですか、」
糸村、崩れ落ちるも立て直し
「あっと、店長、それはオーナーのシフトきついから、きっとそれですよ、はは、」ただ引き攣り
臼杵、淡々と
「ああ、それくらい、6時間眠れれば問題ないから、」
嘉織、尚も
「まあ、墓の下なら、ずっとなんだけどね、」
純と糸村共に
「嘉織ちゃん、嘉織さん、」
臼杵、首を傾げながら
「よく分からないですけど、身分証明書の呈示、お願いしますね、」
嘉織、首を傾げては
「何か、アルコール類あったかな、」
糸村、はきと
「店長良いですか、嘉織さんと純ちゃんは、大括りに言うと名士のとこの娘さんですよ、憚るから言えませんけど、今はそういうことで、この場は進めて下さい、」
臼杵、ぽつりと
「糸村君、だからどうしたの、これは職務だよ、三項目確認しないと、」
糸村、ただ悩まし気に
「どっちにしても面倒かな、いいや、嘉織さん、いや、その、言い難いな、要注意人物でして、ディスプレイのアラート消えないんですよ、」斜め上の店内カメラを指差す
純、ふわりと
「それ電源入れ直したら、どうかな、」
糸村、ただ首を横に振り
「純ちゃん、この店、非常電源三ヶ所から取ってるから、逃れられないのですよ、」
嘉織、凛と
「おかしいな、ファミリーマートco顔パスなんだけどな、どうした、本社の伊藤忠アナライズ、」
糸村、切に
「嘉織さんに関わらず、ここのところ、抜き打ちの身分証明書確認多いんですよ、本社が是非にと、これはアジア全店で漏れ無く実地です、皆渋々出してくれますけどね、」
嘉織、こくりと
「まあ治安が整ってる事は良いことだ、ハイ、階上嘉織だよ、」首から下げたローマのコーティングされたプレートを、伸ばしたチェーンのままに差し出す
臼杵、ただ首を傾げながら
「これ英語かな、階上さんは日本人ですよね、」訝しみながら、プレートのバーコードを通すと、プレート内の銀線が瞬く
糸村、はきと
「店長、これはイタリア語です、そのプレートの実筆のサインは後でお話しします、」
臼杵、ついしかめっ面で
「何か、糸村君、説明多いね、」慇懃にもプレートを返しては「階上様ありがとうございます、」
嘉織、プレートを胸元に仕舞っては、凛と
「さあ、新人か何様か知らないけど、詳しくは、そっちのレジ見て見なよ、」
臼杵、ディスプレイの項目を上から眺めると
「あれ所属先・犯罪歴・身元引受人のアラート消えましたね、ご申告通り、階上嘉織様ありがとうございます、」一礼しては再びディスプレイに「所属はヴァチカンですか、えっつ、このローマ参画政府なら、あのヴァチカンなのか、いや、取り乱しました、お役目ご苦労様です、それで、融資額、何だこの項目、一十百千万十万百万千万億十億の、60億新円、ひーーー、」ただ引き攣る
糸村、ただ目を覆い
「店長、それ言っちゃ駄目、駄目です、」
臼杵、目を見開いたまま
「あなたは、一体何者なんだ、」
純、全く意に介さず
「あれ、6000億新円じゃないの、」
嘉織、くしゃりと
「ああ最悪だよ楠上、あいつの無茶で軒並み皆大減額だよ、組み替えしてもそれか、腹立つ、ちくしょー、」
純、嬉々と
「でもね、楠上さん、この前、有給取ってナイジェリアから態々来てくれたよ、あっつ、言っちゃった、」ただ自分の頭をがしっと挟み
嘉織、歯噛みしながら
「楠上、よくも、私の実家に顔出せるな、」
純、悪びれもせず
「へへ、料理に舌鼓だったよ、」
臼杵、漸く気を取り直しては
「あのー階上様、お支払いは融資からでしょうか、」ただ声が震えるままに
嘉織、飄々と
「いや、緊急じゃないし、ましてや貴重なオフだし、経費で落ちないから、デポジットからでいいよ、」
臼杵、ただこくりとレジをタッチしては
「そうですよねー、」出力されたレシートを嘉織へ渡す
不意に咳払いが背後上方より
じれったくも背後の男、左隣りに回り込み、そのままかごをカウンターのはじにどんと置き
「あの、すいません、階上さんと呼ばれてますけど、それで良いですよね、階上さん、いつまで茶番続くんですか、レジ空けて貰えません、」
嘉織、不遜にも
「お前さ、本当誰なんだよ、」
純、本能にも咄嗟に嘉織の右腕にしがみつき
「嘉織ちゃん、誰って、コンビニで喧嘩しないで、」
背後の男、居丈高にも
「ふーん、気味が悪いですか、」
嘉織、一切動じず
「まあな、金属のにおいするぞ、四六時中、何してるんだよ、おい、」
臼杵、慇懃にも店長らしく
「あっと、階上さん、この方、新聞の芸術欄にも載る気鋭のアーティストの徹夜工事さんですから、店内での喧嘩は止めて下さい、こんな田舎に態々定住してくれなんて、本当有り難いのですよ、」カウンターのはじに置かれたかごを、ただ手繰り寄せては
徹夜工事、ただうんざりと
「あなたも、私の事知ってるなら、さっさと仲裁して下さいよ、」
臼杵、ただこまっては
「徹夜工事さん、申し訳有りません、」
糸村、ただ目配せしては
「嘉織さん、ここまでにしましょう、ね、良いですよね、」
嘉織、尚も
「だから、徹夜工事、その不遜はどこから来る、」
徹夜工事、うんざり顔も
「階上さん、不躾でしたね、ご立腹も無理が無いですけど、私がそんな無理を言いましたか、現にレジの前から動かないで邪魔ですよ、」
嘉織、純を構わず右腕のままに自身の背後に回り込ませては、はきと
「でかいの、何で警戒しない、この間合いなら、体術か、」
徹夜工事、両手を広げ大仰に
「この建端で、そんなしなやかに見えますか、」
嘉織、徐に右手を翳すと、リングが仄かに灯る
「さあな、」
嘉織の溜息と共にリングがぶんと唸り、店内の天井のみの蛍光灯全部が一気に吹き飛び、金属粒がはらはらと店内に舞う
臼杵、ただ目を剥いては絶叫
「ぎゃー、何だ、何が起った、何がショートした、」
純、ふわりと
「店長、嘉織ちゃんがごめんさないだね、」
臼杵、ただ汗がどっと滴り
「まさか、これを、」
糸村、漫然と
「またか、店長の募集なんて、求人票出せないよ、」
嘉織、尚も右手を翳したまま
「どうした、でかいの、尚も居直るか、次の手数で吹き飛ばしたら、蛍光灯の破片の全身裂傷で1ヶ月は碌に眠れないぞ、」
徹夜工事、不意に一歩下がり
「よくも言う、そんなヘマしませんよ、」
嘉織、はきと
「いいか、この辺の医師は全部私の馴染みだよ、なあ、いっそ悶え死ぬか、」
徹夜工事、きりと
「止めておきましょう、こっちは昼食買ったら、帰りますよ、」臼杵に目配せしては「すいません、会計お願いします、」
臼杵、もはや泣き顔も
「階上さーん、」かごの商品を手早くもバーコードを通して行く
糸村、連れて泣き顔で
「俺も泣きたいですって、店長、とにかく清掃の為に、お客さんに出て貰わないと、」
徹夜工事、凛と
「階上さん、もう、気が済みましたよね、帰りますよ、」
嘉織、右手をぱたりと降ろし
「良いだろう、何れな、私は強いからな、」
徹夜工事、レジ袋を受け取ろうと
「承りましょう、」
徹夜工事、振り幅の短い左からカポエイラの回転ハイキックが宙を切ると、嘉織の作業キャップがはらりと吹き飛ぶも、透かさず純がキャッチ
嘉織、右手もそのままに見切ったまま
「何故、手の内を見せた、」
徹夜工事、余裕もそこそこに、財布から新円札を取り出しカウンターはじに置く
「次の対戦は、大事になりますからね、私との手合いはもうないでしょう、」
嘉織、純から作業キャプを受け取り、被り直す
「良い度胸だよ、楽しみにしておくよ、」
糸村、ただ呆然とする臼杵の手からお釣りを奪い取っては、徹夜工事に差し出す
「二千新円お預かりしました、とにかくお釣りです、徹夜工事さん、懲りずにまた来て下さいね、」
徹夜工事、お釣りを確と受け取り、無造作に硬貨とレシートをポケットに放り込んでは
「階上さん、立ち話から聞いた限り、確かフルネームは階上嘉織さんでしたね、楽しみにしてて下さい、」カウンターから無造作にコンビニ袋を取っては、蛍光灯の破片を全く意に介さず踏みながら、入口へと
嘉織、歯噛みしては
「ふん、あいつ、まるで勝った雰囲気じゃない、憎たらしいな、次どうするか、」
臼杵、堪らず口の端から泡が溢れながら
「あわわ、わっつ、」嘉織を見たまま壁に張り付く
糸村、不意に床に零れ落ちる小水を見ながら
「まあ、そうですよね、こんな間近なら皆失禁しますもの、死を恐れるのが正常ですよ、」ただ深い溜息
純、不意に視線逸らし、ハンカチでダッフルコートに付いた蛍光灯の金属粒を払いながら
「嘉織ちゃん、ファミリーマートco階上村旗艦店、弁償、弁償だよ、」
嘉織、臼杵の憔悴しきった顔を見定めては、そのままアーミーコートに付いた蛍光灯の金属粒を払い
「やっぱり一般人か、オーナーもさ、せめてでんとした人間雇えよ、」内ポケットからチェックの束を切り取り「はい、慣れた糸村、このチェックで必要額書いてみちのくりんご銀行に出しておいて、必要確認書の明細と経緯は喧嘩のそれにしといて、」
糸村、もはや泣き顔も
「嘉織さん、弁償より、ああ、掃除が、やっぱり、俺がやった方が早いか、」
純、不意に
「どうしよう、糸村さん、手伝わないとかな、」
嘉織、ただお手上げで
「駄目駄目、純は怪我しちゃうから、糸村はびびってる店長と店閉めて掃除だな、そう、店内じゃ食えないから外のベンチにいるから、じゃあな、」コンビニ袋をごっそり持っては、純の腕を引き入口へと
糸村、嗚咽寸前に
「嘉織さーん、」ただ号泣
外のベンチにて佇む嘉織と純
口を開けたまま、着の身着のまま店を後にする臼杵店長に、どこまでも視線で追う
純、様子を見送っては
「掃除終ったのかな、早いね、」
嘉織、ただ呆れ顔のまま
「いいや、これ、また辞めちゃった方だよ、つうか、ズボンの替えも無いのかよ、そのまま漏らしたまま帰るなんて、」
純、ふと
「これなら、糸村さんも、掛け持ち止めて店長になれば良いのにね、」
嘉織、粛々と
「糸村は魚肉加工所の次男、そっちもそこそこ仕切らないとな、しかし店長のくせに責任感無いね、せめて掃除をして逃げるのが、最期の礼儀だろ、」
純、毅然と
「仕方無いよ、いざ目の前で、嘉織ちゃんの念動力見たら、一般の方は怖くなっちゃうよ、」
嘉織、不意に店のウインドウにもたれては
「全く、戦後世代は脱力しっぱなしだな、」
純、周りを伺いながら
「嘉織ちゃん、これ、うっかり警察来たら、調書取られるよ、どうしよう、」
嘉織、がばと向き直り
「純、気にしなくていいよ、糸村が掃除終えたら、調書なんて書き様が無い、そういう事、警察の民事不介入は今もだって、」
純、憮然とするも
「全く、冬空で食べるなんて、はい、」レジ袋からパンとホット缶を渡す
嘉織、不思議顔で
「これさ、ラシーンマークツーで食べようよ、」
純、ゆっくり首を横に振り
「駄目だよ、張り紙も書き様が無いから、糸村さん、ただ自動ドア閉めたままだよ、そう、うっかりお客さん来たら、丁重にお断りする事も出来ないよ、ちょっと立ち会って、せめて合わせに行かないとね、」
嘉織、ウインドウ越しに店内伺うも
「ちっつ、糸村、」空いたベンチにそのままパンとホット缶を置く
純、凛と
「とにかく、掃除終る迄見届けないとね、」
堪らず店内から飛び出して来る糸村、ただ身悶え
「嘉織さん、純ちゃん、復旧無理、掃除は辛うじてですけど、蛍光灯の替えが全然無いです、そりゃそうですよ、もう、今日の夜営業不可能、早朝営業はと、漁師さん達責付くし、ああ、もう、ロウソクの灯りで手計算か、ぐあ、」
嘉織、くしゃりと
「それさ、糸村、まま、ある事でしょう、後処理よろしく、」
糸村、目を剥いては
「ままって、そう、夜のお弁当の仕入れは少ないものの、楽しみに来るお客さんいるし、はあ、夜勤のシフトに、雪囲いの中で手売りして貰うか、」
純、小脇を締めファイティングポーズで
「糸村さん、頑張って、」
糸村、ただでれながら
「まあ、純ちゃんが言うなら、頑張ろうかな、」
嘉織、冷笑するも
「糸村にも純の可愛げが通じるのかよ、純もてもてだよ、ああ、嬉しいね、」尚も憮然と
糸村、翻筋斗打ちながら
「嘉織さんのそれ、全然嬉しがってないでしょう、大体ですよ、そもそもあなたがって、いや、店丸ごと嘉織さん葬ろうと低車体ダンプカー突っ込まれた時よりはましか、いや、でも屋根の下から漸く這いずり出たから、すっかり車両事故扱いされたし、ああ、何もかもが無茶ですよ、」
純、ふと右手で数えながら
「ここ、建て替えるの何回目だろうね、」
糸村、ただ万感の思いも
「純ちゃん、そして全要因となった嘉織さん、もう3回目ですよ、良いですか、建て替えしては、従業員皆さんがそのままお休みで給料出なくて困りますって、お願いですから、ここ、この敷地で事故事件起こさないで下さいね、」
嘉織、くしゃりと
「それさ、糸村、だからこその、事案対応の為の旗艦店の冠名だろ、そのまま閉店にならないの不思議に思わないか、」
糸村、ただ目を剥き
「えっつ、何ですかそれ、聞いてない聞いてない、」
嘉織、淡々と
「いいか、阪南の伊藤忠アナライズ本社では、階上村旗艦店は防犯対策上その立ち位置だから、その事案全てマニュアル化される、その先は話が長くなるから、何れな、それより早く掃除しなよ、ついでに休業届けも張っておきな、過電圧でバーンだって、それならご近所さん、何となく察してくれるでしょう、」
糸村、ぽんと手を叩き
「まず、それか、その線ですね、」いそいそと引き上げる
純、ふと
「張り紙するなら、私達帰ってもいいよね、」
嘉織、ベンチに置いたパンとホット缶を取り上げ
「まあ純も着込んでるし、ベンチに座っておいても何だしね、買い食いはしていこうか、それで、ダイドーオフィスのデミタス赤缶に、きたきた、地元でしか食べれない、工藤麦米パンのフィレンツェパン、」
純、フィレンツェパンの包みを剥ぎながら
「お酒飲みも好きだもんね、」一口頬張る
嘉織、鑑賞そのままに
「トーストの上に茹でて焼いたポテトを乗せて、塩こしょうとローズマリーと隠し味にサラミで味付けしたやつ、ふふふ、ワインもあれば最高だよ、」
純、ほくほくと
「タウン誌で知った人が、つい買い占めちゃうからついてるかな、そう言う意味では、オールフェリーのお客さんもちゃんと階上村には訪れているんだよね、」
嘉織、勢いそのままに既に半分食し
「くー、フィレンツェパン、もう一つ食いたい、でも閉店か、って、あいつがうろちょろしてるからだろ、」
純、くすりと
「それは、また明日にしようね、」自らのフィレンツェパン半分差し出す
嘉織、てらいもなく受け取り
「純は食べないと、小食は筋肉にならないよ、」
純、レジ袋をがさと
「大丈夫、ほら、元祖イギリスパン、嘉織ちゃんと私の分もね、」包みを嘉織に一つ差し出す
嘉織、空いた左手で、元祖イギリスパンを受け取り
「いいねいいね、青森、締めはザラメたっぷりの元祖イギリスパンね、そう来ないと、」
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