第17話 2087年12月19日 青森県青森市八戸区階上村 階上海岸

八戸新港の手伝いも終え、階上幸或旅館に戻る嘉織と純、午前もまた通常の旅館の手伝いへと


暫定県道を挟み、階上幸或旅館前に広がる階上海岸、夏の海水浴場とは打って変わり、砂浜には白雪が敷かれる

波風の赴くままに、ソリスト赤星民風のコンテンポラリーに続く一同


パーカーから着替えた嘉織、アーミーコート姿で両手を赴くままに伸ばし

「赤星先生、踊るなら幸或ホールあるでしょう、寒い筈だよね、」

ラシーンマークツーにコートを置き、白のジャケットの長身痩躯の赤星民風、ただ凛と

「寒くても良いから、お相手しなさい、」

嘉織、ふと

「真冬に、階上海岸に佇むなんてな、」

パーカーからダッフルコート、赤星に言い含められるままジャージに着替えた嘉織、赤星に遅れる事無く舞踏し

「嘉織ちゃん、続けて、」

赤星、不意に立ち止まっては互いの手を包み込む様に

「そうそう、純ちゃんの様に空気を包む感じで、」流麗なターンへと

嘉織、ターンに続き

「何かさ、コンテンポラリーと言うより、太極拳になっちゃうな、ねえ、赤星先生、万上の紹介なら、本当はそっちと違うの、凄い強いんじゃないの、」そのまま背中を反らす

赤星、片足でバランスを保ったまま海を見つめ

「強いだなんて、私は舞う舞踏家、万上さんは手習い一通りで、私のワークショップの門を叩いては只管褒め役よ、」

嘉織、立ちきれず挫折しては、うんざりと

「万上、そのままかよ、」

赤星、一旦地に付いては踏みこもうかと

「飛ぶわよ、踏み込んで、」両足を前後180度に開こうかの勢いで


皆、足を広げては跳ね着地も


嘉織、着地そのままに振り返り

「えっつ、飛んじゃったよ、純は、」

純、自身半分驚きながら

「ほっつ、本能で体幹は残ってたみたい、」

赤星、両手を大きく繰り出し、海水を掬い上げる様に

「それは、都度都度のメソッドあればこそよ、純ちゃんも、堪え性が無かったら、ツアーに連れて行きたかったのに、せめて3年前の体に回復出来ないかしら、」

嘉織、ただ溜息で

「赤星先生、これは真のバレエそのものだよ、純は、そんな才能あるかな、」

赤星、大きく息を吸いながら背筋を伸ばしては構え、そして右足を前に伸ばし

「見るもの得るもの、純粋に捉えられる事は、大切な事よ、純ちゃん、素質有りまくりよ、」右足に大きく屈む

嘉織、屈んだまま

「でもさ、公演でお金は取るんでしょう、赤星先生はともかく、純はそれに見合うの見せられかな、」

赤星、屈みからの、大きく両手を広げ

「嘉織は、幸或ホールに散々立ち会ってるでしょう、」祈りのポーズへと

純、祈りながら目を瞑っては息を整え

「嘉織ちゃん、呼ばれもしないのに、赤星先生の幸或ホール貸し切りの時に入っちゃ駄目だよ、」

嘉織、目を瞑っては

「それは、純が気になるし、ねえ、」

赤星、微動だにせず

「話しても、止めは丁寧に、」

嘉織、薄目で赤星をちらりと

「丁寧にって、こうか、」

赤星、尚も

「この風のニュアンスを、強弱を持って表現するの、何を考えているかの表情も大切よ、」

嘉織、歯がゆくも

「凄い、難解、」

純、依然目を閉じたまま

「万上さんは出来るよ、凄いよね、」

嘉織、口を尖らしては

「だから、あいつは体術持ちだって、」

赤星、両手を交差させては華やぐ程に

「良いから、足腰でバランスを取って、体に芯を通して、咲かせなさい、」

嘉織、見様見真似でも見事に、両手を広げたまま

「だからさ、気持ちは乗るけど、赤星先生、そろそろ切り上げない、オールフェリーに乗るんでしょう、道なりには問題無いけど、ニューラシーンでちゃんと送らないと、」

純、指先まで華やぎ

「嘉織ちゃん、ここ良い所だよ、」

赤星、海に向き直りゆっくりお辞儀

「そうね、ここまでにしましょう」


嘉織純も、続いては海にゆっくりお辞儀


嘉織、ゆっくり息を整えながら

「と言うか、赤星先生、ここまでいたなら、もう一日泊まろうよ、今日はアンコウ鍋だよ、大漁だよ、お代わり有りだよ、」

赤星、頬笑みながら

「嘉織、お誘い有り難いけど、二週間もいたら3回もご馳走になったわよ、」

嘉織、くしゃりと

「今日は大物なんだけどな、まあ、漁港だしね、逆に飽きちゃうかな、」

赤星、くすりと

「飽きるなんて滅相もないわ、そこはお構いなく、半年もソロツアー公演していると、土地土地できっちり楽しんでいるわ、」

純、慇懃に

「赤星先生、東北ブロックの巡回公演ありがとうございました、毎回ですけど旧八戸市民公会堂でも見れるなんて、ご配慮、本当にありがとうございます、」

赤星、遠い視線で

「そこに関しては、喬爺さんは手放しで褒めてくれたし、張りが生まれるものよ、八戸は今後も素通りはないわよ、」

嘉織、うんざり顔で

「まさか、さっきの舞踏、喬爺の鎮魂とか、」

赤星、海に手を合わせては一礼

「喬爺さん、もう五年も立つのね、最後の締め位はね、」

嘉織、ただ息が抜けては

「ここもな、喬爺も、旅館の目の前でどうにかなっちゃうか、」

純、ふと

「そう喬爺、海を割って沈んだ子供助けて、間も無く死んじゃったのよね、聖書も真っ青だよね、」

赤星、手を漸く戻し

「喬爺さんでも、死ぬのね、大自然って怖いわね、」

嘉織、ただ海を見つめ

「私でもそんな技出来ないのに、よくやるよ喬爺、そりゃ死ぬよ、そんな覚悟で誰かの為に出来るものかよ、」

赤星、凛と

「それが階上家の家風じゃないの、」

嘉織純、思い倦ねては

「そうかな、多分そうかも、」純を一瞥しては

赤星、頬笑んでは 

「喬爺さんは大往生で良いのよね、その舞踏だったけど、」

純、嬉々と

「うんうん、赤星先生、ちゃんと海を薙いでいましたよ、」

嘉織、いみじくも

「その振りか、純の咀嚼力、まあ幸或ホールのアイドルじゃ勿体ないよな、頼むから体は大切にしてよ、なあ、」

純、ふと

「それは、元に戻るのには、ちょっと、時間掛かるかな、」

赤星、ただ物憂げに

「喬爺さん始め、この大自然に立ち向かえるなんてね、胆力って凄いものね、」

純、ただぽつりと

「海を割ったら、流石にブーストして死んじゃうよね、」

嘉織、打ち消す様に

「いいや純、そこは寿命だってさ、宗家、喬爺に確と聞いたから、間違いないって、」

純、不思議顔で

「でも宗家って、嘉織ちゃんとお通夜に来て以来じゃなかったかな、どこをどうやって聞いたのかな、」

嘉織、神妙に

「宗家はただ謎だよ、まあね、さぞかしあっちに行って来たんだろ、」

純、思わず頬笑み

「それ、何か喬爺、成仏してない感じだね、」

嘉織、ただうんざりと

「成仏ね、そこまで聞いてないや、まあか、ここは拝まないと、早く成仏しろ、喬爺、」十字を切っては

純、引き笑いも程々に

「はは、よく怒られてたものね、」タジタジに十字を切る

赤星、嘉織と純を見つめては

「大丈夫、ちゃんと成仏してるわよ、嘉織と純ちゃんも成長したし、現世に未練は無いでしょう、」くすりと十字を切る

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