第14話 2087年12月17日 青森県青森市八戸区階上村 階上幸或旅館 階上家プライベートリビング

その帰省当日、就寝前の、階上幸或旅館本館離れの階上家プライベートリビングにて、暖房も適温過ぎるままに、畳の上のカーペットには使い慣れた大きな座卓、スウェットのままで晩酌に集う階上一家


嘉織、鳩政宗の吟醸酒グラッパ稲本屋利右衛門とことん薄めながら、ちびちびと

「面子は全員と言いつつ、成貴は寝てるか、」

漣子、嬉々と地ビールの津軽路ビール空けては

「まあね、タラが穫れるから、漁は稼ぎ時よ、」

嘉織、ほんのりと

「良いね、タラ鍋、良いよ、」

美鈴、うわばみとばかり津軽路ビールのグラスを次々飲み干しては

「良いも何も、最近は獲れ過ぎるから、タラ料理ばかりもね、」机の上の週間全メニューと睨めっこ

嘉織、ぶすっとしては

「美鈴さ、誰か、文句言う奴いるのかよ、味付け毎日替えてるんでしょう、ダシ、醤油、味噌か、全く、こことぞ舌が肥えやがって、」

純、シャイニーのりんごジュース金のねぶたを開けたグラスを前に

「嘉織ちゃん、そんなお客さんいないよ、皆舌鼓打ってるよ、」

敬治、ようようと

「当たり前だ、お米出るだけでも、感涙ものだろ、白米見て泣いてる方が大勢だって、」

嘉織、吐息混じりに

「だよな、今時の旅館って、調達云々でほぼほぼ営業して無いのに、良くも探して居着くものだよ、」

冴子、桃川の純米酒のグラスを上げながら

「そうね、いつまでもお馴染みさん頼りも、この御時世よね、ご新規さんもちょっとは泊まって頂かないと、お部屋が何れ空くわね、」

順次、神妙に桃川の純米酒のグラスを下げながら

「この日本国で戦争は、もう無い筈だよ、母さん、心配は無用だよ、」

嘉織、くすりと

「でもな、敬治の様にぽんこつが徴兵された例もあるし、」

敬治、稲本屋利右衛門のロックからそのままに

「ここで、まさかの俺か、嘉織、何言っちゃってるのかな、」

漣子、ぴしゃりと

「敬治のそこはね、だからね、PKF絡みの徴兵は幾らでも拒む条項あるのに、何を持って階上家として出張るのやら、これ以上身内減らしてどうするのよ、」


察する一同、ただ沈黙


敬治、溜息も深く

「俺の進退はともかく、うちの両親の話は、またにしよう長くなる、」

冴子、ふわりと

「それは月命日にしましょう、」

漣子、尚も

「その日本国のPKFもね、国際状勢配慮して、ほぼ安全地域らしいけど、だったら何で徴兵するやら、ふう、」ただ、津軽路ビールを手酌しては

純、漣子を見据えたまま

「漣子ちゃん、ペース早いよ、」

嘉織、ちびちびと

「まあ、敬治でも死なれたら困るか、」

漣子、はきと

「そう敬治、階上家の名で出兵した以上、迂闊な戦死されたら、血族の名折れよ、」

嘉織、じっと敬治を見つめたまま

「漣子はごもっとも、しかし何でこいつ、階上家なのに御託並べる一般人なんだ、」

敬治、凛と

「言うか、一般人、最高だろ、俺は絶対無茶しないよ、仲間も置いても逃げないよ、どうだ、凄くないか、褒めろよ、」

美鈴、溜め息も深く

「敬治のそれはね、喬爺曰く、本性は眠っているらしいわよ、とは言えね、あやふやな勘で、どうにかしちゃうのも如何よね、むしろ全く無い方が必死になるものかしら、」

順次、嬉々と

「敬治君のそれは一理あるね、何と言うか、これだけ階上一族にギフト多いと、敬治君位とか必然性が無いものだよね、まあ今日に至る迄五体満足はかなり健闘しているよね、」

嘉織、鼻息も荒く

「だからってさ、一切触発されないものかね、敬治は鈍感か、それで独身か、」

敬治、ただ溜息で

「もうな、小節さんから始まりいじり慣れたよ、寂れた土産物屋に嫁来るか、でもな、しがないやもめも程々か、ここは時期村長に立候補しようかな、心機一転そこかな、」

冴子、凛と

「敬治、村長は駄目よ、根回しのパイプ太い小節の階上筋に委ねてるでしょう、」

漣子、頭をもたげながら

「でもね、八戸区役所は相変わらずよね、観光政策含め、匙加減は相変わらず難しいものよね、そう、オールフェリー全航路開港したし、八戸からやや離れた階上村にも、もうちょっと観光客来ても良い気がするけど、PRのやりくりどうなのかな、フェリーの便数も倍の6便になったから、優秀な公僕は更に必要な気もするけど、」

冴子、はきと

「駄目駄目、階上家の息のかからない部外者が、うっかり左遷されて来たら、絶対死ぬわよ、現体制が一番ベストよ、」

敬治、下手に回っては

「冴子さん、現体制の維持なら、階上村村長が変わっても問題有りませんよね、」

美鈴、呆れ顔で

「そもそもだけど、階上村村長選、小節と敬治の選挙ポスター貼ったら、どっちが勝つと思うの、ハンサムに決まってるでしょう、」

純、敬治をちらちらと

「たまにはお笑いもありかな、」

敬治、ただ宙を仰ぎ

「うわ、純ちゃんの評価はそこか、」

順次、神妙に

「そうなんだよね、純の様な支持もあるからね、ここは階上村を真っ二つに割れないんだよ、さて、軽く火を通して来ようと、」徐に腰を上げ、ダイニングへと

冴子、不意に

「そうね、敬治のはったりに取り込まれては困るわ、接戦は禍根が残るもの、」

敬治、いみじくも

「冴子さん、やっぱり駄目ですかね、」

嘉織、グラスを一気に空けては

「当たり前だ、敬治、却下だ、」

冴子、敬治を見つめたまま

「とにかく階上村村長立候補のそっちより、敬治には商才の方を伸ばして欲しいわ、男気出して何かと在庫抱えては、久慈の出張販売で凌いじゃうのも如何なものよ、」

嘉織、不意に

「久慈か、日本のエネルギー拠点なのに、物騒な話聞かないよね、何なの、」

美鈴、尚も佇みながら、手酌のままに津軽路ビールを一口

「久慈はそれ程物騒でもないのよ、各団体の自警団が入っていては、東北のニュースで週一の定例会見位を見かける程ね、」

嘉織、神妙に

「態々週一の会見とは言え物騒か、定期的に行かないといけないかな、」

冴子、押し止め

「嘉織、止めときなさい、憂国さんが居座ってるわよ、」

嘉織、ただうんざりと

「ああ、あいつ、憂国か、まんま大佐待遇、平和島で常時羽振りが良いのは、事件にならない事件って事か、久慈に繋がったら結構えぐいでしょう、」

美鈴、ただグラスを空け

「大丈夫、憂国さんは表も裏も卒なく仕切ってるわよ、」

嘉織、興味津々に

「美鈴、結構、詳しそうじゃない、何々、」

冴子、遮る様に

「憂国さんは、月に一回はリウマチ温治療とかで、はしかみ大温泉浴場に浸かっては、一泊して、久慈にとんぼ帰りよ、ここは、階上幸或旅館だけじゃないって事ね、」

嘉織、察しては

「まあ、自ら情報収集なんて、久慈は余程人材いないんだな、」

美鈴、ただ目を見張り

「それもあるけど、私に週二日で良いから久慈も通わないかだそうよ、私を差し置いて、母さんから口説こう何てね、ふん、誰が成貴の朝ご飯用意するのよ、」

嘉織、逡巡するも

「美鈴のご機嫌ももっともだけど、二日なら良いでしょう、行きなよ、何と言うか憂国、この前平和島で現生の新ユーロ紙幣で電磁砲機関車買ってたんだよ、しかも安い買い物だって、ご機嫌にも言っちゃうし、まあな、付き合いで拍手してやったけど、何をしたいのやら、」

美鈴、滾っては

「それもね、海賊が重油欲しさに久慈の沿岸に粘るからでしょう、そこよ、全く、警備会議とかで取り込まれて、常駐せざる得ない魂胆でしょう、ねえ母さん、」

冴子、毅然と

「それはそれで有りと思うわ、美鈴の癇癪に憂国さん耐えられるか見て見たいもの、」純米酒を一口ごくりと

嘉織、グラスをを見ては注ごうか逡巡し

「皆、思惑有りで、何企んでいるやらか、」

順次、台所から持って来た盆におしるこの杯が人数分、一人一人の座卓置いては

「まあまあ、先行きが暗い話は抜きにして、皆上家は、皆導火線短いからね、憂国さん、察してるのに本当どうかしてるね、」

純、不意に

「私の導火線は、どうかな、」座卓に置かれたおしるこの杯にそのまま箸を伸ばし

漣子、またも手酌で津軽路ビールを注ぎ

「導火線は、寧ろ、純よね、」

美鈴、津軽路ビールのグラスを置いては

「純はそうよね、これでも、駄目なものは本当駄目なのだから、まあ、私は姉妹だからうっすら分かるから、導火線に火が着く前に対処出来るものよね、」

嘉織、おしるこの杯を置き

「まあね、純のじょっぱりには本当負けるからな、」

純、朗らかに接するも

「何か、私の話照れ臭いね、」ただ身じろぎもせず、必死におしるこの箸を握ろうも、かたりと落とす


純に注目しては、ただ溜息の座


嘉織、ただほろりと

「さて、疲れ果てたら箸も持てないのか、何事か夕食も距離置かれたし、遠めの握り箸の意味が漸く分かったよ、」

純、行儀がなってないと知りながら、座卓に杯を置いたまま、握り箸を進める

「仕方ないよ、白血病抗薬の錠剤さえ買えない人いるし、痔で困ってる人もいるんだよ、えーと、こういう病いのお話は、身内でも言っちゃいけないんだよね、」漸く杯を持ち上げ、自らの口を持って行く

嘉織、がっくりと 

「いやさ、最後の痔は無いだろう、大体、純、そんなの受けるなよ、駄目だって、」

漣子、憮然と

「治癒して、感謝だけって、そりゃあね、感謝されて有頂天になる性格じゃないの知ってるよ、でもね、死んじゃうよ、純、ねえ、散歩の次いでに、今後一切絶対治癒は止めてね、」

純、杯のしるこの餅を、必死に握り箸で割ろうと奮闘しながらも

「それはないかな、これだけ受け持ってるのに死なないんだよ、」

美鈴、見かねては、純の杯を手元に引き、しるこの餅を割って行く

「死ぬか生きるかの能力なんていらないわ、それより父さんも、純を試す真似しないで、お餅の見た目整わなくても、入れる前の固いうちに割ってよ、」

順次、ふと

「こうでもしないと、純、自分の事おなざりになるよ、これは父さんのメッセージだよ、」

純、神妙に

「それは分かってるけど、でもね、えと、考えても答えはきっと同じだよ、」

嘉織、純を見つめたまま

「純、その能力、悪魔を甘く見るな、擦り寄られては闇に落ちるぞ、」

漣子、制しては

「嘉織、ちょっと、離れでも声が大きいわよ、」

嘉織、居丈高にも

「知るか、いるのは武辺に兵隊だ、関係ないよ、」

敬治、目敏くも

「嘉織、だから、落ち着けって、純ちゃんに悪魔って、そもそも、見た事無いから分からないだろ、」

美鈴、純のしるこの餅を小分けにし終え、純の手前に杯を戻す

「ここ、母さん、ちょっと何か言ってよ、」

冴子、しるこの杯を置き 

「知りません、純も来年二十歳なら、大人の自覚も当然あるでしょう、それに、階上家の人間として、一度も出兵する事無く人生を終える等、一族の名折れです、悪魔に付き纏われても全く関知しません、」

嘉織、ただ横向けに倒れ

「あっと、言っちゃたわね、」

漣子、見かねては

「冴子さん、そうは言っても、私の出兵だって、たった1回ですよ、」

冴子、ただ溜息も深く

「漣子は、レニングラード再防衛戦で市街ゲリラを退けたでしょう、一回で十分よ、」

嘉織、がばと起き上がり

「あれな、ゲリラが立て篭るボリジョイ記念劇場に、大量のコンクリート流し込んで、一気に破砕するの恫喝の流れ、サンクトペテルブルク公国が隣国だからって無茶するよな、それで、怒られたんだっけ、そういうのって忘れた頃に請求書回ってくるそれだよな、」

漣子、首を横に振り

「そこはね大丈夫、当時のまち子公女の労いで、ボリジョイ記念劇場のコンクリート漬けの件はろは、結局新築で建て替えちゃったみたいね、」

順次、思いも深く

「まあ漣子ちゃんもね、普通に粘れば、サンクトペテルブルク公国から勲章貰ったのにね、そこは階上家らしいね、」

漣子、毅然と

「ここ皆に何度も言いますけど、普通も何もですよ、モスクワの大都市攻防戦線は配慮しまくった上での一週間も膠着、ゲリラ追い込むのに何人もの負傷者出たのに、これ以上旧中華とは荒立てられないの公国側の高度な判断がやっと働き、その強行制圧戦に至り、そして暗に公国制疑義テロリスト扱いで状況終了、しかも上っ面だけで記事にしては、首謀者関係者全員の名前も伏せられるなんてね、私は決して納得してませんからね、旧中華の煽動が燻って図に乗るから、中華人民継承同盟が今も尚でかい顔するんでしょう、」

嘉織、純を一瞥しながらも

「まあまあ、就寝前の難しい話はここまでね、でもね、美鈴の歴戦に比べれば、漣子のそれは可愛いものだよ、ここも長いから割愛ね、そうだよ、純がこの状態で、気持ちだけが大きくなっては困るからね、」

美鈴、やっと手元のしるこの杯に手を伸ばし

「私の割愛大いに結構、皆残らず軍事刑務所送りだから、報復も無いでしょう、」

純、きりと

「そうかな、有るような無い様な、戦線で世話になったなとかのがなり声のおじさんいなかったかな、」

美鈴、汁を啜りながら

「よくいる、人間違いでしょう、蹴っ飛ばして叩き返すまでよ、」

漣子、捲し立てては

「純ね、美鈴絡みでどんぱち無いから、それで良いの、ここ良いよね、」ただ視線も厳しく

純、皆の視線を垣間見ては

「まあ、皆が良いなら、」

冴子、訥々と

「とにかく、今は純、箸も碌に握れないなんて、鍛錬足りない以前に自制が全く足りないわよ、最後は誰にご飯食べさえて貰うの、家にはそこまで優しい御仁いないわよ、」

純、固まったまま

「母さん、そうは言っても、患者さん、放っておくと死んじゃうんだよ、」

嘉織、切に

「だからね、その純が死んじゃ駄目でしょう、良い事して死んだって、皆どうしても何れは忘れちゃうんだよ、たまに純を思い出されて、感謝されても、それは階上一族皆が絶対納得しないからね、」

冴子、淡々としるこの杯を進め

「嘉織、それは純が考えるところです、」

嘉織、尚も

「そうは言っても、そこは、純だよ、一連の治癒なんでしょう、皆が気をつけてるのにこれだよ、何で酷くなる一方なんだよ、」

冴子、杯を置き

「それでもです、純には高度の自覚を求めます、」

純、見渡しては怖々と

「そう、今は大丈夫、今は緊急以外お断りしてるよ、多分死なないかな、」

美鈴、深く息を吸い

「そうなのよ、もどかしいけど、私にも予知出来ない事あるのよ、純の死は一度も感じた事はないけど、純は、どう見てもこの有様なのにね、」

純、巻き返しては

「ほら、嘉織ちゃん、美鈴ちゃんはやや容認だよ、」

嘉織、不機嫌にも

「もう良い、これ以上は、純を悩ませるだけだ、もう良いって、」

純、ただ陽気に振る舞うも

「皆、おしるこ、冷めちゃうよ、もちもちだよ、」杯をそのままに、割って貰った餅を摘み上げては

嘉織、機嫌もそこそこに

「そうだね、頂くよ、」

敬治、談義そっちのけで、すっかりしるこ完食するも

「大体だな、寝る前にしるこって、俺等のカロリーって、どうなってるんだ、」

嘉織、憮然と

「頭脳労働肉体労働、隈無くだ、敬治、だから麻雀弱いんだろ、頭でも食うんだよ、」

敬治、果敢にも

「そこだけ拾うな、とは言え、晩酌は満喫しております、毎晩ありがとうございます、」思わず一礼

冴子、完食し終え、箸を置く

「階上家はそもそも太る体質では有りません、敬治も晩酌で太らないでしょう、御先祖様に感謝しなさい、」

敬治、我が物顔で

「冴子さん、そこはですね、大手メーカーが不在の今日、そこは桃川の純米酒だからですよ、実にヘルシーですよ、流行りの遺伝子米混入のチェックは念には念を入れてます、」

嘉織、ぶすっとしては

「敬治な、何の宣伝してるんだよ、土産物屋が酒売っていいのかよ、」

冴子、凛と

「そこは、階上土産は創業より一通り免許持っています、これ以上変な憶測生まない事、」

敬治、頻りに頷きながら

「嘉織、お前は営業妨害するな、絶対だからな。」

嘉織、ただ溜息も深く

「分かったって、まあな、青森市むつ市つがる市県内全市の駆け込み寺階上土産が、呆気なく無くなって困るしな、」

敬治、ただ悶絶しては

「呆気ないって、うわ、やっぱり俺か、俺の代か、」

冴子、毅然と

「そうです、何時迄も久慈を頼ってないで、大間フェリー周辺にも伝手を伸ばしなさい、これは厳命です、」

漣子、不意に

「道南より道北の事よね、怪しい連中渡ったきりよね、」

敬治、居住まいを正しては

「お任せ下さい、それなりに現地バイヤー七割程は顔を売っています、あとは取り扱う品数次第で如何様にもしましょう、」

冴子、朗らかに

「首尾は上々ですね、ここから気張らず着実に行きましょう、」

美鈴、不意に

「そうだ、漣子嘉織純、ねえねえ、明日、旧土手町行かない、麻雀で結構巻き上げたから、一人三着位は買って上げられるわよ、」

敬治、一気に沈み

「それ、ほぼ俺の貯金だよ、賭けの上がりを大目に見て貰っても、全貯金か、口座移動したら、みちのくりんご銀行から、問い詰められるんだろう、商売順調しか言えないよな、とほほ、」ただ酌が進む

嘉織、綻んでは

「弘前か、ブティック巡りも良いかな、良いよ私運転手ね、行こうよ、」

美鈴、嬉々と

「父さん、明日の厨房お願いね、」

順次、はきと

「お願いも何も、それ込み込みの婿入りなんだから、任せなよ、」

冴子、頬笑んでは

「そうね、父さんにスポーツ中継ばかり見せてないで、働いて貰わないとね、美鈴は貴族に気に入られて嫁入りすると思ってたから、ここはちょっと計算外よね、」

嘉織、一瞬顔が曇るもはきと

「美鈴、本当に良いパートナー見つかったよな、この青森で出会うなんて、本当ついてるよな、」

美鈴、不意に赤らんでは

「そこは、ただご縁よ、」ただ十字を切る

敬治、不意に

「しかし、弘前の、旧土手町のあそこのデパートの居抜き物件、中々入りませんね、」

冴子、不意に

「いなかみそ屋ね、まあ曰く付きよね、何度もコンサル会社に、会社譲渡していたら、元値が薄っぺらくなるものよね、」

美鈴、事も無げに

「この前見たら、地盤沈下していたわよ、」

嘉織、ただ悩まし気に

「それさ、弘前区役所に通報しなよ、」

美鈴、こくりと

「それとなく言ったけど、度重なる権利譲渡云々複雑怪奇になって駄目だって、地主不在の幽霊デパートとは言え、そうは易々と立ち入り検査出来ないわよね、」

嘉織、ふと

「権利か、それ言われたら、密かにビル垂直爆破も出来ないな、」

美鈴、事も無く

「大丈夫、いざとなったら、仕掛けた発破起爆させるわ、」

漣子、ただ綻び

「ねえ、用意が良いでしょう、ポケットのカード形リモコンから、ぽちで、どんよ、どんな監視カメラでもばれないから、」

嘉織、目を細め

「この話、誰にも一切聞かせたくないな、」

美鈴、視線そのままに

「それも込み込みの旧土手町行きよ、良い、買うにしても、うっかり普段着は絶対駄目だからね、普段から適度に着飾って行かないと、お洋服に着られちゃうわよ、」

嘉織、くしゃりと

「麻雀の巻き上げた金で一張羅ね、美鈴はどんだけ勝負師だよ、」

美鈴、座卓に広げられた各種スケジュール表を全てこつこつ叩いては

「旅館も九割方満室で、ショッピングにも行けないんだから、たまにお休み貰って、それくらい良いでしょう、」

嘉織、真摯に

「階上村でおしゃれって、誰に見せるんだよ、イベントそんなにあるか、」

漣子、身を乗り出しては

「あるある、幸或ホールのステージも大切なイベントの一つよ、座敷芸者衆さん達に都度都度予約出来ないでしょう、そもそもオールフェリーの便が増えたから、各座敷のお呼びが増えてやりくりが難しいのもあるのよね、」

冴子、ふと

「そうとは言え、日本の芸能を廃らす訳にはいかないから、必ずお呼びしないとね、これ喬爺の口癖ね、」

敬治、思いも深く

「そうですよね、お座敷のしきたりも難しいですよね、率先して掛け声は入れますけどね、」

嘉織、純をただ見つめては、訥に

「純は、ねえ、各関節は動くの、どうなの、」

純、ぽつりと

「そこまで酷くないよ、ただ、ステージの出演は減ってるかな、」

漣子、神妙に

「まあ、マイク持つ手に肌色のテープぐるぐる巻いてたら、それとなく気遣いもされるわよね、」

純、はっと

「気付かれてるかな、同じ色だから気付くものかな、」

漣子、ただ溜息も

「純、皆が敢えて視線逸らすのそれでしょう、私のセンターが目立ってる訳では無いのよ、」

嘉織、吐息混じりに

「あいつらもな、そういう所気遣う質だからな、」

美鈴、凛と

「さあ、しんどいお話はここまで、それじゃ、明日さくっとフィッティングして、買い込むわよ、」

嘉織、ふと

「いいのかな、ごっっそり女子がいなくなって大丈夫かよ、」

美鈴、はきと

「そもそものお客さんが、仲居さんいじりじゃないから、全く問題無し、」

嘉織、くすりと

「まあね、あいつらの特別接待が仕事じゃないしな、構うか、行こうよ旧土手町、」ただ右拳を上げる


プライベートリビングのドアがゆっくり開くと、寝ぼけ眼のままの男がゆっくり進みよる

「美鈴、水頂戴、」

美鈴、心配顔で

「ねえ成貴、トイレに起きるとしても眠りが浅いんじゃないの、」手元の水差しからグラスに水を入れては

成貴、そのまま柱にもたれ掛かり

「大丈夫、その分、早く仕上げて、昼寝もしてるからね、」

美鈴、成貴をただ招き寄せては

「お願いだから、無理は止めてね、」

嘉織、ただ面倒臭そうに

「いいから、寝な、成貴、」

純、ただ破顔で

「おやすみなさい、成貴、」

成貴、カーペットに上に傾れ込み、美鈴からグラスを受け取っては

「ああ、暇なら、漁港にも寄ってな、また甲板洗い手伝って貰わないとな、」一口二口含み

純、綻んでは

「だって、」嘉織に視線を送る

嘉織、髪をくしゃと

「成貴だしな、優秀な義兄に断る不義理も無いしね、近いうちに行こうか、そう、行くよ、」

純、何度も頷き

「うんうん、」

成貴、頬笑んでは

「決まり、またよろしくね、それじゃあ明日な、」グラスをテーブルに置いては、ゆっくり立ち上がり、プライベートリビングを後にする

漣子、追った視線そのままに

「そうよね、成貴も着飾れば美丈夫なのにね、漁師姿いつの間に様になっちゃって、」

純、ぽわと

「私の中のタキシードNo.1は、この先も成貴の結婚式かもね、」

美鈴、純を思わずただ猫可愛がりのままに

「そう、純、正しくそうなのよ、そこは流石姉妹よね、」

嘉織、美鈴を見つめたまま

「美鈴、成貴絡むと、本当甘いよな、さっさと子供作れよ、」

美鈴、ただ綻んだまま

「そこは何れね、忙しいし、何かな、楽しい旅行のタイミングかな、」

嘉織、ふと

「それ、私から言っておく、」

美鈴、純と戯れたまま

「ねえ、それやんわりとよ、あからまさは絶対禁止、成貴、本当ナイーブなんだから、良いわね、」

嘉織、思わず噴き出しては

「はいはい、楽しい雰囲気のそれね、美鈴のスペシャルは丁重にさせて貰うよ、」ただぺこりと

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