第15話 2087年12月18日 青森県青森市弘前区旧土手町 ブティックアザミ

嘉織帰省から翌日、青森市に併合された弘前区、辛うじて平成の佇まいのまま残り、旧土手町の商店街の奮闘も有り日本の衰退とは裏腹に、県内外からの活況を呈す


その旧土手町の右並びのアンティークなブティックアザミ、縦に拡張された店舗は表との様相は裏腹に奥深く、往年のマネキンと吊るしが続きジャンルの切れを見せない


漣子、ただ目を爛々と輝かせ

「ねえ、これ良くない、昭和のアイドルそのものよ、」斜め掛けのスパンコール混じりの赤の衣装を自身に重ねる

髪を縦に巻き上げたブティックアザミのオーナー雪灯薊、嬉々と拍手しては

「さすが漣子ちゃん、張り切って新作用意して良かったわ、そう素敵ね、」

漣子、綻んだまま

「うーん、色違いもいいけど、4人なら同じ赤も良いかな、」

嘉織、目眩も程々に

「私もかよ、眩しいよ、」

美鈴、思い倦ねては

「良いわね、ほぼ身長同じだし、映えるかしらね、」

漣子、そのまま嘉織に歩み寄っては衣装を重ねる

「嘉織、赤いけるわ、でもね、」不意に嘉織の髪を左手で掬っては「このぼさぼさもどうしたものよ、隣りの美容室行こうか、」

嘉織、徐に両手で髪の毛を広げ

「いや、止めておく、トリートメント五時間コースだろうし、どうせまたぼっさになるよ、」

純、椅子に腰掛けたまま不意に

「嘉織ちゃん、それなら、どこでケアするの、」

嘉織、ふわりと

「そこは、旅館に帰って、またコンディショナー1本ぶちまけての温泉二時間コースかな、純洗うの手伝ってよ、」

純、歯がゆくも

「それ、毎度よね、はしかみ大温泉浴場の男女交代二時間ぎりぎりだよ、昨日の今日でまたそれなの、」

嘉織、切に

「湯煙で見えるのは、乳房位だって、辛うじてセーフ、」

美鈴、嘉織に近づいてはぱしと

「嘉織、乳房は筋肉じゃないのよ、羞恥心持ちなさい、」

薊、思いを巡らしながら

「そうよね、皆さん、個性的だけど、根はまとまっているのよね、良いわ実に良いわ、階上家しばりだから、同じ柄でも際立つわよ、採寸して4着作りましょう、」

漣子、激しくガッツポーズっで

「よし、まずチーム着決まりね、薊さん、それお願い、」

純、ふと往年の雑誌を捲る手が止まり

「おお、漣子ちゃん、これはどうかな、」

漣子、透かさず歩み寄っては

「うーん、二巡いや何巡してかな、カジュアルだわ、」

薊、寄り添っては嬉々と

「これも良いわね、1980年代のパステル幾何学よね、日本に元気が溢れていた時代ね、近いこれは如何、」近くの吊るしからピンク下地のパステル幾何学模様のレディースニットを差し出す

一同、目を剥き

「おお、元気、」

薊、レディースニットを吊るしに立て掛けては

「これね、この雑誌から、パターン起こしたのよ、」雑誌を差し出す

漣子、徐に雑誌をぱらぱらと捲り

「ふむ、月刊トータルバラエティ、そのままアイドル雑誌じゃない、」

純、くすりと

「この目一杯の背伸び加減が良いよ、笑顔も自然だね、」

美鈴、壁の書棚を見渡しては

「薊さん、戦前からの雑誌結構あるのね、さすがは旧土手町かな、」

薊、頬笑みながら

「美鈴さん、喬爺さんご紹介の古書店巡りも、私の大切なお仕事よ、」

嘉織、ただ目を細め

「喬爺、可愛い孫の為に何でもするのかよ、まあ薊さんなら古書店紹介して良いか、」

美鈴、こくりと

「喬爺のそれね、嘉織から純への愛情と変わらないでしょう、どの口が言うのかしらね、」

嘉織、ただ頭を掻きむしっては

「ああ、喬爺と一緒にされちゃうものかな、」ふと手が止まり「それで薊さん、見た所お客さんまばらだし、旧土手町で商い出来るものなの、」

薊、頬笑んでは

「飲食店とは違ってこれ位の来店でベストよ、そうよね、お客さんにも恵まれるし、旧土手町に来れて良かったわ、ロンドンのテーラーだと流石に堅苦しくて、ねえ、」

嘉織、薊を見つめたまま

「あのテーラーが堅苦しいって、パーフェクトソウルがなの、口利きもさ、漸く店探し当てて入ったけど、拳銃一回も引っ掛かる事も無いし最高の仕上がりなのにさ、はあ、薊さんが独立した末が、旧土手町なんてね、何かね、」

薊、凛と

「喧騒はそこそこにしましょう、お店を切り盛りしては捗ってはこの品揃えよ、そうね、皆それぞれでの仕上がりで、それなりに満足だけど、私は階上家の良い所を引き出せてきたかしら、」

漣子、激しく同意しながら

「薊さん、うちの母さんが戦死した今、ステージは薊さん冴子さん頼りなんですよ、もう充分引き出してます、ああ、もっとお洋服に負けじと歌のレパートリー増やさないと、」ただ右拳を固める

純、不意に

「漣子ちゃん、漣子ちゃんは階上土産からのヘルプなのに、何時の間に階上幸或旅館にがっつりだよね、」

美鈴、くすりと

「漣子は良いのよ、うっかり旅館の出入り抑制しちゃうと、地方巡業に行きかねないわ、」

漣子、嬉々と

「それは無いわ、幕間の衣装替え出来ないもの、」

純、くすりと

「漣子ちゃん、早着替えなんて、張り切り過ぎだよ、」

嘉織、ただマネキンのスーツを見つめては

「でもな、薊さんと言えば、スーツなんだけどな、そうだよね、儀礼用の固いのも作らないといけないよね、」

薊、頬笑みながら

「無理無理、パーフェクトソウルのお客さんは、ほぼ警護主体よ、固いの作ったら、背中破けちゃうわよ、」

嘉織、尚も

「そうだよな、拵えたスーツ二着今でも持ってるよ、その出来に感服した喬爺も作りたいって言ったから、仕方無く紹介したら、喬爺の訪英より先に、薊さんは手紙頼りに作りに来ちゃうかな、で以て、程なくアトリエオープンか、喬爺、何吹き込んでるんだよ、」

薊、くすりと

「単純に、孫の為に洋服作って下さらんかよ、夢が膨らむきっかけって、必ずあるものよ、」

嘉織、うんざりと

「つうか、そこまで孫可愛いなら、平等に扱えよ、」

薊、ただ破顔で

「平等も何も、皆のウェディングドレスは、喬爺さんにデザインの了承貰ったし、かなりの前金で頂いてるのよ、」

嘉織、はきと

「ちょっと待て、美鈴のゴージャスはそれなのか、デーリー東北三陸にも載った、それなのか、」

美鈴、神妙に

「そうよ、うっかり言っちゃうと、漣子も嘉織も純も、こじんまりとしたチャペルに逃げちゃうでしょう、残念ながら選択肢は有りません、且つ隠れての結婚も階上一族として一切容認出来ません、良いわね、」

漣子嘉織純、三様に

「私はいいけど、どんなサプライズなんだよ、ふふ死ぬ迄生きないと、」

嘉織、とくとくと

「純のそれは無し、と言うか、私も純のチャペルまでうっかり死ねないのか、」

美鈴、溜息も深く

「まあね、喬爺なりの配慮よね、」

漣子、不意に

「そう、何で美鈴の結婚式にデーリー東北三陸来たのかな、うちはあれでしょう、記事に上家衆は配慮されていたけど、露出はどうかな、」

美鈴、頬笑んでは 

「それね、子供の頃に4人で撮った、青森県孫百選の特選に選ばれたでしょう、毎日をそれ眺めていた喬爺が、デーリー東北三陸に企画書送ったそうよ、その孫の先々を追いかけてほっこりさせなさいですって、」

純、得心しては

「ああ、それなの、昔の写真も載っていたから何かなと思っていたけど、」

美鈴、神妙に

「何れのタイミングで、孫百選その後の全力企画本は刊行されるらしいわ、良いわね良く聞きなさい、改めて言うけど、皆死んじゃ駄目よ、」

漣子嘉織純、返事のままに

「もちろん、分かってるって、うん頑張るよ、」


皆、ティータイムもそのままに、昔の雑誌を広げては、ただ懇談

漣子、目を見張っては指を差し

「うんこれ、このボリュームスカート、チュチュぽくて、純に良くない、ねえ、」

純、首を傾げるも

「やや膝か、大昔ならまだしも、ちょっと刺激強くないかな、」

漣子、ほくほくと

「大丈夫、純なら着こなせるよ、そもそも階上幸或旅館旅館限定だから、恥ずかしくないよ、」

嘉織、ただ訝し気に

「漣子さ、それ絶対だからな、大昔の様に、外のイベントで調子に乗っては膝ぎりぎりのアイドルに、私達着飾ったじゃない、また男子に絡まれて、純が困惑するからな、」

美鈴、切に

「それも良いじゃない、深窓の純も、自ら散歩位で、旅館から滅多に出ていかないんだから良いきっかけになるわよ、」雑誌の束を押し出し「ほら、純も見てばかりいないで、リクエストするの、おしゃれして遠出してみせなさいよ、」

純、少女誌を漸く置き、美鈴の雑誌の束から掬い

「昔の女子大生も有りは有りだけど、着たいのはガーリーのフルセットかな、」

漣子、ただ上機嫌に

「何もかも良いわ、正しく平成真っただ中ね、純、とにかく新着をチェックよ、」ただ純の手を引きハンガーラックへと

嘉織、切に

「でもさ美鈴、この純だよ、この美貌だよ、絣で取り繕うのが精一杯だって、危険な事させるなよ、」

美鈴、ぴしゃりと

「でもは無し、純も体調が良くなれば、何れは派兵よ、甘やかさないで貰える、」

嘉織、ただ逡巡し 

「まあね、この純も、あの純も、その純も、純は純だしね、」

純、丹念に吊るしのドレスを次々手繰っては

「うーん、こんなにあって、ちょっと選べないかな、漣子ちゃん選んでよ、」

美鈴、毅然と

「純、新調の機会よ、漣子を頼りにしていないで、外に出るドレス、自分で選ぶの、」

漣子、飄々と

「とは言え、丈は見ないとね、躓いて顔面縫われたら、可哀想だわ、例えばこの辺どうかな、」銀色ロングドレスを差し出しては

純、こくりと

「そうだよね、正月なら同級生にも会うし、イブニングもよね、ノースリーブだけど、似合うかな、」

漣子、ただ興奮しては

「良い、純、似合うから、まずはフィッティングね、さあさあ楽しみよ、」純を試着室に押し込む

嘉織、たちまち上機嫌に

「それ良いな、エスコートしたくなるよ、」

美鈴、我が物顔で

「確かに良いわよね、私も純とお揃いにしたけいど、社交界用は控えようかしら、純に端っから負けて言い訳するのも面倒よね、」

嘉織、不意に

「社交界か、何かと誘われるけどね、まあ、一連の事変でアジアの幾つかは行かないと感触掴めないしな、相槌だけは打っておくか、そういや実家の三着の吊るしだけだし、チーム衣装で一着選ばれちゃったから、あと二着はそうしようかな、良いよね美鈴、」

美鈴、ほくそ笑んでは

「そうしなさい、自分の顔見ながら、良く選びなさいよ、」

嘉織、しかめっ面で

「その、雰囲気ブス表現、何だよ、」

美鈴、淡々と

「ブス返しは失礼ね、姉妹漣子も含め同じ輪郭でしょう、大体、嘉織はそんな事有る筈無いでしょう、アーミーコートばかりだから、顔がつい地味になっちゃうのよ、」

嘉織、溜息も深く

「調査9割で、確かに化粧気無いな、化粧なんて忘れそうだよ、」

美鈴、不意に

「無茶するわりには、手堅いわね、相棒いないと慎重になるのかしら、ここ、楠上さん素通りで良いわよ、」

嘉織、凛と 

「分かってるなら良い、単独捜査上等だよ、対峙なんて、そんなものだろ、私だって、初見で材質全部捩じれる訳じゃないんだから、」

美鈴、溜息も深く

「嘉織と漣子の念動力も、器用なのかよく分からないわね、」

嘉織、憮然と

「一括りに分からないって、こっちだって、つい捻らないか、自制心で一杯なんだよ、」

漣子、不意に試着室から顔だけ覗かせ 

「まあ、私の場合、出力控えめだから、何とかだけどね、」

嘉織、捲し立てては

「何とかって、漣子も、時折お行儀良く見せるよな、小学校の時点で、通学路のメタセコイア叩き折ったろ、怖過ぎだろ、」

漣子、思いを巡らせては

「ああ、あれ、でも破壊屋に言われたくないわね、あれは大きく転んでついでしょう、そう、ついよ、」

美鈴、凛と

「だから、あなた達は絶対怪我をしない事、リミッター一気に外れちゃうでしょう、」

嘉織、頭をもたげながら

「そりゃあ、痛いのは嫌だけど、仕事あるしね、とは言えさ、その辺は成長してるよ、それね、」

漣子、背中をぽんぽんと叩かれる音が聞き及ぶと、振り返り

「よし、ok、純、okね、」大きく試着室のカーテンが開かれる

純、忽ち綻び

「じゃん、出来上がりました、」

薊、ただ頬笑んでは頷き

「その銀色ロングドレス、もうちょっとシニアだったのに、まさか着こなせる女性がいるなんてね、そこは純ちゃんの度量の深さかしら、」

美鈴、ほくほくと

「うんうん、良いじゃない、肩と襟の刺繍のバランスが絶妙よね、純と同年代の娘は絶対着られちゃうわ、」

嘉織、笑顔一番で

「それもこれも、純のスマイルあればこそでしょう、ベストスマイル、ここは笑顔だって、」純に近寄っては上から下迄目を通す

純、嬉々と

「照れるよ、嘉織ちゃん、」

漣子、我が物顔で

「選んだ私も褒めてよ、そうよね、純も建端もそこそこに、映えるものね、私嘉織美鈴と同じ建端でも、こうまで行くかな、」

嘉織、くすりと

「漣子、これは、純の一点もので良いよ、同じ衣装で4人も並んだら、どうしても純に目がいっちゃうよ、」

美鈴、くすりと

「漣子、あとで嫉妬するよりは、今諦めなさい、」

漣子、微笑

「まあ、私はね、プラチナより真紅担当だから、それで充分よ、」

薊、シューズボックスを持ち進み寄っては

「丈直しは、ヒールを履いてからにしましょうね、さあ、純ちゃん、いつものサイズどうぞ、」シューズボックスより白のヒールを取り出す

漣子、甲斐甲斐しくも、純を椅子に招き

「純座って、足を出して、」

純、ドレスをたくし上げながら、椅子に腰を降ろし

「ありがとう、漣子ちゃん、」

漣子、てきぱきと右のヒールを純に履かせるも、不意に

「あれ、浮腫んでるのかな、ヒール、キツい筈だけど、純、痛くないの、」

純、一向に動じず

「いいえ、何ともだよ、」

嘉織、訝し気に

「だったら、純、椅子から立てるのか、」

純、躊躇いながらも

「ええと、それは、ちょっと疲れてるから、どうかな、」

漣子、忽ちヒールを脱がし、右足を抓っては

「ねえ、純、これ痛いわよね、」

純、顔を曇らせるも

「まあ、ちょっとだけ、」

美鈴、声を荒げ

「嘘おっしゃい、漣子かなり抓ってるわよ、純、どうなってるの、」

純、笑顔を取り繕うも

「へへ、ローファーなら、有りかな、」

美鈴、潤みながら

「純、何よそれ、ここに来て、まだそれね、何で隠そうとするの、」

嘉織、悶絶しながら

「まさか、足の指の感覚も駄目なんて、」

漣子、ただ呆れ顔も

「そう言えば、純、おしゃれな靴履かなくなったものね、」

純、ただ両足をさすっては

「でもね、はしゃいだから、痛覚はそれだけど、やっぱり痛いかな、それでもね、美鈴ちゃん漣子ちゃん嘉織ちゃん、ちゃんとローファーなら歩ける筈だよ、そう大丈夫、薊さん、ここはもうちょっと余裕のあるローファーでお願いします、」

薊、困惑するも頬笑み

「そうね、純ちゃん、何れはヒールを履く為に、丈はある程度残しておきましょう、バランスはいける筈よ、」

美鈴、尚を見据えたまま

「純、かなりがっかりよ、ここまで自身におざなりなんて、本当に立てなくなるわよ、何故本当の事言わないの、私達は姉妹に血縁でしょう、ねえ、」

純、毅然と

「それ言ったら、美鈴ちゃん、絶対外に出さないでしょう、逆に村と町の皆が心配するよ、治癒しても何れは発症しちゃうんだって、とても不安に思うでしょう、駄目だよ、そういうの、」

美鈴、怒りも露わに

「全く、自分の事を優先するの、ねえ、純、好い加減にしなさいよ、」

嘉織、美鈴を押し止めながら

「美鈴、怒るな、まず純の状態が悪化する事しか考えてないの如何だって、現に純はばったり倒れないし、これからきっと良くなるって、そこを考えて行くのも私達の役目だろ、」

純、てらいも無く

「多分、それかな、」

美鈴、ただ両拳を震わせたまま

「って、もう、あなた、純ね、」

嘉織、美鈴をがっちり捕まえては

「まあまあ、美鈴、落ち着こう、なあ、」

美鈴、嘉織の腕を振り解き

「純、ここは私の事を優先します、はい、で通すものなの、良いこれ以上皆を心配させないで、」ゆっくり目を閉じ十字を切り祈り「主よ、願わくば純に奇跡が訪れます様に、この身から生じる言の葉に全てを乗せて、お祈りを捧げます、」不意に涙が伝う

続く十字を切る店内一同

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