第13話 2087年12月17日 青森県青森市八戸区階上村 階上幸或旅館 はしかみ大温泉浴場
階上幸或旅館での夕食と遊興も一段落し、順繰りで回って来たはしかみ大温泉浴場の女性の入浴時間、今は最後の二人、嘉織と純が温泉につかる
髪にタオルをきつく巻いた嘉織、ただ純の右肩から中程まで真っすぐ伸びる聖痕に視線を送る
「痛そう、」ただグデッと鼻の下迄沈み
背中向けに温泉に入り、髪にたおやかにタオルを巻いた純、溜息混じりに、ゆっくり嘉織に顔向けては
「嘉織ちゃん、また見てるの、」
嘉織、温泉から顔を上げながら
「何かね、うがった見方だと、殺傷傷だよね、もっとも、刀傷だとそう簡単に肉がくっつかないのだけどね、」
純、体を漸く体を向き直しては苦々しく
「うわ、聞いただけで痛々しいよ、」
嘉織、持て余しては自らの背中を撫で
「まあ、言っちゃなんだけどね、背中が痛々しいから、小さい頃にがき共から囃したたてられたんでしょう、」
純、自らの口も重く
「それはね、思い出したくないよ、」
嘉織、切に
「純のそれは、聖痕だって、喬爺が、折り有る事に小学校の教室に出張ってはとくとくと話して、やっとなんでしょう、がきに崇高さ理解出来るのかね、」
純、手持ち無沙汰にも髪のタオルを締め直しては
「それね、それは大丈夫だと思うよ、喬爺、皆の父兄も呼び出したのか来てたし、お家に帰っても説教されたと思うけど、でもね、何か照れ臭かったよ、先生がぶっ飛んだ解釈で生き神様のそれかとか言っちゃって、そっちじゃないよね、」
嘉織、堪らず髪を掻きむしろうも、きつく巻いたタオルに阻まれ
「全く、喬爺がいて、どんな高説許しているんだよな、やっぱり教会じゃないと通用しないだろ、って、端折ればそうなっちゃうかものか、」
純、うだっては
「まあ、私の治癒も年を追う毎に、どんどん習熟していったから、そう言う事も陰で言われもするよ、」
嘉織、興奮しては
「言うだけならともかく、ではにしたくないけどさ、でも何だろう、興味本位で、純の背中見ようとする輩いるから、海水浴場にプールでは水着にTシャツなんでしょう、それも自然に出来ないかな、ジロジロ見るなって、ねえ純さ、」
純、吐息混じりに
「それは子供だもの、興味剥き出しだから、仕方無いよ、」
嘉織、視線見据えたまま
「いや、それが成長してもさ、この目の前の海水浴場に行ってはの、ナンパもね、あるんでしょ、純の初心ならさ、」
純、頬笑みながら
「それは無いかな、全米さんの護衛さんが絶対いるから、快適そのものだよ、」
嘉織、仰け反ってはぷかりと
「うわ、何か、護衛のそれ見たくない、ハリウッド女優さんみたいでしょう、純ぽくないよ、」再び温泉につかり直す
純、くすりと
「そう、女優さんね、今年の夏、出来るサラリーマン風のおじさんに、海岸で待ち構えられては、名刺を貰ったよ、女優さんになって世界を目指しましょうだって、いきなり世界ね、」
嘉織、ただ頭を抱え
「待てよ、その話聞いたかな、純、海水浴場なら盆前でしょう、確か私帰省してたよね、」
純、頬笑んだまま
「いや、それね、海開きと同時だから、嘉織ちゃんはいなかったかな、佐治さんが、とにかく嘉織ちゃんには話すなだって、」
嘉織、温泉にどんどん沈みながら
「どうせ、ドンパチになったんだろう、」
純、朗らかに
「そうみたい、旅館に戻って佐治さんに相談して、名刺を見せたら、いきなり震えては、名刺真っ二つにして、その場で声張って非常呼集してたよ、そして何所からとも無く海岸にトランスフォームオスプレイ3機が飛んで来ては、多分名刺の本社住所の都心に向ったみたいだね、」
嘉織、温泉の中を犬かきしながら、純に迫る
「因みに、どこのプロダクション、覚えている、純、」
純、思いを巡らしては
「そう、一心不乱社だって、テレビのエンドロールでも見た事無いよね、零細プロダクションなのかな、」
嘉織、がばと立ち上がり烈火の如く
「ふざけるな、幼児ポルノ作品乱発の大悪党だぞ、そっちの世界進出かよ、って、いきなり足立のビルディング無くなっていたのそれか、佐治か、あれは全米海軍の仕業かよ、勝手に崩すのやめろ、って物証もまとめて、瓦礫の中かよ、通りでマスターテープ全部焼けてた筈だよ、」火照った体に筋肉が盛り上がる
純、ただの嘉織の手を引き
「もう嘉織ちゃん、顔も体も怖いよ、でもね、幼児ポルノって言っても、昔の基準ならショートパンツも膝上のスカートもokだったんでしょう、」
嘉織、促されては温泉に入り、純に付かず離れず
「純ね、今は時代が違うの、生足も、アンダースコート履いてても、愚劣な奴は興奮しては止める術が全く無い時代なの、グラビアもエロビデオも風俗も無いなら、直接女子狩るしかないんだよ、田舎育ちでもここ分かるよね、その虐げられた傷、ずっと残るんだよ、」
純、ふわりと
「それ位の露出で、そんなに興奮するかな、」
嘉織、純を引き寄せては抱き止め
「純ね、男性の生理現象を知らなさ過ぎる、一旦、その回路が働いたら、一般人は止められないのだよ、放出する迄それだよ、」
純、困り顔で
「そんな、物騒な人いるのかな、」
嘉織、密着したまま
「だからこそ、教会とか寺院とかあるんでしょう、理性は時間を掛けて丁寧に構築されないと駄目なの、」
純、大きくこくりと
「嘉織ちゃん、勉強になったよ、佐治さん、何も言ってくれないんだもの、」
嘉織、ゆっくり純から離れながらも、訝し気に
「まあ、やっぱりテープスキャンしてはげんなりになった、それか、後で聞いておく、純も当分は刺激しない絣だからね、いいよね、」
純、逡巡するも
「まあ、絣の方が好きだからいいよ、うん、伯母さんのも着れる様になったし、事足りてるかな、うんうん、」ただ嬉々と
嘉織、純の天真爛漫に振れ、照れ隠しに平泳ぎしては
「そう、その笑顔、ここから良くもあくどい事考えつくよな、」
純、不意に
「何に興奮するんだろうね、今の衣装って胸と足は殆ど隠れているのにね、凄い想像力だよね、」
嘉織、はきと
「男性はね、そこは気が赴くままに本能、粗忽な棒を持っていたら、どうにかしたくなるもんなんだよ、だらしなく垂れ流すまでフル充電、生々しくてもそれね、」
純、ただうんざりと
「嘉織ちゃん、それ、目が点だよ、」
嘉織、脂肪一つない体で、温泉の檜のへりに剥き身のまま座っては
「純、聞いて、これ言っておくよ、そう、WHOの非公表で男子出生の比率がかなり高いからって、紛争で早く死ぬんだから、男女不可足なんて有り得ないんだよ、男子もきっちり選り好みしないで、そこはちゃんと教会で手順踏めって、そこから始めろって、」
純、湯だったまま
「そこは、恋愛感情は存在しなくていいのかな、」
嘉織、尚も
「いいの、一目惚れの大半は、歪んだ時代の生んだ妄想が、目の前にただたんに現れたと勘違いしただけ、よく話し合ってこその相思相愛でしょう、そうでしょう、ねえ純、分かるよね、ここ大切、よく聞いて、いや分からないなら、どんどん質問して、」
純、頬笑んでは
「嘉織ちゃん、真っ裸で説得力あると言うか、無いと言うか、」
嘉織、くすりと
「良いでしょう、裸の付き合いは、女子もまただよ、」
純、温泉につかったまま、くすりと
「思ってる事言わないと、駄目そうな雰囲気だね、」
嘉織、こくりと
「乗って来て大いに結構、この美しい純に接しても寡黙な奴は、何考えてるかよく分からないって事だよ、ここ良いね、ちゃんと聞き出すの、」
純、はにかみながら
「それ、やっぱり、照れ臭いな、あれだよね、久住さんの事、分かっちゃうの、」
嘉織、鼻息も荒く
「そう久住、分かるも何も、何が良いの、贔屓目の実のお姉さんでも、さっぱりだよ、何処なのよ、」
純、さらに湯だり
「ええと、久住さんは、真っすぐな眼差し、かな、」
嘉織、大仰に拳を交えては
「違う違う、久住のそれは、お役目が忙し過ぎて、オフでも抜けないから、それなの、と言うか、何故見た目美青年に飛びつかないのかな、」
純、首をただ振っては
「それこそ違うよ、嘉織ちゃん、久住さんは目が澄んでるよ、きっと良い人だよ、」
嘉織、くしゃりと
「純、だったらさ、宗家に聞いてみなよ、一発で久住に駄目出しするよ、」
純、仏頂面で水面を叩いては
「酷い、嘉織ちゃん、宗家に根回しするんでしょう、」
嘉織、前のめりにも
「そんな事しないって、純がいざ傷つかない様に、今ここで言ってるんでしょう、久住は純情だけど、感情は振れて、純の手には余るの、悩む純なんて、そんなの見たくないよ、どうしても久住に心寄せるなら、時間を絶対時間掛けるんだよ、いいね、」
純、温泉に沈みながら
「時間掛けるって、でも、嘉織ちゃんなら、その間に絶対意地悪するもの、そんな事したら、絶交するからね、」
嘉織、ただ目を被いながら
「ああ、絶交って、友達じゃなく、良き姉としてだね、ちゃんと向き合ってるでしょう、純てば、ねえ、聞いてるよね、」
ア
不意に湯煙の中、はしかみ大温泉浴場の戸が引かれ、大挙する人影
先頭のタオルを肩にかけた真っ裸の男、全米海軍のロジャー
「えっつ、その姿女性、なんでいるんです、」
純、ただ温泉に深くつかろうかと
「また、やっちゃた、」
嘉織、縁で居住まいを正しては、まじまじと
「ちょっと待て、話す前に礼儀がある、」冷静に頭のきついタオルをほぐしては、そのタオルで胸と前を隠す「さて、待たせた、いつから、はしかみ大温泉浴場は混浴なんだよ、」
一斉に慌てて陰部を隠す、男性一同
ロジャー、やや動じながら
「その姿、やはり嘉織さんですよね、今、8時ですよ、男性の入浴時間です」
純、尚もつかりながら
「嘉織ちゃん、話し過ぎてるよ、女性は上がらないと駄目な時間帯だよ、」
嘉織、凛と
「ロジャー、いいから隠せ、股間だけじゃなく全部だ、」
ロジャー、タオルを最大限に伸ばし前面を隠し
「こうですか、」
同じく前面を全てを隠す男性一同
嘉織、溜息も深く
「まあ、辛うじて見えないけど、取り敢えずそれ、で、どうしよう、」
尚も大挙する男性一同、つい後ろから押し出されるロジャー
「来るな、押すなって、」
嘉織、ただ怒り心頭に
「お前等、ふざけるな、よく考えたら、私達の着替え残ってるだろ、確認してから入って来いよ、」
純、次第に目も虚ろに
「嘉織ちゃん、流石にのぼせて来ちゃった、」
嘉織、ただ心配顔で
「はっつ、純は、確かに入りっぱなしだ、もう、肩を抱こうも二人とも丸見えだし、」声を一際張っては「話はもう良い、もう上がる、お前等、目を隠して床に伏せろ、私はともかく、良いか、純は絶対見るなよ、分かったな、」
ロジャーいの一番に伏せ、
「皆、ここは床に伏せろ、Get down.」
見る見る浴場一杯に広がる、男性の絨毯
嘉織、流石に目眩するも
「うわ、この光景、信じらんね、」タオルを檜のへりに置いたまま、温泉の中に進んでは、たわわな純の腕を引いては肩で持ち上げ温泉を出る
嘉織と純、男子の絨毯を容赦なく踏み、脱衣所まで進む
純、ただ仄かにのぼせながら
「純ちゃん、皆踏んでるよ、」
嘉織、剥き身そのままで
「いいから、はい到着、」そのまま、ぴしゃりと戸を締める
純、堪らず湯上がりマットに座り込み
「ふう、やっぱりつかり過ぎだね、」ただ火照った体を手で仰ぐ
嘉織、溢れる脱衣所のかごから、漸く二人のかごを引出し純の元へ
「はい純、このバスタオルで拭いて、出るよ、」
純、バスタオルを受け取っては、ただおっとりと拭きながら
「嘉織ちゃん、牛乳飲みたいよ、」入口近くの縦置きの四面ガラス張りの冷蔵ショーケースを見ては物欲しげに
嘉織、ただ自身を素早くタオルで拭っては
「それはリビングに戻ってから、いいから出るの、」手にしたスポーツブラとパンツを素早く履く
純、未だおっとりと体を拭いながら
「小岩井牛乳の濃い牛さんは、はしかみ大温泉浴場だけなんだけどな、飲みたいな、純ちゃん、1本100新円2枚、コインボックスに入れてよ、」漸くも、マイペースに丹念にバスタオルで髪を拭きながら、ただ小岩井牛乳の濃い牛さんの紙パックをじっと見つめる
嘉織、スウェットに着替え終え
「純、まだそこなの、」自らのタオルで純の体を甲斐甲斐しく拭いては「もう、いいから、のぼせてるなら、リビングに戻ってポカリスエットストレートにしよう、」純のかごから次々着衣を取り上げ「もう、パンツ、ブラ、そしてスウェット、ドライヤーは部屋でね、」純を手伝いながら、素早く着替えさせ「はい、完了、行くよ、」
純、あんぐりと
「嘉織ちゃん、早いね、」
嘉織、溜息も深く
「非常呼集は予科で散々ね、まあ純には程遠いから、そこはいいから、」そのまま進み、戸を開いては「皆、邪魔したな、ごゆっくり温泉につかって満喫してくれ、」
そのまま剥き身で立ち上がる男子一同
「Yes, sir.」
嘉織、表情一つ変えず
「煩悩無し、大いに結構、今後も励み給え、」ただ戸を閉める
そのまま剥き身で直立不動の男子一同
「Thank you, sir.」
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