第11話 2087年12月17日 青森県青森市八戸区階上村 階上幸或旅館 卓球場

嘉織またも巡察とばかり、階上幸或旅館内を進み、ふと立ち止まる、階上幸或旅館の卓球場前、三つある卓球台は、今や白熱する一つの卓球台に息を飲む、嘉織呆れ顔のまま場内に踏み入れ



迸る熱気、勢いそのままトリッキーに半回転した階上漣子が、凄まじい卓球ラリーを制しガッツポーズ、それに高々に応える全米海軍の応援者一同


立ち寄った嘉織、立ち尽くしたまま、ついくすりと

「何だ漣子、汗かいての、熱戦か、」

長い黒髪そのままに澄まし顔の伯母筋の階上漣子、ガッツポーズのまま

「嘉織聞いて、本当手強いわ久住、何なのその省エネモードは、」

美丈夫の久住、ただ溜息も

「漣子さん、ドライブ掛けては、ミス狙いですよね、敵いませんよ、」

嘉織、うんざりと

「漣子、久住に引っ掛かるな、こいつは本当よく見てるよ、2セット目は手厳しいぞ、」

漣子、熱り立っては

「分かってるわよ、強引に誘っての今日のトーナメントよ、良い、絶対勝つわよ、」ただ皆を鼓舞しては、それに応える一同

純、応援席の長椅子に佇んだまま、嘉織を手招き

「嘉織ちゃん、おいでよ、」

嘉織、凛と

「その前に、」久住に近寄っては

久住、無愛想にも

「階上さん、試合中ですよ、優勝したら奢りますから、」

嘉織、回り込んでは

「嘉織でいいよ、って、おいおい久住、挨拶も無しにそれかな、それよりさ、尾はどうした、なあ、」

久住、淡々と

「切りました、何か根を詰めちゃって、皆さんに会い難いなと、駄目ですか、」

嘉織、一喝しては

「当たり前だ、アフリカもユーロもいざ知れず、アジアで帯刀するなら、尾を切るなよ、にわか武士だと、揶揄いに来るぞ、」

久住、一笑に付しては

「階上村に、そんなちんぴらなんて来ませんよ、平穏そのものです、」

嘉織、むかつきながら

「まあ、君に一族のあれこれ言うのはどうしても早いし、そうだね、この長さなら、直に短い尾を結べるか、なあ、なあ、」久住の髪引っぱりじゃれる

漣子、邪魔とばかり

「嘉織、久住と慣れ慣れしいわよ、」純に一瞥しての「それより試合はまだ1セット終ったばかりよ、早くどきなさいよ、次のセットよ、」ラケットで場外を示す

嘉織、ただ溜息混じりに

「まあ、もうちょっとだけ、今ここの久住もさ、第七次東南アジア事変はあれとして、ヨハネスブルク連邦どうしたんだよ、相変わらず無法地帯なんだろ、」

久住、ただ淡々と

「まあ、第七次東南アジア事変は一段落着きましたし、ヨハネスブルグの治安は乙川班を先鋒に収拾していますから、ヨハネスブルク連邦からは労いもされてのこの階上幸或旅館です、この機会に乙川さん水戸さんと一緒に長期休暇中です、先々のこれからは政策も絡んでるので、最終裁定は葉村さんが行うと思いますよ、」

嘉織、ただ目を見張り

「その目、形式上の慰労も止む得ないって事か、水戸には会ったよ、久住も察しろって事で良いよな、」

久住、ゆっくりこくりと

「今はそれが有り難いです、」

嘉織、微笑しては

「それで寛いでるのかよ、」

久住、右手を何度も握っては

「湯治三昧です、皆暫く得物握りっぱなしでしたからね、」

嘉織、神妙に

「そう、アンダー40全班投入なんだよな、全員と歓談したいけど、そんな雰囲気じゃないだろうな、まあ渋い仕事してるな、たださ、ヨハネスブルク連邦担当がさ、日本国の階上村にいて労いって何、そりゃあね、アンダー40は友愛が心情でしょう、実行部隊風情で延々投入も何か違うだろ、」

久住、思いも深く

「そこは今だけです、源さんが、ヨハネスブルクに居座る旧中華残存勢力に何枚も勧告状を送っています、感触としていよいよの筈です、」

嘉織、伺っては

「また行くのかよ、ヨハネスブルグ、」

久住、ただ神妙に

「旧中華なら、再招集の今度こそ大掛かりでしょうね、」

嘉織、逡巡し

「ふう、私もアフリカもやや遠いから招集されないだろうけど、アンダー40で大丈夫かな、」

久住、堪らず微笑

「何を言われます、上家衆のアフリカ班は、万上さん楠上さんですよ、」

嘉織、歯噛みしては

「ああ、もう、敢えてそれ言わなかったけど、楠上の名前は出すな、」

久住、はきと

「楠上さんの名前出すなって、嘉織さん、コンビ解消してから四年ですよね、大人気無いですよ、」

嘉織、確と

「いいか久住、楠上にはくれぐれも気を付けろ、あいつは歩く災害だ、絶対覚えておけ、」

久住、困惑するも

「楠上さん、何度もお会いしてますけど、全くの常識人ですよね、それに直接の司政もガイドラインに法って、瞬く間に、幾つもの国が常態化しています、それを嘉織さんの思いのまま諌言で、楠上さんへの姿勢は改められません、」

嘉織、はきと

「久住、兎に角聞くんだ、それは楠上というでたらめがいるから、皆々が押し黙るだけだ、とは言え、久住なら、この先も食い下がるだろうな、いいか、喋る男は持てないぞ、ここまでにしよう、」

漣子、うんざり顔で

「嘉織、ちょっと、長いわよ、漸く久住誘っての、この雰囲気何でしょう、良い加減察しなさいよ、分かってるわよね、」

嘉織、凛と

「漣子、ここはローマ参画政府の公僕としての報告義務の遂行だ、固い話はもう終ったよ、」

漣子、ファイティングポーズしては

「よっし久住、試合再開、次のセットも行くわよ、」

嘉織、憮然と

「久住、漣子に普通に勝てる筈無いから、とにかく見切れ、根気よく粘れよ、」

純、不意に

「嘉織ちゃん、久住さんに三点先取されてからのそれだけど、ここで本当タイブレークの一セット奪取なんて、強いよね漣子ちゃん、」

漣子、不遜にも 

「久住もね、武士のくせに卓球で一セットも取れないなんて、東儀さんでもタイブレーク勝ち抜けなのよ、ほら、気合い見せなさいよ、」尚もファイティングポーズで場を沸かす

嘉織、困り果てては

「漣子、卓球で煽ってどうする、いいか、適度の気合いだからな、ここ守れよ、」

久住、タイムサイン出しては

「作戦タイム下さい、漣子さんラリーが続くからって、多彩過ぎます、整理位良いですよね、」

漣子、余裕の笑みで

「ふふ、許す、ごゆるりしたまえ、」

純、ゆっくり立ち上がり、久住にポカリスエットストレートのペットボトルを差し出しては

「久住さん疲れてるなら、まずは特製のスポーツドリンク飲もうよ、そして作戦会議だよ、」

久住、一礼しては

「純ちゃん、貰います、」

嘉織、微笑ましくも

「ふっつ、この空気、それだよな、もういい、そこの作戦会は続けて、」

漣子、ただ嬉々と

「でしょう、」

純、大いに目配せしては

「嘉織ちゃん漣子ちゃん、ここで釘刺されたら照れるから無しだよ、」

嘉織、ただこくりと

「分かるって、久住も純情だからな、」

漣子、嘉織に透かさず進み寄り、ぴしゃりと

「嘉織、だからそこよ、」尻をぱしと叩く

嘉織、うんざりと

「へい、」



純の漣子対策レクチャーで、漣子のスマッシュミス狙いに徹し、二セット目は久住が取り、卓球場はその番狂わせ大いに盛り上がる

そして折り返し三セット目、ここが分け目とばかり、互いに奇襲を捨て真っ向勝負へと突入、尚も続くデュース、凄まじいラリーの応酬 

“バン”、遂にピンポン球がネット直上で音を立て割れ、卓球台に転がり落ちる


嘉織、ただうんざりし

「あるよな、この手の頂上対決、どっちだ、誰が忍ばせた、正直に言いなよ、座興で済ませてやる、」

漣子、堪らず手を上げ

「今は私かな、つい乗っちゃたみたいね、」

久住、ふと

「いや、俺の斬撃も乗ったかもしれません、」

純、甲斐甲斐しくも、卓球台のピンポン球の破片を掃除しながら

「この破裂具合漣子ちゃんだね、久住さんだと斬り込み有る筈だからね、」

嘉織、ただ管を巻き

「漣子かよ、久住もびびりは卒業か、逆にその冷静さつまらないよ、それより漣子だ、ピンポンの球でも、人体だと致命傷だから、程々にしろよ、ここ幾らでも説教出来るから、その前に一言言えよ、」

漣子、尚も

「その為の訓練でしょう、久住カモン!」尚も煽りまくる

嘉織、漣子の手のピンポン玉を強引に奪い取っては、はきと

「こりないな、まだやるのかよ、漣子が開いた以上、もうお仕舞いだ、賞金はキャリーオーバー、明日頑張れ、」

漣子、ただ不遜に

「久住、ゆっくり休養しなさい、このまま良い勝負だと、全米さん本気出して掛かって来るわよ、覚悟しなさいね、」

久住、くすりと

「やはり、明日もですか、」

漣子、嬉々と

「その笑顔、良いね久住、良く聞きなさい、温泉、料理、卓球、これ階上幸或旅館の基本よ、思いっきり満喫しなさい、」

ただ巻き上がる、観客の歓喜の輪

純、ふと

「漣子ちゃん、うちの旅館良いとこもっとあるよ、勝手に絞らないの、もう、」

漣子、尚も

「純はいいから、久住はどんどんかかって来なさい、食物連鎖の頂点見せてやるわ、」

嘉織、ただうんざりと

「まあ、漣子らしい対処か、だろうね、」

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