第10話 2087年12月17日 青森県青森市八戸区階上村 階上幸或旅館 マッサージルーム

嘉織と純、一通りの巡回も終え、賑やかにも漸く帰省へと

帰省先である実家、階上幸或旅館は、階上海岸を暫定国道で挟んで小山の麓に立てられた、昭和の趣きの2階建て洋風旅館そのものもの、外向きの個室は太平洋側を見通せる眺望は鮮明に、そしてただ穏やかに



嘉織、奥まった一階離れの自らの部屋より廊下に居出ては、ただ溜息

「ふう、往年の雑誌集めたけど、結構手狭になってきたな、どうしよう、次の次で溢れそう、」

父階上順次、ただ気さくに寄っては

「おう、嘉織、たまに部屋の空気入れ替えるけど、雑誌結構集まってきたね、読まないなら土蔵に入れちゃうかい、」

嘉織、ふと

「いや、たまにクラシックカー見るしね、性能は大方調べておかないと、そう、土蔵じゃなくて、家族倉庫に押し込もうかな、」

順次、大仰に

「ああ、駄目駄目、家族倉庫は漣子ちゃんの衣装部屋になっちゃったよ、」

嘉織、ただ嘆いては

「漣子って、隣りの土産物屋が実家だろ、階上土産、いよいよ潰れたか、階上の名入りを潰すなよ、」

順次、とくとくと

「いや、ぎりぎりあるよ階上土産、それがね、敬治君が男気出して、傾いた問屋の保存食買い取っちゃって土産物屋がはみ出す一歩手前なんだよ、最近の保存食は10年越えとは言え、もはや荒れ地の日本国のどこでサバイバルするのかね、まあ、当分は売れないだろうね、」

嘉織、ただうんざりも

「でもさ階上土産、住めない事無いでしょう、兄妹二人なら睡眠は取れるでしょう、何やってんだ漣子、」

順次、くすりと

「漣子ちゃん、余興リーダーだろ、かなり多彩だから、歌い手衣装も引き出さないとね、」

嘉織、いそいそと二部屋隣りの家族倉庫へと進んでは扉を開き

「ふむ、確かに間も無く溢れそうけど、どんだけ衣装作ってきたんだよ、且つ、どれどれ、」ハンガーの衣装を手に取っては、はたと「って、渋っつ、」堪らず仰け反る

順次、ゆっくり頷いては

「そうだね、相変わらず昭和のアイドルまで網羅してるね、母さん手先に器用だから、ステージあると、新着を用意しちゃって、この一枚一枚本当壮観だよね、」

嘉織、目を丸くしながら

「これ、売れよ、いや母さんのでは真心こもって売れないし、いや、これもあれも、サイズ的にも小さい頃の伯母さんの手作りもあるか、はあ、絶対売れないか、やっと察した、」

順次、ふと

「第一ね、この壮観だけど、まずは漣子ちゃんのスタイル有りきでしょう、誰も肩も腰も入らないよ、」

嘉織、憤慨するも

「漣子はアイドルそのものか、何か負けた、まあ、見なかった事にしよう、」身近なハンガーにただしがみつく

順次、右手を嘉織の肩を優しく叩くと

「まあまあ、何せ漣子ちゃんだしね、食後のオンステージも好評だよ、最近は演歌かな、沁みるよね、石川さゆり7thの津軽海峡冬景色第二慕情、あれを生歌で歌われたら、もう涙腺崩壊、フェリー開港もあってお客さん大号泣だよ、」

嘉織、ぽつりと

「漣子どこで、ボイストレーニングしているんだよ、」



嘉織、ただ悶々と離れからの廊下伝いに、ふとマッサージルームに視線を送ると、厳つい外人が所狭しとマッサージ機のお世話に

嘉織、腕組みしたまま

「これって、佐治一派か、」目を見張っては視線を定める「おい、佐治、相変わらずいつもいるよな、旅館は下宿屋じゃないんだぞ、長くいるならアパート借りろよ、」

階上幸或旅館オリジナルスウェット姿の日米ハーフ顔の佐治、マッサージ機よりがばと

「これは嘉織さん、Nice to meet you.そこはいやはやですよ、アパート借りるにしても職業欄に私の職業、ハイこれですと書けないでしょう、」

嘉織、凛と

「全米海軍なら、幾らでも不動産屋さんに便宜を図れるだろう、いっそ買っちまえ不動産屋さん、いや村に不動産屋さん三件しかないから、セキュリティがどうのこうのになるな、でもな高齢でもあるし、何処かで引き継ぎのタイミングを南部会で話さないといけないか、」

佐治、ただ嬉々と

「はいはい、嘉織さん、全米海軍はそこまで無粋な真似はしません、青森は日本の本州の最北端ですよ、お隣のサンクトペテルブルク公国が睨みを利かせてます、非常に気まずくなります、」

嘉織、ただうんざりと

「睨みってな、青函トンネル、旧中華に備えたまま戦中からロックしたままだぞ、全米とサンクトペテルブルクの渦中に日本国を巻き添え食らわすなよ、いい加減にしろ、」

佐治、神妙に

「いやいや何を言われます、青函トンネルは定期的に海水抜くもの保守点検がままなりませんので敢えてそのままです、手付かずが原則です、そう、それこそ各自治体フェリーの出番です、津軽海峡の機雷は全て除去され、津軽半島の大間フェリーは無事運行されていますので日本国国民の生活に不便は無い筈です、最も、麦秋がその気になれば、一気に南進の船団を送り込めるのが悩みどころですね、ここ、近隣国全て巻き込み、牽制真っただ中ですね、」

嘉織、拳を固めては

「結局、制海権争いなのかよ、七面倒臭い、そのざっくりシュミレーションなんだよ、相変わらずキナ臭いよな全米海軍、大体さ、隣国のサンクトペテルブルク公国がその気なら、とっくに日本にPKOに送り込んでるだろ、いやむしろ来いよ、私だって本当一杯一杯だって、」

佐治、嘉織を見据えたまま

「そう通りですと、言いたいですが、全米海軍の総意上、表立ってサンクトペテルブルク公国にPKOを送り込まれたら地理的に隣接国に敵いません、不凍港の日本国は何時の時代になっても美味しいのですよ、全米も善意の上で太平洋警邏し、ただ牽制してはサンクトペテルブルク公国に遅れは取れませんよ、良いですか嘉織さん、上家衆のあなたが、暗にサンクトペテルブルク公国にHelp meしては、喜んで飛んで来ますので、ここは切に控えて頂きたいものです、はい、」

嘉織、またかとうんざり

「やれやれ、何度釘差されるやら、大国の思惑に板挟みで日本国は無法状態かよ、全米連邦御一行、それでも日本国に潜り込むとはね、佐治は全くさ、軍人の癖に口八丁で頭が痛いよ、考えてる事上書きされちゃって、一族従業員皆すっかり内輪の雰囲気か、もうさ、階上幸或旅館はいいから、他の旅館にも行けよ、なっつ、」

番頭姿の順次、通りがかりにふと立ち止まったまま

「嘉織、駄目駄目、何て事を、お馴染みさんに失礼だって、」

佐治、いみじくも涙袋をいじりながら

「順次さーん、かたじけない、そして嘉織さん、あまりに惨い、これはこれは寂しい限りです、すでに大家族の階上家と別れろと言われますか、まずはご縁浅からぬ喬爺さんにも拝まないといけません、ささ仏間に行きましょう、」ただ手を合わせては、


マッサージ室の全米海軍一行、手を合わせては佐治に続く


嘉織、通りすがる佐治の前に立ち塞がっては

「ちょっと待て、仏間にも入ってるのかよ、佐治、お前、」

佐治、ただ粛々と

「嘉織さん、それが何か、」

嘉織、ただ佐治を押しながら、一行もまとめて押し返す

「はあ、長過ぎるとそれか、もう分かった、ただプライベートの仏間は程々にして、ここでゆっくり寛いで、良いか、何もするなよ、」

佐治、上機嫌にも

「むむ、それは嘉織さん自らの定宿のお墨付きと言う事ですね、くう、」ただ涙を拭う


またもマッサージ室の全米海軍一行、佐治からもらい泣き


順次、不意に

「ああもう、何で皆泣くの、泣いちゃ湿っぽいよ、よし今日はカラオケ大会にしよう、景品は純審査委員長の目録で行こう、それね、」

嘉織、ただ目を覆う

「純の目録って何だよ、ああ、デートなのか、」

佐治、はきと

「まさか、滅相に有りません、フリーアーケードゲームのトーナメントカップ参加権です、正に純ちゃんは実に強い、強過ぎる、」

嘉織、大音声そのままに

「言語道断だ、対戦ゲームの仲良くの全くのそれ、定期的に純も巻き込むな、父さん、全米海軍、いや全米出禁だよ、良い、予約一切受けないでね、」


マッサージ室の全米海軍一行から、一斉に嗚咽が漏れる


順次、困り顔も

「嘉織、駄目駄目、良いかい、折角の常連さん手放しちゃ駄目だって、全米海軍さん行儀良いし、日本語のコミニュケーションも盤石、他のお客さんにも迷惑掛けてないよ、機嫌直しなって、」

嘉織、憮然と

「この階上幸或旅館に、普通の客来るのかよ、」

順次、思いも深く

「夏場の海水浴は満室だったよ、まあ、御新規さんも御馴染みさんも押し並べて礼儀良いし、所謂ファミリー的雰囲気に染まってのそれだね、日本国の旅館は正にこうあるべきだよね、」

佐治、こことぞばかりに

「そうです、真夏の東北は刹那です、共に謳歌すべきなのです、嘉織さん、来年の夏もビーチで盛り上がりましょう、純さんはきっちり私達が護衛に付きます、」

嘉織、ぶすっとしてが

「まあ、落とし所そこか、純が笑顔なら良いけど、」

順次、ご満悦に

「そうそう、海水浴場もこの調子なら、海の家も増やすべきかなって、町内会で話が盛り上がってるよ、」

嘉織、はきと

「それって、全米特需有りきでしょう、全くさ、」

佐治、尚も

「嘉織さん、ざっくりはいけません、そうです階上村は日々アメイジングそのもの、ご逝去された喬爺さんにも頼まれています、階上幸或旅館を定宿にと、ここかなり大切ですよ、」正にドヤ顔

嘉織、とくとくと

「そのアメイジングもさ、階上幸或旅館は卓球と花札と麻雀とフリーアーケードゲームしか遊興ないんだから、もっと階上村に金落とせよ、八戸の街に一杯飲みに行けよ、お金じゃんじゃん落とす所漏れ無く教えてるだろ、」

佐治、ただ嘆き

「いやいや、何を置いても階上幸或旅館です、朝昼晩、食事が美味しいのに、態々外で食べろとでも、嘉織さん、あなた、くー、」

嘉織、ただ怒り心頭に

「いいから、全従業員に気を使えよ、家族会議で都度都度メニュー考えるの大変なんだよ、それを美味しいで片付けるのは、そこ褒めてもな、毎度の完食、ご馳走様は有り難いが、接客業ならもっと感触欲しいだよ、分かれよ、」

佐治、ただ姿勢を正し

「これはこれはお礼が遅れました、大旦那さん、いつもいつもお付き合いありがとうございます、そしてお食事、実にマーベラスです、塩分の配慮も行き渡り即時対応も出来る訳です、この先も我々の為にご尽力頂ける様に、切にお願い申し上げます、」直角にお辞儀


マッサージ室の全米海軍一行、異様な程に同じ角度の直角にお辞儀


順次、堪らず一礼仕返しては

「いやいや、うちもね、困りに困った時はリクエストでレパートリー増えるから勉強になっていますから、ここはお互い様ってことで、ねえ佐治さん、」

佐治、透かさず順次を確とハグし

「大旦那さん、くー、」

嘉織、ただ呆れ顔で

「全く、佐治、一々要所で釘を刺さすよな、そっちの方面隊の評判を一方的に上げると、待機に入る連中が期待するだろう、」

佐治、ただグーサインを突き出しては

「階上幸或旅館、Good job!」

マッサージ室の全米海軍一行、皆揃っては

「Yws. Good job!」

嘉織、うんざりと

「もういい、はしゃぐな、一般客もいるんだぞ、」困りに困って、ただ右手を上げては

佐治、我れ先と嘉織にハイタッチ

「嘉織さん、長いお付き合い、お願いしますからね、」


嘉織とマッサージ室の全米海軍一行から始まり、ただハイタッチの波がマッサージルームを席巻する

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