第3話 2087年12月3日 静岡県静岡市岡崎区 岡崎晴朗高校 校庭
岡崎晴朗高校の校庭は、警察車両が細大漏らさずとばかり、ぐるり取り囲み、ただ緊迫の限りに
校舎からグランドへ、左足を引きずりながら出て来る男に向けてパトカーのサイレンが一斉に鳴り響く
安原、凍える息も漸くに
「うっつ、抜かったな、」
階上、パトカーの列から歩み寄っては、手を上げては拳を握ると、忽ち止む数多のサイレン
「おじさん、その左足に、右手、あと片肺もか、ご愁傷様だな、疑似神経通すより、義体が無難かな、どっちにしても、これ以上動くと筋が切れて、医療プリンターが不完全だぞ、そこから動くなよ、」
安原、観念してはへたり込み
「早いな、何故、ここを、」
階上、ただこくりと
「そこは、薄気味悪い拐かしらしきの全調書を隈無く読んでは、ぐるり警邏しての、不審車両見たらの、長年の感だね、まあトレースしての実証有りきだけどね、」
鯖折、歩み寄っては
「大体な、高校の周りに人一人いないのに疑問持たないのか、不気味に寒くて、皆公民館に集まってるぞ、」
御船、歩み寄っては
「ただ黙秘されても何ですから、ここはお話しましょう、ここ最近打ち上げた偵察衛星がありまして、この岡崎晴朗高校の気温がやたら低いのですよ、本来なら人肌で感知するのに、そのど真ん中の拐かし犯が油断して、この姿に成り果てると本末転倒ですかね、」口もへの字に
階上、とくとくと
「それ以前に、要救助者が家出の着替えも隠し持たずに、自宅から出た証言止まりなのが痛恨の極みだな、大方さ、生命維持装置使って、明日の大量の調理ゴミと一緒に出すなんて手間を掛け過ぎだ、いつまでその手が通用すると思ってる、東南アジアでの立件は既に54件だよ、皆即日終身刑なのに何故か口割らないんだよな、どう、今なら司法取引乗っちゃうけど、何か言いなよ、不甲斐ないおじさん、」
安原、ただ息も絶え絶えに
「はあ、あのがきは駄目だ、俺を連れて逃げろ、肺が凍るぞ、死ぬぞ、」
御船、ゆっくり屈み、安原を睨みつけては
「逃げろって、ある程度自白して貰わないと、動きようが有りませんよ、この場でがっつり証言貰えますよね、」
鯖折、何かに連れ、響く異音の方向を伺い
「派手だな、要救助者は中か、まあ、どう刺激したら、ここまで覚醒するんだよ、なあ、」
安原、ただ鬼の形相で
「逃げろ、連れてけ、逃げるんだ、」
階上、呆れ返っては
「逃げろも何も、大体だよ、なあ、戦前戦中のスーツケース型生命維持装置使ったんだろ、それさ、投薬しすぎて寝たきりの事例も有るのに、本当無茶しやがる、全く、隈無く回収の筈だけど、未だ持ってるのか、それもルート聞くからな、まあシリアル辿って七割しか回収出来てないのだからお宝にもなるか、」
安原、鬼気迫っては
「知らん、あのがき、化物だ、逃げるんだ、」
階上、機微に
「この冷気、まだ氷解しないか、ギフトの発露はこんなんだっけな、」
御船、触れる事無くただ安原を伺い
「いや、見る程に、これまずいですよ、見た目でも凄い凍傷になってます、このままでは低体温症で死にますよ、」
安原、ただ息も荒く
「莫大な金を使わず、死ねるか、幾ら欲しい、逃してくれ、後生だ、」
鯖折、堪らず踏み出しては、上から右ストレートを安原の顎にクリーンヒット
「暫く、眠ってろ、」
漸く沈黙する、目を剥いたままに、凍傷の深い安原
御船、立ち上がっては淡々と
「全く鯖折さん、被疑者かどうかも聞いてませんのに、」徐に安原近寄っては、背広を手繰り携帯電話を取り出す「やはり有りますね、携帯電話、宣うだけ金回りが良い様です、まあ、物証が無いよりましですかね、」
いきなり鈍い音“ドーーン”
校舎の玄関が爆発するも、そのまま大きな炸裂孔毎、氷河が軒並み落ちては冷気が放出、氷片が舞い上がる
その奥の人影と共に50cmの肥大化したリングが朧に光る
階上、余裕の繰り出しで
「うわやばそう、」左ポケットからリモコンを抜き出し十字ボタンを手際良く押すと、階上の赤いニュージュークが前面に回り込み防壁と化す
御船、目敏くニュージュークの影に身を潜めながら
「もう、車を盾なんて、階上さん、前にも『あなたの向こうで』を見ましたけど、何考えてるんですか、」
階上、ただ伺いながら
「さあね、ノープラン、規定量の薬剤流し込まれて、珠音の半覚醒のこの暴れっぷりか、器用にも永久結露、こりゃ、宇宙そのもの見ちゃうかもね、」手元のニュージュークのリモコンを左ポケットに仕舞いながらも
御船、凛と
「確かに、これでは近付いただけでも、肺が一瞬で破裂ですよ、困りましたね、」手元の虎徹を構える
鯖折、ニュージュークの盾より伺いながら
「いいか、ここまで来たら、全て放出させろ、それしかないんだろう階上、」
階上、伺いながら
「まあ、発露はそうなんだけどね、軽く捻るか、」
警官隊の一群、パトカー越しに一斉に支給されたニューナンブM60エレクトロ構えては
鯖折、立ち上がっては後方のパトカー群に、待ての大仰のサイン
「階上、これって、撃っては駄目だろ、」
階上、ただポケットに両手を突っ込んだまま
「駄目だね、面前の強者は、まだ未成年、警察側の調書に残す訳にいかないよ、」
御船、虎徹を両手に携えては
「本当に冷えて来ましたね、そして、この膠着状態、決着つくまで、私達生きてますかね、」
鯖折、溜め息も深く
「全く、本当に自覚していない袖付きは厄介だよ、聞きつけた報道と近隣住民は避難させたが、何れバレるぞ、」
階上、意を決し
「そこはそつがないね、鯖折、」右ポケットからごそと、既に何かのピンを抜き投擲
御船、唖然と軌跡を見ては
「何を投げたんですか、」
階上、防弾ガラスのウインドウ越しに軌道を見送り
「ありきたりの手榴弾、」
御船、鯖折の頭を押さえながら、ニュージュークに身体を隠しては
「いや、」
透かさず手榴弾の炸裂音も、手榴弾の爆裂が宙で氷結し、地表と繋がり、新たな氷河に成り果てる
階上、歯噛みしては
「たく、びびりも無しか、肝が座ってるよ、」
御船、声を荒げ
「当たり前です、日本国の高校生は手榴弾を知りません、階上さんは全く、」
階上、容易くも
「そうかな、国連体操の時間に教わってる筈じゃないの、」
鯖折、車体に身を隠しながら、ただうんざりにも
「階上、お前な、手榴弾って、それどこで売ってるんだよ、」
階上、懐から平和島クラブカードを差し出しては
「正規のルート、平和島だけど、問題無いでしょう、ちゃんと正門から入ってるけど、」
鯖折、歯噛みしては
「たく、平和島、いつか一纏めにしてやる、」
御船、不意に
「それも如何ですかね、市場原理が作用せず高性能品が出回りませんよ、」
階上、依然と正面を見据えたまま
「御船、正論、不良品買ってたら、命が足りないよ、」迷わず右ポケットから尚もごそと、手榴弾を二つ抜き、起用に同時にピンを抜いては二つ毎投擲
鯖折、尚もニュージュークに身を隠し
「階上、お前、」
御船、ニュージュークの防弾ガラス越しに移動し
「効きませんよね、」
またも手榴弾の立て続けの炸裂音も、手榴弾の爆裂が宙で氷結しては、忽ち二つの氷河が浮かび上がる
階上、したり顔も
「ビギナーズラックは、よく有る話だよ、まあ本物だね、珠音、」
鯖折、じりりと
「本物は分かったが、どうするんだよ、延々牽制かよ、」
階上、伺いながら
「珠音の所行、五行に因むとは報告書で読んだけど、水土か、京都じゃあるまいし、代替えの触媒無しでは、長期戦かな、」
鯖折、ただ白い息で
「その前に、俺等も凍死だって、どうするんだ、」
御船、不意に虎徹を上げては
「鯖折さん、警官隊まで下がって下さい、近付いて衝撃波で気絶させます、」
鯖折、溜息も深く
「全く、御船、各種配慮で調書に書けないんだから、五体満足で返すんだぞ、無茶するなよ、」下がりながら、ただ大仰に背後の警官隊に落ち着けの合図
御船、澄まし顔も
「もう、この前の乱戦の五指断裂は、拳銃持っていたからですよ、」
階上、アーミーコートのチャックを上げながら
「御船、この帳場、武士の押しでどうにかなるもんじゃないよ、大体成長期後半は、義体合わせが大変なんだよ、」
御船、凛と
「階上さんここは止む得ないところです、私も決して本意では有りませんので、何卒ご理解下さい、」
階上、転がる安原を無造作に蹴り上げては
「大体、元はこいつが拗らせたんだろ、この半分氷像は過剰防衛と言いたいところだけど、そこはギフトは情状酌量される、さて、その珠音も、これでも状況よく見てるから、事は荒立てないで良いから、御船、そのいけいけの戦意は絶対控えろよ、」
御船、意に介さず、沈黙した安原の首筋を触りながら
「階上さん、これ以上の負傷者は増やせません、しかし脈が低いですね、多分この悪党、ほぼ再生不能です、非常に困ります、この手の案件は悪辣弁護士が間に入りますから、被疑者自白不能で聴取出来ません、立件の術を断たれました、それであれば、この事態の根源である要救助者をどうにか捩じ伏せ、いち早く状況回復せねばなりません、調書に書けないならこの方法のみです、」刀を肩に凭れさせ、触れた手を取り出したハンカチで丹念に拭う
階上、御船の肩を叩いては
「あのね、だからこそのローマでしょう、全く御船は、何故か短気だね、いいからさ、全部洗い出すからな、」
御船、自らの手を摩りながら
「状況次第です、この冷気、来ますよね、」
階上、ただ両手を吐く息で温めては
「分かってるって、」
面前、黙って立ち尽くす珠音の肥大化したリングが青く鈍く光ると、珠音を中心に六角に隈無く伸びる氷柱、絶大な冷気が始まり風に乗ってはブリザードと化し、極寒冷気で堪らず校舎の全ガラス窓が弾け飛ぶ
校庭は忽ち極寒、しかし、ブリザードの霜が明らかに示す様に、強行なドーム状の何かがニュージュークを覆う
御船、階上の右手に注視しては
「これは、」
階上の右手に煌煌と灯るリング、事も無げに
「まあ、念動力、凍傷治療はしんどいしね、でも、うう、寒い、」ただ右腕をさする
御船、溜息も深く
「はあ、人徳者が、躊躇もせず手榴弾投げるんですね、」
階上、悪びれもせず
「感心は、後の打ち上げね、」
尚も降り注ぐ、ブリザードの中心には、低温治療カプセル着を着た珠音の御姿、六角の氷柱が伸びる程に凍てつくグランド
階上、不意に
「止めどないな、武士なら、このドーム越えて斬撃送れるでしょう、御船、ちょっとへたり込ませてよ、」
御船、軽やかに二歩下がり、透かさず抜刀
「慚、」上段から振り抜き斬撃を放つ
斬撃の行方は、寸分違わず珠音を強く弾き、後方に吹き飛んでは背中毎バウンドする
思念が途絶え、一旦のブリザードの停止の中、珠音、漸く深い息を吐きながら再び跪く
階上、慌てて右手を降ろすと、念動力のドームが消え、霜が一斉に降り注ぐ
「しゃっこい、御船さ、案外やるけどさ、ちょっと、珠音が頭打ったらどうするの、制御出来なくなったら、この高校越えて皆凍死だよ、」
御船、被った霜を払いながら凛と
「とは言え、下半身脱力する様に放ったのですが、手応えは夢遊病者みたいですよ、頭庇わないのですか、」
鯖折、ただ冷気の中、コートの襟を立てながら堪らずニュージュークに再び進み寄っては
「おい、御船の抜刀効かないのかよ、長期戦も視野に入れるなら、階上、例の陰陽師とかいないのかよ、」
御船、はきと
「鯖折さんは、後ろに下がって下さい凍傷になりますよ、」
階上、前方見据えたまま
「陰陽師ね、相変わらず京都は腰が重いから来ないよ、因みにご指名たる永遠は5年先まで予約で一杯だからな、決して横入りしようとするなよ、絶対揉めるぞ、土御門一門、絶対怒らせるな、」
御船、ふと我に返り
「うう、流石に寒いですよ、ドーム無しだと、こんなに寒いのですか、」
階上、ただアーミーコートを摩り
「まあな、雪国育ちじゃないならそれだよね、大風あると体感温度かなり下がるからね、因みに、私もかなり寒い、」
御船、逡巡しては
「何と言うべきか、珠音さん、手応えが、氷が分厚いカーテンなのか、匙加減出来ませんよね、そう言ってるうちに、皆凍傷ですか、いや凍死ですね、階上さん、高校敷地全体をドームに閉じ込めません、」
階上、ただ目を細め
「無茶言うね、それね、能力戦は北風と太陽、いや五行に通じるなら、今の珠音の方に分が有る、」はっとしては「いや、しゃーないな、霊脈に、亀裂入れるか、」
御船、目を皿にしては
「いや待って下さい、念動力と霊脈相まって、要救助者を真っ二つは駄目です、階上さん、私を止めましたよね、翻意ですか、これ全部揉み消すんですか。」
鯖折、困り顔で
「ちょっと待て階上、また大災害か、いや要救助者を絶対殺すな、例え不良でも悪人まで落ちてない、殺すな、この倫理分かってるよな、」
階上、凛と
「だからさ、御船に鯖折さ、心配するな、普通なら恐怖で黙るよ、まずは見て、」不意に凍った地面に直接右手を当て、透かさずに念を送り込むと、凍ったグランドのトラックの線が見る見る弾きとばされ暴発しては氷片が忽ち舞い上がる「辛うじて亀裂は入るか、いける、」
御船、気を整え
「これならば、助太刀します、」透かさず抜刀しては地面に刀を抉り込む
校庭のトラック丸ごと、階上の念動力と御船の斬気で捲り上がり、外気に触れては“バスバスバス”連続空中爆発
無意識の珠音、感に入り
「キャー」咄嗟に顔を伏せてグランドにひれ伏しては、やっと意識を失う、残留思念で六角紋様の氷柱が、珠音を繭上に包もうかもは疎か校庭が覆われて行こうかと
階上、目を丸くし
「やや、予定外、珠音、氷柱に包まれて行くよ、」
御船、ただ悩まし気に
「ああっと、どうしよう、あの雰囲気、眠ちゃったかな、階上さん、まずいですよ、」ただ腕を摩っては
鯖折、はきと
「階上、御船、要救助者の顔に怪我させたらどうするんだ、ここまでだ、もう引き上げよう、」
階上、面持ちを改め
「駄目だ、この氷柱の中で、珠音がまだ見えてる内が唯一の救いだ、本陣を見失っては、この先の対処の仕様が無い、」
御船、不意に天に手を翳しては、
「ブリザードは止んだけど、いや、まずいです、これ、上空からのみぞれですよ、」
階上、目を見張っては
「鯖折、説教は後だ、急ぐ、」
御船、戦々恐々に
「この先、どんな塊降って来るんですか、」
階上、左ポケットからリモコンを取り出しては
「とにかく珠音を叩き起こす、はあ、あれとはね、」ただ髪をくしゃりと
階上のリモコン操縦で、アイドリング中の赤いニュージュークのエンジンが唸っては、トラック真ん中を越え、六角紋様の氷柱の繭へと突進体当たり、忽ちニュージュークが霜に覆われるも、尚もアクセルが踏まれたままエンジンが最大の唸りを上げる
階上、見届けては
「今の内、パトカー群まで走って、」御船と鯖折の背中を押しては疾走
御船、一瞬振り返るも
「体当たりで割れる繭なのですか、」
鯖折、ただ必死に追いつこうかと
「行き当たりばったりは、好い加減にしろ、」
階上始め御船鯖折、疾走そのままに、やっとパトカー群に隠れては
階上、ただ声を張り
「皆聞いて、私は訳有りで守れない、兎に角伏せて、」右手のリングがまたも煌煌と光る
鯖折、続けて声を張り
「良いか、今は自分の命が優先だ、伏せろ、良いから伏せろ、」
階上、皆伏せたのを確認し、しずしずとリモコンの赤いボタンを押すと大爆音と大衝撃波
爆心地のニュージュークは勿論、校庭全面が大炎上、ただ天にはキノコ雲が伸び、正門直ぐに展開するパトカー群の足元にも火中が走り
鯖折、憤慨しながら、ただコートの火の粉を払っては
「ふざけるな階上、凍傷寸前の後は付け火か、うっかり火傷する所だったぞ、」
ジャケット姿の御船、ただ跳ね回っては火の粉を払い、長い髪を何度も確認
「熱い熱い、辛うじて大丈夫、でも襟元焼けてます、おお、髪はセーフですね、」ただ一息付く
階上、パトカー群の皆を見渡しては一安堵し
「大丈夫、スーパーナパームの液浴びなきゃ、大丈夫だって、びびるなよ、」
御船、漸く我に返り、消え去った氷柱群に愕然
「ああと、ちょっと待って下さい、珠音さんはあの氷柱の繭の中でしたよね、繭無いですよ、流石に焼け死んでますよね、これ、」
階上、右手のリングが漸く収め
「いや念動力のドーム展開しなかった分、念動力で珠音を全力庇った、漸く起きたかな、現に冷気も収まってるでしょう、」
御船、慌てて天に手を仰ぎ
「あっと、みぞれも、小雨に、」
階上、ただぼやいては
「全く、五行は国の宝と言うのに、もうちょっと優先保護上げなよ、不良は駄目なのか、なあ、将来はきっと善人だって、」
御船、口を尖らせては
「ですから、優先保護上げての今日です、私達復興省厚労部の派遣ですよ、ですけどね、本人が素行不良だと追いつけませんよ、」
階上、くしゃりと
「はあ、説教ね、そこから話すと長いんだろうな、珠音の性分だとさ、」
鯖折、ただ呆然と尚も燃え盛る、スーパーナパームの火柱を見つめては
「おい階上、最後の大爆炎、必要か、」
階上、とくとくと
「そこ、
鯖折、うんざり顔で
「元老安良神部会の一件は証拠も無いのに、復興省一括り云々は言うな、しかし階上、その割には、目が丸くなってるぞ、どうした、」
階上、深い溜め息付いてはスーパーナパームの火柱を見つめる
「スーパーナパームは計算だよ、ふー、でもな箸木、これ凝縮しすぎだろ、この勢い何だよ、」
御船、ただ目を細め
「階上さん、結局、計算外の武器を使用と言うか、いや自爆ですよね、向こう見ずと言うか何と言うか、」
階上、くすりともせず
「そこは、何度も言わせられるけど、これも結果オーライ、これ以上珠音が猛威を振るって、範囲広がっては近隣住民の肺が冷気爆裂したら責任取れるのかよ、言わせて貰うけど、復興省厚労部でもそんな数の人工臓器手配出来ないでしょう、」
御船、厳かに
「階上さん、無茶な陣頭指揮、ローマ参画政府に正式に抗議します、」
階上、粛々と
「御船、何所経由であろうと、弾劾は無回答、大体さ、誰に何を抗議するか分かって言ってるの、公な場では私でも面と向かって言えないよ、とは言え、愛車ポルシェでの指導はまたもは流石にね、ここ手加減してよね、」
御船、強ばったまま
「ああっと、
階上、にこりと
「はあ、そっちか、焦るね、なら、話は早い、」
鯖折、不意に苛立つも
「だからな、ローマ参画政府総務省人事局、何で葉村局長さんのそこで、いつも話が止まるんだよ、全く、こちらの日本国も立場上抗議しない訳行かないからな、覚悟しておけ、」
階上、こくりと
「まあね、葉村さんならok、そう、一件落着なら、珠音を見て帰るからな、後は宜しく、」
鯖折、はきと
「ちょっと待て、階上、せめて調書読んで、共同サインだけはしていけ、」
階上、凛と
「大丈夫、そもそも調書に珠音の発露は書かない事はリクエストしたろ、そこに至る拐かしの経緯も私抜きで如何様にも書き様があるでしょう、同様案件を扱う外局なら、任せたよ、」ただ歩みを前を進める
御船、ただ逡巡のままに
「あの鯖折さん、この流れの中で私達何かを忘れているような、そうですよね、」
鯖折、思い倦ねながら
「緑川さんへの報告は最後だ、後は銀行待機の後添いもそのまま確保して任意同行させる、いや、捕縛したお手伝いさんの事情聴取が先になるかな、」
御船、ふと
「それもそうなんですけど、拐かし犯の動機次第で罪状が軽くなっては困りますよ、」
鯖折、とくとくと
「確かに大江戸拘置所に打ち込んで極刑判決仰ぎたいが、そう証拠なら、御船が携帯電話回収しただろう、文科省に分析して貰う、いや、」見る見る目が吊り上がり
御船、同じく目が吊り上がり
「それです、ああ、」堪らず、氷結からぬかるんだ校庭を走り出す
鯖折御船、泥まみれのまま猛ダッシュのまま、半分氷柱から無惨にも焼けこげた泥に沈む無惨な塊へと辿り着く
鯖折、わなわなと
「ああっと、このこんがり具合、やってしまったか、階上、」
御船、宥めては
「鯖折さん、そこは、静岡町の大雹貫通被害迫ってましたからね、止む得ませんよ、」咄嗟に安原の首筋に手を当てては「えっつ、」目が点へと
鯖折、訝し気に
「まさかだろ、」
御船、ただあんぐりと
「これ、生きています、やせ細ってるのは瞬間冷凍で水分が飛んだのであって、表面こんがりなのはスーパーナパームの焼夷なのですね、」
鯖折、うんざりしては
「この生きてるミイラがしょっぴけるのは何時なんだよ、おい、」
御船、はきと
「そこは関東地方裁判所が生体延髄検証の許可が出れば、テキストに起こす事が可能ですよ、ただ、想像絶する痛みで、一生無口になる方もいるそうですけど、まあこの通りの状態なら、その痛みさえ分かりませんよね、そうです、一連の拐かし事件が解明されるかもしれません、」
不意に生きたミイラが嗚咽にならない声で、ただヘッドバンキングを起こす
御船、ただ目を剥き絶叫
「きゃー、気持ち悪い、」
鯖折、変わり果てた安原を確と見ては
「まあ、冷下地獄と灼熱地獄を味わっての、激痛地獄は嫌か、おい、嫌でもやるからな、とにかく児童拐かして何をしてるか、全部言うんだよ、」
生きたミイラが尚もヘッドバンキングしては、漸く乾いた涙が流れる
階上、スーパーナパームが未だ燃える間を擦り抜けては、ぬかるんだグランドを進み、氷河が溶けきり泥まみれになった珠音に辿り着く
階上、屈んでは、泥まみれの珠音の頭をハンカチで丹念に拭い終え、素に戻った珠音の手首を優しく握っては、目をゆっくりつむり
「今のこの循環、やはり初期衝動な訳か、まあ普通の生活は送れそうだね、」こくりと目を確と開く
泥まみれの珠音、素のままに
「ヒク、ヒク、」
階上、凛と
「珠音、その様子なら、もう分かったよね、無茶してないで、ちゃんと家に帰らないと、酷い目に合うからね、まあ、その家も諸問題あれど、やや解決かな、」
珠音、堰を切っては泣きじゃくり
「いや、きらい、だいきらい、」
階上、ただ嫌ともせず、丹念に珠音の泥を拭いながら
「まあ、寸でかな、強姦されたら、言葉も出ないしね、」珠音をふと優しく包み込む
珠音、堪らず前のめりにも
「あーん、」
階上、最大の頬笑みで
「こんなショック療法で敬虔になってもね、決して笑い話にならないよ、まあリングは当分出ないからいいけどさ、」珠音を抱き起こしては「しかし、最優先に珠音の保護なのに、あのキノコ雲で周辺警備で手が一杯か、ここさ、冷たいよね、小雨でも、12月だから風邪引くよ、さあ帰ろう、」身体を抱き起こしては自身のアーミージャケットを被せる
珠音、未だ涙も拭い、ふと宙を見上げては
「雪、」
階上、繁々と
「もうリングのそれじゃないよ、これ珠音のやや触媒だろうけど、そりゃあ、静岡県でも雪は降るよ、原爆大量投下でアジアの気候がどうにかなっちゃったんだからさ、」
珠音、未だ強ばったまま
「寒いね、」
階上、ただこくりと
「珠音、普通の感覚、大いに結構、とにかく毛布しかないだろうけど暖まろうか、そして当分教会泊まりだけど、心穏やかにね、家に帰るの結構先になるだろうけど、皆でクリスマス楽しんでな、」笑みで返す
珠音、ふと
「これはマリア様の御加護なのかな、」思いのまま十字を切る
階上、丹念に十字を切っては
「それは多いにあるけど、運命は見定めるのは先の事だよ、さあ、立てるよね、ホットミルクちゃんと貰わないと、凍えて眠れないって、」
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