第4話 2087年12月5日 静岡県静岡市浜松指定行政区 箸木オート 大工房
静岡県静岡市浜松指定行政区の一大アート工房の様相の箸木オート、大工房の内装は質素な漆喰そのままに、師走にも関わらず往年の名車と思しき10台がキャリアに収まっては、日々の箸木によるレストアへと
頑強なパイプ椅子に座った白いつなぎの階上、見かけは往年の真っ赤な日産ラシーンそのものの運転席からケーブルを伸ばしたタブレットのシュミレーターのイジケーターを見ては、翻筋斗打ち
「ふー、やっと、ドリフト出来た、日産グローバルの横浜本社から提供して貰ったラシーンマークツー、やたら繊細だろ、箸木、試運転中止正解、べこべこになっちゃうところだったよ、」
べたな箸木オートの名が入った作業キャップに白いつなぎの30代後半の箸木、キャリアでコルベットから取り外されたエンジンを受け取ってはゆっくり作業台に降ろし
「まあ、そこは新車だから出力が色々高い、現在の日本国の悪路にもかっちりはまらないといけないだろ、」
階上、タブレットを見つめてはジャイロセンサーのままに
「まあね、戦前の道路も毀れたままだし、チューブレスタイヤでさえも消耗するからね、新車の性能より道路の修繕が先じゃないかな、そうこれだよ、やっとぶれ減って道なりの快適さだよ、」
箸木、スパナで肩を叩きながら
「おいおい、全世界の人口が半分になって、原爆でくぼんだままの日本国に、道路の修繕が必要か、田中角栄だって、そんな事しないぞ、」
階上、タブレットを停止させては降ろし、神妙に
「田中角栄か、昭和の偉人も、第三次世界大戦の現実は予想だにしないか、」
箸木、手拭でグリースの付いた手を丁寧に拭いながら、進み出ては
「それで、シュミレーターは、どこ迄進んだ、」
階上、箸木にタブレットを翳し
「やっと、24ステージ、まだ1/4か、」
箸木、タブレットを覗き込んでは、履歴を見てこくり
「そうだろうな、階上の場合、クラッチが巧みだから、プリセットが馴染まない、まあ気長にやろう、」
階上、タブレットをスワイプしてはぴたりと
「まあね、やっとプリセットいじり倒したよ、パラメータの出力確認してるけど、どれが正解かな、」
箸木、ゆっくり頷き
「メモリセーブは5ブロックある、見極めてから消して行け、」
階上、脇のテーブルのノートをばんばん叩きながら、
「おかげさまで、もう124パターンだよ、姿勢制御4レイヤーあるのは頼もしいけど、こんなに必要か、自動制御の2レイヤーでも良くないかな、」
箸木、繁々と、テーブルのノートをぱらりと
「そういうな、そこのテクノロジーは日産グローバルの本懐だろ、階上は住居地区の仕事なんて少ないんだろ、持って来いじゃないのか、」
階上、タブレットのメモリセーブを見極めてはいみじくも
「そこはね、天上さんの口利きで、開発技術者の直指名まで入れてくれるのは嬉しいけどさ、まあいいや、今日はこれで一段落、やはり調整は浜松に来ないといけない訳だよね、」ただ破顔で
箸木、呆れながら、階上のノートをテーブルに戻し
「階上、納期厳禁はもう止めろよ、そのまま直営工場直渡しでも良かったのに、どうしても俺に預けるなよ、再調整車体だからって剥き出しのまま運ばれて、組み立てと次から次の調整で一ヶ月掛かり切りだったぞ、その上に、何故か懐かしい国連からの修繕指示って、出力の循環効率がかなり上がったの助かったが、まあ、くどい話はここまでにしておこう、あとは追々、このラシーンマークツーが反応するだろ、」
階上、タブレットを抱えては
「そうそう、出力マックス、エンジン良い唸りだよ、まあ、私としては使えないけど、これだけ汎用プリセットあれば世間一般には充分かな、そこからよく上書きしたよ私、そして、良くも立ち上げたよ箸木、褒められたいでしょう、」
箸木、うんざり顔も万感の思いで
「階上、その一言で片付けるな、この一ヶ月もほぼ寝ないでだ、一ヶ月もだぞ、それで結構な数の部品をダイヤモンド製鋼したし、請求書見て驚くなよ、」
階上、テーブルの上にタブレットを置いては、ラシーンマークツーでお色気ポーズ
「ふふ、それなら、このラシーンマークツーでデートする、静岡までの道なら悠々行けるよ、」
箸木、無造作に近寄っては、自分の作業キャップを階上に被せ
「冗談は止めてくれ、どうせ寸止めだろ、いいからシュミレーターのステージを満喫しては、俺をぐっすり寝かせろ、いや、アラートが出たら言ってくれ、部品を早めにダイヤモンド製鋼する、」
階上、箸木の作業キャップを後ろ手に被り直し
「なんか真面目だな、まあデートは、また今度な、そう、箸木の腕が良くて、本当嬉しいよ、これなら予定繰り上がるかな、でもさ、いつまで静岡普通空港スタンバイかな、青森帰りたいな、」ただ頬を膨らませる
箸木、くすりと
「止む得ずの長逗留は止むえんが、工房のゲストルームが多いからって、表札貼るなよ、これでも各オーナーが泊まるんだ、フルネームはあれだから、【かおり】の名前だけにしたぞ、」
階上、ゆっくり一礼しては
「それはどうも、でもそうかな、仮にもこの私で、箸木の名声上がるんじゃないの、なんせローマ所属だよ、上家衆だよ、」得意気に近づく
箸木、階上の頭を右手で押し止め
「階上のそれに嫌味は全く無いが、真似するオーナーいるから、一切匿名で結構だ、良いな、」
階上、箸木の右手を面白くもなく払い
「まあ、いちびりもいるわけか、」
箸木、くすりと
「それと、くれぐれも先の話だが、受領の際は俺のニュージュークと交換だからな、」
階上、ただわなわなと
「はは、それ、それね、ニュージュークは静岡で獣避けバンパーとフレームだけはしっかり残ってるよ、いやーさすが箸木、あれなら再生出来るよ、鯖折に言って運んで貰うから、そう、それね、それまで私が乗ってきた日産本社のニュージュークの貸与機の乗れよ、まあ物騒なの何も積んでないから、ただ軽いけどね、どう、」
箸木、頻りに首を横に振り
「つい酒の勢いで、リモコンの説明した俺がどうかしてるか、」
階上、嬉々と
「でも、状況はそれなんだよ、結局さ、チェーンガーンに迫撃砲等、あの冷下ならジャムって使えないって、それなら自爆のスーパーナパーム一択だって、」
箸木、溜息混じりに
「まあ、階上の報告書付きなら、横浜本社の社内精密部に貸与モニター車の直談判出来るか、ここ、きっちり50枚書けよ、」
階上、空読みしては
「まあ、珠音の五行に関しては、無理繰り冷下仕様云々で押し通すとして、ふむ、余裕で書けるね、いいよ、あとは本体性能テスト名目で、日産グローバルセンターに、件のニュージュークのフレーム差し出せば、貸与と言わず新車の話は通るでしょう、」
箸木、ただ呆れては
「なあ、階上、車に対して愛情あるのか、俺の真っ赤なニュージューク、あれでも共に死線潜ってきたんだぞ、まあな、階上が生きていれば良しとするか、」
階上、綻んでは
「ふふ、そこは愛情あるに決まってるでしょう、うんうん、新車新車、良い響き、良かったね箸木、またチューニング出来るよ、」ただハンドルを握る素振りで愉快にも「まあ、生きていれば良い事あるよね…って、」はたと手が止まる
箸木、白いつなぎの襟のファスナーを降ろしながら
「ああ、何度も言ってしまうな、8年前のバルカン半島の新ユーゴスラビア公共自由共和国建国直前での追撃戦、あのパルチザン達強烈に強かったな、あんな思いはもう結構だからな、」くしゃりと「いいか、そこ終ったら食事の前に風呂に入れよ、そのまま酒に呑まれてリビングで寝るのは好い加減寒いからな、」ただ踵を返す
階上、仁王立ちで
「箸木、聞けよ、今の私は殿でも死なないよ、身内も殺させやしない、絶対だ、この先もだからな、」
箸木、見つめたままにうんざりも
「階上、根拠の無い自信はもう結構だ、」
階上、尚も
「箸木、良いか、私を何からかと一纏めにするな、結果として、あの全滅寸前の国連の哨戒部隊で、箸木と私と生き延びたPKFの皆が脱出出来たのは、命を賭して哨戒部隊の行く先を散らした勇者がいたからこそだ、それをな、あっさり一言にまとめるな、いや、そうなんだよ、どうしてそんな事が出来るんだよ、私達より先ず自らの生命だろ、私以外の過信はもうこりごりだ、って、果てなく続く紛争の前では、私の力だってやはり微力過ぎるよ、何で争うんだよ、全く意味が分からないよ、」涙が滴り落ちる
箸木、手元の真っ新の手拭を無造作に投げ放ち
「階上、良いか、泣きながら酒飲むなよ、涙が器に混ざっては、酔いが早く回るぞ、」
階上、受け取った真っ新の手拭で、そのまま顔を拭っては
「いいから、今日は献杯だ、吞み明かすぞ、」
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