発露
第1話 2087年12月3日 静岡県静岡市岡崎区 緑川邸
日本国静岡県静岡市岡崎区、温暖地域もただ底冷えの連日、早朝の区内の緑川邸では、皆一様に厳しい顔が往来する
日本国の復興省厚労部の
「困りましたね、今時の誘拐で金銭も要求するなんて、緑川さん、何か怨恨でもあるんですか、よくお考え下さい、」
日本国の復興省厚労部主査、厳つい顔の
「緑川さん、この御時世に羽振りが良いですよね、儲かってる自らの会社の線は無いのですか、」
まるっきり小者の
「それは無いね、今時恨まれて商売出来る環境じゃないでしょう、丁重に対応はしているよ、」
御船、神妙にも
「やはり、お嬢さんの素行ですかね、大体がですよ、通ってる高校から来ていないと連絡入ったのに無視ですか、」
緑川、はきと
「
御船、ただ頭をもたげ
「全く、平行線ですね、それであれば、その珠音さんは、何所にいますか、」
鯖折、凛と
「緑川さん、お嬢さんの警察沙汰を幾度と無く、揉み消してますよね、ですがギフト故に厚労部の調書には残ってますよ、袖の下を無駄に使っていますね、それで、いつもとばかり初動が遅れたのは大いに反省して下さい、」
緑川、苦虫を潰しては
「全く戦後の警察は使えんな、いいか、それは言うな、珠音は卒業させたら、留学させて品行方正にさせる、それで良いだろう、」
御船、熱り立っては
「それで良いは無いですよ、はあ、困りましたね、娘さん、珠音さん、高校をついサボタージュ、気に入らないとすぐ物に当たる、果ては御愛想にも万引き、片親だとしつけも出来ないのですか、これ嫌味ですから、言い返して下さい、」
緑川、ただぞんざいに
「これは何かの誘導尋問かね、全くギフトの家系は、理解出来ない質問ばかりされて困るよ、」
鯖折、切に
「こちらとしても、親御さんに焦って感情露わにして頂かないと、交渉も進まないんですよ、良いのですか大切な娘さんですよね、」
緑川、不意に右手がしゃちこばるも
「私は努力をした、そう努力はしたよ、親としての責任もあと僅かだと言うのに、これなのかね、全く昔の警察はただ有能だと言うのに、君等もね、復興省厚労部の君達は有能なんだろ、良いかい、何とかしてくれ、」
御船、見据えたまま
「お言葉ですが、頻発する拐かしは絶対に帰って来ません、ですが今回の拐かしは現金も要求です、これは唯一のチャンスです、珠音さんを必ず救いましょう、その為にも何か思い起こして下さい、」
鯖折、ただ歯がゆく
「全く、拐かしもただの失踪扱いにするから、犯人も調子に乗るんだよ、調書は正しく上げろって、」
御船、ただ溜息も深く
「鯖折さん、とは言え児童の失踪は、日本国の貧困も相まって、年間8000人と右肩上がりです、初動で気付かなければ、精査に時間が掛かります、」
鯖折、ぎりと
「分かってる、その消えた児童は、一体どこにいるんだ、全く、」
緑川、こことぞ応接間の机を思いっきり叩き
「だからこそ通報しただろ、復興省厚労部、大体だ、型にはまった役人に何が出来る、とは言え、君達の国の直下指揮経由なら、金さえ積めば珠音は帰ってくるんだろ、相場を言いなさい、幾らでも出すよ、親なら出すよ、」
鯖折、ただ首を横に振り
「御船、言ってやれ、」
御船、緑川をただ見据え
「能力者、所謂
緑川、鼻高々に
「ふん、それを値切るのが君達だろう、」
鯖折、切に
「緑川さん、それも能力がBクラスまでのお話です、Aクラスともなるとそのまま話は流れます、」
緑川、憤っては
「待て、話が流れるなんて、」
御船、鬼気迫っては
「そうです、珠音さんはAクラス裁定です、拐かす以上、下調べは念を入れていますので今回の件余程の幸運なのですよ、それを値切るも何もなんて、そう、あなた親ですよね、毎度、珠音さんをダシに商談に引き合いに出すのも、本当如何ですよ、袖付きさんの家系は決して落ちぶれない、取引して何ら損は無い、どこに根拠があるのでしょうか、」
鯖折、見据えては
「緑川さん、あなたは非常に残念な人だ、我々は如何なる手段を取っても、珠音さんを連れ戻し、そのまま安全な組合に面倒を見て頂く、」
緑川、悪びれもせず
「ふん、ローマかい、それなら鼻も高いものだ、」
御船、たまらず前の男緑川のネクタイを掴み上げ
「あなた、親失格ですよ、分かってますか、ですが珠音さん奪還の為に、親としても責任は何としても履行して頂きます、良いですね、」そのままネクタイを離す
緑川、気負わずに、ネクタイを捩じり上げ
「ふん、そんな事分かってる、君達に言われる迄も無い、」
強烈な連打音“ピンポンピンポンピンポン”が家中に響き渡る
緑川家のお手伝いさん
「壊れているのかしら、」
両耳のイヤリングが大柄で、髪も跳ねまくり、アーミーコートの女性が、漸く魚眼レンズから親指を離し
「上がるね、ああ知ってるから、騒がないで、」急いで玄関のドアを閉めては、靴を揃え、勝手知ってるが如く応接間に進む
粉水、ただ冷や汗を拭っては
「誰ですか、困りますよ、困りますって、何を知ってるんですか、」
応接間に踏み込むアーミーコートの女性、頬笑んでは
「来ちゃった、」
ただ頭を抱える鯖折
「おお、お前が来たか、まあ頼むの部長しかいないよな、」
「当たり前だ、誘拐対策のリミットは古今東西72時間、出たっきりで何時間だ、24時間だよ、良いかな、高等学校の冬休みは明々後日だよ、冬休み前から名古屋に家出して大問題にするようなそのまま阿呆な娘じゃないだろ、対応がまるで遅いって、」
御船、目を丸くするも
「実に的確な状況判断、いやそうではなく、あなた誰ですか、こんな非常識、捜査の最中ですよ、」
階上、くすりとも
「名乗る前に、あなた達誰だっけ、」
鯖折、ただうんざりと
「おい、旧多摩ニュータウン全ドミノ倒し、ついこの前だろ、まあいい、復興省厚労部の鯖折だ、何度見せればいいんだ、」胸元の身分証明書を見せる
階上、身分証明書を掬い上げては
「顔パスなんて、こんな時代だ、30分で化けれるからな、はいok、」慇懃に鯖折の右手に戻す「でっ、そっちのお姉さんは、見せて、はい、」両手を差し出す
御船、胸元の身分証明書を差し出しては
「復興省厚労部の御船です、新規配属間も無いのでお見知り置き下さい、」
階上、両手で身分証明書を頂戴しては
「はいはい御船さん、成る程帯刀許可有り、表の駐車場のワゴンの後部席のタオルケットの下に隠した刀剣はそれね、全く押っ取り刀の日本国の部署で刀剣なんて使い道あるのかね、はいok、顔が女優顔なのが勿体無いけど、ねえ、」慇懃に御船の右手に戻す
御船、憤懣遣る方無く
「何か、無性に腹が立ちますね、」
階上、余裕の笑みで
「そうかな、私としては若い女性がこの日本国のお役人とは珍しいねって興味本位、なあ、どこかでヘマしたの、」
御船、たちまち不機嫌に
「余計なお世話ですよ、ふん、」
鯖折、取り繕っては
「御船、こいつ知ってて言ってるから、ちょいちょい乗ってやれ、」
階上、とくとくと
「
御船、両手で頭を抱え
「はあ、すっかり知られてますね、巻かれるも何も、そんなこと言われてもですよ、ネーデルランド連邦初会議でルクセンブルクにイニシアチブ取られた以上何も出来ません、立憲君主制の民主主義統治が実に妥当ですよ、市民あってこその民主主義です、」
階上、尚も
「浅いよ、御船、情報がまるで足りないね、騒乱の主導者達の調書ちゃんと目を通したの、まあそれも今更なんだけど、だからからかね、オランダの五郎八第一公女にあっさり人員整理されちゃうんだよ、そこは気兼ねなく頼りなよローマをさ、」
御船、ただ悩まし気に
「それは、ネーデルランド連邦三国は衛兵さんの歴史もあって…もう、本当よく知ってる、鯖折さん、何ですか、この方、」
鯖折、溜息も深く
「御船、構えるな、階上は八分の理はある、そう考えろ、」
階上、切に
「ベネルクス共立公国、響きが良いよね、折角の歴史的な共立公国だったのに、上手く立ち回れないなんて、お姉さん使えないね、ポルノはあれだけど、今からでも女優やりなよ、」
御船、拳を固めては震え
「うぐ、褒められてるのか何なのか、非常に悔しい、でも抜刀は、この日本国で遅れを取りませんからね、それです、」
階上、巻くし立てては
「それって、刀を抜いてこそでしょ、だったら常時手元に置きなって、」
御船、怒りも露わに
「今は誘拐事件の捜査中です、武士が被害者の家に堂々と入ったらまずいですよね、」
階上、ただうんざりと
「本当、甘いって、」
鯖折、切に
「御船もそう言うな、階上が出て来たからには、財務省公安部も引っ込んだか、即時解決を願う線とはな、袖付きの移籍は産み親の児童虐待が付き纏うから、まずは民事裁判に回されては困るの配慮か、確かに、毎度の民事判決で幸福権を言及されたら非常にまずいよな、」
階上、ただ満足顔で
「鯖折大いに結構、まあ公僕は少ないから、そんな所だね、この日本で誘拐の現行犯逮捕が1%を切るんじゃ、何所の部署もリソースは避けないよ、私が招集はかなり妥当、そう言う事、」
御船、はっとしては
「いや、何だろう、この胸騒ぎ、ちょっと、待って下さい、そう言えば、その、階上さんって…」声を失くす
階上、内ポケットから無造作にコーティングされたプレートを差し出す
「名乗るの遅れたかな、私はローマ
御船、ただ目を見張り
「うわっつ、階上さんって、どうしても、あの破壊魔、そうですよね鯖折さん、」
鯖折、ただ溜息も深く
「御船、それ、ドミノ倒しで触れたろ、一度は俺も叫びたいよ、」
階上、無造作にプレートを内ポケットに放り込み
「ちょっとさ、この現場で、ディスは無しだからね、日本国の改則憲法で未だ明文化された軍隊存在しない以上、マルチなネゴシエーターは必要でしょう、」
鯖折、ただ歯噛みで
「それ言うか、階上のネゴシエーターは腕に物言わすだろ、」
御船、応接机の上の携帯電話を取り
「鯖折さん、もっとまともなネゴシエーターに替えて貰う様に、仁科部長に連絡します、」
階上、不意に
「携帯電話の信号はちょっと待って、その前に、この音場具合、」大柄なイヤリング疑似のイヤーパッドを徐に外す「窓際の青磁の花瓶辺りかな、まずそこの高性能盗聴器壊して、あと迎えに出て来たお手伝いさん縛り上げてね、」
緑川、ただ驚天動地に
「まさか、粉水さんは先々代からの、お手伝いさんだぞ、冗談でも言うな、」
御船、ただ訝し気に
「そう、粉水さん、身元は普通の方でしたよ、」
階上、うんざり顔も
「まあね、日本国はパスポートは厳格なものの、戦後の混乱で未だに複合国籍のチェック甘いからね、御船はこの日本国の現状踏まえてのそのまま発言とは、本当甘いよ、そうこのお手伝いさん、ローマの認証に回したら、シンガポールとグレートティモールの複合国籍で口座もそれなりに潤ってるよ、なあ、日本のお手伝いさんって、そんなに儲かるものか、」
粉水、ただ腰が退けては
「人、人、人違いです、」
鯖折、窓際の青磁の花瓶を掲げては
「階上、高台の下に盗聴器有ったぞ、指紋取るか、」
階上、右手を翳し、首をゆっくり横に振ると
「いや、その前にこれ、」
刹那、青磁の花瓶は疎か、盗聴器にヒビが入り破壊
粉水、ただ悲鳴を上げては
「いやーー、」手元の用度机の引出しからS&WM36を取り上げる
御船、勢いそのまま、粉水のS&WM36の回転部を握りしめ、捩じり上げる
「粉水さん、あなたの心の臓砕かれるところでしたよ、」
引き攣ったまま卒倒する、粉水
「ひーーー、」
階上、ただお手上げの素振りも
「御船も、そこまでしないよ、だから刀剣は持っておけっていったろ、発砲しないと現行犯逮捕も出来ないだろ、公務執行妨害でどこまで引っ張り倒せるかね、」
御船、凛と
「ご指導承りました、あとは何としても自白させます、」卒倒する粉水をただ後ろ手に手錠を掛ける
階上、くしゃりと
「まあ終った事だし良いや、細かい罪状は各省庁渡って罪状貰うとして、とことん吐かせて、」
緑川、腰を抜かしたままで
「まさか、粉水さんが、いや、緑川親戚筋の失踪は、まさか、何て事だ、」
階上、事も無げに
「失踪ね、お察しの通り、拐かしが9分9里だね、お手伝いさん吐かせて、記憶を辿ってね、いや、そこからのガサ入れに手間取るよね、」
鯖折、淡々と
「階上、一気に掬う気かよ、お手伝いさんの過去の資料って、身上書一枚で何が分かるんだって、」
階上、偉丈夫にも
「そこは労は惜しまないの、緑川さんの社員全員もだよ、」
緑川、ただ目を丸くし
「社員って、社長の私は存分に給料渡してるぞ、」
階上、くしゃりと
「あのね、身代金の受け渡しを女子社員指定なんて、か弱そうだからじゃないからね、」
緑川、ただ憔悴しては
「嘘だろ、それは、」
階上、尚も
「ああ、後添いも大変だよな、だけどここで、生意気な継子も手続が面倒な財産分与も一掃出来る、逃す手は無いね、」
御船、凛と
「出ます、銀行での待機引き伸ばして来ます、」
鯖折、不意に
「いや、そこは待機の私服警官に言い含ませている、もっとも、俺としては、そっちが大穴だったがな、」
階上、凛と
「鯖折が基本、御船も帳場慣れてね、」
御船、ただ唖然としては
「凄い、階上さん、確かにネゴシエーターですね、」
階上、事も無げに
「これ当然の事だよ、私さ、かなり調べ上げた上で来てるんだよ、まあね、緑川一族何れも袖付きなら貴賓の慰みものになってないのが唯一の救いだろうけどさ、それで携帯電話ね、御船それ貸して、この辺でも衛星飛んでるものなんだね、」
御船、逡巡しては
「いや、指紋認証有りますし、貸せません、」
鯖折、凛と
「御船、良いから階上の好きにさせろ、取り合いになって分解されたら、調達課に怒鳴られるぞ、」
階上、不満顔も
「始末書に私の名前出すと、うっかり首だからね、操作出来ないなら、仁科部長に繋げて、今直ぐね、」
御船、憮然とするもワンタッチを呼び出し
「
階上、ただ嬉々と声を張り
「ねえ仁科部長、取り敢えず第一段階終了、罪状の書類は各省から掻き集めて、」
スピーカーモードの携帯電話から朗らかな声が響く
「(お見事、手際が良いね、階上君、)」
階上、悦に入っては
「当たり前でしょう、誘拐は身内全部洗わないと、ボロ出ないって、だからこそ案件こなすのが大変なんだけどさ、ちゃんと職員を教育しなって、」
緑川、ただ伏し目がちにぽつりと
「でも、そんな、粉川さんが、長らく緑川に勤めているんですよ、そんな怪しい素振りは、」
階上、鼻息も荒く
「あのね、緑川さんも、ビジネスとバカンスでヨーロッパ往復するなら、日本の窮状分かるでしょう、袖付きの児童一人売るだけで一発逆転なんだよ、そう、よくよく突き止めたら実の親が手引きしてが大半、その支度金と各国政府からの失踪手続補償金せしめるなんて、本当あくどいよ、」
緑川、ただ首を横に振り
「そんな、私は違う、」
階上、凛と
「そこは大概にね、あるんだよ現にさ、」不意に真顔にも「まあね、実の親の手引きなんて、家に怒鳴り込んだら雰囲気で察するんだけど、今日は結構微妙だね、ねえ、緑川さんも気落ちしないで、珠音、まだ出国してないから、頑張ろうよ、」
緑川の頬に涙が伝う
「ああ、だから私は、珠音を、珠音を、」口籠る
階上、緑川を見据えたまま
「良い、それは娘さんの多感期でも言うの、帰って来たら絶対言うの、気持ちを全部乗せてね、分かったね、」
緑川、声を荒げ
「分かってる、こんな別れ、許される筈が無い、」
不意に静まる、応接間
鯖折、切り出しては
「階上、それで、次はどうするんだ、」
階上、こことぞばかり
「ここからが詰めどころ、この自宅に連なる輸入会社、引いては貿易倉庫の取引業者の配送屋さんが怪しいね、怪しい各安の車検に入れてばかりいる業者がいる、」
緑川、首を振っては
「そんなの、こんな時代だぞ、コストカットしないと利益が削れる、」
階上、諭す様に
「それさ、当然碌な保険にも入ってないんだよ、事故起こしたらどうするの、丸損だよ、この時点からさ、知っててもそんな業者使うの、使いたく無いでしょう、」
緑川、ただ頭を掻いては
「それは…」
階上、切に
「それはじゃないの、大方、朝の配送で顔馴染みだろうから、送り迎えで押し込んでの今でしょう、」
緑川、手元のジャケットを持っては
「配送屋、片っ端から殴り込んでやる、」
階上、ただお手上げに
「残念ながら、開運通運は業務ワゴンそのままで、どこかに消えちゃったよ、錠前こじ開けて臨検したら、冷蔵庫もレトルトもカップ麺も買い溜め無いから、まあ正解だね、」深く息を吐き「大体ね、緑川さんさ、親なら性根を据えなよ、この瞬間にも固定電話が鳴ったら、どうするの、」
ただ固定電話を見つめる一同
鯖折、切に
「階上、第二段階全部聞こうか、ここまで身代金と引き換えの線がほぼ消えた以上、お前の案に乗るしかない、」
御船、こくりと
「そうです、階上さんに全部背負わせられません、珠音さん、必ず奪還しましょう、」
階上、凛と
「聞くも何も、次で詰むよ、いいね、鯖折、御船、しくじりは無しだよ、」
携帯電話のスピーカーより
「(士気が上がるね、続けて階上君、)」
階上、不意に溜息も
「でもさ仁科部長、厚労部も本当一苦労だよね、人材これなの、まあね、仕事のしがいがあるけど、」
御船、目を見張り
「ちょっと、これって何ですか、折角気持ちが乗ったのに、ローマは本当に歯に衣着せませんよね、」
鯖折、視線を送っては
「御船、集中しろ、今は奪還だ、」
携帯電話のスピーカーより
「(御船君、ここは素直に人に頼れるうちが花だよ、戦前の日本とは違うよ、)」
階上、大手に振り
「やれやれ、例えが古いね、まあそれも良き古の日本政府の名残なのかな、」
御船、目を見張っては
「いや、でも、仁科部長、鯖折さん、この人、階上さん、四年前に倉敷全壊させた人ですよ、三日三晩延焼ですよ、」
階上、ただ万感の思いで
「ああ、それね、武士なら寄合所経由か、何と言うか、やや事情あるんだけどね、」
鯖折、ただ体を掻きむしり
「おい、階上、それもか、ローマもどれだけもみ消すんだよ、」
階上、くしゃりと
「それ言っちゃうの、やだな、うわ刺さるな、あれは戦中のロシア貸与の特殊兵器の暴発だよ、まあ、カタログには流石に載せられないから、言えないし、箝口令だよ、ここで絶対言えるのは化学兵器じゃないから、土壌汚染は絶対無いからね、そう大丈夫、」
携帯電話のスピーカーより
「(御船君、倉敷は戦前に集めた武器庫が誘発しただけです、それだけですよ、皆良いね、)」
階上、ただ拍手しては
「仁科部長正論、大流行りだった劣化ウラン弾が無いのが奇跡だね、」
携帯電話のスピーカーより
「(戦中の日本はそこまで落ちてはいないよ、)」
階上、襟を正しては
「御船もさ、相手を責めるなら、資料にちゃんと目を通すべきだよ、倉敷は私だけじゃなくて
御船、携帯電話を持ったまま、つい後ずさる
「楠上さん、あの方も、上家衆、」
鯖折、ただうんざり顔で、
「全く今日は最悪だ、階上に楠上の名前まで、おいおい、お前等コンビは一切無しだ、そう、これだよ、日本国の武器庫何れも、日本国に関わらず他の国の官報に載せられるかよ、問い合わせされても法整備が整ってないの受け答えで逃げ回って正解だよ、」
階上、ただ真摯に
「全く役人はこれだ、まあ、それもそうなんだけど、上家衆は実に慎み深いんだよ、好い加減、日本国の武器庫の全リスト出しなよ、日本国の純正武器って、どこもかしこも二世代前の武器なんだから、悪い事しないって、全部出しきりなよ、」窓際へと移動しながら
御船、身を捩っては
「鯖折さん、乗らないで下さい、階上さん、言ってる事やってる事、こう、かなり感覚ずれてますよ、良いのかな乗って、」
階上、窓から見渡す隣家を隈無く目を配り
「不審な所は無いね、」ゆっくり振り返り「感覚云々なら、直感信じなよ、」
御船、逡巡するも
「えっつと直感、それ、
階上、はっとするも、我に返り
「やれやれ、堂上に振られた輩かい、堂上もさ、
御船、口を尖らすも
「振られたなんて、私は違いますよ、好きとか嫌いとか、堂上さんと米上さんの間に入れませんよ、」
階上、御船を身じろぎせず見つめたまま
「視線は正常、御船は違うか、さて、堂上も何処に姿くらましたやら、全く水臭いものだよ、セーフハウスならきっちり紹介するのにな、」
携帯電話のスピーカーより
「(階上君、堂上君のそれに嘘偽りないだろうね、米上君がまたも日参で悩みどころだよ、)」
階上、ただ憔悴の限り
「仁科部長、それは無いですよ、なんせ
御船、ふと
「そう、堂上さん米上さん、
階上、ゆっくり首を傾げては
「それさ、鯖折さ、米上押し掛けて官公庁の話題になってるんだろ、どれ程なの、堂上何でさぼり魔扱いなの、」
鯖折、理路整然も
「まあ、米上も皆隠してると思って、米上の馴染みの部署にしか問い詰めんよ、逆に階上なら知ってるだろう、実際そうなんだろ、」
階上、ただお手上げも
「いいや、知らないね、堂上は基本型破りだよ、この沈黙、きっと何かしでかす、」
携帯電話のスピーカーより
「(お話のところ済まないが、偵察衛星の結果出てるよ、スペクトル解析にくっきり、さすが階上君だね、珠音君は読み通りだよ、)」
階上、ゆっくり息を吐き
「まあ、この辺一帯なら、ブローカーも一般人の発想になりきってたら、どうしてもあそこなんだろうね、」
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