奇跡 -faraway-

判家悠久

戦渦

Prologue 2079年9月21日 クロアチア共和国 ザグレブ市 境界線

残暑真っただ中のクロアチア共和国ザグレブ市内を激走する、国連仕様の車両5台、先頭を疾する改修復刻された4ドアのポルシェ・パナメーラサポーター

しかし、後続のハンヴィーが交差点を期に一気に散開


往年のポルシェの疾走そのままに、助手席にて、せり出た補助スティックを握りしめる、迷彩服の階上嘉織はしかみかおり

「くそ、何で別れた、」思わず側面のドアを力任せに叩く

運転席の迷彩服の伊達男箸木はしき、ハンドル毎抜き出した前面コンソールを広げながらも甲斐甲斐しく

「いや、分散は或る程度の戦術だ、」

階上、憤懣遣る方無く

「ふざけるな、私を逃す為だろ、」

箸木、手を止める事無く、尚も

「気にするな、運が良ければ合流する、」

階上、中央のコンソールをばんと叩き

「箸木、詭弁もほどほどにしろ、SGPSはずっとぐるぐる回ってるだろ、このマップで、どうやって合流するんだよ、」

箸木、前面コンソールを持ち上げては、回路を見渡し

「国境紛争はそんなものだ、まあ、危険なリベラルも高性能なジャミング持ってるんだろ、PKFならミッションの対策の一つに入ってる、」

階上、不意にフロントガラスを注視しては「ああもう、どこもだ、だから、何で標識全部取っ払うんだよ、そんなに非常事態なのかよ、」

箸木、一通りのジャックを見ては

「当然の判断だ、観光がてら侵入されたら困る、」

階上、はきと

「この置かれた状況、私の為に、死ぬのか、なあ、」

箸木、辺り構わずコネクタを抜いては、ハンドル毎抜き出したコンソールにテスターを当てては消費電力確認

「怖いか、紛争、」

階上、ぽつりと 

「当たり前だ、アンダー40とは言え、まだ、ラテラノ大学の学生だぞ、」

箸木、電流確認の終ったコネクタを、次々手元のタブレットの変換コネクタ配列に慎重に刺しては、こくりと

「正常な判断、大いに結構だ、」

階上、ただ怒声のままに

「そうじゃない、何とかしろ、箸木、」

箸木、ただ一つ一つコネクタをタブレットに差しながらも

「今、やってる、兎に角公道通りに北に上がれ、間違っても路地に出るな、クロアチアの兵は屈強だ、侵攻見越して道が封鎖されていたらポルシェの快走が意味なくなる、」

階上、補助スティックをただ強く握りながら

「全く、時速320kmまでのメーターはあるけど、そこまでアクセルタッチ押せるかよ、いや、どこに行けば、良いんだよ、」

箸木、最後のコネクタで漸く展開、タブレットのメンテナンスキットアプリケーションの表示見ては、指でスクロール

「もう少し待て、やはりあるか、」

階上、一瞥しては向き直り

「何があるんだよ、」

箸木、中央コンソールのスタートボタンを長押ししては手を離し

「階上、SGPSの画面を、ちょっとだけ見ろ、」

階上、目を見張ったまま

「えっつ、復活したのか、」

箸木、タブレットのタイトルリストを見ながら

「いや、さすがは名車か、観光用の各年代の古地図がROMに入ってる、モニターに出てるのは景観そのままのミレニアムの地図だ、補助機能のジャイロコンパスの表示のままに、ザグレブ大聖堂に行け、クロアチアの一大拠点の筈だ、」

階上、確と

「カトリック教会、ザグレブ大聖堂か、今や拠点なんてな、」

箸木、凛と

「巡視で一回下がった事がある、屈強な連中が集結しつつある、」

階上、はっとしては

「待てよ、クロアチアがリベラルと組まない保証あるのかよ、」

箸木、止めどなく

「あるな、敬虔深い、」

階上、ただあんぐりと

「凄い一言だな、信じざるえないだろ、」

箸木、尚も

「敢えて言えば、階上嘉織がいるから味方だがな、」

階上、憮然と

「それ、意味不明だ、」

箸木、とくとくと

「言うか、赴いたバルカン半島で、階上のギフトは漏れ聞いている、一度は戦線を共にしたいものだろ、」

階上、言葉も少なく

「それが今日に至るか、そんな無茶してるかな、いや見て見ぬ振り出来ないし、」中央コンソールを見ては、巧みに補助スティックの運転も

箸木、訥に

「いいか、クロアチアの指揮はビシッチが取っている、絶対刺激させるな、そう、ビシッチは我慢出来ないんだよ、今日迄のボスニア・ヘルツェゴビナへの、パルチザンの大量流入に、リベラルの辻説法、日増しに小競り合いに至っては、いよいよの後衛からの侵攻だ、あのビシッチだ、国連の通達を無視して無茶しかねない、」

階上、ただうんざりも

「オスゴリラの噂は何となくな、つうか、道なり知ってるなら、箸木運転しろよ、」

箸木、膝元に広がる機器もそのままに

「俺は今これだ、それに、階上のドライブの方が上手だ、本当に数ヶ月に国際免許取ったばかりか、まあだが、俺の運転で死にたいのか、」

階上、只管うんざりと

「死にたいって、まだ来るのかよ、」

箸木、ゆっくり頷き

「セルビアの装備も武器商人からよくも集めたものだ、ユーロ諸国に考慮して全米とサンクトペテルブルクから漏れ無くだ、ボスニア・ヘルツェゴビナの制圧は夜半に決まるかもな、」

階上、うんざり顔も

「国連の大失態だな、」

箸木、神妙にも

「そこは止む得ない、PKFで言論統制は出来ない、早々に最後の切り札多国籍軍投入したら、再び民族浄化が起きる、過去の歴史を紐解いて手順を踏む連中だよ、リベラルは、」

階上、歯噛みしては

「リベラルなパルチザンって何だよ、まさかの選民思想あるのかよ、」

箸木、訥に

「首長のザイラス・ペトロビッチは温厚そのものだが、それ故に前線の兵は持て余すさ、その挙げ句の侵攻、悩ましい所だが、それも練られたシナリオかもな、」

階上、ジャイロコンパスのままに公道を進み

「だからさ、別件でも本件でも、あいつら全員逮捕すべきだったんだよ、一日中大音量で説法したら、どうにかなっちゃたろ、サラエボ、」

箸木、真摯に

「全員は無理だ、今のボスニア・ヘルツェゴビナはクロアチア寄りだ、評議会がどうにかしたいのはセルビアの煽動者達だ、」

階上、はきと

「リベラルが望む理想の楽園を、ペトロビッチに作れるのかよ、全く、まさかのバルカン半島は盲点ばかりだ、」

箸木、凛と

「それを言わすか、それがこれだよ、侵攻の上での休戦協定、西洋史の講義で学んでいるだろ、ある程度の最前線の暴走も考慮してこその線引きだよ、」

階上、ふと

「これが、歴史か、実戦なのか、」

箸木、確と

「階上、臆するな、正義が勝つと決まってる、」

階上、ただ補助スティックを強く握りながら

「それは、喬爺から散々聞かされたって、」


不意に、サラエボ市内より、静音プロペラ音と機関砲の銃声が重なり響き渡って行く


箸木、そそくさと運転席の前面コンソールのジャックにコネクタを繋げながら

「だから、来たろ、」

階上、歯噛みしながら

「全く、戦闘ヘリで掃討してからの地上部隊かよ、」



柵に柵を重ねたザグレブ大聖堂前の物見櫓は騒然、大聖堂に至る予防線鉄条網が、何かしらの力で次々吹き飛んで行く

何事かの事態に、ザグレブ大聖堂前広場の強固な非常門に集まるクロアチア兵、イタリア語がただ飛び交う

「Perché, è invaso!」

「Perché non preparare più recinti.」

「Non è così, tutti hanno creato una recinzione rigidamente.」

物見櫓から張り裂けんばかりの声が

「UN, Porsche der Vereinten Nationen wird kommen, UN Porsche?」

「No, mai, non sparare, è Hashikami kaori appartenente a Roma,」

「ssolutamente no, perché sei qui?」

オスゴリラ似のニール・ビシッチ、一際声を張り

「Ascolta attentamente, non lasciare mai che il liberale uccida assolutamente Hashikami kaori.」

ツーブロックも尾はそのままの武士、風雅ふうが

「Dopotutto, è una ragazza interessante.」

ビシッチ、くすりともせず

「Fūga,È il tuo turno di venire.」

風雅、余裕の笑みで

「Non c'è nessun problema, esco.」



銃創だらけのポルシェ・パナメーラサポーターが尚もタフに、外部スピーカーよりドイツ語で怒声省みず

「UN Hashikami kaori, öffne das Tor, sonst wirst du es mit PK brechen.」


ザグレブ大聖堂前広場前の重い非常門が、クロアチア兵全員の力を借りたとばかりに開かれると、同時に猛烈なドリフトで滑り込むポルシェ・パナメーラサポーター

堪らず助手席より飛び出す、階上

「Schließen Sie das Tor, Anti-aircraft defense, Apache D Hubschrauber kommt.」

風雅、階上の隣りを通っては「その戦士振り見せて貰った、任せろ、」そして一際声を張り「Ok, lasciala aperta, esco.」

ビシッチ、ただ切に

「Non potevo permettermelo.Fūga, prima del grande gioco, morirai.」

風雅、面差しもそのままに

「Bicicchi, è un contrattacco da qui.」

階上、堪らず追い縋ろうも

「あっとイタリア語か、英語ドイツ語以外はまだ苦手なんだよな、って、待てよ、その尾、武士なのか、行けるのか、」

風雅、にこりと

「ああ、見てなって、」ただ歩みを進める



上空の二機のアパッチD戦闘ヘリコプター、テールのローターの破損でふらつきやっとの姿勢制御も、ザグレブ大聖堂敷地内に漏れ無く迫るチェーンガンの雨霰

階上の念動力で吹き飛ばされた柵を辿ってきた風雅、意に介さず上空を見上げては

「もはやこれか、階上嘉織、噂に違わずか、良くも捩じ込む、」ゆっくり右手のリングが赤く灯っては抜刀「慚、」右手一本で本身軽やかに回しては円環、一手そして二手で確実に斬撃を放つ

揺れ動くアパッチD戦闘ヘリコプターが斬撃でテールローターが折れ、真っ逆さまに二機墜落


ザグレブ大聖堂前広場は透かさず勝鬨も、ふと我に帰るクロアチア兵、忽ちポルシェをぐるりと一斉に囲まれる


階上、強ばりながらも

「まずいまずい、箸木、やっぱりクロアチアも敵だよ、」

箸木、意に介さず

「視線辿れ、国連仕様のポルシェに大注目だ、」

ビシッチ興奮気味に、日本語も片言混じりに

「さすが、Hashikami kaori、ポルシェが専用車か、Che meraviglia.」ただ階上の肩ををばんばんと

階上、くしゃりと、

「何だ日本語行けるのか、まあね光準教皇も日本人だしね、ああ、その繋がりで、このポルシェ・パナメーラサポーターね、光準教皇にね、こんなにガレージにポルシェあったら一台貸してって言ったら、あっさり、ハニーokだよ、」


広場に不意にざわめきが増すも、日本語が堪能なクロアチア兵等が周囲に訳して行き、堪らずアメイジング

「Ooh,」一斉にかしずく一同


箸木、ふわりと

「廃車寸前のスーパーカーに祈られてもな、」

階上、ただ茫然とするも、我に返り

「はっつ、やべい、そう、銃創だらけだ、ぐあ、」ただ海老反り

箸木、尚も

「それもそうだが、そもそもポルシェ・パナメーラサポーターに国連仕様とこのマーキング、本当に塗装して良かったのか、」

階上、漸く愕然と

「えっつ、まさか、元に戻せないの、箸木さ、」

箸木、とくとくと

「そこは階上が次々オーダーしてくるから、この特別仕様だろ、まず地金の上にアンチパルスコーティングしてるから、研磨掛けて磨き落として再塗装か、仕上げた以上に時間掛かるな、それに光準教皇所有なら前方の電磁機関銃も降ろさないといけないし、そこのメンテナンスも板金からだな、いや、管制基板も入れたからその取り外しと適正バランスチェックもだな、だが階上、何で焦るんだ、」

階上、ただ青ざめながら

「まずいまずい、箸木、それ何とか出来ない、国連で使うなんて言ってないよ、そこだ、アンダー40の緊急招集会議からそのままボスニア・ヘルツェゴビナ入りだもの、光準教皇から、かなり詰められちゃうよ、もうさ、ここまで銃創酷いと、源さんにも経緯言えないよ、」

箸木、事も無げに

「階上も、現在国連に従軍しているなら、俺も作業報告書上げないといけない、ゆくゆくはローマにも上がるから、揉み消しようが無いぞ、」

階上、箸木に縋っては

「そこを何とか、出来るでしょう、箸木、ねえ、」

箸木、一息置いては

「無くは無いが、国連ユーロ支部のワルシャワのお膝元に、幾つか工房あるからリフト借りて、そこでポルシェ・パナメーラサポーターを借りてきた状態に戻したら、徴用しませんでしたで、今なら作業書に上書き出来るか、でもな、」

階上、忽ち綻び

「何だ、やれば出来るでしょう、でも、でもなって、」

箸木、神妙に迷彩服の腕ポケットから往年のポケコンを出しては、数字をこれでもかと叩く

「まあ、概算ではこれだ、」

階上、ポケコンの数字を数えては、首をゆっくり回し

「100万新円か、まあローマからの特別支度金あるし、まあ当分サバ缶をおかずになら行けるかな、」

箸木、溜息混じりに

「何言ってる、ニュードルに決まってるだろ、」透かさず*ボタンを押してはレート換算、ポケコンをただどんと翳す

階上、液晶の桁を数えては忽ちへたり込み

「2億、2億新円って、無理、って、新車の方が安いだろ、」

箸木、尚も

「いや、このポルシェ・パナメーラサポーターはシリアル001番のリミテッドモデルだ、二度と同じポルシェ・パナメーラサポーターは買えないからこれだ、仮にだが、運良く中古市場で探し当て、シリアル彫り起こしたら、俺がポルシェ本社に嫌われて部品譲って貰えないから、早まってのずるは止めておけ、」

階上、そのまま寝そべり

「なあ、お友達料金は無いのかよ、」

箸木、くすりともせず

「概算でこれだ、一旦算盤弾いた以上、余程じゃないと上乗せしないから、良心的にもこれだ、」神妙にも「階上、折角一命を取り留めたんだから、光準教皇にごめんさいしてからの国連の整備にしておけ、」

階上、そのまま泣きじゃくっては

「うん、そうする、」


いつのまに座の中心に風雅、階上と箸木の会話を頬笑みながらニュアンスそのままにイタリア語に丁寧に通訳しては、ただ座から笑いが連なり、堪らず回廊にまで笑い転がる者多く


風雅、ただ笑いを禁じ得ないビシッチにグッドサイン

「Bicicchi, wir haben gewonnen.」

ビシッチ、意気揚々にグッドサインで応じ

「Oh, die Bedingung des Sieges wird von der Front bestimmt, liberale Menschen können unser friedliches Land nicht nehmen.」

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