第25話

ディエゴに少し遅れて温泉を出るとすでにエルザが待っていた。

「遅いっ!」

 ミハイルを一喝したあと抱きついてきた。

「いつもより遅いんだもん。死んじゃったかと思った」

「んなわけないだろ。もう一人のやつが少し前に出てきたろ、聞かなかったのか」

「……。あの人、こわいもん。隠れちゃった」

 エリザはミハイルを見上げながら子犬のような瞳、何かを訴えているようだった。ミハイルはエリザの頭を軽く撫でると顔をくしゃくしゃにして笑顔になった。

 エリザの笑顔を見てミハイルはディエゴがどうして後、三時間と言った理由が分かった。

「暑苦しいから離れろ。帰るぞ」

 いつものようにぶっきらぼうに言うのが限界だった。それでもエリザは「うん!」と大きくうなずいていつものように、ミハイルの手を握った。小さく暖かい手はたった数日ではあるがミハイルの心に何かを植え込んだようだった。

 その後はいつものように、帰り道にある雑貨やで焼き菓子を買い家までの距離をのんびり歩いた。

 焼き菓子をほおばりながら、エリザはニコニコとミハイルに微笑みかける。

「今日ね、またおばさんに新しい料理教えてもらったんだ。お昼はそれにするね」

 傍目から見ればきっと仲の良い親子に見えるだろう。

「エリザ」

 ミハイルは立ち止まり大きく深呼吸をした。

 空には白い雲がゆったりと流れ、心地よい風が吹き抜けた。その風で木々が揺れざわめく。木々で羽を休めていた雀たちは揺れた木々から離れ、一斉に飛び始めた。遠くから子供たちの遊んでいる声が響いてきた。

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