第22話
ミハイルはその瞬間目を丸くし、ディエゴを見た。ディエゴが言ったことが全く信じられなかった。何かの冗談を言っているのではないか。しかし現にディエゴが冗談を言う雰囲気はない。ミハイルの困惑した表情で口を開いた。そして、自分も多頭竜に襲われた事を告げた。
ディエゴはて小さく含み笑いをした。
「まさかあなたもそうだったとは。これは予想外ですよ。話そうか迷っていたんですが、話してよかった」
「それでお前が見たのはどんな竜だったんだ」
「私のはおとぎ話そのまんまです。首がいくつもあれは多頭竜、っていうんでしたっけ」
「じゃあ全く同じってわけか。その話、他にしたか?」
「できるはずないでしょう、したとしても信じてもらえない」
「倒せたのか?」
「いえ、深手を負わすことはできましたが、逃げられましたね。あなたはどうなんですか」
「お前と全く同じだよ。追い払うのが精一杯だった」
ふと、あの時多頭竜に襲われたとき、密林からの粘っこい薄気味悪い視線のことを思い出した。師匠から授けられた大切な短剣。早くなんとか見つけないといけない。
「その包帯どうしたんだ」
「竜に引っかかれましてね。念のため包帯を巻いているんです」
ディエゴは先ほどのように全く表情を変えずに話す。嘘をついているようには見えなかった。それとも虚をつかれて戸惑っているのかもしれない。
ミハイルがどこか訝しい表情で見ていることにディエゴは気づいた。右腕に巻かれているある包帯を取った。
「何を疑っているのか分かりませんが、これで竜に引っかかれた傷だと信じてもらえますか」
右腕には深々と引っかかれた傷が生々しくあった。適度に太い右腕をえぐりとってしまいそうなほどに深い生傷はまだまだ完璧に治る見込みはないようだった。
「右腕の傷だけ見れば、きっとあなたの全身の傷より深いかもしれない。私が直々にこの温泉に来た理由の一つなんですよ」
「疑って悪かったな」
「納得していただいてよかったです。これで本題に入れる」
ディエゴは再び温泉の中に入り一回顔に湯をかけ拭いた後口を開いた。
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