第20話

「あの冷たい目をしたあいつか。どうりでお前と似て冷たい眼をしていた」

「ほめ言葉ととっておきましょう」

「オレが逆に隣国アリエルに入国しようとしていたらどうするんだ」


「いえ、それはないと考えていました。少なくとも、暁の稲妻はアリエルに土地勘はない。あなた方が取引しているのはファリスがほとんど。もちろん可能性はゼロではないので念のためアリエル国境にも部下を配置しておきましたけど」


「すべてお見通しだったわけだ。そこまで分かっていてどうしてここまで来るのに三日間もかかったんだ」

「それがこの件につながることにもなるんです。少し熱くなってきましたね」

 ディエゴは湯から半身だけ出て岩に座り口を開いた。


「組外の人に話すことではないので誠に言いにくいのですが――」

「その前にオレの質問に答えてもらおうか。まず本当にオレを襲ったのはお前の手のものじゃないんだな」


「違います。私はそんなことを命令した覚えはないです」

「そうか……」

 

 だったら一体誰が? いや、一番怪しいのはカルサス・テキーラ。あいつか? 


 そう思った瞬間、頭の中の血液が瞬間的に沸騰したような気がした。

 

あいつをぶち殺してやる! 

 

 ミハイルは立ち上がり、出入り口に向かおうと温泉から右足を出した。刹那、ミハイルの首筋に金属の冷たい感触が感じられた。

「てめぇ、いつの間に得物持っていた!」


「護衛のためですよ。もちろんあなたを守るためのものです。まだ私の用件を聞いていないでしょう。それからにしてもらいましょう」

 

 ディエゴの声は小さく冷たい。さらに威圧感と殺気が入り混じっていた。いつでも首に付けられている、短刀に力を入れられる感じだった。少なくとも周囲から仮に見られていても脅されているようには見えない。

 

 頭の中で燃え滾るような血液が瞬間的に冷めたのと同時にそれまで火照るように熱かった身体も冷めてきた。それでもこのまますぐにでも王都に行きたかった。しかし今のミハイルにディエゴを倒す力はない。

「どうしました。身体の冷えは回復を遅らせますよ」

 

 ミハイルはあきらめて右足を再び湯に身体を浸かった。心地よい熱さが急速に冷えた身体をいたわるかのようにだった。

 

湯煙の中よく見ると、ディエゴは薄い肌に近い腰ベルトを巻いてあった。なるほど湯煙の中一目見ただけでは気づくはずはない。

 

ディエゴは握っていた短剣を腰の後ろにあると思われる鞘に戻し、ミハイルの隣に入った。

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