第19話
少し白くにごっている湯にミハイルは右足から湯に触れた。ゆっくり身体を湯の中に沈めると昨日よりは痛みがないが、どこか心地よい痛みが全身を駆け巡った。大きく嘆息し、背後の岩に寄りかかる。
ミハイルが温泉入り少し数十秒後もたたないうちにディエゴがやってきた。湯煙の中、どことなく普通の人とは違う足音でディエゴがやってきたのがわかった。それでも確認のため振り返った。
ディエゴの身体を見た瞬間、ミハイルは度肝を抜かれた。長身で筋肉質なのは服を着ていたときから予想できていた。しかしミハイルが思っていた以上にバランスの良い太さと伸縮性のありそうな両腕についた筋肉。加えて綺麗に六つに割れている腹筋。全身には無駄なぜい肉というものは全くといってもいいほどなかった。鋼のような肉体とはまさにこのことだとミハイルは思った。
それ以上にミハイルが度肝を抜かれたのが、ディエゴの全身がまるで何かに斬られたかのような傷が全身にあるのだ。それに右腕に包帯を巻いてあった。こういう仕事をしていると全身に傷を持ったのを何人も見たことがあったが、ディエゴの傷は全てを凌駕していた。
ミハイルの視線に気づいたディエゴは「どうしましたか」と尋ねた。
「いや、なんでもない」
ミハイルが言葉を濁すと「なかなかどうして。いい露天風呂じゃないですか。隣に失礼します」隣に入ってきた。「いいお湯ですね。さすがかの将軍ドロレルが好んだという秘湯。身体が溶けてしまいそうじゃないですか」
「さて、先ほど話した別件の話に入るとしましょう」
「その前に聞きたいことがある」
ミハイルはディエゴに問いかけた。
「なんですか」
「どうしてオレがこの村にいることが分かったんだ」
「私の子飼いがあなたを見たと言っていたんですよ」
ミハイルは顔をしかめた。レノと一緒に歩いているときのことだろう。しかしレノと一緒のときは少なくとも完璧と言ってもいいくらいの女装をしていたし、男だと分かるような声を発していない。
ミハイルが首をひねっていると「覚えはないですか。あなたは女装をしていたらしいじゃないですか。でも一時的に帽子を脱いだときがあった。そのときですよ」
ミハイルの頭にあの国境の若い職員の顔が思い出された。
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