第18話
「本当に一緒に来るのか」
歩きながらミハイルはディエゴに話しかけた。エルザは子供らしくはしゃぎながら数メートル先を歩いている。道端に生えている草をいじったり飛んできた虫を捕まえようとしたり、ミハイルは遠目でエルザの様子を見ていた。
まさかこいつと一緒に温泉に入ることになるとは。王都にいたときは考えられなかった。団長が見たら何を思うだろうか。
雲ひとつない快晴だったがミハイルの心の中は土砂降りの雨だった。
「当たり前じゃないですか。この村に来て温泉入らないで帰るなんて考えられないです」
「お前この国の出身か」
「いえ。でも有名ですよ。ここの温泉は」
「ミハイル~!」
エルザが走りよってきて「先に行ってるね」
「ああ」
ミハイルが答えるときびすを返し少し遠くに見える温泉のある建物に向かって走っていった。気を利かしてくれたのだろうか。ふとミハイルは思ったが、そんなはずはないか。あの年齢でそれはないな。と考え直した。
「可愛いですね」
隣から柔和な声が聞こえてきた。
「子供好きなのか」
「ええ。これでも子供は好きなんです」
意外だな、反射的にディエゴを見た。柔和な何十人も人を殺してきた傭兵の目ではない。
「あの子はあなたの子ですか」
「違うに決まってるだろ」
「やっぱり」
「なんだ、そのやっぱりってどういう意味だ」
「深い意味はないですよ。ただあまりにあなたと似ていない」
「そりゃそうだ。オレが王都に帰る途中拾った子だからな」
「ほう。それはそれは。親御さんはどうしているんでしょうね」
「さあな。あそこだ、あの今にも崩れてしまいそうな建物だ」
ミハイルはもう数十メートルほど先の建物を指した。
「なかなか趣のある建物じゃないですか。歴史を感じます」
ディエゴの口調はどこか期待はずれだったような口調にミハイルは聞こえた。
「無理に来なくて構わないぞ」
「そんな事言ってないじゃないですか」
二人は建物の中に入り温泉の管理人に軽く頭を下げ脱衣所に入った。狭い脱衣所には人の気配はない。古びた籠の中に衣服を脱ぎミハイルはディエゴより先に温泉に入った。
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