第15話
ミハイルがミモラで生活し始めて三日ほどたった。レノはすべての段取りを手際よくしてくれ、貸家の確保に生活必需品等の買い物をすべて用意してくれていた。背中に背負った女児はレノが帰るまでに目覚めることはなく、レノはとても残念がった。
ミハイルと女児に日に三回は秘湯につかる事を指示し、午前、午後、そして夜と時間の指定までして電光石火のごとくカルーダに戻っていった。
それから数分後にタイミング悪く女児は目覚め、何事もなくミモラで生活している。
名前はエルザ。年齢は頭をひねっていたが、八歳くらいだと答えた。何かしらの原因で記憶を失っているのだろう。自分がどうして火傷をし、傷だらけになっていたのかは全く覚えていないという。さらにエルザは何かを隠しているかのようにミハイルには見えた。しかしここであまり激しく突っ込んで尋問しても仕方ないと思って聞かなかった。時期が来ればそのうち自分の元からいなくなる。
「ミハイルー。朝ごはんできたよ」
あわただしい足音と共にやってくる叫び声。
ベッドの中でだらだらと惰眠を貪るのが好きなミハイルにとっては地獄の一丁目に似たようなものだった。
どういうわけかエルザの朝は早い。ミハイルより数時間は早く起き、朝食を作った後、掃除をする。自分の年齢はあいまいで記憶のほうもほとんどないにも関わらず不思議なことに家事は完璧だった。あまりの完璧さにミハイルは初日から
ドン引きしたくらいだった。
「ほら! 早く起きて!」
毛布の上から身体をゆすった後、ベッドの近くの窓を全開に開けてくる。山の中独特ひんやりとした冷気がミハイルを襲う。
「寒い寒い。窓を閉めろ」
毛布の中に身体をうずめたミハイルがうめく様に言う。
「じゃあ早くおきて!」
「起きる、起きるから早くしろ」
ミハイルは毛布の中で丸まり再びゆっくり瞳を閉じようとした瞬間だった。たちまち毛布はめくれ、ミハイルの身体に冷風という名の矢が全身に刺さったようだった。
「てめぇ、何しやがる」
ベッドの上で猫のように丸まって震えながら叫ぶミハイルに、泣く子も黙るとされている暁の稲妻の幹部にはほど遠い。
「早く起きてねー。朝ごはん冷めちゃうから」
エルザはさっさと部屋を出て行ってしまった。
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