第13話
案内された部屋は、二人の警備員が休憩するとろなのだろう。古い簡単な机と椅子が置いてあるだけのごくごく小さな部屋だった。
「どうぞ」
若い職員が開けてくれたドアに軽く無言で一礼してから、部屋に入った。ゆっくりと若い職員は開いたドアを閉め「では帽子をとって頂けますか」口調は穏やかだったが、目の奥は笑ってはいなかった。
オレのことを確実に疑っている。
若い職員の瞳が怪しく光った、そんな気がミハイルにはした。肉食獣の標的になった草食獣の気持ちだった。なんとかやり過ごさないといけない。ミハイルはゆっくりとした動作で帽子のふちをつかみ、脱いだ。
数秒間ミハイルと職員の間に沈黙が走った。
ミハイルはにらみつけるように、若い職員を見つめた。浅黒い肌でほのかに茶色の眼球。よく見ると、見た目以上に実際は歳を取っているのではないだろうか。もしかしたら自分たちより年上なのかもしれない。
するとまだ若い職員は深々と頭を下げた。
「大変申し訳ありません。私の勘違いでございました」
ミハイルは大きく深呼吸を職員にばれないようにした。赤子のように泣き喚いている心臓も急速に収まりつつあった。
「どうも、私は疑ったらきりがない性格でして」
頭を上げた若い職員のどこかはにかんだような笑顔にミハイルは小さく首を振った。
「では先ほどの場所までお送りしましょう。お連れの方もご心配しているはずです」
先ほどのように若い職員がレノのいる場所までミハイルを先導した。先ほどの重かった全身はまるで羽が生えたかのように軽く感じ、レノがいる場所まであっという間に感じた。
「何もされなかったか」
戻ったとたんレノはミハイルを気遣った。背中におぶっている女児は何事もないように目をつぶったままだ。
ミハイルはかぶった帽子から小さくうなずいた。
「一安心だ。こんなことで友好国と戦争はしたくない」
「それはこちらも同じですよ」
若い職員は持っていた交通手形をミハイルに渡し「無事の帰郷を願っております」と笑顔で一言付け加えた。
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