第12話
どうするつもりだ。オレはファリスの通行手形なんて持ってないぞ。
「通行手形だって言われてるぞ」
レノはミハイルに向かって強い口調で言ってきた。隠れているフードからレノをにらみつけた。すぐにレノがささやいてきた。
「バッグの中に小さい布の袋があったろ、あれを出せ」
ミハイルは慌ててバッグの中に入っているいかにも女性が使っていそうな花柄の布製の袋を取り出し中を開けた。
思わず声を出そうとしてしまったが、寸前でとめることができた。
真新しい緑色の表紙にはファリスの国花、百合の絵が書かれてあった。
「どうしました?」
検問所の職員が不思議そうに尋ねてきたがミハイルは無言で通行手形を手渡した。
「すまんな。彼女仕事が終わって早く帰りたがっていたんだが、この行列で機嫌を損なってしまってな」
レノは不審に思っている検問所の職員に言い訳をしていた。検問所の職員は通行手形を確認し、再びもう一人の若い職員に渡す。若い職員は確認し判子を押そうとしたとき、髪の毛の少ない職員を呼んだ。二言三言耳打ちをした後、若い職員と一緒に申し訳なさそうにレノとミハイルに近づいてきた。
「すみません。念のためお嬢さんのかぶっている帽子を取ってもらえますか」
「おいおい。どうして彼女を疑うんだ。通行手形見ただろ」
「念のためです。おぞましい犯罪者が国外に出て行くのを防ぐにはこれしかないのです
どうかご協力お願いします。レノ・カーチェス少尉」
まだ若い職員はレノの恫喝にも近い言い方に臆することなく続ける。「こんなことで両国間の友好を壊したくないのです」
レノは舌打ちをした。
「いいだろう。しかし彼女はかなり有名人なんだ。それなりの対応をしてもらわないと両国間の友好に関わる」
「もちろんそのつもりです」
若い職員は冷静に答えた。「ではこちらへどうぞ」若い職員がミハイルを少し先にある個室に促す。ミハイルはレノの顔をちらと見る。
分かっているよな。
レノの声が聞こえたような気がした。
ミハイルは小さくうなずき、若い職員が促している方向へ歩き出した。背中と足に全身に重りをつけて歩いているようで一歩一歩がしんどく感じた。
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