第11話

 町の中に入り、ミハイルとレノは町の中には見向きもせずに検問所へと向かっているとレノが口を開いた。


「俺がカルーダに赴任してきた理由の一つが夕刻の聖騎士団なんだ」

 レノはミハイルの問いについてまるで聞こえなかったかのように違う話題に変えてきた。

きっと師匠のことは答えるまでもないのだろう。そう思いミハイルはレノにあえて突っ込むことはせずにロワの言ったことに答えた。


「ここはカルーダだぞ。夕刻の騎士団は関係ないじゃないか」

「魔獣の奏者は知っているだろう。夕刻の騎士団から派生した、いや下部組織だ」

「魔獣の奏者は数年前にカルーダに進出してきた、傭兵団だ。何を考えているのか分からん組織だ」

 

 検問所の中を歩いていた二人は突然不自然に並んでいる行列が見えてきた。一列に三、四十人ほどの人間が並んでいる。カルーダとファリスは同盟国で警備もどちらかと甘い部類に入る。そのためいつもならどんなに多く並んでも十人ほどだ。加えて入国者のチェックもすぐに終わる。ミハイルは全身を緊張という糸が巻きつけられ動けなくなったように感じた。

 

 最後尾に並ぶとすぐに男女のカップルの声が聞こえてきた。

「ねぇどうしてこんなに並んでるの? いつもほとんど素通りで大丈夫なのに」

 女の問いに男は答える。

「なんか王都で殺人事件があったらしくて国境沿いはすべてふさいだって聞いたぜ」

「えーなんか怖いね~。早く捕まらないかな」 

 前に並んでいるレノがささやいてきた

 分かっているな。

 

 ミハイルは小さくうなずいて、出来る限り顔が隠れるように下を向いた。

 まさかレノの言うとおりになるとはな。

 

 しかしそんな上手くいくだろうか。いや上手くいかないといけない。少しずつ進む行列に遅れないようにミハイルは歩みを進めた。

 やがて検問所の職員が見えてきた。 

 それから四、五十分ほどで二人の順番になった。

 

 検問所の職員は二人。二人ともカルーダ軍の軍服をまとっている。一人は狐目が特徴でレノとミハイルより少し上くらいでもう一人は髪の少ない四十前後の男だった。

 髪の毛の少ない職員がレノの顔を見て驚いた表情をした。

「少尉。どうしたんですか。それにその子、隠し子ですか」

「違うに決まってるだろ。後ろの彼女の子だ。カルーダで女友達とたまたま会ってな。ファリスに帰るのに女の一人旅は色々危険があるから送っていくことになったんだ」


「ははぁ。なるほど。でも少尉。本当に女友達ですか?」

「当然だ。ファリスで俺の帰り待ってる女がいるんだから、他の女には手を出さんよ」

 レノは微笑しながら得意げに答えた。

「だといいんですが。じゃあ念のため、二人の通行手形見せてもらえますか」


「おいおい顔パスじゃだめか」

「いつもなら大丈夫なのですが、王都のほうで重大犯罪がありまして、一応ファリスに入国する人には通行手形を見せてもらっているんですよ」

 髪の少ない職員はどこかいい難そうだった。


「もう少し詳しく教えてくれないか」

 レノは検問所の職員に自分の通行手形を渡し尋ねた。検問所の職員はもう一人の職員に手渡しし、確認しサインをしてレノに返した。髪の少ない職員は少なくなっている頭をかきながらレノに近づきささやいた。


「実は、殺人犯が国外に逃げようとしているんです」

「なるほど。そういうことか。しかし珍しいな。カルーダで殺人事件なんて」


「ええ。普段は殺人なんてない国なんですが……。じゃあそちらのお嬢さんみせてもらえますか」

 職員が通行手形を見せるように手を出してくる。 

 ミハイルは顔を伏せながら視線をレノに移した。

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