第7話

ミハイルの脳裏に懐かしい思い出が蘇ってきた。師匠の元で一緒に遊んだり学んだりした楽しかった鮮やかな記憶。

 ミハイルは肩を思い切り叩く。


「レノ! 久しぶりじゃないか。なんだよ軍服なんて着ちまってよ」

「仕事でファリス王国の大使館で武官として今日から赴任が決まってな。これから王都に向かうところだったんだが――ミハイル、お前何かやらかしたのか」

 低く警戒感がにじみ出ている声にミハイルは驚きを隠しつつ答えた。

「どういう意味だ」

 ミハイルは眉間にしわを寄せ聞き返した。


 レノはミハイルの表情からミハイルが全く知らないと感じ街道から少し外れたところにミハイルを連れ出した。王都の北にある国境での出来事を話した。そして一枚のビラをミハイルに渡した。粗悪な紙質でミハイルの似顔絵と罪状が書いてある。

 

 ミハイルはざわめく心を鎮めながらビラに目を落とした。ビラを読んだ瞬間、レノの目にも分かるくらいミハイルの表情はどんどんと怒りに変わっていくのがわかった。

「どういうことだ」

 ミハイルは搾り出すように言った後、ビラを投げ捨てレノの襟首をつかんだ。


「一体、どういうことなんだ! オレが団長を殺すわけねーだろ!」

「落ち着け。俺はこの国に着いたばかりなんだ、分かるわけないだろ」

 大きく深呼吸をした後、ミハイルはつかんでいた襟首を外し謝罪した。  

「王都は危険だ。すでに国境に情報が知れ渡っている」

 

 ミハイルにつかまれた襟首を直しながらレノは続ける。「ファリスとカルーダ王国は同盟国だ。カルーダの国境はそれなりに検問を張っているだろうが、俺は大使館つきの武官だ。怪しまれることはあない。国境から南にしばらく行くと村がある。そこでしばらく身を潜めれば大丈夫だ。それはそうと……この子お前の子か?」

 レノがミハイルの背中ですやすやと眠っている女児を指した。

「違う。こいつはさっき街道に落ちてた。単なるガキだ」

 ずり落ちそうになっていた女児を少し持ち上げ、ミハイルが言う。


「なるほど。だったら大丈夫かもしれん。というかお前もその子もすごい傷だな」

「まぁ色々あってな」

「とにかく、善は急げだ。そうだな、あそこに橋の下で待っていてくれ」

 レノは足早に王都に向かった。

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