第6話
首元に触れ脈を調べた。わずかばかりだが脈に動きがあったのを確認し、胸をなでおろす。女児は太ももや腕に小さな切り傷や火傷をしていて満身創痍だった。ただ、見たところ重傷のような傷はない。
きっとあの多頭竜から命からがら逃げてきたのだろう。仕方ない。王都まで連れて行ってやるか。
ミハイルは自分の背中に女児を乗せ、街道を歩きだした。背負った女児は小さい寝息を立てながらすやすやと眠っている。
アジェンダ―遺跡を離れると街道にはファリスからカルーダ、カルーダからファリスへと行きかう人々が多くなっていった。
ゆっくりと普段よりも数倍の時間をかけてようやく王都に到着しようとしたとき一人の茶色の軍服を着た人間とすれ違った。茶色の軍服を着ている。
この国の軍人ではない。どこだったか?
考えているうちにどこかで聞き覚えのあるような声にミハイルは足を止めた。
「お前、ミハイル・ドランコフだよな?」
ミハイルは声をかけられた男の顔を凝視した。身長はミハイルと同じくらいであろうか。
細身で目鼻立ちは深い。この周辺の人間とは思えないような彫りの深さだった。赤茶色した長い髪の毛を一つにまとめ、真っ青な二つの瞳がミハイルを見ている。
「やっぱりそうか! 俺だよ俺。レノだよ。レノ・カーチェス。お前が師匠のところを出て行ってから十年か。いろいろ二人でやらかしたからなあ。忘れたとはいわせねよ」
茶色の軍服を着た男は少し高めの声質で興奮を隠し切れないようだった
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