第3話

瞬間、信じられないような強風がミハイルに襲ってきた。しかも強風は横から吹いてくるものではなく、上空からだった。同時に聞いたことの無いような獣の咆哮にミハイルは吹き飛ばされないようにしながら空を見上げた。灰色の巨大物体が少しずつ降りてくる。

 

あれは一体なんだ……?

 

呆然と見つめるミハイルにゆっくりと悠然と巨大な物体はミハイルの前に降りた。灰色の巨体はミハイルの数十倍はあろうかと思われるほど大きく、加えて九つもの首がついている。十八もの赤い瞳の中から光る鋭い眼差しはミハイルを捕食するものだと認識するのに時間はかからなかった。さらに九つある首はそれぞれが意思を持っているかのように一つ一つが違う動きをし、威嚇している。

「なんなんだ! この化け物は!?」

 叫ぶと同時にミハイルは幼き頃聞いたおとぎ話に首のいくつもある多頭竜の存在がいたことを思い出す。勇敢な勇者たちが多頭竜を倒し、平和をもたらすという御伽噺。ミハイルは子供の時に何度も聞いた事をあるのを思い出した。

 

多頭竜の持つ圧倒的な威圧感と恐怖。ただの人間であるミハイルは何もすることができずに、ただただ、立ちすくむことしか出来なかった。思考回路も混乱し、依頼人のことなどすっかり頭から離れ逃亡という言葉が駆け巡ったときにはすでに遅かった。多頭竜はミハイルが背を向ける瞬間、行動を予期していたかのように素早くミハイルの背後に周りこんだ。

 ミハイルは必死の形相で逆方向である祭壇の方向へと疾走する。

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