第5話 ゾンビ

 ある映画館から続々と人が出てきた。皆、思い思いの顔をしながら友達や恋人と、今終わったばかりの映画について話している。


「今日の映画凄かったね」


「やっぱ、こっちにして正解だったね」


「しかし、今の映像技術は凄いね。CGとか本物みたいじゃん」


「そうそう。それにあのゾンビの特殊メイクとかね」


「あの腕がとれたとことか、どうやってあんなの撮ってるんだろうね」


 最新作のゾンビ映画を各々褒めていた。


 多くの映画ファンは昔からゾンビ映画を好んで見ていたが、そんな人たちには知られていない秘密があった。それは、この映画に限らず古くからあるゾンビ映画には全て本物の動く死体が使われていた。


 この事は映画界でもごく限られた人しか知らない。


 よく撮影中に不幸な事故で亡くなるスタントマンなどがいるが、表向きは普通に葬儀をあげて、裏ではその死体を古くから伝わる呪術で動くようにしていた。


 そんな事はつゆ知らず、多くの映画ファンは古くからあるゾンビ映画を楽しんでいた。


 もうすぐ完成間近の映画の撮影現場から声が聞こえてきた。


「ではゾンビ役の皆さん、一旦休憩してください」


 その声にゾンビたちは反応し、待機場所へとはけていった。


「しかし、最近の撮影はこたえるなあ」


「そうなんですか? 僕この映画がデビュー作なんで、よく分からないんですけど」


 最近ゾンビになりたての新入りゾンビが、先輩ゾンビたちと話している。


「おう。最近は走ったり武器を持たされたり、激しい動きを要求されて大変だぜ」


「だよなあ。そのぶん昔は良かったよなあ。今みたいに走るなんて事はなかったからな。ずーっとゆっくり動いていればいいんだから。かなり楽だったぜ」


「へーそうだったんですね」


 新入りゾンビが相づちを打つ。


「そうそう。それに今はアクションも派手になっているからな。俺なんて前の映画で腕をチェンソーで切り落とされたり、腹を爆弾で爆破させられたり本当死ぬかと思ったぜ」


「いや、死んでるから」


 ゾンビたちの会話は弾む。


「俺なんてこの前、最近デビューした若造の監督にぞんざいに扱われたから、お前に噛みついて俺みたいにしてやろうか、って怒鳴ったら、血相変えて謝って逃げて行きやがったぜ。あれは傑作だった」


「最近の若い奴らはゲームの影響か、ウイルスで感染すると思っているからな。噛みついたぐらいじゃゾンビになんてならないっつーの」


「違いねえ」


 ゾンビたちは一斉に笑った。


「ゾンビ役の皆さん。そろそろお願いします」


 スタッフが声をかける。


「じゃあまた、死んでくるか」


 待機場所から再び笑い声がこだました。

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