第4話 婚姻届
政府は困っていた。国の出生率が年々低くなっているからである。このままだと若者は少なくなり国が崩壊する恐れがあった。
首相は大臣に尋ねた。
「何でこんなに低いんだ?」
「若者が結婚しないからです」
「何で結婚しないんだ?」
「今の若者は結婚に夢や希望を持ちあわせてないようです。ましてや子供を産むなんてもってのほか、自分一人の生活だけで一杯一杯のようです」
大臣は手詰まりといった様子で質問に答えた。
会議は行き詰っていたが、一人の役人が首相に進言した。
「私にいい案があります。この法律を試しに施行してみてはいかかでしょうか?」
ある特別区に認定された区役所の住民課の職員は困っていた。政府が最近施行した婚姻に関する法律のせいである。その法律のせいで住民課の受付の前には毎日、長蛇の列ができていた。
その法律の内容とは、男女とも十六歳以上から婚姻が可能で、さらに婚姻相手は性別問わず好きな相手と何人でも婚姻が出来るようになっていた。一夫多妻制、一妻多夫制である。
これだけでも結構な内容だが、まだ続きがあった。
婚姻相手は性別問わず好きな相手とあるが、まさに文字通り。同性同士から家族同士、さらに飛躍して自分が飼ってるペットや自分が所有する車など、動物や無機物相手とでも婚姻が可能になっていた。
そんな法律のニュースが全国に流れると、唯一の特別区に認定された区役所には毎日、多くの人々が押し寄しよせるようになった。
住民課の職員は毎日、山のように積み上げられた婚姻届の前に悲鳴を上げていた。
ある職員は上司に向かってこう言った。
「何ですかこの状況は、普通の男女間の婚姻ならまだ許せますが、犬や猫、車やバイク、二次元のアニメのキャラって、もう物ですらないじゃないですか。こんな事毎日続けていたら我々の体がもちませんよ」
もうすでに何人かの職員はノイローゼにかかり休みを取っている。
「しかしなあ、この法律が施行してから、全国で結婚ブームが起きているようで政府としてももう少し続けて欲しいと言ってきてな……」
上司は自分の力ではどうしようもないというように首を横に振った。
しかし、職員の悩みとはよそに、何日たっても長蛇の列は減ることはなかった。住民課だけでなく区役所全体にも限界がきていた。
このままでは住民課の応援で手一杯で、部署の違う我々も、業務が立ち行かなくなってしまう。区役所の職員たちは嘆いていた。
そんな職員の声が届いたか、ようやく政府は重い腰を上げて、新たな法律を施行した。婚姻税の導入である。
元々は出生率を高くするために婚姻に関する法律を施行したが、物や動物相手の婚姻では、子供は産まれず出生率は高くならない。そのため子供を産むことが出来ない婚姻に関しては、新たに婚姻税という税金を取ることにした。
その法律が施行されると、やはり皆、税金を払うのは嫌なのか、区役所の前からはぱったりと人はいなくなった。
区役所の職員は大喜び。やっと解放された、ようやく普通の業務に戻れると、職員同士互いに労い喜びあった。
だが、しばらくするとまたしても区役所の前には長蛇の列が出来るようになっていた。
住民課をよく見ると、そこには大量の離婚届が積み上げられていた。
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