第3話 勝利の女神様
男はギャンブルにのめり込んでいた。毎月給料が出るたびにそれをカジノにつぎ込んでは浪費していた。
あるとき、みかねた親友が「もうやめたら」と心配し声をかけた。
男は幸いなことにまだ借金をするまでには至っていなかったが、このままじゃ時期にそうなってしまうと親友は考えていた。
しかし、男は聞く耳を持たなかった。
「どんだけ負けてると思ってるんだ、それを取り戻すまではやめれるか」
そう言って、男は親友の忠告を突っぱねた。
それじゃあ、と親友はよく当たると評判の占い師を男に紹介した。
男は最初のうちは断っていたが、親友のあまりのしつこさにとうとう折れてしまい、渋々その占い師のもとを訪ねた。
「何をみましょうか」
占い師が男に尋ねた。
「金運をみてくれ」
男は答える。
「金運は非常にいいです。このまま生活すればどんどんお金は貯まります」
「ギャンブルで勝てるってことか?」
男は喜んで占い師に聞いた。
「いえ、仕事の方が好調なのでギャンブルはほどほどにして、仕事の方にに精を出してみては?」
男は占い師の言葉に激怒した。
「そんな事を聞きにきたんじゃねえよ。そりゃあ仕事だけしてたら金は貯まるに決まってんだろ。当たり前のことを言うな。俺はギャンブルの勝ち方を聞きにきたんだ」
男は暴れ出し今にも占い師に手をだしそうな勢いだった。
身の危険を感じた占い師は男を落ち着かせようとした。
「分かりました。教えますから落ち着いて下さい」
男は静まり占い師の言葉に耳を傾けた。
「では、勝利の女神様というのはご存知ですか?」
「おう、テレビとかでよく聞くけどな。それがどうした」
「その勝利の女神様というのは本当にいると思いますか?」
「分からん。いるのか?」
「います」
占い師は自信満々にそう答えた。
男はキョトンとしているが、かまわず占い師は続けた。
「大抵の人間には見えませんが、確かにいます。それでは今からあなたにも見えるようにします」
そう言って占い師は男に向かって呪文のような言葉を唱え始めた。
ようやく終わったのか占い師が男に話しかける。
「これであなたにも見る事が出来るようになりました。どうしても勝ちたい時だけ目を瞑って勝利の女神様に勝たせてもらえるようお願いしなさい。もし願いが届いたのなら、後ろを振り向けば勝利の女神様が微笑んでいるでしょう。いいですか? 何度もは駄目ですよここぞという時だけです」
そう言って占いは終了した。男はとりあえず納得して帰った。
次の給料日、早速男は給料全額を持ってカジノに向かった。
男はスロットマシンの前で占い師の言うことを思い出し早速試してみた。
勝利の女神様お願いします、勝たせて下さい。男は心をこめてそう願った。そして、後ろを振り返る。
そこには、この世では見ることができないほど、あまりにも美しい女性が男に向かって微笑んでいた。
男は女神様に見惚れていたが、ふと我に返りスロットマシンを回した。
スロットマシンは決められた動きをするように画面に七を並べた。ジャックポットだった。男は大金を手にした。
男はすっかりいい気分になり調子に乗って高レートの遊戯に手を出し遊び始めた。
しかし、男にはギャンブルの才能が無いのか、徐々に持ち金を減らしていった。
男は何度か勝利の女神様を頼った。初めのうちは微笑んでいたがだんだんとその微笑みにも影が見られるようになった。男は熱くなっているのかそれに気づいてはいなかった。
とうとう男は大勝負にでた。これで勝ったら今までの負けがチャラになるというぐらいの金額を賭けた。もちろん勝利の女神様にお願いをしていた。後ろを見ると女神様も笑っている。
間違いない。これは勝った。男は確信していた。
運命の瞬間。ルーレットのボールが赤に入れば男の勝ち。しかし、無情にもボールは黒に入り男は負けた。
男は一文無しになり占い師のもとへやってきた。
「おい、嘘つきやろう。お前のせいで負けたじゃねえか。責任とれよ」
男は声を荒げている。
「確かに呪文は成功したと思うのですが、勝利の女神様は現れなかったのですか?」
「現れたぞ。俺が言いたいのはそこじゃない。あの女最後確かに笑っていやがったのに勝たせてくれなかったぞ」
「おかしいですね。もしかして何度もお願いしましたか?」
「あっ……」男は今になって忠告を思い出したのか言葉を失った。
「それじゃあ仕方ありません。何度もお願いされたら流石の勝利の女神様も、微笑みから苦笑いに変わりますよ」
男はこの日を境にギャンブルをやめた。勝利の女神様が微笑んでくれなかったらギャンブルなんて勝てるはずもないのだから。
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