第2話 万能石

 ある小学校の教室で授業が行われている。


「はーい、皆さん。今日は万能石の歴史について勉強したいと思います。それでは皆さんの万能石を見せて下さい」


 教師がそう言うと生徒たちは次々に左腕の袖をまくり上げた。生徒たちの左腕には赤く光る石が埋め込まれていた。もちろん教師の左腕にも。


「この万能石が発見されたのは今からちょうど五十年前になります。その年に世界中に多くの隕石が落ちてきました。その隕石を調べると見たこともない鉱石でできていました。それが、この万能石なのです」


 教師はもういいよという合図だして生徒たちに袖をなおさせた。


「では、なぜこの石が万能石と呼ばれているか説明しましょう」


 教師はそう言うと椅子に腰かけ説明を始めた。


「ある博士が偶然、病気で弱っている植物にこの石をくっつけたところ、たちまちその植物の病気が治りぐんぐんと成長していきました。それを見た博士は人間にも応用できないかと研究をつづけた結果、人間もその石の恩恵を受けることが出来るようになったのです。そこからはあっという間に世界中に広まり病気で亡くなる人はいなくなりました」


「先生、病気って何ですか?」


 生徒の一人が質問した。


「ああ、そうか。あなたたちはかかったことがなかったわね」


 そう言うと、教師は黒板に『びょうき』と書き病気の説明を始めた。


「……というのが病気です。分かりました?」


「はーい」という声が教室に響いた。


「少し話がそれましたが、さっきの続きから説明します」


 教師は再び説明を始めた。


「この万能石は病気を治すだけじゃないの。老化も抑えることができるの。今の最高齢の人が百六十歳ぐらいだから、人間の平均寿命もまだまだ伸びそうね。それに、食事から摂取していた栄養もこの石で賄えるから、好きなものだけ食べても問題ないわ。これが万能石と呼ばれている由縁です。分かりましたか?」


「はーい」という声が再び教室に響いた。


「最後になるけど、この万能石はまだ研究が続けられていて、とうとう動植物をコントロール出来るようになったの。これで、あらゆる動植物を信号一つで思いのままに操られるようになり、管理出来るようになったの」


「どういう事ですか?」


 生徒から質問がとんだ。


「つまり、動植物に万能石を埋め込んである信号を送ると、何でも言うことを聞くようになるの。それで動植物たちに生殖活動をさせて全体の数を増やしたり減らしたりする事ができるの。これで、これからは絶滅する動植物たちはいなくなるわ。それに、食用の動植物たちも常に最高の状態で食卓に並ぶから我々の生活もさらに良くなるでしょう」


 生徒たちは大好きなお肉がさらにおいしくなると知り喜んだ。


「それでは今日の授業はここまで。また明日ね」


 教師が時計の針を見てそう告げた。


 教室がざわざわと騒がしくなった。


 一人の生徒が声を出した。


「じゃあ、僕たちもコントロールされちゃうかもね」


 チャイムの音が小学校に響いた。

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