ショートケーキ(仮)
ジャック孟玩
第1話 Eポイント
男は困っていた。
「はあ、もうすぐか」
更新まじかのカードを見つめて頭を抱えている。それもそのはず、本来なら貯まっているはずのEポイントが規定の数値まで届いていないからである。
「毎日やれば貯まっていたのになあ」
男はさっきからこんな調子で嘆いている。ちなみに、Eポイントというのは、人工知能が定めたノルマである。
男が住んでるこの国は何でも人工知能が決めていた。政治、経済、法律といったものまで。なぜならこの国の人々は働かなくなっていたからである。
今から数十年前までは人々も働いていたのだが、人工知能の発達により身近な仕事からだんだんと、人工知能を搭載した機械が人々の代わりをするようになっていき、今では機械の整備を機械が行うという時代になっていた。
車の運転は当たり前、料理もボタン一つでものの数秒で自宅に届く。農業も工業も医療も何から何まで全部機械が行っていた。立法、行政、司法も、人間よりも人工知能の方がまともに物事を決められるという理由でそこから人はいなくなった。
今、この国で働いている人間は一人もいない。働かなくても何不自由なく好き勝手に生活できるからである。そうなると、お金というものが無くなり、お金が無くなると格差も無くなり、格差も無くなると、誰も人を妬まず、羨まず、犯罪も無くなっていった。
人々は平和で安全な毎日を過ごしていたが、人工知能がそれに待ったをかけた。
このままじゃ、この国の人々は駄目になる。何も考えずただぐうたら毎日を過ごしている。まるで人間に飼われているペットのようだ。仮にも我々を作った神様のような存在だ。それをペットと同じようにするのは駄目だ。少しでも何かさせないと。
そういって始められたのがEポイントである。
これは、人工知能が定めた仕事に応じて、ポイントがカードに貯まっていくのである。例えば近くの公園を掃除する、一ポイント。困っている人を助ける、十ポイント。犯罪者を捕まえる、五十ポイント。といった具合である。
それを期日までに決められた数値まで貯めないと、この国での生活に適応不可とされ、国外に強制退去されてしまうのである。
男はカードを見つめて後悔していたが、吹っ切れたように立ち上がった。
やっぱり、こんな制度おかしい。何で我々人間が作った人工知能に我々の生活まで手出しされなきゃならないんだ。
男はそう思うと、人々が多く集まる場所へ行き、思いのたけをぶちまけた。
最初はまばらだった聴衆も、時間がたつにつれて多くなってきた。
騒ぎを聞きつけたのか、都市をパトロールしている機械がそれを止めにきた。
「これ以上はやめなさい。Eポイントは我々が定めた法律です。それに意見する事は認められていません。直ちにやめて下さい」
男はやめなかった。周りの聴衆も熱くなっている。
「やめなさい。これ以上は犯罪行為にあたります。ただちに演説をやめて下さい」
機械も男の近くまで集まってきた。
「うるせえ、機械のくせに人間様に盾突くんじゃねえよ」
そういって、男はついに機械に攻撃を加え、機械を壊してしまった。
周りの聴衆から歓声が上がる。今日一番の盛り上がりだった。
やっぱり、皆、我慢してたんじゃないか。人工知能に決められるこんな生活間違っている。Eポイントなんて制度一日でも早く無くしてやる。
男は周りの聴衆の反応に感銘を受けて、感慨にひたっている。
周りの聴衆が我先にと、男に群がってきた。
やった、今日から俺がヒーローだ。俺が皆を導いてやる。
男はもみくちゃにされていた。訳も分からず動けなかったが、聴衆の声だけは耳に入ってきた。
「俺が捕まえたんだぞ」
「いや、私がよ」
「滅多にでない犯罪者だ」
「こいつを捕まえればしばらくはEポイントを貯めなくて済むぜ」
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