第16話 結婚願望

「海を見ながら、食事っていいね~」

「うん、そうだね……」

(めっちゃグレーな海だけどね……)


 最近は、少しずつではあるが、御飯を食べるようになっている彼女である。

 頑張っているのであろう。

 注文前に、アレコレと尋ねるのは相変わらずだ……。

「このステーキとこのステーキでは、どっちが匂いがキツイですか?」

「今日のジェラートってなんですか?」

(長いんだよね……納得するまでが……)


 そもそも、今日は逢う予定では無かったのだ。


 急で悪いんだけど、明日食事行ける?

 いや、土曜日出勤だから日曜日は休みたいんだけど

 なんで?休みだよ!土曜日の夜じゃないよ!日曜日だよ!

 翌日仕事だし、早めに寝たいんだけど……ゴメン。

 日曜日!早く帰るから!何時に帰りたい?


 とにかく納得させるのが大変なのである。

 で……納得させられずに今日は食事に行くことになったのだ。

(安月給なんだよ~)


「お肉もういいの?」

「2切れ食べた」

(和牛も形無しの発言だよ…)

「最近、ごはんも食べるようにしてる~」

「そうだね」

「見ててくれてる?」

「うん、解ってるよ」

「うん♪」


「デザート我慢してる~」

「えっ?」

「我慢してるでしょ!2個しか頼んでない!」

「うん…」

(我慢なんだな……ほっとけば食うんだな、もっと…)


 5,600円也……。


「あんまり美味しく無かったね~」

「言ったよね、ココは高いうえにマズイって」

「1度来てみたかった~、これて良かった」

「うん、あのさ~食事に付き合ってくれる人、誰か探してくれないかな?」

「う~ん…」

「それで、美味しかった店を紹介してくれない」


(財布に優しい彼女になっていただきたいものだ)


 海が好きな彼女に合わせ海岸通りを走ってみる。

(今日は静かだな)

「あのさ~、コンビニ寄ってもらっていい?タバコとジュース買いたい…あと、お腹痛い…」

(だから静かだったのか……デザート食い過ぎだと思うんだよね~)


「スカート…トイレの床に付けちゃった……洗ったけど…冷たい……」

(トイレでアタフタしたんだろうな~、アクシデントに弱そうだもんな~)


「桜雪ちゃんの気持ちが解ったね!()」


「便秘と下痢って同時にくるよね~」

「便秘と下痢は同時にこないよね」

「なんで、便秘の後、すぐ下痢になるよ」

「便秘の時は出ないじゃん、下痢は出っ放しじゃん、同時ってどうゆうこと?」

「だから~、便秘が続くと下痢に変わるじゃん!」

「だから…同時じゃないじゃん」

「うん?」

(まぁ、伝わってないな……真剣にする話でもないけど)


「あのさ~、桜雪ちゃんはさ~結婚願望ないじゃん」

「まあね、無いね」

「うん」

「彼女ちゃんはあるの?」

「うん、あるよ」

「意外だね」

「あるよ」

「子供とか産みたいとか」

「うん、子供…でも産んでも育てられなそう」

(うん…なんか解る)

「彼女ちゃんと結婚したら、大変そうだね~苦労しそう」

「結婚願望無い人に言われたくない!」

(うん…ごもっとも)


「本当に金の掛かるだよ」

「金の掛かる子猫?」

「うん、しばらくは贅沢出来ないからね」

「ふたりでゆっくり考えようね」

(なにを…?)

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