第13話 1週間ぶり
国道を移動すること3時間、移動距離およそ85Km。
逢えない期間も長かったが、逢いに行く距離も長い。
週末の混雑も手伝い、いつもより時間が掛かってしまった。
「アパートの前、着いたよ」
電話すると
「今、出るね~」
いつもの間延びしたような声としゃべりかた。
助手席のドアが開き、可愛い顔が覗く。
(随分、久しぶりな気がする……1週間でしかないのだが)
「まずは、ケーキを取りに行く~」
(あぁ、コレは変わってないんだな~)
そこから車で20分、随分遠い店を見つけたもんだ。
例の5個買いだ。
(ここも、変わらないんだね……)
「ここから、街に戻るにはどうしたらいいんですか~」
(知らんのかい!)
「シュークリーム、はい」
「うん」
運転中の私の口元に彼女が運ぶ、ガタン車が揺れた、あわや顔面クリームまみれの事態である。
「ウフフフ、危なかったね~、シュークリーム、もう一口食べる?でもクリームは私が食べるからココね」
(シューの部分だけなのね、食っていいのは……)
「モンブラン、ボロボロこぼれる……イライラする……」
(車で食うからだろうな~)
「で、中華なんだっけ?今日は」
「うん、何年も前から行ってみたかったの」
「アパートから歩いてこれるよね」
「歩いてはこれない~、でも近いかな?」
(歩けるね、絶対歩いて来れるよね)
「ずっと来たかったんです~、この店」
「そうなんですか、ありがとうございます」
(そんなに来たかったんだ……来れば良かったんじゃないかな~)
「3年前から来たかったの~」
(3年、寝かせた意味は……)
「中華というか、飲茶と点心だね」
「うん」
「写真に載ってたの、マンゴーかき氷とそぼろごはん食べたい」
「あと、このアイスとカニシューマイと……乗るかな?テーブル寄せますか?」
「あっ、乗り切らなかったら寄せますね」
(点心で満漢全席気分?)
まぁ普通でした。
だいぶ日本よりに味付けしてるような気がした。
「美味しかった?」
「うん、まぁ」
「そうだね~、でも、もう行かなくてもいいかも~」
「満足した?」
「うん」
「スーパー行く」
「ドラッグストア行く」
(ドラッグストア?)
「胃薬買う」
「この前のもう飲んだの?」
「全部じゃないよ……まだ少しある」
「毎日飲んでるの?」
「毎日じゃない……ちょっと減ってきただけ」
「前よりケーキは食べたい!食べたい!って思わなくなったよ」
「そうなの?」
「食べれないことはないけど」
(食べるなよ!)
「まだ、行きたい店もあるし~」
「なんか、ケーキ食べるってより本に載ってる店を制覇したいってほうが強くない?」
「そんなことないけど~……そうなのかな?手帳に書いてあるの、行った店と感想」
「なんか昨日は変だった~、肉!肉!って1日中考えてたよ」
(どこぞの海賊漫画か?)
「なんか腹が痛い……」
「なんで~?」
「食べ過ぎだよ、あのさ、2人で食事しても、ほぼ俺が食うじゃない」
「う~ん、でもデザートはちゃんと食べるよ」
「デザートはいいんだ、俺、興味ないから」
「アレも食べたい、コレも食べたいって頼んで、一口食べて満足するじゃない」
「今日はごはん、2口食べた!」
「うん、1人前食べよう、結果、俺2人前食うから、逢う度に腹痛になるんだよ」
「スタバ行く」
「戻るの?効率悪いよ!」
「うん、ごめん」
「混んでるね……」
「こんなもんだよ、週末だもん」
「なんでコーヒー飲むために並ぶんだ?」
「フラペチーノは美味しいよ、豆は解らんけど……」
「アレだろ、スタバでコーヒー飲んでる自分が好きなんだろ?」
「どうだろうね」
(430円のために、なぜここまで待つんだ……)
「おいしい~!」
(高い以前に、並んでまで飲むものなんだろうか?)
「海見たい~」
(豪雨注意報でてるけど……)
「行かなくてよかったね~海、行ってたら今頃、濡れてたね」
起床8時、14時出発……23時……ほぼ運転しっぱなし……。
「疲れた~……疲れたよね~、ごめんね、付き合わせて」
(この先、俺は何を得て、何を失うのだろうか?)
「ステーキとハンバーグどっち好き?ステーキここに食べに行きたい……行ったことある?あるの?美味しかった、行くのが大変なの?じゃあ止めとく?」
(昨日は肉ばっかじゃなくて、今も肉ばっかだね……)
「ちょっと、定休日調べてみよ……木曜日だって……前聞いたら、水曜日だった気がする……何食べたの?美味しかった?有名なんでしょ?」
(コレ、食わせるまで言うな……)
1度決めたことは、完遂しないと気持ち悪い人なのだ。
「摂食障害だと思うんだよ~自覚はあるんだよ……」
(困ったなぁ~、治す気が無いんだよな~)
DVDを観ていると
「ほら、いいこと言ったよ」
「何?巻き戻して聞く~」
『薬はね、一時的に改善されたと思っても、本質的には自分の身体から治さなければ繰り返すばかりなんだよ』
「ほら?」
「……耳が痛いね~……」
で、漢方を流し込む彼女である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます