前口上は大事?
「初めましてかな。ボクの名前は『
語りだす少年は声も高く、銀髪でなければ街に普通に見かけそうな子供だった。
逆に言えば、これだけの事をしでかしてそこまで『普通』なのが何とも言えない。そう、コイツが何をしたかというと――
「秋絵ちゃんと恵子ちゃんに催眠かけて色々イイ事しようとしたんでしょう! お姉さんは許しません! とっとと二人をあたしに渡しなさい! あ、いう事を聞かせる方法を教えてくれてからね!」
「ぶれませんねえ」
あたしの悲痛な叫びに、クララさんがどこか呆れるような声を出す。
「ああ、それが君の願いなんだね。いいよ」
「わーい!」
「その代わり、ボクのいう事を聞いてもらうよ。ああ大丈夫。あの二人は返してあげるから。僕が呼んだ時に手伝ってくれれば――」
「あたしは男のいう事は聞かない!」
「……そういう問題じゃ……ない……」
セッちんにツッコまれて、ヤツの会話が終了する。まあ実際の所、話し合うことなど何もない。
「この大村神社のレネゲイトビーイングか。鎮守であるあなた自身の
「決まってるよ。この土地の発展と守護だ」
P266の問いかけに、さも当然とばかりに応える『解放者』。なにそれ? 意外とまともな答え。っていうかそれと二人をジャーム化させようとしていることと関係あるの?
「力に目覚めたとき、ボクはこの街の人間が力に虐げられることのないようにするにはどうすればいいか。それを考えていた。
結論はすぐに出たよ。この街の人達全てが力に目覚めたのなら、力に虐げられることはない、と」
「まさか、この高密度のレネゲイト空間を町中に広げるつもりか!?」
「その通り! そうすることでこの街の人間が強くなる。この土地を守る神として、これほどの発展はないよ!」
……うわー。そう来たかー。確かに住人皆ジャームならオーヴァードに虐げられることはないわな。うん、理には適ってる。
「成程。
「それってUGNの理念的にはどーなの? ある意味一般人との争いはなくなるわよ」
「大反対だ。急激にオーヴァードが増えれば大混乱が起きる。それがジャームならなおのことだ」
「ジャームの攻撃を沢山受けることができるのも悪くないのですが……。やはり愛がありませんわ」
「……ジャーム同士で……殺しあうのが、オチ……」
あたしの問いかけにUGNズは反対の意向を示す。うん、それはあたしも同意だ。
「そうね。あたし、そこの二人がこんな目にあってあたふたしたもん。それが町中規模とかならなおの事ね。町中で殺し合わせるとか、それでもちん……ちん……」
「鎮守、だ」
「亜紀子さんが男性器のような言葉を口走る日が来るとは。……感動のあまり、何かに目覚めそうですわ!」
「うるさいわね、男の名前は覚える気がないの! あとクララさんはそれ以上目覚めちゃだめだから!」
「……かお……赤いよ……恥ずかしい、の?」
「とにかく、街を守る神様としてその思考はイクない!」
セッちんのツッコミを強引に無視して、あたしは『解放者』を指差す。
そんな言葉に意外なことに嬉しそうに頷き、『解放者』は笑った。
「うんうん。そうだね。急激な改革は余計ないざこざを生む。有史以来、人間が行ってきたことだ。そればボクも見てきたよ」
お? もしかしてこのまま説得できそう?
「だからこそ、少しぐらいいざこざを起こしてもすぐに人間は復活できることも知っているよ。
何せボクはこの街の人達を信じているから」
はい駄目でしたー。まあ、期待はしていなかったけど。
こうなると殴ってどうこうするしかない。まああたしの目的はこの『解放者』じゃなくて、後ろの二人になるんだけど。
あたし達の戦意を察したのか、『解放者』も力を解放していく。圧倒的な濃度のレネゲイトウィルスの風。それがあたし達の体内のレネゲイトウィルスを活性化させていく。
「大丈夫、キミたちの願いも聞いてあげるよ。何せボクはこの土地の鎮守だ。
だけど知るんだね。神に逆らうという事の恐ろしさを」
『解放者』からくる強いプレッシャー。
ジャームのみが持つ凶悪な力。
「これは……。
「簡単に殺しやしないよ。恐怖を味合わせてあげる。屈服してボクを信仰するのなら許してあげてもいいよ」
P266と『解放者』の問答が聞こえる。視界は薄れ、微睡むように体の力が抜ける。
夢に落ちるように、あたしの意識は薄れていく――
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