クライマックスフェイズ
ウィルス侵食率 78%→85%
大村神社への道 ~フォーカス判定
目に見えない圧力を感じる。
これがセッちんやP266が言っていた『レネゲイトの空間』だろう。体内のレネゲイトウィルスが振動するように震えているのが分かる。成程、これはコントロールを誤ればヤバいことになる。
でもまあ――
「でもまあ、少し注意すれば大丈夫な程度よね、これ」
「レネゲイトコントロールの基礎ができていれば、な。だが中の二人はそうもいくまい」
「そしてジャームにとっては心地良い場所なのでしょうね」
「……敵……来る……」
セッちんの指さす方向からは、植物や家具が宙に浮き、こちらに迫ってやって来ていた。この空間にあてられて。ジャーム化したのだろう。
「本当にレネゲイトウィルスって節操ないわね。少しは慎ましくなればいいのに!」
「君が言うか。女性なら誰でも手を出す癖に」
「失礼ね、節操はあるわよ。女性には誰でも手を出すけど!」
「これが日本の性文化という物ですのね。カルチャーショックですわ」
嘆くクララさん。いつだって文化の壁は立ちふさがるものだ、うん。
ともあれ、このジャームの群れを突破しなければ神社に向かえない。
「……支部長……指示を……」
「戦闘は可能な限り回避したい。裏道を探りながら走り抜けるぞ」
「敵の攻撃は私にお任せあれ! どんな攻撃でも耐えきって見せますわ!」
「クララさん落ち着いて。目がイッてるから。グルグルしてるから」
あたし達四人は喋りながら走り出す。
あとこれはあたし個人の意見なのだが――
「賛成。女の子以外のレネゲイトとか血はあまり吸いたくないのよね!」
「ぶれませんねぇ、亜紀子さん」
「おかげで彼女に頼める依頼が限定されるのだがな」
うるさいなぁ、もう。
とにかくセッちんを先導にして道を進む。セッちんはこの辺の調査を行っていた。ある程度の地形は頭の中に入っているのだろう。迷うことなく道を進んでいく。
そしてあたしたちはあるものを見つけた。普段なら気にも留めないのだが、この非常時では天の助けともいえる物だ。
「よし、自動車を見つけたぞ。一時的に徴収させてもらおう。キーレス形式で助かった」
「うわー。電子錠ってオーヴァードの前じゃ役に立たないのねー。エンジンまでかかっちゃった」
「……これって……車泥棒……?」
「セツナ君、時に法を破ってでもやらなければならぬことがあるのだ」
「私は反対ですわ。車に乗ったら攻撃を受けることができないのですから」
「……クララ君、時に趣味よりも実益を取らねばならぬときがあるのだ」
趣味っていうか性癖だけどね、クララさんの場合。
あたし達が乗り込んだのを確認してから、クララさんがアクセルを踏み込む。急発進で頭をシートにぶつける羽目になったが、そのおかげもあって追ってきた家具の群れを振り払うことができた。
「うむ。これで安全に神社までつけそうだな。……ところでクララ君、非常時なので強くは言えないが、安全運転を心がけてもらえないか?」
「うふふふふ。この速度でぶつかれば、かなりの痛みがあるのでしょうね……うふふふふふ」
「やべえ。このシスター、ノンブレーキ主義だ」
「大丈夫です。リザレクトすれば助かりますから」
「……安全て、何……? 降りたい……」
「殴ってでも止めろー!」
「ああ、もっと!」
どうにかこうにかクララさんの暴走を(物理的に)止めたあたし達。あとは神社までの石段を昇り切るだけ。
問題は――
「石段が見えない……?」
石段があるべきところに、霧が発生したかのように真っ白な何かがあった。真っ白なそれを見通すことができず、そこから咆哮に似た何かも聞こえてくる。
「
「……たぶん……さっきのジャームみたいなのも、幻覚にかぶせて隠してる……」
「やみくもに昇れば、そのジャームに襲われる……という事ですわね」
おそらく秋絵ちゃんの能力なのだろう。その証拠に、所々に風景を模したものが見える。
「私は支援に徹しよう。亜紀子君、ここは任せた」
「くんくん……。あそことそことこっち?」
P266が電気であたし達の身体能力を強化する。それにより感度を増した五感で、あたしはジャームの居場所を察知し――
面倒になって影の爪を一気に払った。白の風景がかき消えるように消え去り、そこに居たジャームごと薙ぎ払う。
「面倒だから全部壊して進む!」
「位置を調べた意味なしか!?」
「っていうか女以外の匂いを嗅いでイラついてるのよ! 責任とれやこのケータイ!」
「折れる折れる!? すこし理不尽と思わんか!?」
「まあ、亜紀子さんの調子が戻ったと思えば、これも僥倖なのでしょうか?」
「……安全にいけるなら……それでいい……」
「君達結構冷たくないか!?」
神社の境内で待つのは、秋絵ちゃんと恵子ちゃん。そして、
「待っていたよ、キミたち。
このボク『
そこに立つ銀髪の少年。
秋絵ちゃんと恵子ちゃんの前で、客を迎えるように堂々とした態度で『解放者』は立っていた。
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