ミドルフェイズ

ウィルス侵食率 38%→43%

情報収集。方法はKISSで

 あたしは結局、何も言わずにUGNを出ることになった。

 いや、正確には『何よ、全然情報と違うじゃない。損害賠償を要求するわ!』と言いながら、クララさんのおっぱいとセッちんの太ももを堪能してから出てきた。やわらかふわふわと、すべすべきれいな感覚を思い出しながら、状況を整理する。


「あの血は間違いなく、秋絵ちゃんの物だった」


 それは間違いはない。あたしが血から視たビジョンは、秋絵ちゃんが空間に指で何か書くと、そこに絵が出来上がりそれがUGNの人達に襲い掛かるという者だった。

 あたしの知識の知る限り、レネゲイトウィルスに目覚めたオーヴァードの能力だ。P266は『エンジェルハイロゥの使用するエフェクト』とか言っていたけど、えーと、それって確か光を操るんだよね。うん、そんな感じだった。光で絵をかいて、それを襲わせている。

 だとすれば、UGNは秋絵ちゃんを探すだろう。そして抹殺する。

 UGNはジャームを許さない。それは彼らの理念である『人とオーヴァードの共存』に反するからだ。オーヴァードの力を持つ者が暴れれば、恐れられて共存とは遠のく。

 だが……秋絵ちゃんがジャームと決まったわけじゃない。

 もしかしたら、レネゲイトウィルスを制御しなおしたかもしれない。あたしの知らない超能力とかで、実は秋絵ちゃんじゃないかもしれない。

 ……うん。そうだ。それを調べないと。

 偽物だったらぶっ潰す。そう決めると、足も軽くなる。

 UGNよりも先に秋絵ちゃんに近づき、ジャームじゃないことを証明する。それができればUGNも秋絵ちゃんを殺そうとはしないはずだ。いや、偽物だから殺していいのか。ああでも、85・59・87なのは間違いないわけで。そう考えるとすぐに殺すのもあれかなぁ? たまにはこー、きちーくなこともしてみたいっていうか。


『へっへっへ。叫んでも誰も助けに来ないぜ』

『いや! お願い……もう、許して……』

『そんなこと言いながら、体は正直だぜ』

『うう、言わないで……でも……』


「よし、作戦は決まった!」

「……何の作戦?」

「決まってるわよ、秋絵ちゃんをどうりょーじょ……ってうわぁ! 秋絵ちゃん!? どうしてここに!」

「え? メールくれてからすぐに来たんだけど、拙かったの?」


 ああ、そうだった。

 あたしはUGNを出た後すぐに秋絵ちゃんにメールを送ったのだ。『今時間ある? 大丈夫なら駅前で待ち合わせしよ』とメールを送ったのだ。そういえば返信来てた。妄想に溺れてて、気づかなかったぜ。油断大敵とはこのことか。

 

「拙くない拙くない。むしろ美味しい。例えるなら大極炎の『ボルケノラーメンオールマシマシ七カラビックバン盛り』ぐらいに美味しい」

「……それ、普通の人は食べれない激辛ラーメンだよね……? それに例えられるの……?」

「あたし的には適量なのよ」


 結構本気で褒めているのだが、納得してくれない秋絵ちゃん。むぅ、解せぬ。

 しかしこの早さがおいしいのは事実。UGNの調査よりも先に秋絵ちゃんに接触できたのは超ラッキー。ここで調べて真実を我が手にするのだ。何事もなければそれでよし。偽物だったら妄想通りのえへへな展開に。

 ――もし、UGNの調査通りだったら。

 ――秋絵ちゃんが本当にジャームだったら。

 あたしは意図してその可能性を考えないようにした。UGNに頼まれて、ジャームと戦ったことはある。大抵は男だったり人間じゃなかったりで加減なく殺してきた。それはP266の言葉があったからだ。


『ジャームになった者は、もう人間には戻れない』

『ジャームってレネゲイトウィルスが過剰に侵食した状態なんでしょう? 風邪みたいに治ったりしないの?』

『しない。風邪などがが治るのは、生物の自然治癒能力が異物であるウィルスを排除するからだ。だが、ジャームはレネゲイトウィルスを異物と認識しない。逆に人間であった頃の理性や常識を異物と判断し排除するのだ……というのが私の見解だ』

『何それ?』

『実際の所、その辺りはどういうメカニズムなのか全くわかっていない。UGNでも研究されているが、いまだ不明だ。兎に角いえることは、ジャームになった者は元に戻らない。だから、遠慮はするな』


 ジャームは元に戻らない。もし、秋絵ちゃんがジャームなら、あたしは。

 秋絵ちゃんを、どうするの……?

 恐怖が体を支配する。今ここで、何事もなかったかのようにイチャイチャして別れる選択肢もある。別れずに朝までコースもある。全部忘れるぐらい秋絵ちゃんに溺れてしまえば、この心の重さも消えてしまうだろう。

 ええい、迷うなあたし。何のために秋絵ちゃんを呼び出したんだ。このままベッドインするためか? それはありか。よし、そうしよう……じゃなくて!

 意を決して、あたしは秋絵ちゃんを柱と自分でサンドイッチする。ドン、と柱に手を当てて逃げ道を塞ぎ、もう片方の手を秋絵ちゃんの顎に宛がう。そのまま顔を近づけながら、秋絵ちゃんにだけ聞こえるように甘く囁いた。


「そんなわけで秋絵ちゃん、キスしよう」

「え? どんなわけ……? っていうかここ、駅前で人が見て――んっ」


 有無を言わせる余裕は与えない。最初は驚くように拒絶するが、あたしの舌が秋絵ちゃんの口内で動くたびにその抵抗は薄れていく。舌と舌を絡ませたときに、脱力した。あたしの服を掴み、体を寄せてくる。

 あたしは秋絵ちゃんの髪の毛を梳く。さらさらとした髪の毛の感覚を味わいながら、秋絵ちゃんの後頭部に手をもっていく。そのまま頭を固定して逃さないように力を込める。その間も、あたしの舌は秋絵ちゃんの口の中を攻め続けた。唇と、舌と、そして手と。

 時間にすれば一分にも満たなかっただろう。濃厚なあたしと秋絵ちゃんの行為は、あたしが唇を放したことで終わりを告げた。秋絵ちゃんの唾液を飲み込んだ。


「亜紀子ちゃん……こんな所で、こんな激しいこと……」

「いやん。秋絵ちゃんも拒まなかったくせに」


 言いながら、あたしは体を落ち着かせるように目を閉じる。なんだか周りの視線が痛いけど、これは必要な事なのだ。その辺は些事だ。

 

 今舌で転がしている秋絵ちゃんの唾液。それは新鮮取れたての秋絵ちゃんの情報源。それを目を閉じて、ゆっくりと味わう。

 夢に落ちるように、あたしの脳内には秋絵ちゃんの情報が駆け巡っていた。

 

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