第13話 数日ぶりの学校
翌日、わたしは朝の教室で自分の席に座っていた。結果として、「学校にも行ってきたらどう?」という叔母の言う通りにした。なぜかは、荒西くんにこれ以上、心配させたくない気持ちが働いたからだ。
そばに置いてある学校の鞄には、包丁が入っている。家の台所から盗んできたものだ。
クラスメイトらは中を見ていないはずなので、知らないだろう。
「おばさん、ごめん……」
わたしは小声をこぼし、脳裏で浮かんできた叔母に謝っていた。包丁を持つなんて、本当に自分勝手だなと思わずにいられなかった。だけど、叔母がいなくなってから、色々と考えた結果だった。なので、しかたがないと割り切るしかなかった。
そんな中、ひとりの女子が近寄ってきた。クラスで仲のいい香織だった。
「おはよ。どうしたの? 何日か休んでいたけど?」
「ちょっと、体調がよくなかったから……」
「そう……。まあ、学校に来られるようになってよかったよ。といっても、朝からボーとしているけど、まだ体調が悪いの?」
「ううん。ただ、ボーとしていただけ」
「もしかして、荒西くんのこと、考えてた?」
香織は顔をやるも、わたしはただ、首を横に振るだけだった。
「本当?」
「うん」
「本当に本当?」
「う、うん」
「もしかしてだけど、荒西くんとできてるって噂、クラス中で広まってるの、知らないでしょ?」
「そうなの?」
「やっぱり、知らないのか」
彼女はため息をつくと、近くの空いている席へ座る。
「だいたいね、前に荒西くんが授業中に保健室へ行こうとするのに、自主的に付き添いで行けば、だれだって、怪しむに決まってるでしょ?」
「そうだね。わたし、荒西くんと付き合っているから」
「そうよ。付き合っているならなおさら……って、荒西くんと付き合ってるの!?」
「えっ? 香織に、言わなかったっけ?」
「そんなの、初耳だよ! ってことは、荒西くんが事故で入院したと同時に休んだのも、単なる偶然じゃないってこと?」
「えっ? それは……」
「まさか、学校を休んでまで、毎日、荒西くんのところへ見舞いに行っていたわけ? それだったら、なんで今日になって学校に?」
矢継ぎ早に問いかける香織は、勢いあってか、席から立ち上がっていた。顔を近づけて、興味深げな表情をしている。
わたしは香織の言葉に、ただ、見ていることと口を動かすことしかできなかった。
「荒西くんのところへは、休んでいる間は行ってない。後、今日はその、なんだろう、断ち切ろうっていう思いで、それでついでというか、学校に……。それと、荒西くんに心配をさせたくなかったから……」
「『断ち切ろう』って、まさか、荒西くんと別れる気?」
「別れる……。そうなるかもしれない……」
わたしはうつむかせると、脳裏に荒西くんのことを思い浮かべた。学校の鞄に忍ばせた包丁を、彼は見たら、どういう風に思うのだろうか。
香織は再び近くの席に座ると、腕を組んだ。
「まあ、それがようやく決めたことなら、わたしはなにも言わないわ」
「荒西くん、驚くだろうな……」
「驚くに決まってるよ。逆になにも感じずにいたら、荒西くんはひどいと思うよ」
「そうだよね……。だけど、きっとわかってくれると思う」
「そっか。まあ、とりあえず、わたしは傍観者ってことで。明日に、どうなったか教えてね」
「うん」
わたしが返事すると、香織は席から立ち上がり、場を去った。
おもむろに学校の鞄へ目をやるも、ただ変わらずに置いてあるだけだ。
わたしが中を開けると、包丁が入っていることがたしかめられた。
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