第3話 翌日の朝
荒西くんは、教室の窓から差し込む朝の日差しに当たっていて、まぶしそうだった。
わたしが近づくと、彼はすぐに気づいたみたいで、目を合わせてくれた。
「おはよう」
「おはよう。白原さんが教室で声をかけてくるなんて、はじめてだね」
「そうだね。今まで、こうやって話をしたこともなかったから」
「もしかして、あのことが気になって来たの?」
「あのこと?」
わたしが問い返すと、荒西くんはおもむろに、ズボンのポケットからビニールひもを取り出して、机に置いた。
彼はさびしげな表情になった。
「これ、今日持ってこようかどうか迷ったんだ。だけど、持ってきていなかったら、こうやって白原さんが近寄ってきて、言われるかなあって思って……」
「そこまで、わたしは神経質じゃないよ」
「ごめん。白原さんが神経質だなんて、思っていないから!」
荒西くんは慌てたように口にして、手を懸命そうに横に振る。わたしはそれを見て、頬が緩んでしまった。
「おもしろいね、荒西くんは」
「えっ? おもしろいって、ぼくはべつにふつうだけど……」
「わたしのことを、すごく、気にしてくれているみたいだから」
「そんなことないよ。その、こういうものを渡されたときのことを思い出したら、白原さんのことが心配になって……」
荒西くんは声をこぼすと、ビニールひものほうへ視線をやった。わたしは心配をかけているようで、どこか悪かったかなという気持ちが浮かんだ。
間が空いてから、彼は目を合わせた。
「そうだ。今日のお昼、一緒に食べよう」
「一緒にって、ふたり?」
「うん。昨日のこともあるし、白原さんと色々話をしてみたくて」
荒西くんが言ったところで、教室の引き戸を開く音が響いてきた。
顔をやれば、担任の先生が扉を閉めて、教壇へ歩いていくところだった。
「それじゃあ、また」
「う、うん」
わたしはわずかに首を縦に振ってから、自分の席へ戻ることにした。手を振ると、彼は返してきてくれて、うれしかった。
朝の日差しはまだ、荒西くんのことを照らし続けていた。
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