潜入
「ちっ、遅かったか」
レイファルに着き、早速冒険者ギルドに顔を出して情報収集を行うと、二日前から我が会おうと思っていた優れた魔法使いは消息不明となっていた。
更に、幾人かの冒険者や滞在している騎士も姿を消してしまったそうだ。その誰もが、やはり魔力を多く持ち実力のある者だった。
強力な魔物も出現している最中、実力者がいなくなってしまえば危険が増す。
街自体は外壁で守られているとは言え、それが絶対の守りと言う訳ではない。
ある程度の魔物の攻撃ならどうと言う事もないが、大型の魔物や、強力な魔物が相手では崩れ去る未来も充分にあり得る。
せめてもの救いは、今の所悪魔以外で一番強い魔物がデミヒュドラだと言う事か。
デミヒュドラは基本的に水場に潜んでおり、そこからあまり動く事はない。なので、町まで来る事は相当稀なのだ。
次に強いデビルベアは飛ぶ事が出来るので、外壁を優に超して町中に侵入する危険性がある。
しかし、デビルベアやエンジェルベアは町中に降り立つ事はない。奴等はどういう訳か人の生活空間の臭いと言うものが嫌いなようだ。なので、人が住み、営みを形成している町には降りる事はない。
まぁ、町よりも人の少ない村ではその限りではないし、普通に町の外を出歩いていれば人間も餌と見なされるので普通に襲われてしまう。
この二種に関しては、街から一切出なければ襲われる事はそうそうない。ただし、他の魔物は普通に町へと押し寄せる事もある。
顕著なのはゴブリンやオークと言った人型の魔物だ。奴等は物資や食料が足りなくなれば近隣の村を襲う。数が多ければ、それこそ街にだって押し寄せてくる。
ただのゴブリンやオーク程度なら外壁は持ちこたえるが、ハイゴブリンやハイオークの群れが相手では少々厳しいものがある。
奴等は武器だけではなく、魔法も使うようになっている。強力な魔法ではないが、基礎の攻撃魔法を普通に放ってくる。
一個体あたりそこまで連発は出来ない。精々三、四発くらいだ。しかし、それでも数が合わされば百を超える魔法が放たれる事もある。
更に、ハイゴブリンやハイオークの中には魔法に特化した個体も出現するようになる。そいつらは俗にメイジゴブリンやメイジオークと呼ばれる。
メイジの扱う魔法はハイゴブリン、ハイオークの扱う魔法を遥かに超える効力を持ち、魔力量も上がっているので連発も可能になる。
そんな奴等が徒党を組み、街へ強襲して来れば外壁は直ぐに崩落し、そこから雪崩れ込んでくる。
事実、悪魔との大戦時にそうやってゴブリンやオークに攻め込まれた街があった。あの時は悪魔によって扇動され、各地にいた魔物が活性化していた。
悪魔の相手だけではなく魔物の相手もしなければならず、我らはその分戦力を割かなければならなかった。
もし、悪魔が魔物を扇動しなければ、もう少し短期で決着はつき、そして被害も抑える事が出来ただろう。
あの大戦時の悲劇を繰り返されない為にも、定期的に魔物の数を減らすようになった。特に、ゴブリンやオークは繁殖力が強いので、直ぐに増えてしまうので最優先での討伐対象となっている。
ゴブリンは冒険者のランクがE、オークはDランクもあれば倒す事が出来る。ただし、進化するとハイゴブリン相手はDランク、ハイオーク相手ではCランクでなければ苦戦を強いられる。メイジが相手となると更に危険度は増す。
現在、レイファルの周辺では普通のゴブリン、オークの数は減り、代わりにハイゴブリン、ハイオークの数が増大しているそうだ。更に、メイジゴブリンにメイジオークの姿も確認されたらしい。
この街の冒険者の平均ランクはD。ハイゴブリン相手では後れを取る事はないが、ハイオーク相手では分が悪い。
我らは消息を絶った者達の捜索依頼を受けつつも、周りの魔物を減らす為に尽力を尽くす事になった。
ハイゴブリンは他の冒険者でも大丈夫なので、主にはハイオークを相手していく。
相手をするとは言っても、瞬殺なのだがな。
ハイオーク程度、既に我らの敵ではない。次々と屠って行き、順調に数を減らしていく。
減らしながら、シェルミナによる【サーチ】によって失踪した者達の魔力を探る。幸いにも、彼等が使っていた魔道具や武具が残されていたので、そこから魔力の波長を覚える事が出来た。
後はその魔力の波長が【サーチ】に引っ掛かってくれればいいのだが……事はそう上手くは行かないものだ。
五日は街の近郊を走り回ったのだが、シェルミナの【サーチ】に掛かる事はなかった。
考えられるのは、街からかなり離れた場所まで連れ去られた事か。悪魔の復活の儀式に必要な魔力を得る為には活かしてどんどんと抽出して行かなければならないので、既に殺されていると言う可能性は限りなく低い。
離れた場所の見当がつけば、直ぐに乗り込む事が出来るのだが……生憎とヒントも無く、悪魔が狩りの住処にしている場所など分からないのでお手上げ状態だ。
なので、ここは発想の転換を図る事にした。
所謂、囮作戦だ。
この街には、まだ優れた魔法使いがいる。冒険者ランクはCだが、Bに届きうる程の戦闘力を秘めている。魔力量も常人に比べれば多く、悪魔が狙うには充分な輩だろう。
まぁ、我のお眼鏡にかなう程の魔力量は保持していなかったがな。その点は置いておくとしよう。
我らはその者に接触し、シェルミナにある魔法をその者に掛けてから我らは街を出る事にした。我らが街にいると、悪魔が出現しない可能性があったのでな。
街から離れて二日、どうやら魔法使いは悪魔と接触し、何処かへと連れ去られたようだ。
どうしてそれが分かったのかと言えば、シェルミナの掛けた魔法【ポイントマーク】によるものだ。【ポイントマーク】は対象の位置を魔力を通して分かるようになる魔法であり、魔法を掛けた相手の魔力がなくなるか、発動者が解除しない限りは常に把握出来る。
魔法使いはレイファルの街から遠く離れた山へと一気に移動した。【テレポート】による移動。と言う事は、あの【改変の魔眼】の女が来たのか、はたまた別の上位悪魔が来たのか。
真相は分からないが、取り敢えず悪魔どもが根城にしている場所が割れたので、我らは早速そこへと向かった。
なるべく早くに制圧する必要があるので、我はクオンを背負い、シェルミナは自分と我、レイルに身体強化魔法を掛けて一気に駆け出した。
本来なら馬車でも一週間以上は掛かる道程を三日で走破し、我らは山の麓へと辿り着いた。【ポイントマーク】の反応は山の内部……つまり、この山には内部に入る為の入口があると言う事だ。
我らはその入り口を探す為に山へと入り込む。
山には魔物がうろちょろしており、我らを見付けると一斉に襲い掛かってきた。
が、我らはそれ等の魔物を火の粉を払うように一蹴し、探索を続ける。
魔力を解放して追い払う方法もあるのだが、そうすると悪魔に気付かれてしまう可能性がある。そうなると、また別の場所に転移されるかもしれない。
これ以上手間は掛けたくないので、魔力は出来る限り抑えて探索をしている。
暫く探索をしていると、中腹辺りで洞窟の入り口を発見する。恐らく、あれが内部へと続く入り口なのだろう。
我らは躊躇う事も無く洞窟に入り、中を進んで行く。
仲は当然灯りがないので真っ暗だったが、シェルミナとレイルによる光魔法で光源を確保する事は出来た。ただし、悪魔になるべく気づかれないように光量は最小限に抑えているがな。
何分か進んでいると、分かれ道に遭遇する。右か左か、どちらに進むべきか悩んだが、まずは右に進んでみる事にした。
だが、暫く進むと行き止まりに当たってしまった。
戻ろうと踵を返した瞬間、空間が歪んだ。
それと同時に、我は一人になった。周りを見渡してもシェルミナ、レイル、クオンの姿はどこにも見当たらない。
「これは……」
我はこの現象に何度か遭遇している。
これは上位悪魔だけが使える空間魔法【アウターゾーン】。悪魔に有利になる空間へと相手を誘う魔法だ。
空間は発動した悪魔ごとに異なる様相をとなるが、今回は何処かの館のエントランスみたいだ。
「ようこそ、お越しくださいました」
奥の方から、燕尾服を着込んだ悪魔が歩み寄ってきた。
背中に生やした翼は隠さず、我にあえて見せている。
六枚三対、か。少しばかり位の高い悪魔だな。
「これより、あなた様の意識を刈り取り、我が主復活の贄になっていただきます。どうぞ、御容赦ください」
悪魔は一礼すると、指を鳴らす。
空中に幾つもの魔法陣が浮かび、そこから鉄鎖が出現して我へと襲い掛かってくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます