出立

 無事褒賞も手に入れ、半分はクオンへと支払い、我らはスノウィンから次の町へと旅立った。

 悪魔と相対してからスノウィンから出る日まで、近くでは悪魔の目撃情報はなかった。なので、平穏……とまでは呼べず、見過ごせない事はやはり起きていた。

 それはスノウィン近郊であったり、他の遠い所であったりだ。

 スノウィン近郊では、更に強い魔物の目撃例が出るようになった。

 エンジェルベアよりも強いデビルベア、ヒュドラモドキよりも厄介なデミヒュドラ、近郊に住んでいた魔物の上位種であるハイゴブリン、ハイオーク、アシッドスライムが闊歩するようになってしまった。

 これらの魔物は何処からか流れ着いたものではなく、ここ最近一気に進化したと分かっている。

 幾人もの冒険者が魔物が進化する瞬間を目の当たりにしている。魔物の進化はある一定の強さに至った時に起こると言われており、自然に発生しうる現象だ。

 しかし、こうも連続で……それも大量に複数の種族で進化が起こるのは珍しいを通り越してとてつもなく危険な状態だ。

 進化する事によって、魔物は一段も二段も上の力を手に入れてしまう。当然、討伐するには相応の力が必要になってくる。

 デビルベアやデミヒュドラ辺りまで来ると、ランクはB以上でないととても太刀打ち出来ず、それも一対一ではなく一対多で挑まなければ死ぬ危険性も充分にある程に強力な魔物だ。

 これも、悪魔が暗躍して魔物を進化させているのだろうか? それとも他に別の要因があるのだろうか? 考えても分からず、少しでも数を減らして脅威度を減らさねばと我らは魔物を屠り続けて行った。

 我とシェルミナの力量はデビルベアやデミヒュドラに後れを取る事も無く、一人で複数を相手取る事が出来る。

 特に、我の場合は一撃で屠る事が出来るので大量虐殺的に魔物を倒し続けた。シェルミナは我のように一撃では倒せずとも、剣技と魔法を組み合わせて怪我を負う事も無く確実に息の根を仕留めて行った。

 クオンも精霊を降霊させればデビルベアまでなら倒す事は出来た。しかし、デミヒュドラを一人で倒すには力が足りず、主にハイオークやハイゴブリンを倒していった。

 レイルも同様に、ハイオークやハイゴブリンを倒していき、着実に地力を上げていった。

 ここ最近のレイルの成長は目を見張るものがあった。

 魔法の手解きをし、レイルは光と幻影の魔法を更に上手く扱えるようになり、低燃費で魔法を発動するコツをも掴み、光と幻影に至ってはとうの昔にシェルミナを越える程の使い手となった。

 流石はエルフと言った所か。まだ我の域までには達していないまでも、無詠唱で魔法名だけを言うだけで多くの魔法を発動出来るようにもなった。更に、初歩的な物に至っては魔法名すらも言わずに発動する事が可能になっている。

 そして、魔力流動による身体強化の術についても、レイルは既に粗方習得出来た。意識しながら行えば100%の強化率で、無意識化でも60%の強化が行えるようになった。

 シェルミナやクオンも無意識化で身体強化出来るようにはなったが、精々5%くらいものだ。

 この一ヶ月でおおよそ習得出来たのは、レイルの学ぶ姿勢にあるだろう。

 レイルはあの日――我とシェルミナが悪魔と出遭った日からより一層鍛錬に励むようになり、更にはシェルミナの体捌きを見て学び、それを実践に生かすように鍛錬を続けて行った。彼女もまた、

 その結果、レイルも今ではAランクの冒険者となるまでに至った。彼女の二つ名は『光幻閃姫』。光魔法と幻影魔法を織り交ぜ、魔物を屠っていく姿から名付けられた。

 因みに、クオンは現在Bランク。まだAランクには届かないが、このまま順調に精霊達と共に精進すれば直ぐにAランクに辿り着く事が出来るだろう。

 彼の場合は、【スピリットサモン】の制限もあるので仕方がないとも言えるが、この一ヶ月で彼のギフトは成長した。

 今までは一日に一体までしか降霊させる事が出来なかったのだが、魔物との戦闘を重ねる事で一日に二体まで降霊させる事が出来るようになった。

 更に、魔物を倒し続けた結果魔力量も飛躍的に上がり、降霊状態を長く維持出来るようにもなれた。

 生み出す魔力の量を増やすには、単純に魔力を消費すればよい。今回、クオンは精霊を降霊させ、己の魔力を消費して精霊術を行使し続けた。その結果、初めて出会った頃に比べて二倍近い魔力を保有するまでに至った。

 レイルも魔力量が上がったが、増加率はそこまで大きくない。

 逆に我やシェルミナは全く上がっていない。これは既に我らは魔量の上限に達してしまっているからだ。これ以上魔力を消費しても決して増える事はない。

 この一ヶ月で、レイルとクオンの二人は飛躍的に成長したと言えるだろう。旅の道中で強力な魔物が出現しても撃退出来る程の力を有するようになったのは大きいな。

 これ程の力があれば、翼が一対程度の悪魔が出現しても後れを取る事も無く余裕を持って倒す事が出来る。二対になれば、苦戦を強いられるだろうが難とか勝てるだろう。

 さて、我らは次の街――レイファルへと向かっているのだが、徒歩ではなく駆けて移動している。

 なるべく早く街に着いた方がいいだろうと言う見解の下兼、各々の体力をつける為にこうして走っている。これも修行の一環と言う事でレイルはノリノリで、クオンはげんなりとしながらも言われた通りに足を動かしている。

 シェルミナは慣れているのかかなり涼しい顔をしており、我も身体強化で心肺機能も強化しているので息切れは起こしていない。

 どうして急いでいるかと言えば、とある噂を耳にしたからだ。

 ここ最近――優れた魔法使いや魔力量の高い者が何者かに狙われてると言うのだ。その内、何人かは行方が知れないと言う。

 十中八九、悪魔によって連れ去られたとみていいだろう。奴等はベルフェゴン復活か、はたまた別の最上位悪魔の復活の為に人間の魔力を集めている。

 莫大な量が必要となる筈なので、必然的に魔力量が多い者が狙われる事となる。

 我とシェルミナの報告により、悪魔と復活の儀式についてギルドを伝って広がっているので、自ずと厳戒態勢は敷かれた筈だ。

 スノウィンでは我とシェルミナがいるからかそう言った事はもう起きなかったが、他の街ではそうは行かなかったみたいだ。

 なので、これ以上連れ去られる前に我は優れた魔法使いまたは将来性のある者と会う為に走っている次第だ。

 現在、レイファルではまだ連れ去られた人物はいないが、狙われているらしい。故に、ほぼ十割の確率で悪魔と相対する事になるだろう。そうなったら、速攻あるのみだ。奴等が何かする前にぶちのめし、あの女でなかったら女についての情報を吐かせてから息の根を止める。

「ご、ごめん……そろそ、ろ……限、げほっ、界……」

 と、やや遅れ気味になり、顔を赤くしてぜぇはぁと荒い息をしているクオンが首を横に振ってくる。

「よし、では一度休憩を取ろう」

 シェルミナの合図で我らは走りをやめ、少し歩いてから休息を取る。シェルミナ曰く、走り終えてから直ぐに立ち止まるのは身体に悪いそうだ。なので、クールダウンの意味も含めて暫し歩いてから休憩を取るようにしている。

「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」

 珠のように噴き出る汗をタオルで拭き、手で顔を仰ぐクオン。

「今は……だいたいこの辺りだな」

 シェルミナは涼しい顔でコンパスを持って地図を広げ、現在位置を確認する。因みに、彼女一人ならば【テレポート】でレイファルへと向かう事が出来るが、生憎と我ら三人は使えないのでこうして一緒に走っている次第だ。

「ふぅ……ふぅ……」

 肩で息をしながら、失った水分を補給しているレイルはクオンよりも体力はあり、そこまで辛そうには見えない。

「あとどれぐらいで着きそうだ?」

 身体強化の御蔭で息一つ乱れる事も無い我は地図を広げるシェルミナに尋ねる。

「そうだな。この調子なら……おおよそ二日後には着くだろう」

「二日か」

 意外と速いような、遅いような。微妙な感じがするが、多分速いのだろう。

 はてさて、我らが到着するまで、レイファルの街にいる優れた魔法使いは無事でいてくれるだろうか?

 こればかりは、運に左右されるからな。無事を願うしかあるまいて。

 三十分の休憩をして、我らは再び走り始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る