発見
「して、大体この辺りか」
「そのようだな」
我とシェルミナは杖の見付かった場所に到着し、辺りを見渡す。
街からそれなりに離れているが、現在の我の走力では二十分も掛からずに着く事が出来るので直ぐ来れた。
「着いたのだからそろそろ降ろしてくれ」
「あぁ、そうだな」
因みに、シェルミナの足に合せたのでは一時間以上かかる道程だったので、我が背負って駆け抜けた次第だ。
最初は首を横に振っていたシェルミナだが、事が事なだけに一刻を争うと我が説明すれば渋々と言った感じで我におぶさったのだ。
地面に降りたシェルミナは少しばかり顔が赤く、軽く手で煽いで風を起こして熱を冷まそうとしている。
どうやら、あまりの速度にやや興奮をしたようだ。まぁ、あれだけの速度はドラゴンにも匹敵するだろうし、貴重な体験だっただろう。
さて、ここは山に近い場所だ。もう少し北へと向かえば山の麓に到着する。
辺りには木がまばらに植わっており、所々に岩がゴロゴロと点在している。ここは商隊が通る事も無いので道は整備されておらず、あるとしても獣道だけだ。
名を上げている魔法使いがこんな所まで来ていた理由は、とある魔物の討伐の為だ。
魔物の名前はエレクトロスネーク。身体から電撃を発する事が出来る巨大な蛇であり、隊長は大体六メートル程か。
毒は持っていないが電撃を放って相手を麻痺させ、動けない所を丸呑みにして食べるそうだ。
現在の季節は春。冬眠から覚めたエレクトロスネークは起き出し、山から下りて食事をするらしい。場合によっては街の近くまで来るらしいので、人的被害が出ないように一定数の討伐が依頼として出されている。
名を上げている魔法使いも、その依頼を受けて討伐に向かった。
エレクトロスネークはランクがCあれば充分に倒す事が出来るが、一人では荷が少しばかり重い。電撃を防ぐ事が出来なければ蛇の腹の中に納まってしまうからな。
なので、魔法使いは一人ではなく、パーティーを組んでいる剣士と拳士を共に討伐の依頼を受けてこの山近くへと向かった。
ランク的に怪我はするかもしれないが充分に達成出来る程の難度の依頼だ。
しかし、彼等は返って来ず、愛用の杖の破片が見つかってしまった。
ここに来てエンジェルベアに遭遇した、ヒュドラモドキと相対したとしても、ギルドで訊いた限りでは善戦出来るだけの力量は兼ね備えているそうだ。
なので、それらにやられたとも考えにくい。
考えられるのは、エンジェルベアやヒュドラモドキよりも危険で強い魔物が出現した可能性がある事だ。
エンジェルベアも、ヒュドラモドキもこの近辺には本来いない魔物だ。
何故、ここまで来てしまったのか? 餌を求めて? それもあるが、別の可能性もある。
自分達よりも強大な魔物が出現し、生息地を追われてしまった場合だ。
そして、そんな強大な魔物も餌を追ってここに来てしまった可能性も捨てきれない。その強大な魔物と相対してしまい、名を上げている魔法使い達は為す術も無かったのではないだろうか?
下手をすれば死んでおり、運がよければまだ生きている筈だ。
ただし、時間は経過しているので前者の可能性の方が高い気がするが。まぁ、それでも希望は捨てずに探す事にしよう。
「シェルミナ、頼む」
「了解した。【サーチ】」
我はシェルミナに頼み探索魔法【サーチ】を使って貰う。【サーチ】は特定の魔力波長を感知する為だけの魔法だが、波長さえ分かっていれば人でも探す事が出来る。
今回は精霊樹の杖に残っていた魔力の残滓から波長を割り当てて知る事が出来たので【サーチ】が使える。
まぁ、その【サーチ】に引っ掛かるには魔力の波長が未だに残っている事……つまりは、まだ対象が生きている事が前提ではあるが。
「……あちらだな」
と、シェルミナは山の方を向く。どうやら、魔法使いはまだ存命のようだ。よかったよかった。これで我の魔封の呪いが解ける可能性が失われる事が無くなった。
「よし、では行くか」
「あぁ」
我とシェルミナは山へと向かって行く。
シェルミナの先導で、魔力の波長を感じる場所を目指すと、山の一角に開いた洞穴に辿り着いた。
「この中か?」
「あぁ。奥の方から感じられるな」
我らは洞穴の中に入り、奥へと進んで行く。
灯りは付けていない。光に釣られて何が出て来るか分からないからな。我はリッチーとなってから夜目がかなりよくなり、光が無くてもある程度は視認出来るようになっている。シェルミナも光魔法によって暗闇でも普通に見えるようにしている。
洞穴は入り組んでいる訳でもなく、何度か曲がるくらいで一本道だ。これなら迷う事も無く、帰りも楽だろう。
暫く進むと、開けた場所に着く。しかも、奥の方には明らかに人工的に作られた祭壇が存在し、それを照らすように松明が飾られている。
「おい、これは何だ?」
「私に訊かれても……しかし、どうやら魔法使い達は無事なようだぞ?」
とシェルミナは祭壇を指差す。祭壇の上には魔法使いを始め、パーティーメンバーである剣士と拳士が目を閉じて横たわっている。魔法使いに関しての生存は【サーチ】で分かっていたが、遠目ではあるが、剣士と拳士の胸が上下しているのが確認出来るので存命中だ。
我は魔法使いを見付けて安堵の息を漏らすのと同時に、落胆した。
一目見た感じでは、まだまだ伸び代はある。今はまだ発展途上だ。
しかし、到底我を越える事は出来ないし、我に近しい魔力を得る事も出来そうにないな。精々、成長が終えたとしても質も量も我の魔力のだいたい五分の三程度か。この程度では魔力を練って純度を上げても我の魔封の呪いを解く事は出来ない。
スノウィンに来たとは、とんだ無駄足だったな。
……いや、無駄足でも無かったか。スノウィンに来なければクオンと会う事も無かった訳だからな。会わなければ魔力を練るという考えにまで至らなかった。
本来の目的は果たせなかったが、有意義ではあったな。
「何を心の中で呟いているか分からないが、さっさと彼等を連れ出して街に戻らないか?」
「む、そうだな。しかし、連れ帰る前にまだ近辺の探索が必要だろう」
「確かにそうだが、まずは彼等を街に送り届けてからでも遅くはないだろう。それに、彼等から何かしら情報が得られれば探索がしやすくもなる」
シェルミナに言われ、そう言えばそうだなと納得する。
「では、あいつらを連れてここから出るとしよう」
「あぁ」
「おっと、それは駄目ですね」
我とシェルミナが魔法使い達の下へと歩き出した瞬間、背後から声が聞こえ、嫌な感じのする魔力が辺りを包み始めた。
我は振り向き様に拳を振い、シェルミナも剣を振り抜くが、躱されて空を切る。
「いきなり攻撃とは、物騒ですね」
声の主は口元をにやつかせ、余裕綽々と言った感じで大袈裟に肩を竦める。
「攻撃もするさ。何せ、相手が悪魔なのだからな」
シェルミナは剣を構え、射抜く眼差しで声の主――悪魔を見据える。
風貌は人間に酷似しているが、肌の色は灰色であり、瞳の色は血のようにどす黒い赤。更には背中に蝙蝠のような翼一対生えており、口には牙がずらりと並んでいる。
大戦で勝利したとはいえ、悪魔は全滅させた訳ではない。悪魔の三分の一は住んでいた地下深くへと逃げ帰ったのだ。その際、悪魔の住処に繋がる道は全て封印した……筈だった。
まさか、このような場所で悪魔と遭遇するとはな。ただし、羽が一対なので位はそこまで高くはないな。
悪魔は羽の数によって位が分かれる。全く羽が生えていない悪魔は最下級であり、最大の階級は六対の羽を持つ悪魔だとされている。
目の前にいる悪魔は一対の羽なので、下から数えた方が早い程に弱い部類だ。しかし、それでもエンジェルベアよりも強い事は確かだ。
「で、悪魔がこのような場所で何を企んでいる?」
シェルミナは悪魔から視線を逸らさず、硬い声音で問いかける。
「そうですね。強いて言えば」
悪魔は大袈裟に腕を広げ、醜悪な笑みを受かべる。
「主の復活、を企んでいます」
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