異変

 我らに【魔眼】の女からのちょっかいがないまま一週間が経過した。

 その間にレイルを冒険者として登録した。ただし、エルフの姿ではなく人の姿で登録をした。

 流石に今ではほとんど見る事がないエルフとなると、色々と厄介毎に巻き込まれる。なので、我はレイルに幻影魔法で己の耳を人間のそれと同じように見せるように言っておいた。これはこの街に入る前から言っていた事なので、ここ最近はずっと幻影魔法を掛け続けている。

 幻影魔法の維持は魔力を結構消費するのだが、流石はエルフと言った所か。魔力量が豊富で日がな一日幻影魔法を掛けていても疲弊する事も無く、途中で魔法が切れる事も無い。

 ただ、流石に夜寝る時は魔法を解いているらしいがな。寝ている時の魔法維持は熟練の魔法使いでも難しいとされるし、エルフでもおいそれと出来る事ではない。

 因みに、我は出来る。まぁ、精度は夢を見るか見ないかで変わって来るので、完璧とまでは行かないが。

 また、レイルの魔力量はシェルミナ以上我以下だ。そして魔法の精度で言えばシェルミナを優に超えているが、扱える魔法に偏りがある。

 レイルは光魔法と幻影魔法しか使えない。

 元来のエルフは全ての系統の魔法を隔たりなく扱え、特に風の魔法を上手く扱える。

 だが、レイルはエルフの得意とする風魔法が使えない。どうやら体質によって使える魔法が制限されているらしい。

 何でも、光と幻影以外の魔法を使うと失敗し、身体の内から焼けるような痛みが走るらしい。これは人間にも見られる魔法障害だ。

 身体が魔法に対して拒絶反応を起こし、魔法を発動しようとすれば絶対に失敗し、魔法に変換する筈だった魔力が体内で暴れ回って内部から傷付ける症状の事だ。

 この魔法障害は治療法が見付からず、また全てが先天的なものだ。後天的に発症する事は今の所ない。

 魔法障害は扱う魔法の属性によって発症したり、しなかったりする。こればっかりは個人で異なり、一つの属性だけ魔法障害が起こる者もいれば、一つの属性以外で魔法障害が起こる者もいる。

 なので、魔法使いと言えども扱えない魔法が存在するのだ。

 また、魔法障害はエルフではほとんど見られない症状であるが、時折魔法障害持ちのエルフが生れ落ちるらしい。

 レイルはそれに該当しており、身体が光と幻影以外の魔法に拒絶反応を示していると言う訳だ。

 因みに、我は魔法障害を患っておらず、全属性魔法の使い手だ。逆にクオンは全属性の魔法に拒否反応を示し、己だけでは魔法を使う事が出来ない。

 ただ、クオンの場合は精霊を降霊させる事で精霊術を扱う事が出来る。精霊術を扱うのはクオンの身体でだが、精霊術と魔法は異なる術なので、拒否反応は起きない。なので、降霊状態での精霊術でクオンの身体は傷付く事はない、と言う事だ。

 だが、精霊術だけでは魔力量的に一時間から二時間……下手をすれば一瞬の時間しか戦う事が出来ないので、クオンの戦闘能力は著しく振れ幅が大きい。

 と言う事で、クオンにも我が魔力流動による身体強化の術を教える事にした。

 クオンは物覚えがよく、たったの二日で全身を強化出来るまでになった。因みに、レイルは四日で出来るようになった。

 しかし、二人共やはり意識を集中しなければならず実践では強化出来ない。ただ、強化値は我以外で最高を叩き出している。

 レイルとクオン共におおよそ50%もの強化が可能となっている。このまま行けば100%の強化が出来るようになるだろう。

 ただ、強化が出来るようになっても無意識化で出来るようにならなければ意味がないので、まずは無意識化で出来るように特訓をしていくしかないが。

 因みに、シェルミナは25%までの強化が出来るようになった。無論、意識をそれに割いた状態でだが。

 さて、この一週間で我は更なる高みへと来る事が出来た。

 我とて、現状で満足している程愚かではない。常に試行錯誤を繰り返し、最善、そして最良、更には最新を追い求めているのだ。

 研究者の性、とでも言うべきかもしれないな。

 ただ、魔法が扱えないので、今の我でも直ぐに扱えるもの限定にしてはいるが。

 それが、魔力流動による身体強化の改良だ。

 もう少し効率的な方法はないか? 強化値を上げる方法はないか? 魔力の波長を意図的に変えるとどういう反応を示すか? ……等、様々な事象を試してみた。

 そして、我はまず強化値を更に向上させたものを編み出した。

 魔力流動に寄る所は同じだが、その前にある一過程を付け加える事でおよそ一・五倍程の向上が見受けられた。

 その一過程とは、魔力を練る事だ。イメージとしては、小麦の生地を練っていく感じだ。

 そうする事により、魔力内に存在する不純物が取り除かれ、いままで不純物が占めていた部分にも魔力が行き渡り、結果的に強化値が上昇したのだ。

 この魔力を練る作業だが、精霊が行う精霊術から学んだのだ。

 我は今まで精霊を見る機会に恵まれ開かったのだが、今は偶然にも近くに精霊を降霊させる事が出来るクオンがいる。

 クオンが可笑しくなった際、サラマンダーを降霊させて炎を拳に集約していた際に、見慣れない魔力の動きが感じられたのだ。

 その魔力の動きを確認する為に、一度クオンに精霊を降霊して貰い、精霊術を行使して貰った。

 精霊が精霊術を行使する際、己が魔力を練ってより純度を上げた状態で術を発動させるのが分かった。

 放出や流動、消費等の動作は我もやっていたが、まさか練る事が出来るとは思わなかった。

 更に、本来の魔力には不純物が混じっており、その不純物の所為で発動する魔法や身体強化が十全に効果を発揮出来ない事も分かった。

 これは世紀の発見と言っても過言ではない。誰もが魔力を練って魔法を扱う事が出来れば、より効力の高い魔法を扱う事が出来る。

 そう、より効力の高い魔法を扱う事が出来るのだ。つまり、解呪の魔法の効力も上がると言う事だ。

 この発見により、我の探し求める者のハードルが僅かに下がる結果となった。我以上の魔力を持った者が対象だったのが、今では我よりも少しばかり下くらいまでの魔力を待った者にまで対象が増えたのだ。

 いやはや、これで我にかかった魔封の呪いが解ける日が少しばかり近付いた。嬉しい筈がない。

 なので、早速この魔力を練る動作を全世界に知らしめようと冒険者ギルドへと赴いて特許申請をしておいた。あと一ヶ月後には我に莫大な褒賞がまた舞い込む事だろう。

 しかし、今回得られる褒賞は我だけの物ではなく、クオンの物でもある。

 我一人ではどうしても辿り付けなかった事なのだ。精霊を降霊できるクオンがいたからこそ、この高みにまで昇る事が出来たのだ。

 なので、得られた褒賞の半分はクオンの物とする。

 まぁ、まだ本人には言っていないが。褒賞が入ってからクオンに告げ、驚かす事にしようとしている。

 さて、技術特許を申請しているので、スノウィンにいる期間が更に長引く事となった。名を上げている魔法使いと会っても直ぐに町から出られなくなったが、三人にその事を告げた所別に構わないとの答えを得られた。

 で、名を上げている魔法使いなのだが、まだ街に戻っていないのだ。ギルド職員からもそろそろ街に戻って来ても可笑しくないくらいの依頼難度だそうだ。

 そして、今朝方。とある冒険者が不吉な物を携えて戻ってきたのだ。

 それが、名を上げている魔法使いが愛用している杖の破片だ。

 杖は特注で、精霊樹の枝を加工したものを使用しているそうだ。精霊樹の杖は魔法の効力を上げる力がある。この街で、精霊樹の枝を加工した杖を使っているのは、件の魔法使いのみ。

 そんな杖が壊れた状態で見つかったのだ。

 名を上げて来ている魔法使いの身に何か起きたのは明白だ。

 ギルドは付近の捜査の依頼を出した。

 件の魔法使いのランクはC。そろそろBにあがるだろうと言われている。

 Bになれば、エンジェルベアくらいの魔物ならば苦戦する事も無く倒す事が出来るし、ヒュドラモドキにも勝てるようになっている。

 そんな魔法使いの身に何か起きたと言う事は、ランクBでも敵わない魔物が出現した可能性がある。

 なので、この依頼は一般ではなく、ランクがAである『剛力魔人』と『魔麗剣姫』……つまりは我とシェルミナへのギルドからの指名依頼となった。

 我とシェルミナは依頼を引き受け、杖の破片が見つかった場所へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る