説明

 スノウィンに着いて一日が経過した。

 先日会った異世界人クオンだが、彼は我の探している魔法使いではなかった。魔力は帯びているが、彼は魔法が使えないそうだ。

 しかし、魔法の代わりとなる精霊術を自身の魔力を贄として発動する事が出来るそうだ。

 精霊術とは、文字通り本来は精霊しか扱えない術だ。様々な属性を持つ魔法と違い、四大元素……つまりは火、水、土、風の四属性しか存在しない。だが、その威力や効力は魔法よりも優れているとされる。

 人間は本来精霊術を行使する事は出来ない。そして、精霊を見る事も呼び出す事も出来ない。しかし、例外がある。それがギフトだ。

 ギフトとは理の外にある力の総称であり、持つ者は極々僅かだ。生まれながらに持っている者もいれば、突如天啓と共に得る者もいる。

 ギフトの効果は様々であり、相手の魔力の状態や掛かっている呪いの有無などを数値及び文字化して確認する事の出来る【アナライズアイ】、どのような魔法であろうと拡散し、発動者の望む範囲に効力を発揮する【プリズムマジック】、複数種類存在し、見る事で効力を発揮する【魔眼】などが上げられる。

 基本的にギフトは一人に付き一つだけらしいが、過去に二つのギフトを持っている者も存在していたらしい。

 残念ながら我はギフトは持っていない。まぁ、ギフトなんぞなくとも我には魔法があれば充分なので羨んだ事は一時も無い。

 で、クオンはギフト【スピリットサモン】により、一日に一体だけ精霊を自身に降霊させる事が出来るらしい。降霊した状態では精霊の意識とクオンの意識の二つともが一つの身体に存在し、時には協力して、時には身体の主導権を奪い合ったりするとか。その状態になる事で精霊術を行使する事が出来るようになる。

 降霊状態は大怪我を負うか、クオンの魔力が尽きるまで継続されて、自身と精霊の意思では解く事が出来ないそうだ。一日に一回しか出来ないので、結構使い所が難しいギフトだなと思う。

 そんな事をクオンから直接聞いた。ユカタに着替えていたシェルミナとレイルのタッキュウ勝負を観戦しながら。

「このタッキュウと言うのはいいな! 素早い球を追い駆ける事によって機敏さが鍛えられ、動体視力も向上するな! これはいい鍛錬になる!」

「はいっ」

 と、遊びよりも鍛錬として重きを置いてやっていたが。二人の小娘は二時間も休みなく動き続け、かなりの汗をかいたのでまた温泉に浸かりに行ったな。

 ……本当、レイルはシェルミナの弟子ではないか。誰が見ても我の弟子ではないと思われる。

 そんなこんなで一日が終了した。

 本日は冒険者ギルドへと寄って名を上げている魔法使いの情報を集める事にした。

 得られた情報から、名を上げていると言う魔法使いは現在この街から少し離れたところにいる魔物の討伐依頼を受けて要る為、街にはいないと言う事が分かった。

 なので、今日はそいつと会う事はない。いちいち依頼現場まで行くのは面倒であり、向こうの邪魔になるだろうから赴かない。その魔法使いが戻ってくるまで、この街でのんびりと待っていよう。

 ……いや、のんびりとは待っていられないな。

「では、師匠。師事をお願いします」

 と、宿で我が借りている一室にて、レイルが我の目の前で姿勢を正して直立している。

 どうやら、レイルはきちんと我の弟子としての自覚があったらしい。

「ほら、ぼーっとしてないで鍛錬をしたらどうだ?」

 と、我の横面を肘で突いてくるシェルミナ。

「そうだな。では、始めるか」

「はいっ。よろしくお願いしますっ」

 我はシェルミナにアイアンクローをかましながらレイルを鍛える事にする。

「では、まずは身体の内側に魔力を引っ込めろ」

「えっ?」

「それが出来なければ我がお前に教える事はない」

「わ、分かりましたっ」

 と、レイルは魔力を身体の内側に引っ込めるように指示する。レイルは常に魔力を少し体外に放出したままだ。しかも、これは本人が自覚してやっているのではなく無意識で威圧をやってしまっているとの事。

 ここから、レイルは魔力のコントロールが出来ていない事が窺えた。コントロールが出来なければ身体強化が出来ない。出来なければ我が教える事は文字通りないのだ。

 レイルは力んだりして魔力を身体の内に仕舞おうとするも、上手くは行かない。まぁ、それはそうだろう。我武者羅にやっていては、魔力は微動だにしない。

「……師匠、魔力を引っ込めるってどうするんでしょう?」

 やや顔に陰を落としながら、レイルが我に尋ねてくる。

「あのな、ただ力んでるだけでは駄目だ。しっかりとイメージをしろ」

「イメージ、ですか」

「あぁ。そうだな、例えるなら……」

 と、我はシェルミナをアイアンクローから解放し、一旦部屋を出て売店へと向かい、風船を購入。それを持って部屋に戻り、風船に空気を入れて膨らませる。

「っと。要はこうだ。今のお前の魔力はこの風船みたいな状態だ。空気を抜けば徐々に縮んで行く。実際は空気を抜く事で魔力は縮まないが、それでも外観だけでも例えるならこの風船のような動きを意識すればよい。外観のイメージはこういう感じだが、身体の内に引っ込めるイメージは違くした方がいいな。そうだな……」

 と、我は風船をシェルミナに渡して、また売店へと向かう。そこでストローと瓶に入ったフルーツ牛乳を購入し、部屋に戻る。部屋に戻るとシェルミナが風船を膨らまして空気が漏れ出ないように縛り、ぽんぽんと跳ねて遊んでいた。

 我は買ってきたフルーツ牛乳の蓋を外し、ストローを挿し込んでゆっくりと飲み始める。。

「魔力を引っ込めるイメージは、こうストローで飲料を飲む感じでイメージした方が分かりやすいだろう。引っ込める、と言う表現よりも身体の内に呑み込むと言う表現の方が実際の行動がとれると言う事でイメージしやすいのではないか? まぁ、もっとも魔力は口から全て引っ込めるのではなく体全身から吸収する……いや待て。もっと的確な表現があるな」

 我は飲みかけのフルーツ牛乳を風船で遊んでいるシェルミナに渡し、三度売店へと向かう。そこで小さ目の植木鉢に入ったサボテンと水を購入し、部屋へと戻る。

 部屋へと戻れば、我の飲みかけのフルーツ牛乳はシェルミナに飲み干されていた。我はシェルミナにアイアンクローを仕掛けながら、机の上に置いたサボテンに水を掛ける。

「このように、土が水を吸収するようにイメージをすればより分かりやすいだろう。更に言えば、このサボテンのように植物が土の中から養分や水分を吸収するかのようにして身体の内側へと」

「なぁ、シオネ」

「……何だ?」

 我が説明をしている最中に、アイアンクローを喰らっているシェルミナが片手を高く上げて制止してくる。

「前々から思っていたのだが、お前は説明が下手だな」

「なっ……」

 シェルミナの口から、衝撃的な言葉が発せられた。

「しかも、ドがつく程の」

「にっ……」

 更なる衝撃が我を貫く。それが影響して、我はシェルミナから指を離す。

「フィアスコールで教えていた時もそうだったが、変に遠回りだったり、変にくどかったり、変に的を射ていなかったり、分かり難かったり、理解し難かったり、分かり難かったりするのだ。」

「い、いや。我は分かりやすく言っているのだが」

「言っていない。もっと簡潔に言わねば教える側としては落第点だ」

「落第、点……だと……」

 そんな、馬鹿な。そんな筈は。

「実際、理解し切れていないレイルの目が点になっているぞ」

「はっ」

 我はシェルミナの言葉に、改めてレイルを見る。レイルは目を瞬かせ、目を点にして茫然としている。

 我の説明が、高尚過ぎて常人には理解出来ないと言うのかっ?

「いや、だから説明が下手なだけで高尚ではない。決して」

 と、どう言う訳か我の心を読んだシェルミナが突っ込みを入れてくる。

「えっと、レイル。簡単に言えばこうだ。ここにスポイトがあるだろう? このスポイトのように水を吸い込む感じで己の魔力を引っ込めるのだ」

 と、何時の間にやらスポイトを出したシェルミナは自身にレイルの意識を向けさせてからスポイトで我が買ってきた水を吸い込みながら説明する。

 はっ、そんな要所要所を省き過ぎた説明で出来る訳が。

「えっと、こんな感じでしょうか?」

 出来る……筈が……。

 ……レイルは、放出していた魔力を全て引っ込めたではないか。

「あぁ。その感じだ。その感じを忘れるなよ」

 シェルミナは笑みを浮かべ、魔力を引っ込める事が出来たレイルの頭を撫でる。

「はいっ」

 レイルは嬉しそうに頷く。

「…………」

 我は、遠い目をして一つ思う。

 レイルは、もうシェルミナの弟子でいい気がするな、と。

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