ダイヤモンドの輝きにサヨナラを

 彼女との再会は、僕に前進する力を与えた。

 僕の一縷の希望は月へと旅立つ力を手にした。

 使われることのないと思っていた船は今輝きを取り戻し、月へと旅立つ準備をしていた。


 彼女とはあの再会以降ある程度の頻度で連絡を取り合って、今では僕の彼女とも仲良しになった。たまに僕抜きで食事に行くくらいには仲がいいようだ。

 

 最近は僕たちの結婚について話をしていた。

 大学を卒業して働いて、生活が安定し始めた時だ。

 「結婚するんだね」

 「うん。招待状のことはありがとう」

 「いいよ。あれくらい」

 「それにしてもようやく結婚かあ。いいなあ」

 その時の彼女の表情は、僕も見たことがないような表情を交えて笑っていた。


 「あんた、大事にしなさいよ?いい女もらったんだから」

 「わかってるよ」

 太陽のような彼女は、少しの違和感を抱かせてきた。もしや、と。


 そうして開かれた結婚式。式は僕の地元で行われ、素晴らしいものになり、僕と月の彼女は夫婦になった。太陽のような彼女は誰よりも祝ってくれた。


 その夜。

 

 僕は、一つの区切りとして、彼女にメールした。

 一度も消すことがなかったメールアドレスだ。


 『今日はありがとう。無事成功しました。

 それでさ、実はずっと秘密にしてたことがあるんだけど

 それを打ち明けたいからあの公園に来れる?』


 『いいよ。今から行く』


 公園にたどり着いて、先に待っていた僕のもとへ彼女がやってきた。

 どこか察しているような、ニマニマとした顔でやってきた。


 「それで、秘密ってなに」

 「えーっとね、あー結婚したわけじゃん?僕は」

 「うん」

 「それでさ、今打ち明けないと打ち明けられないと思ってさ」

 「うん」

 「実はさ」

 「君のことが好きだったんだ」

 

 「お互いさまってわけですか。私もあなたが好きでした」

 

 「なに面食らってるの」

 「いや、ここまで予想が的中するなんてね」

 「あぁ、どうりであんなメールを寄越すわけね」

 「だってさ」


 「ねえ、抱きしめていい?」


 「高校時代、中学時代、ずっとできないままで終わったから、最後の最後くらい、一回ぐらい」

 

 僕は彼女が言い終わる前に抱きしめた。


 彼女も僕もこれが最初で最後であることをわかりきっていた。

 ただ、この抱きしめるという行動一つが僕たちにどれほどの価値をもつかは言うまでもない。


 「結婚出来たらどれだけ幸せだっただろうなあ」

 

 「冗談よ冗談。あんたからもらうダイヤモンドにはサヨナラだけど、私には彼氏がいるんだから、彼からもらうわ」


 僕の結婚は、僕たちの叶えられなかった長いすれ違いの恋を終わらせた。

 

 それでも、僕たちの関係は続いている。

 彼女の結婚が来春に決まって、今着々と準備が進められている。

 

 ダイヤモンドをつけた彼女は、その輝きよりも輝いて見えるだろう。

 僕を何十年間もつかんで離さなかった太陽のような彼女なのだから。

 すべて同じような光り方をするダイヤモンドではない、ただ一つ大きくある、すべてを照らす太陽なのだから。

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ダイヤモンドの輝きにサヨナラを 星野 驟雨 @Tetsu

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