9-5 王者への挑戦

 シーフィールドの試合開始地点は、両選手が指定された任意の障害物となっている。互いに見えない位置から試合が開始され、初めは敵の索敵から始める事ととなる。より実戦に近い試合を求められるため、真正面から勝負を仕掛けるか、初めに罠を張り巡らせるか。それは、選手達の方針次第だ。

 ユウキが立っているのは見晴らしのよい高い廃ビルのような建物の屋上だ。

 周囲の視界は良好だ。三六〇度、どの地点も見渡せる。種が散りばめられたように広がる打ち捨てられた建造物は、枯れ落ちた花弁のように無惨に破壊されている。海上にあるとはいえ、半分はそういった瓦礫で埋め尽くされているのは異様な雰囲気でもある。運営側の演出のようであるが、現実にある姿を想定しているとも聞いている。

「これが世界にある戦場か・・」

 ユウキは遠い目で世界を見ていた。いずれ自身が進もうとしている場所は、きっとこのように心を釘で打ち付ける。仮初めの世界は現実の比喩と相違ない。

 海風がユウキの気を逆撫でるように逆巻く。ユウキは世界の全てを受け入れるように息を吸う。目を瞑り思い浮かべる姿は一つだ。

 勝利をアイギスと掴む自分自身。

 そして、風と共に、試合開始の幕が降りた。

「さあ、行こうか、アイギス」

『ええ、行きましょう、ユウキ』

 ユウキは目を見開き、白い歯を見せ微笑んだ。

「・・早速のお出ましだ」

 剣を握る掌が熱く滾る。大気が悲鳴を上げるように身体を震わせる。


 魔力収束砲。それが突如、五月雨のようにユウキが立っているビルへと降り注ぐ。

―――初手から随分と大盤振る舞いだな!

 剣を構える事は敢えてしなかった。ただ、空中に飛び上がり、それらをまるで何事も無かったかのように素通りしていく。収束砲がユウキを避けるようにビルへと突き刺さり、その威力に圧し潰されビルが瞬く間に崩壊していく。崩れた瓦礫は海の中へと零れ落ちていった。

 ユウキの心はひどく落ち着いていた。瓦礫が海に着水する音さえ、粒さに聞き取れる。研ぎ澄まされた五感は、見えないものを見せ、聞こえないものを聞かせる。


「凄いね。僕の魔力砲をここまで鮮やかに躱すなんて」


 数メートル先の正面に天使のように浮かんでいる敵の姿をユウキは捉える。

 アシュレイ・ディーリングは高揚感を抑え切れずに、張り付いたような笑顔を貌に浮かべている。周囲に何十にも展開する小型の魔法陣が、惑星のようにくるりくるりとアシュレイの周囲を回転している。

 武装型魔法武器『ニーズヘッグ』。

 鉄壁の盾と最強の矛を兼ね備える、白光に輝く世界最高の魔法兵器だ。一見するとただの鎧型の魔法武器だが、鎧の隙間から見える光は魔力が凝縮された、謂わば魔力を貯蔵する高炉だ。魔力を無限に行使し、敵を圧倒する。それが彼の戦闘スタイルであり、世界の頂点に立つ者の力だ。

「あれだけの砲撃を放って余裕な奴にそんな事云われても嬉しくないな」

 ユウキは斜に剣を構える。

「そうかい?でも、この程度は《想定内》でしょ?」

「・・まあね」

 アシュレイの魔力量はユウキの三倍以上と想定されている。それがミリアルドとセルフィとの事前ミーティングでも確認している。

 それは今のユウキにはどうしても超えられない壁でもある。アシュレイは魔力の絶対値がどの選手よりもずば抜けて高い。それが、高出力の魔力攻撃を支える武器でもある。

 アシュレイは更に周囲の魔法陣を子供をあやすように増やすと、

「この決勝戦は無制限一本勝負。どちらかが勝利するまで終わる事はない。心ゆくまで楽しもうじゃないか!」

 再び魔力収束砲をユウキに向かって発射する。レーザー光のように一直線に向かう攻撃を見切るのは容易い。ユウキは収束砲の軌道を見切ると、紙一重でそれらを避け、アシュレイへと加速する。しかし、足下に束のように広がるそれらから視線は外さない。

―――こんな単純な攻撃をお前がする筈がないよな!

 ユウキの思考を読んだのか、アシュレイは両手を広げると、

「君のご期待通りさ!」

 オーケストラを指揮するコンダクターのように右腕を振り上げる。すると、収束砲が急カーブを曲がるように方向を変え、ユウキの背後から襲い掛かる。

「はぁあああっ!!」

 ユウキは胆に力を込めると、魔法陣を背後に展開する。速度は一切落とさず、一直線にアシュレイに迷いなく向かう。

―――防御陣でそのまま受けるつもりか?だが・・

 アシュレイは自在に収束砲を操作する事が出来る。方向を変える等造作も無い。回数制限もない。ユウキはそこまで《読んでいる》にも関わらず、敢えて防御陣を展開した。

 アシュレイは眉根を顰める。防御陣を抜いて直撃するケースも想定されるとユウキなら考える筈だ、と。アシュレイが思考を巡らせているのを見切るかのように、突然ユウキの姿が視界から消える。

―――まさか・・!?

「こちらかっ!」

 アシュレイは収束砲を蝋燭の火を消すように停止させ、背後へ振り返り防御陣を展開する。

 切っ先は背後を完全に捉えていた。が、アシュレイはその寸前で見事にユウキの攻撃を凌いだ。

―――防御陣はフェイク。リンプ・クリード戦で見せた魔法陣の発射台か。僕に一直線に攻撃を仕掛けると見せ掛け、一瞬の隙を付き一気に方向を転換。まるで己自身の跳弾のように操るとは・・

「中々、見せてくれるじゃないか」

 ユウキは歯を喰いしばり、アシュレイの防御を突破しようと試みている。が、その防御はアイリーンの比ではない。

―――『天魔覆滅』でも破れないっ・・!?

 小さく舌打をし、ユウキは一旦アシュレイから距離を取る。アシュレイからの追い打ちは無いが、それでも警戒は怠らない。

 アシュレイは満足気に笑みを浮かべている。その笑みは不気味な何処まで見えない洞穴を覗いているような気分にさせられる。

『ユウキ、あまりもたもたしていても仕方ないわ』

『分かってる。こんな序盤で使いたくはなかったけど』

 アイギスとユウキは同じ結論に達してた。この状態でいくら闘ってもこちらが魔力を消費するだけだ、と。

 その先に、勝利はない。

 ユウキは覚悟を決め、勝利を掴む為の一手を打つ。

「アイギス行くぞっ!!」

『『白銀騎士(リッター・デ・シルヴァズ)』』

 アイギスの詠唱と同時に、ユウキの背後に巨大な魔法陣が展開する。莫大な魔力がユウキへと収束していき、

『『白銀騎士(リッター・デ・シルヴァズ)』、起動安定。いこう、ユウキ!』

「ああ!!」

 ユウキの身体から鎧は消え去った。

 その代わりのようにユウキの肩部から背部に掛けて光の羽根が広がっている。目の前の強靭な敵を猟るために空を最速で駆け抜ける翼だ。更にその光は翼だけではなくユウキの両手に収束していく。その両の掌に束ねられていくのは極光剣だ。


「これは初めて見るパターンだ。この魔力の上昇率は・・」


 まるで無限に湧き立つ泉のように、見る見る内にユウキの魔力の絶対値が上昇していく。どの試合でも見せなかった魔力量だ。

―――リミッターが外れた事でここまで違うとは。準決勝までは余程節制して闘っていたと見るべきかな?

 ユウキはアシュレイの戦闘スタイルを何度もシミュレーションしてきた。

―――攻撃と防御を同時にこなすニーズヘッグを打ち破るには、それを崩す《速さ》しかない。それに、さっきの手で分かった。攻撃と防御は《ほぼ》同時に見えるだけだ。どちらかに集中すれば、どちらかの精度は必ず低下する・・!!

『勝機は私達のフルドライブの速さしかない』

『俺達でアシュレイの絶対領域を打ち破る』

 ユウキは大きく息を吸い、それを止める。そして、敵の姿を見据える。その眼はアイギスの魔術師としての眼と重なる。ユウキとアイギスの心が鏡のように重なった瞬間、

「『魔力開放(フェアシュテルケン)!!』」

 共に勝利を誓い咆哮した。ユウキの背から生えていた光の羽根はユウキの握る日本の剣に吸い寄せられるように収束していく。と同時に、ユウキの全身へと光は広がっていく。


―――来るっ!


 アシュレイの眼でさえ、ユウキの動きを見切るのがやっとだった。観客からすれば、一筋の光が線を描いたようにしか見えないだろう。

 心から震えるような攻撃だ。

 

「そうこうなくちゃね、ユウキ」

 

 大きな歓声をあげていた観客さえも思わず息を飲み沈黙した。過去前例のない事態に世界そのものが機能停止したのだ。

 アシュレイの鉄壁の鎧が砕けている。左半身の殆どは鎧の欠片さえない。まるで、その部分だけが強力な力に穿たれたように穴が空いている。

―――防御陣さえ間に合わないとは・・僕の速さの先を更に・・・

 認めざるを得なかった。

 次の攻撃に備えているユウキの速さは自身のものを凌駕している、と。

「面白いよ、ユウキ!!」

 アシュレイの周囲に、数百という魔法陣が展開する。その全てが一撃必殺の魔力を貯蔵している。ユウキは身構え、再び空を駆け抜けるため体勢を低くする。

「僕の攻撃と君の攻撃。どちらが先にその咽喉笛に届くか、勝負といこうじゃないか?」

 この緊迫した状況でも、アシュレイには余裕がある。

「望む所だっ!!」

 このモードであれば、アシュレイの防御を砕き攻撃を通す事が出来る。が、鎧を破壊しただけでアシュレイ自身にはダメージを与えられていない。剣を突き立てた瞬間、確かにアシュレイは上体を逸らし自分の一撃を躱してみせたのだ。

 二天一刀はユウキの一つの切り札でもある。その一撃を重ねれば更に威力は上昇する。

 狙いは鎧を破壊した箇所だ。更に、あそこに攻撃を加えれば、アシュレイといえど一溜まりもない。


「行くぞっ!」


 ユウキは世界を置き去りにしアシュレイへと向かった。アシュレイが展開した魔法陣は、矢の雨のようにユウキへと降り注ぐ。しかし、ユウキはそれを両手の剣で薙ぎ払いながら、ただその中を駆け抜ける。避けている余裕はない。それほどまでに隙間ない攻撃なのだ。だが、攻撃を受ける覚悟でいれば、それさえもどうという事はない。痛みさえ、今のユウキは超克している。

 ユウキは弾雨の中を潜り抜け、アシュレイの間合いへと入った。ユウキの手に重ねるようにアイギスは手を添える。両手の剣は一体となり、輝きを増す。ユウキとアイギスは力の限り刀を振り被った。


「「煌刃一閃!!」」


 振り下ろされた一閃はアシュレイの防御陣を斬り伏せ、アシュレイの身体を斬り裂いた。ニーズヘッグという鉄壁の鎧は砕け、アシュレイは遥か下にある廃ビルへと叩きつけられた。地響きと共に崩れ落ちるビルの瓦礫がアシュレイの身体を埋め尽くしていく。

「はぁ・・はぁ・・モード解除っ・・・」

 ユウキの身体から光が霧散していき、火照りを冷ますように魔力が低下していく。肩で息をしながら、ユウキは額から零れる血を掌で拭う。こちらも無事というわけではない。それなりの攻撃を受けている。全身から噴水のように流れ出す汗は、疲労が一気に高まっている証拠だ。

『ユウキ、身体は大丈夫?』

『ああ・・問題ない。それよりもアシュレイは?』

 アイギスは瓦礫の山となった場所の魔力を探知する。

『―――未だ勝負は付いてなさそうね』

『そうか・・』

 ユウキは顳顬から顎に流れて来た汗を手の甲で拭う。

「次で決めてみせる!!」

 外部から魔力を収束させる事による身体への負荷は否めないが、それでも未だ『白銀騎士』モードの力は行使出来る。アシュレイの防御を破れるとなれば、今のままいけば勝利は近い。

『ユウキ、アシュレイが来るよ!』

『分かってる』

 瓦礫の山が強力な魔力の波動によって粉々になって吹き飛ばされる。アシュレイの魔力は落ちているものの、その威力は尚も健在のようだ。鎧が砕け、魔装だけとなったアシュレイはゆっくりとユウキと同じ位置へと上がって来る。乱れた前髪の隙間から見える双眸にユウキは身震いする。

―――何だ、この全身を舐めるような気持ち悪い感覚は・・!?

 アシュレイがユウキと向かい合うと、垂れ下がっていた前髪を搔き上げた。


「漸く巡り会えた。僕の・・いや、《私の》最高の好敵手に・・・!!」


 ユウキはアシュレイの不気味な笑みに動く事が出来なかった。まるで、嵐の前の静けさのような、何かの災厄が降り掛かる前触れのような、狂気沁みたアシュレイは別人のように思えた。

 アシュレイは天を仰ぐように両腕を掲げると、

「先ずは見せよう。私の《真の》姿を・・」

 額に何かの魔法陣が聖痕のように浮かび上がり、それが額から浮かび上がり砕け散った。

 それが嵐を告げる合図だった。

 アシュレイの身体を覆い尽くすように魔力の渦が逆巻く。アシュレイはそれに包まれていき、魔力が瞬く間に上昇していく。パンドラの匣を前に立つ尽くすユウキは、ただ呆然とそれを見ているしかなかった。

 否。見てみたいと思ったのかもしれない。

 アシュレイの《真の》姿を。


「この姿を見せるのは、肉親以外で君が二人目だ」


 ユウキは唖然とした。

 自身の眼を思わず疑ったが、こんな現実感のある光景が夢や幻の筈はない。

「尤も、このように大衆の中で姿を晒してしまった時点で、何人目と数えるのも無駄かな・・」

 ユウキの心中などお構いなしにアシュレイは饒舌に語る。

「驚いた?私が《女》であった事に?」

「・・ああ、自分の眼が信じられないくらいにはね」

「それは何よりだよ。君の強さに敬意を表しただけの価値はある」

 天使の羽根のように白いローブと、白銀の杖『ニーズヘッグ』。あどけない貌と腰まで伸びる髪は、先程までの《男》のものとは違う妖艶な雰囲気を醸し出している。

「何故女の私が男の姿をしていたのか、と聞きたそうだね?」

 ユウキの胸中を覗き見るように、アシュレイはくすくすと小栗鼠のように笑う。

「魔女にお願い事をするには少々まだ足りない。だから、私に勝ったら教えてあげよう。私の全てを・・ね?」

 握っていた杖の先をユウキへと向けると、

「さあ、私の為に踊ってみせてくれよ、ユウキ!」

 魔法陣の展開など一切無かった。それどころか、魔術の発動するタイミングが余りにも速過ぎるため、ユウキは反射的に動くしかなかった。アシュレイから突然高出力の魔力収束砲が発射されたのだ。ユウキはそれを辛うじて避けてみせたが、こんな攻撃は初めてだった。

―――どうやって魔術を使用したんだ!?

 魔術を発動させるには、魔力と詠唱が必要となる。魔力とは魔術を動かすエンジンであり、詠唱とは魔術を発動させるための鍵である。通常であれば、詠唱を行わなければ魔術は行使できないが、魔法武器の中に事前にインストールしておけば、詠唱を破棄して魔術を発動する事が出来る。

 が、どんなに素早く魔術を行使出来てもタイムラグは必ず残る。高出力の魔術を使用しようとすればするほど、その威力に見合った《時間》が必要となるのだ。だからこそ、誰もが敵の攻撃を先読みし、一手先のために布石を打つ。魔術発動のタイミングを計算し戦うのだ。

 しかし、アシュレイの魔術にはそれがない。

 それが魔術戦にどれだけアドバンテージがあるか、マジックファイターであれば誰もが知っている。


「余計な事を考えている暇なんて君にはないよ!」


 攻撃を避けたのも束の間、アシュレイはユウキへと迫っていた。

―――『白銀騎士』モードは発動させているのに!?

 攻撃を避けた瞬間から、ユウキは直ぐさま『白銀騎士』モードへと移行した。アシュレイの手が読めない以上、迂闊な手は打てないからだ。

「接近戦だって出来るんだよ、こんな風にね!」

 アシュレイの周囲にギロチンの刃のような魔力剣が現れる。

「ユウキの極光剣とどっちが強いか勝負だ!!」

 空中を自在に舞うギロチンがユウキを襲う。

「くそっ!」

 ユウキは迫る刃を両手に展開する極光剣で次々に捌いていく。空中を流星のように駆けながらと同時の刃の猛襲にユウキは歯を喰いしばる。アシュレイは余裕の表情でユウキの速さに難なく付いて行く。

―――一つ一つが何て重い攻撃だ・・

 アシュレイは目の前で苦しむユウキを視姦し、益々気分が昂っていく。

「どうだい!?実に悪い魔女らしい攻撃だろ!?」

―――ああ何て苦しそうなんだろう・・私の攻撃に負けまいと振るう刃は、私の胸の鐘を高鳴らせる。もっと、もっと私を愉しませてっ!!

「ふふふ・・・・はははははははははっ!!」

 狂っている。世界の関節が外れたように、アシュレイを閉じ込めていた檻は開け放たれたのだ。

 ユウキの目の前にいる彼女は、謂わば自由を得た獣だ。油断をすれば、簡単に頭から喰い千切られる。

―――どうにかして距離を取らないと・・

 捌いても捌いても、ギロチンの刃はユウキは囲むように尚も襲い掛かって来る。波状攻撃のパターンは読んでいる。刃が一度攻撃して離れた瞬間、更に加速をして距離を取り態勢を整えるしかない。

『アイギス、次のタイミングで此処から脱出する。牽制を頼む』

『任せて』

 花弁が舞うようにして斬り掛かるギロチンの刃がユウキを襲う。ユウキは身体を回転させ、全ての刃を何とか撥ね除けた。

『今だっ!』

『魔法陣を展開。敵の魔力刃に照準をセット』

 ユウキの周囲に魔法陣が展開したその瞬間だった。

「その手は既にアイリーン・キャメロットとの闘いで見ているよ」

 アシュレイはユウキの両腕を鷲のように鷲掴みにする。魔力で筋力を増強しているのか、腕が関節技を極められたかのように動かない。

「さあ、ここで問題です。私はこれからユウキにどのような《魔術》を見せるでしょうか?」

 ユウキとアシュレイの狭間で急速に魔力の収束が生じ始める。罅割れるように空気が痙攣していく。その正体をユウキは《経験》している。

「魔力爆撃!?」

「その通りっ!一緒にキモチ良くなろうよ、ユウキ!」

 至近距離での爆撃など正気の沙汰ではない。自分自身への攻撃と相違ない事をいとも簡単にやってのける。今のアシュレイはそういう存在と認識出来なかったユウキの甘さが命取りになる。

『ユウキ、離れて!』

 アイギスは焦るように声を荒げる。

『―――無理だ』

 ユウキとアシュレイの腕には枷のようにバインドが装着されている。アシュレイはユウキの貌に近付き、舌を伸ばすと、ユウキの頬を喰うように舐めてみせた。

「ふふふ・・美味しい」

 魔力の収束が臨界点に達する。


「『破滅獄焔(ルーイン・デ・フランメ)』!!」


 ユウキとアシュレイを喰い尽くすように劫火が舞い上がった。二人を中心に広がる炎は猛るようにシーフィールドを駆け巡っていく。まるで、原爆の炎をテレビ越しで見ているかのような光景だった。中心温度は計り知れない。普通の人間であれば、骨一つ残らず影となり消えているだろう。

 しかし、その炎の中から、まるで黙示録に登場する使徒のようにアシュレイが姿を現した。頬とローブに煤がついている程度で、それ以外には外傷どころかかすり傷一つない。手には鈍く輝くニーズヘッグが握られている。


「ユウキは勘違いをしているよ。私のニーズヘッグは魔力そのものを貯蔵して使用するんじゃない。自在に魔力を変質させる事が出来るんだよ。それは有機物だろうが、無機物だろうが、関係はない。私の手中には万物の法則そのものがあるのさ」


 アシュレイはニーズヘッグを燃え上がっている火中に向ける。まるで何かを探し出すような仕草だった。

「ねえ、私の話聞いてる、ユウキ?」

 炎の中から引き摺り出されたのは、瀕死の状態のユウキだった。魔装は焦げて剥がれ落ち、上半身には染みが広がるように火傷の痕が残っている。

 アシュレイはユウキを目の前に引き寄せると、ユウキの頬を愛でるように指先でなぞる。

「あの距離で咄嗟に防御ではなく、同様の質量の魔力を衝突させ相殺しようしたのは流石だね。そのお陰でこうして未だ私と闘う事が出来る。そうでなきゃ、私がこの姿を晒した甲斐がないからね」

 ユウキの口からは辛うじて呼吸音が聞こえる。が、それも虫の息だ。とても闘える状態とは云い難い。

「ユウキは少し疲れているみたいね。なら、少しだけ休憩させてあげる」

 アシュレイはユウキを自分の胸に抱き寄せる。その瞬間、背筋にぞくぞくと満足感が駆け上がる。今までに感じた事のない充実感にアシュレイの心は充ち満ちていた。ある一点を除いて。


「ユウキが少し休んでいる間に、貴女とお話ししましょうか、アイギスさん?」


 ユウキの耳元でアシュレイが囁く。アイギスは息を顰めぐっと息を飲む。

「隠れても無駄よ。私の眼は節穴ではないし、貴女の事は《貴女をよく知っている人》から聞いているから」

「・・私に何の用があるの?」

 アシュレイは眼を細め、心の眼を通してアイギスを見下す。

「単純よ。貴女には出来るだけ早くユウキの中から出て行って欲しいと思っているだけ。私は私の欲しいものは全て自分の手元に置いておきたいの」

 アイギスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ俯く。

「―――貴女に云われなくても、私はもうすぐユウキの中から消えるわ」

「そう。貴女の目覚めが近いというのは本当だったのね」

 それでも譲れない想いがある。アイギスはアシュレイを澄んだ瞳で見据える。

「でも今は、ユウキの傍にいるのは私。だから、貴女にユウキは渡さないし―――」


「俺は君には渡せない」


 ユウキはアシュレイの脇腹に手を添えていた。掌からは淡い光が漏れている。

「まさ―――」

「もう遅いっ!」

 ユウキは掌に集中させた魔力を一気に爆発させた。極光剣の刃がアシュレイの身体を貫く。

「あっあぁあああぁあああああ・・・!?」

 アシュレイが悲痛な悲鳴を上げる。


「ざまあみろ・・」


 アシュレイは余りの激痛にユウキを手放した。ユウキはそのまま放り投げられた賽のように海へと落ちていく。

『ユウキ、しっかりして!』

 アイギスは意識が遠のくユウキに必死に呼びかける。ユウキの身体が海に着水する瞬間、アイギスは魔法陣を展開した。そのままゆっくりと崩れた落ちたビルの上へと移動する。

『悪いな、アイギス』

『これくらい何て事ないよ。それよりもユウキの身体の方が』

 ユウキは歯を喰いしばり倒れた身体をゆっくりと動かす。身体を支える腕が小刻みに震えている。

「俺は未だ負けていない・・」

 身体を支える脚に力が上手く入らない。だが、そんな事を云っている場面ではない。ユウキの身体は限界を既に越えている。それでも、アイギスは立ち上がるユウキを止める事は出来なかった。


「さあ・・決着といこうぜ、アシュレイ!!」


 ユウキは空を見上げる。

「その言葉、その身体に分からせてあげる」

 アシュレイはダメージを受けているもののその姿は健在だ。ローブが焼け落ちアンダージャケットだけとなったアシュレイは、防御を捨てる事を選んだ。

「ニーズヘッグ、モード『衝天覚醒(ベラーゲルング)』」

 ニーズヘッグの杖が形態を変え、六枚の花弁のようにアシュレイの背後に展開する。一片一片が砲撃型のビットと化したのだ。

「今度は私の手から逃がさない」

 ビットからユウキに向かいレーザー光が発射される。魔力収束砲とは異なる範囲の攻撃はより強力なものだ。が、ユウキはそれを回避し空戦へと移行する。

 アシュレイはユウキが空を飛ぶのを捉えるようにビットで追尾を始める。

「弾幕を緩めるつもりはないっ!」

 空を駆けながらもアシュレイのユウキへの攻撃は精密なものだ。だが、ユウキはそれを紙一重で躱していく。しかし、攻撃は仕掛けずじっと何かを待っているように移動している。ユウキの眼は決して勝利を諦めていない。

―――何かを狙っている・・何を狙っているの、こんな状態で!!

 一定の距離を保ちながら攻撃を仕掛けていたアシュレイは一度ビットを自陣へと戻す。魔力に余裕があるとはいえ、身体へのダメージは考えている以上に大きい。ユウキの攻撃は身体の外部ではなく内部へとダメージを与えるものだった。魔力経路に直接攻撃を加え、魔力操作の精度を狂わせる。

 ユウキはそれを見計らうように息を整え、アシュレイを見据える。

『・・アイギス、《切り札》を使う。《リミッター》の二つ目を解放する』

 アイギスはその言葉に耳を疑う。

『それは駄目!今の身体の状態じゃあのモードは耐えられない』

『三三三秒・・』

 ユウキは微笑んだ。

『三三三秒。今の俺が耐えられる時間の限界。俺の計算間違ってる?』

 アイギスは小さく首を横に振る。

『・・間違ってない』

『なら、問題ない。―――一緒に闘ってくれるな、アイギス?』

『・・ええ、勿論。私は常に貴方と共にあるから』

 ユウキの背後に巨大な魔法陣が浮かぶ。その魔法陣は近代魔術のものではない。古代魔術のものでもない。

「俺の・・いや、俺とアイギスの最後の切り札だ」

 ユウキは両手を正面で合わせる。


「『天秤ヲ傾ケル者(キーペン・ジーディ・ヴァーゲ)』!!」


 ユウキの掌に高出力の魔力が収束していく。外部からのエネルギーの奔流にユウキの身体が悲鳴を上げる。が、ユウキは一切手を緩めず、その力を極限まで高めていく。


「あぁああぁああああああああっ・・・・!!」


 ユウキの身体に許容量を超える魔力が収束していく。その力の奔流にユウキは苦悶の悲鳴を上げているのだ。血と肉を蹂躙し魔力が身体の中を駆け巡る。

 アシュレイはユウキの中に収束している魔力の性質に思わず喉を鳴らす。

―――魔力経路の循環を無視して魔力を身体の中に集結させている・・・!!

 自殺行為だ。

 アシュレイの目から見てもユウキの行為は正気の沙汰ではない。魔力経路の流れを無視するという事は、体内の機能を破壊するという意味だ。流れを塞き止めれば、待っているのは崩壊しかない。これ以上の魔力の収束は身体が耐えられない。


「三三三秒で決着を付ける・・!!」


 ユウキが呟いた後、ユウキの周囲から一切の魔力が消え去った。

―――まさか・・・!?

 アシュレイは反射的に全ビットを正面に展開し防御陣を展開した。その瞬間、防御陣に大気を震わせる程の衝撃が走る。

「魔力が見えないのは《そういう》事!?」

 アシュレイは正面で拳を突き立てるユウキを見て苦笑いを浮かべた。

 ユウキは何も答えないし、何も語らない。真っ直ぐな蒼い瞳を向け、ただアシュレイに勝つ事だけを望む。

―――外部から収束させた膨大な魔力を自身の身体の中で暴発をさせる事なく凝縮し、その力を行使する。外部に一切魔力の欠片さえ見えないのは、魔力の浪費を最小限に留め、魔術の行使のみに収斂させているから。謂わば、ユウキ自身がプロメテウスの火だというの・・!!


「最初に云っておくぞ、アシュレイ。俺はお前の想像の上を行く!!」

 

 ユウキはその瞬間、アシュレイを除く全ての人間を置き去りにした。

 破れた瞬間、敗北が決定する。切り札とはそういうものだ。

 ユウキが使用したのはその類の技だ。

 アシュレイの目にはユウキが描く超高速の軌道が辛うじて見えていた。

 先程よりも更に速い。体内で徹底的に圧縮した魔力を爆発的な推進力として利用しているのだ。だが、対応出来ない速さではない。

―――あの言葉を鵜呑みにするなら、もう少し警戒した方がいいかな・・

 アシュレイは四方に六つのビットを花弁のように展開させ、その周囲に魔力を収束させていく。自身を殻のように包む絶対防御の障壁。その速さが見えるからといって、身体がその速さに即座に対応出来るとは限らない。速さには《慣れ》が必要なのだ。

―――一度目の攻撃であの速さを見極める・・

 ユウキが空を縦横無尽に空を駆け、まるで得物を見定めるように漂流する。その軌道がふいに大きな弧を描いた。

―――来るっ!

 アシュレイは身構え、防御陣を更に強化する。

 その強化は完璧だった。

 難攻不落のブルクハウゼン城の如く、攻め込める隙さえも一切無い。

 その防御陣は完璧にユウキの攻撃を受け切った筈だった。

———何が・・

 突然、アシュレイは全身が軋むような痛みに襲われた。

「がぁっ・・」

 血反吐を打ちまけ、アシュレイの視界は一瞬暗転する。

―――一体何が起きたっていうの・・!?

 アシュレイは頭を振り、意識を上層へと無理矢理昇らせる。

 気付いたのは、大きく二つだ。

———一つ、腹部の魔装が初めから何も無かったように穴が空いている。そこからはハラワタが口から吐き出そうな程の酷い痛みがある。外部に驚く程外傷がないのは、《純粋な》魔力の攻撃を受けた事を意味している。二つ、防御陣が無力化され、攻撃を喰らった私は、そのままこの瓦礫に叩き付けられた。頭がぐらぐらするのは、受け身を取る事さえ出来なかったからだ。

 最後に結論を一つ。

「この攻撃をもう一度まともに喰らえば、私は負ける・・・」

 全身の毛が一斉に逆立つような戦慄だった。自分の背後に敗北という名の影がじりじりと迫って来ている。防御陣を紙屑のように破った事など二の次だ。


「はぁああっ!!」


 アシュレイは正面に迫るユウキの拳から逃げるように空へと飛ぶ。瓦礫に叩き付けられた拳はその一帯を軽々と粉砕した。水飛沫が噴煙のように舞い上がり、アシュレイの視界を塞ぐ。

「二度も同じ手は喰らわない」

 水柱の先にいるユウキを目掛けて、アシュレイはギロチンの魔力刃を一斉に投擲する。が、水柱から現れたユウキはそれを避ける事無く、ギロチンの刃に向かい拳を繰り出した。

「おらぁあっ!!」

 まるで意味を成さない。アシュレイは歯ぎしりをしながら後退していく。ユウキにとっては、鋭利な魔力刃さえも、刃としての機能を果たさない。

―――あれがただの肉体強化なわけはない・・

 ユウキは武器を一切持たない肉弾戦に移行している。先程の術がただの肉体強化であれば、魔力刃に対抗出来る筈もない。

―――私が読み切れていない別の《能力》がある・・!

 アシュレイは周囲に展開しているビットをユウキへと向けると、魔力収束砲を発射する。が、やはりユウキはそれを拳で弾き返しながら依然として向かって来る。

―――魔力砲の性質は全て変えている。単純な耐性魔術なら私の魔力砲は防げない。となれば、残りは・・


「余所見してる暇はないぞ!!」


 ユウキはアシュレイとの距離を詰めると、拳の連打を浴びせる。この大会初めて、アシュレイは完全に防御へと回った。

「くっ・・」

 拳を受ける防御陣は展開すれば即座にそれが破壊されていく。防御陣は既に紙の盾と化していた。何重に防御陣を張っても、ユウキの拳は餓えた狼のようにそれを喰い破ってくる。ノーモーションで術を発動出来るとはいえ、攻撃の暇さえも無ければ、そのアドバンテージも活かせない。

―――どうにかして隙を見付けないと・・

 ユウキは心の中で数を数えていた。

 術を発動出来る時間はもう二分も無い。『天秤ヲ傾ケル者』は、ユウキの肉体を蝕んでいく諸刃の剣だ。アイギスはユウキが耐えている激痛を自分の痛みのように感じていた。アイギスが出来るのは、ユウキの体内で暴れる魔力の奔流を痛み止め程度に抑える事だけだ。

―――このまま押し切れば・・

 ユウキはアシュレイが攻め手を欠いていると判断した。だからこそ、拳の弾幕を繰り出し続ける。

「はぁあああああああっ!!」

 ユウキの拳がアシュレイの防御陣を破壊する。

 アシュレイはその威力に態勢を崩す。

―――ここだっ!

 アシュレイは杖を盾にその拳を何とか受けようと身構えた。

 しかし、ユウキは拳を寸前で止めた。ぜんまいの切れた人形のように、ユウキの身体は突然停止したのだ。その直後、身体に力の反動が押し寄せる。ユウキは口元を抑え、噴き出す血を何とか押さえ込む。

―――限界時間には未だ速い筈なのに・・

『ユウキ!』

 アイギスの声にユウキは何とか意識を保つ。

『大丈夫だ。後少し・・後少しだけ、俺に力を・・』

『でも・・』

『頼む・・俺に最後まで格好付けさせてくれよ、アイギス』

 アイギスはそれにただ頷くしかなかった。

 本当はもう闘って欲しくないと心の隅では思っていた。だが、それは云えられる筈も無い。ユウキはもう戻らないと誓っているのだ。あの日逃げた場所に。

 アシュレイは距離を取り、ユウキの異変にほくそ笑んだ。

―――この機会、存分に美味しく戴くわ!!


「ニーズヘッグ、全リミッター解除。『衝天覚醒(ベラーゲルング)』全能力解放!!」


 アシュレイは自身の《切り札》の名を告げる。

 杖は更に形状を変え、アシュレイの背丈の二倍程の長さになる。先端には女神をあしらった彫像と、太陽を現すアーチが構築される。そのアーチの周囲を覆うようにビットが花開くように光輪を生み出す。

 アシュレイは空に舞い上がる昇竜の如く、腕を伸ばし杖を天高く掲げる。


「女神に太陽の祝福を———」


 正面で腕を畳んでいた女神が、空を仰ぐようにその腕を掲げる。その腕は世界の終焉を賛美するかのように、魔力をその手中へと引き寄せていく。

「互いに、切り札による最後の一手。これで勝った方が紛れもない勝者という事でどう?」

 ユウキは正面に拳を掲げ不敵に笑ってみせる。

「上等!」

 アシュレイはそれを満足気に見ると、

「愚者に裁きの光彩を」

 魔力収束が一気に加速し、アシュレイはユウキをその魔術の標的と定めた。


「済世ノ光(リヒト・デ・アオフ・エアシュテーウング)!!」


 空一面が目映い閃光に包まれる。アシュレイはその光の中で唯一女神に生を赦された人間となる。空に広がる光はまるで星の海のように波打っていく。それはやがて巨大な渦となる。その中心から吐き出される光は、世界に裁きを下す鉄槌となった。

 ユウキは拳を握り締め、この一撃に賭ける。

「いくぞ、アイギス!!」

 アイギスは涙を手の甲で拭い、ユウキが見据える敵を同じように見据える。

「いこう、ユウキ!」

 ユウキはその光の中へと自ら飛び込んでいった。

 速さは互角。

 二つのエネルギーが激突した瞬間、プラズマがシーフィールド内に迸り、まるで荒れ狂う龍のように暴れ回る。

 ユウキは突き出した拳をただアシュレイへと向け続ける。一度拳の位置をずらせば、アシュレイの魔力収束砲に圧し負ける。

 負けたくない。

 ただその一心で腕を掲げている。腕は燃えるように痛いし、身体はもう立っていられないほどボロボロだ。目も霞んでいれば、口の中は血の味で一杯になっている。それでも、ユウキの心の中には大事な支えがいてくれている。

―――今の俺を支えてくれているのはアイギスだから。アイギスのためにも・・俺は・・・


「負けるわけにはいかないんだっ!!」


 ユウキの背後に再び光輪のように魔法陣が浮かぶ。この土壇場になって、忌々しいあの男の言葉が浮かぶ。


———君は《死ぬ気で》努力をした事はあるかい?———


 ユウキは掲げた拳を固く握り直す。

———その言葉を聞いてからは胸に刻んで努力を怠った事はない。これからもきっと俺はそういう生き方が出来る。そういう生き方を出来るように鍛えて貰った。俺を支えてくれた人は少なくとも、そう俺に教えてくれた。だから、俺は限界の更に先の一歩を踏み出せるんだ!!


「これが・・俺の・・・死ぬ気の一撃だぁあああああ!!」


 ユウキの拳が猛るように威力を上げる。

―――この力は・・!?

 アシュレイの身体にまるで神の手に圧し潰されるようなプレッシャーが広がる。その瞬間、女神の貌に亀裂が走った。その小さな綻びはアシュレイの心を砕くように無差別に走り抜けていく。

 驚いたように眼を見開いたアシュレイは、諦めるように息を吐いた。


「敗北の味っていうのは、随分と苦いんのね・・」


 咲き乱れていた光の束が散り、アシュレイは天の川のように輝く光の中に包まれていった。その時、アシュレイの魔力反応が完全に消失した。

 この瞬間、不動の王者と呼ばれたアシュレイ・ディーリングの初めての敗北が決定した。

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